フットサル、しよ♪

本郷むつみ

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顧問、発見です♪

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「はあ、はあ。さすが理沙のライバル。濃いキャラクターだったね」

 廊下で立ち止まり、息を切らしながら後ろを振り返って亜紀がいないか確認する志保。
 同じように息を切らしながらも、理沙は首を振ってライバルという事をすぐさま否定した。

「いやいや、ライバルじゃないし。名前なんだっけ?」

「うわ、理沙らしくないボケだよね。……私も覚えてないや」

 苦笑しながら志保が理沙に同調した。

「まあ、あの人、あの調子なら絶対にまた理沙に絡んでくるよ。完全にマンマークされちゃったね」

「いや、絡んでこなくていいし、マークされたくない」

 平手ツッコミを理沙が志保に入れながらため息を大きくつく。

「んじゃ、理沙。職員室に行こう」

 完全に息を整えた志保が理沙に向かって促す。
 しかし、理沙はきょとんとした顔で「なんで?」の一言で即座に志保の頼みを却下した。

「え~、部活の事、一緒に先生に聞いてくれるって言ったじゃん」

「そんな事を言った?」

 全然乗り気じゃない理沙の身体にしがみ付き、首を横に振ってイヤイヤのしぐさをする志保。

「一緒に行こうよ~。お願いだよ~。1人にしないでよ~」

「あ~もう、離れなさい。一緒に行けばいいんでしょ。分かったからは・な・れ・な・さ・い!」

 力一杯しがみつく志保を引き剥がし、またもや大きなため息をつく理沙。

「一緒に行くだけだからな。ちゃんと自分の聴きたい事は自分で聞くんだぞ」

「うん、分かった。任せておいて」

「かなり不安だけど、まあいい。じゃあ、行くぞ」

 そう言って理沙は職員室に向かって歩き出した。理沙に遅れまいと志保も立ち上がり、歩き出す。
 そして歩きながらブツブツと先生に聞く内容の練習をし始めた。

「えっと、部活を作るにはどうしたらいいんですか? 部活を作るにはどうしたらいいんですか?」

「……本当に大丈夫か? 志保」

「大丈夫だよ。私は本番に強い子。出来る子だから」

「盛大に失敗フラグを立ててるぞ」

 理沙が少し呆れながら志保の少し先を歩いていく。

「えっと、先生に何を聞くんだっけ? 大丈夫、私は出来る子、元気な子。だっけ?」

「うん、全く違うな。って、サッカーしか頭にないのか!」

「あれ、そうだっけ? でも、さすが理沙だね。高校に入ってツッコミのバリエーションが増えているね」

「いや、増やしたくない。志保がしっかりしてくれたら全く増えないから」

 そうこうしている間に2人は職員室の前に到着した。覚悟を決めた志保が勢いよく職員室の扉を開く。

「たのも~!」

「その挨拶のチョイスにはツッコミを入れる気にならない」

 元気良く、でも挨拶がおかしい志保に理沙は呆れるしかない。職員室の先生たちも呆気に取られている。
 そんな先生達の視線も気にせず、志保はゆかりの姿を見つけ駆け寄っていった。

「篠原先生~」

「あら、えっと、うちのクラスの……ごめんね。まだ、顔と名前が一致してないの」

 呆気に取られながらも、自分の名前を呼ばれた事により我に返ったゆかり。
 ついさっき見た分の顔を思い出し、名前を必死に思い出そうとした。
 しかし、どうしても2人の名前が思い出せない。そんなゆかりに志保と理沙が助け舟を出した。

「戸崎志保です」

「佐原理沙です」

「よし、ちゃんと覚えたわよ。で、何か用? 分からない事でもあった?」

 2人の名前を聞いたゆかりは、優しい笑顔を浮かべながら生徒たちの話を聞こうと姿勢を正した。
 だが、喋りだそうとする志保はなかなか本題を喋ろうとしない。

「あの~その~えっと~ですね」

 理沙の予想通り、しどろもどろになる志保。
 モジモジする志保に対し、少しずつ苛立ってきた理沙は志保を押しのけてゆかりに質問した。

「先生、この子、部活を作りたいそうなんです。女子サッカー部が希望です。どうしたら部活を作れますか?」

 はっきりとした口調でゆかりに質問をする理沙。そのおかげでゆかりにはこの2人の関係が少しだけ見えた気がした。だが、その事には今回はあえて触れず、とりあえず質問に答えることにする。

