フットサル、しよ♪

本郷むつみ

文字の大きさ
上 下
29 / 61

初めての試合と恋心です♪

しおりを挟む

「うそ~どうしよう。初試合だよ」

「お、落ち着け、志保。こ、こ、ここは冷静にだな」

「理沙ちゃんも落ち着きましょうね」

 優しい声で舞が理沙を落ち着かせる。

「んで、どうしようか?」

「どうしようかと言われてもな。そもそも試合をした事が無いんだから、作戦的には当たって砕けろ的な感じになるな」

(コクコク)

「まあ、しょうがないよ。とりあえずやってみてから考えようよ」

 4人の会話に亜紀だけが参加してこない。亜紀は試合中のコートもボーっと眺めている。
 そんな亜紀の視線を4人が追っていくとそこにはフットサルをする健の姿があった。志保たちも健のプレーを追ってみる。健のプレーは明らかにレベルが違っていた。
 コートの中心で全てをコントロールするような存在感。
 まるでボールに紐が付いているかのように健の脚から離れない。
 ダンスをしているようなステップ。
 しかし、決して独りよがりのプレーではなく、常に仲間を意識しパスを出す。
 そして一番印象に残ったのは健が常に笑顔でプレーしていることであった。

「カッコいい……」

 亜紀が小さな声で呟いた。

「はい?」

「えっ?」

「なに?」

 亜紀の呟きを聞き逃さなかった志保、理沙、舞の3人が驚きの声を上げた。
 自分の言った事に気が付いた亜紀は顔を真っ赤にして慌てて否定する。

「な、な、何か聞こえまして? わ、私は何も言っておりませんわ。あ、あ、あなた方も何も聞こえていないですわよね」

 両手を振ってあたふたし、うろたえる亜紀の姿が4人の目に新鮮に映った。

「ふ~ん、亜紀ちゃん、可愛い所あるね~」

「亜紀でも恋するんだな」

「志保ちゃん、理沙ちゃん、あまり人の恋路を邪魔するような事を言っては駄目だよ。でも、確かに意外な1面だと思う」

「亜紀ちゃんなら『私の彼氏にしてあげますわ』とか言いそうなの」

「あなた達、さらっと酷い事を言いますわね」

 4人の自分へのイメージに対し、愕然とする亜紀。

「しかし、確かに本当に上手いな」

「で、ですわよね。あ、あのプレースタイルを勉強の為に見ていただけですわ。け、決して柚季さんのお兄様に目を奪われたわけではなく、あくまで勉強の為ですわ」

 必死になって言い訳する亜紀の顔は耳まで真っ赤になっていた。そんな亜紀の気持ちを察し、舞がこの場の空気を収める。

「そうだね。あのプレーは理想だね。私たちもあんな風にプレーできるように頑張ろう」

「うん、とりあえず今からの試合。私達の初試合。楽しんでプレーしよう」

 そう言って志保が締めると、試合終了のブザーが体育館に鳴り響いた。プレーを終了した健が「じゃあ女性陣で試合しようか」と言いながら志保達の方に歩いてきた。

「5分後に試合始めるから。初試合だから審判もつけるから。一応、反則は緩めに笛を吹くからね。スクラッチの方は今日、ゴレイロの女性がいないから男がやるけど、ハンデとして手は使わないし、自陣から出ないから安心して」

 試合を終えたはずなのに健は息一つ切らさずに志保たちにそう伝える。しかし、志保は

「ハンデなんかいりません。真剣に試合がしたいんです」

 と健に言い放った。そんな志保に健は苦笑しながら

「大丈夫。このハンデをつけても君たちは試合にはならない。とりあえず今まではボールを蹴る楽しさを知ってもらった。普通にフットサルをやるだけならこのまま帰ってもらうんだけど、君たちが目指すのは全国でしょ? だから今度は試合の厳しさを知ってもらう。頑張ってね」

と言いながら志保たちに背を向け、試合をする女性陣たちの方へ歩いていった。そんな健に志保たちは憤慨した。

「絶対に勝ってやる」

 そう言って強く言葉に出したのは志保であった。

「私達の実力、見せてつけよう」

 志保の言葉に他の4人が頷いた。メンバー全員の視線は健に向かっている。が、視線に全く気付かない健は自分のチームの女性たちにアドバイスをしていた。

 アドバイスが終わったのか、

「んじゃ、やろうか。女性だけコート内に入って。直哉、審判頼めるか~」

 健の大きな声が体育館に響き渡った。



しおりを挟む

処理中です...