フットサル、しよ♪

本郷むつみ

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3人目のメンバーです♪

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 まだ、登校してくる生徒の姿が少ない時間帯。朝早く志保と理沙がチラシの束を抱えて、学校の正門をくぐる。
 フットサル部の勧誘ポスターを作った2人は、他の生徒が登校してくる前に学校に到着した。教室に着いた2人はカバンを置き、目で合図を送る。

「んじゃ、昨日の打ち合わせ通りにね、志保」

「ラジャ!」

 昨日の夜、理沙の家で打ち合わせした内容の重点は《時間短縮》であった。
 志保たちのフットサル部は他のクラブに比べ、1日遅れて勧誘に入る事になる。

(この1日が致命的になるかも)

 そう思った志保たちは他のクラブに追いつくように徹夜してポスターを作り、朝早く登校して来たのであった。 志保が廊下に勧誘ポスターを張り、その間に理沙は勧誘チラシを登校してくる生徒に配る。オーソドックスだが1番効果があるように思える。少しでも遅れを取り戻すための苦肉の策だった。

「私も張り終えたら、校門に行くからさ。それまで、理沙、頑張ってね」

「分かってる。少しでも多くの人にチラシを配るから、そっちは頼む」

「んじゃ、あとでね」

 そう言いながら志保が走りながら教室を後にした。

(広い校舎、そして4階建ての建物。全階にポスターを貼るのは私よりも志保のほうが絶対に早い)

 元サッカー部の志保のスタミナは無尽蔵で、この役目にはうってつけだった。
 理沙もチラシを持ち、志保のあとを追うように教室を出て校門に急いだ。

(はあ、はあ、急がないと)

 志保が階段を駆け上り、次々と掲示板にポスターを貼っていく。時折、スカートの裾が広がってスカートの中が見えそうになるが、志保は全く気にしていない。
 まだ、人が少ない廊下を走り回り、掲示板の空いているスペースにポスターを張る。最後の1枚を貼り終えた時にはさすがの志保も汗だくになっていた。

(さすがに疲れたな。でも、校門で理沙が待ってる)

 息を切らし、下を向いていた志保は再び顔を上げ、校門にいる理沙の元に再び走り出した。下駄箱で靴を履き替え、校門に向かうと理沙が必死にチラシを登校してくる生徒に配っている。
 だが、受け取ってくれる人は少なく、ただ理沙が大声で登校してくる生徒達に呼びかけているだけだった。もちろん他の部活も必死に勧誘を始めている。

「お待たせ~。理沙、どう?」

「お疲れ、志保。あんまり芳しくない。やっぱり正規の部活じゃないっていうのが致命的みたい」

「そっか。私も配るからチラシ半分頂戴」

 理沙が持っていたチラシを半分もらうと志保が大声で勧誘し始めた。

「フットサル部、新しく作ります~。やりたい方、興味のある方、経験者でも素人でも構いません~。一緒にフットサルをしましょう~」

「フットサル部です~。詳しい事はチラシに書いてありますので」

 理沙も志保に負けまいと声を張り上げ始めた。そんな時、理沙に1人の少女がマイクを持って駆け寄ってくる。

(もしかして……)

 しかし、その少女は志保の期待を裏切り、持ってきたマイクを理沙に向けて無言で立ち尽くすだけだった。そんな少女の奇妙な圧迫感に理沙は後ずさりしながら「あ、あの~何か用?」と質問をする。
 よく見ると少女は高校生にしてはとても小さく、目線は志保たちに比べると明らかに下にある。おそらく身長は150cmを切るであろう。ツインテールの髪型がさらに彼女を幼くさせた。制服を着ていなければ小学生と間違えられても不思議ではない。
 小さくて可愛い、ランドセルが似合いそう。そんな表現がぴったりの少女が理沙の目の前で無言のまま立ち尽くす。

「……」

「馬鹿だな、理沙。入部希望だけど、恥ずかしくて言葉が出ないんだよ。それぐらい察しようよ。フットサル部にようこそ。歓迎するよ。名前とクラスを教えてくれるかな」

 志保に話しかけられた少女は何も言わず、マイクを理沙に向けたまま理沙を見続ける。
 しかし、一瞬だけ目を志保に移し、小さな口がモゴモゴと動くのを志保は見逃さなかった。

「えっ、なに?」

 志保が少女の口元に耳を近づける。

「うんうん、で?」

 理沙には少女が志保に何を言っているのかは全く分からない。
 しかし、その少女の姿があまりにも可愛くて、理沙は思わず顔を赤らめた。

(いかん、いかん。私は何を考えているんだ。この子は立派な高校生だぞ。ぬいぐるみみたいで可愛いなんて失礼だ)