「部活ね。確か、まずは部員が5人以上必要。で、後は顧問の先生を見つける事ね」

「5人以上ですか? 顧問もこれで決まったから、あと3人か……。あと2人にまかりませんか?」

「まかりません。あと3人、頑張って見つけてね」

 理沙の後ろに隠れていた志保が会話に飛び込んでゆかりに交渉する。
 だが速攻で却下され、この世の終わりのような顔をして落胆した。

「顔芸ってツッコミ難いわ! それにナチュラルに私を人数に入れただろ? あと顧問が決まったって誰だ?」

 そう言って理沙が志保の襟を掴み、頭を激しく振った。

「私たちが知っている先生って1人しかいないじゃん」

 頭を前後に振られながらも、志保は1人の女性に指を指す。理沙がその指の先を追っていくとそこにはゆかりが座っていた。理沙と視線を合わせたゆかりは(何の事?)と思いながら首を軽く傾げる。

「顧問は篠原先生で決まりだね」

 志保がこの言葉を発し、ゆかりは全てを理解した。

「ちょっと待って。私が顧問をやるの? 無理よ。私、サッカーの事をよく知らないし」

「ルールは少しずつ覚えていけば大丈夫だよ」

「お前は少し、他人の都合というものを考えろ! ポジティブ思考も大概にしておけ!」

 志保の言葉に理沙は持ったままの襟をさらに大きく振って志保の頭を前後に振る。

「そうよ、大体、サッカー部は無理よ」

 ゆかりが志保と理沙に向かってそう言うと、志保の襟を掴んだ理沙の手も止め、2人して疑問の視線と言葉をゆかりにぶつけた。

「へっ? 何で?」

「だって、うちの学校にはゴールも無いし、場所が無いの。陸上部、野球部、テニス部、ハンドボール部でグランドは一杯なのよ。体育館ならバレー部しか使ってないから空いているけどね。だからサッカー部は無理」

 ゆかりは2人に諭すようにそう告げると志保から「はい~?」と職員室全体に響くような声で志保が間抜けな悲鳴を上げた。そしてまたもや教師達の視線がゆかり達の方に集中した。

「ちょっと、そんな大きな声出さないの。他の先生方もいるんだから」

 唇に人差し指を当て、ゆかりが志保を落ち着かせる。

「しょうがない、志保。サッカー部は諦めるぞ」

「他人事だと思って簡単に諦めようって。諦めたらそこで試合終了ですよって、漫画で言っていたもん」

「私もそれ読んだから知ってる。でもあれ、バスケだし」

 理沙が淡々とツッコミを入れる。その瞬間、志保の脳裏にある事が閃いた。

「じゃあ、フットサル部! 体育館が使えるならフットサル部でいい!」

 興奮しながら理沙とゆかりの顔を交互に見る志保。

「フットサルなら人数も少ないし、部員を集めるのにも楽できるし、何より足技が上手くなる。顧問は決まったんだから、あとは人数だけ。分かりました。先生、フットサル部でお願いします。では、私は今から勧誘に行ってきますので、準備をお願いします」

 そう言いながら志保はゆかりに頭を下げると駆け足で職員室を去っていった。

「あっ、ちょっと!」
 
ゆかりが志保を引き止めよう声をかけようとするが、もうその姿は視認出来ないほど遠くまで駆けていた。

「すいません、ああいう子なんです」

 申し訳なさそうに理沙がゆかりに頭を下げる。
 しかし、ゆかりは志保の後姿に「廊下は走っちゃ駄目よ~」と、大きな声で注意をした。

「そっちかい!」
 
 理沙がゆかりにツッコミを入れる。

「でも本当にあの子、フットサル部を作る気かしら」
 
 椅子に座り直しながらゆかりが理沙に聞く。

「作ると思いますよ。あの子、諦めるとか、出来ないとか絶対にしない子ですので」

「そっか、今時珍しいタイプなのね」

 ゆかりが懐かしそうな目で少し遠くを見つめた。

「んじゃ、理沙ちゃん。あの子の事をよろしく。なんか進展があったら報告してくれるかな?」

「えっ? 先生も部活を作るつもりですか?」

「生徒が頑張っているのに、教師が応援しないのはおかしいでしょ? 教え子がやりたい事を応援するのが教師の勤めなのよ」

 そう言ってゆかりは優しい目を理沙に向けた。そんなゆかりの優しい笑顔に顔を赤らめた理沙は

「分かりました。私が人数に入っているのにはどうにも納得していませんが、協力はします。友達ですので」

 と言って、ゆかりに頭を下げて職員室を後にした。ゆかりは理沙の後姿を見送りながら

(照れちゃって。でも、あんな関係っていいわよね。部活が出来るといいけど)

 と心の中でそう思った。人数が集まらないと自分にやれる事は何も無い。
 去年、初めて担任をしたクラスでは自分から《これがしたいです》なんて言って来る生徒は1人もいなかった。
 そのためか、初めて担任をした生徒達だったのだが印象に残っている生徒は片手で数えられるぐらいしかい。

(もし人数が集まるようなら……)

 最大限の手助けを出来るように、精一杯応援してあげる事をゆかりは心に誓った
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