 そんな事を思いながらも志保と少女の会話が終わるのを待つ。志保が頷いているからには少女とちゃんと会話が出来ているだろう。

「了解!」

 会話が終了したのか、志保が元気良く少女に敬礼をすると少女も志保に敬礼を返した。

「んで、この子、何だって?」
 
 我慢出来ずに理沙から口を開くと志保は「ん~、よくわかんない。えへへ」と、愛想笑をしながら後頭部をかき出した。
「お・ま・え・は~」

 理沙が鬼の形相で志保に迫り、そして両手を握り締めて志保のこめかみをぐりぐりと痛めつけた。

「痛い、痛い、理沙。冗談だよ。ごめん、ごめんなさい~」

「悪い冗談はいいからさくっと話す!」

 仁王立ちで志保の目の前にいる理沙はまだ目が笑っていない。
 その迫力の前に志保は理沙の目の前で正座をし、精一杯の語学力で理沙に説明を始めた。

「えっとね、こちら、足立柚季(あだち ゆずき)ちゃん。1年C組だって」

(コクコク)

 志保の説明に隣にいた柚季が頷く。

「んで、柚季ちゃん、新聞部を作るためにスクープを探しているんだって」

「それが私となんの関係がある?」

「理沙は昨日の入学式で一躍有名人なんだって。男子生徒達から早くもミス岡家コンテストの優勝候補になっているんだって」

 そう言った志保が上目遣いで理沙を見てみると、若干口元が引きつっている。だが、柚季に言われた事を正確に伝えなければ、通訳の意味が無い。覚悟を決めて、志保は話し続ける事を決めた。

「だから、理沙の特集を組んで、スクープにして新聞部を創設したいんだってさ」

「ほう、いい度胸だな……」

「考えたのは私じゃないよ。柚季ちゃんだよ」

 両手を胸の前で振り、慌てて志保は自分が考えたわけでは無い事を強調する。
 志保の言った事が間違いではない事を柚季は頷いて肯定した。

「あのね、柚季さん、ごめんだけど特集はお断り。さすがに恥ずかしい」

 理沙がそう言って柚季に優しく断る。その言葉を聞いて、肩を落として落ち込むしぐさを見せる柚季。

(こんなしぐさも可愛い~)

 理沙が柚季を見てまたもや顔を赤らめる。しかし、そんな思いも知らず、志保は

「理沙、こんな可愛い子を落ち込ませるなんて、それでも私の親友?」

 柚季を抱きかかえ、優しく頭をなでて「お姉さんが協力してあげる」と、短く志保はそう言った。

「いや、お姉さんって同級生だから。それにどんなに志保が協力したって柚季ちゃん1人じゃ新聞部は出来ないよ。志保も昨日、聞いたでしょ? 部活を作るには部員が最低5人以上だって」

 呆れながら志保にツッコみを入れ、そして2人に部活を作る条件を説明する理沙。その言葉を聞いた柚季はさらに肩を落とし、顔が青ざめていく。
 柚季の様子を見ていた志保は、状況を打開するため考え込んだ。しかし考えた時間は短く、すぐに大きな声を出した。

「あっ、いい事考え付いちゃった」

 志保の顔がしまりの無い顔になる。こういう顔をする時の志保は今までの経験上、ろくな事を言い出さない。理沙はかなり不安になった。だがそんな理沙の気持ちを知らず、
 志保は理沙を無視して柚季に耳打ちをし始めた。2人の会話が進んでいくにつれ、柚季に段々と笑顔が戻っていく。そして最後には固い握手を交わす志保と柚季。握手が終了すると柚季は理沙に頭を下げ、かなりのスピードで走り去っていった。

「早っ! 何、あのスピード!」

 志保も理沙も運動には自信があり、専門で陸上をやっていた同級生ぐらいにしか負けた事はない。だが、柚季の走るスピードは今まで志保と理沙が目にしてきた中で1番速いと思った。

「うんうん、あれは即戦力だね。これであと2人見つければフットサル部が出来るよ」

 納得したように志保が柚季の姿を目で追いかけながら頷く。

「へえ~、そうなんだ。あの子、フットサル部に……って、えぇぇぇ~!」

 驚きのあまり、理沙が校庭に響き渡るような声を上げた。理沙の声の大きさに隣の志保は耳に手を当ててしゃがんでしまう。しかし理沙に襟首を持たれ、自分の意思とは関係なく立たされた。

「おい、どうゆう事だ。ちゃんと説明しろ!」

「あうあう、脳みそがシェイクされちゃうよ~」

 襟を持ったまま志保の頭を前後に振る理沙。

「ちゃんと言うから落ち着いて~」

 理沙が落ち着きを取り戻し、志保の襟首から手を離す。しかし、志保はグロッキー状態でしゃべる事は出来ず、そのまま校庭に座り込む。

「ち、地球が回ってる~。理沙も一緒に回ってる~」

「おい志保、しっかりしろ。地球はいつも自転しているものだぞ。志保、志保ぉぉ~~」

 しっかりとツッコミを入れつつ、倒れこむ志保を抱きかかえる理沙。そして、またもや校庭に理沙の声が響き渡った。

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