フットサル、しよ♪

本郷むつみ

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亜紀ちゃんの決意です♪

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 理沙が相手からボールを奪い、走り出していた亜紀にパスを出す。だが、亜紀はトラップミスをしてボールがコートの外に転がっていく。

(せっかく私の、いやフローラルの初得点を取る為に皆が舞台を整えてくれているのに。この私ときたら)

 この試合、亜紀は早くもシュート数は4本に達している。しかし、ゴールの方向に飛ばなかったり、当たりそこないで小学生でも取れるようなボールの勢いだったりとここまでは全くチームに貢献していない。
 それでも理沙や志保は何回も自分にパスを送ってくれている。その期待に応え切れていない自分に亜紀は試合中にも関わらず、少しづつ自信を無くしていった。

(私はこのチームのストライカーなのに……)

 練習では志保には劣るが速いボールも蹴れるし、同じ女性なら競り合っても負ける気はしない。健もそんな自分を見て相手のゴールに一番近い場所にしたと思っている。
 だが、試合になるとやはりプレッシャーが違う。簡単なトラップでさえミスをする。そんな自分でも信じてパスを送り続けてくれている仲間たち。

(相原財閥次期党首のこの私が期待に応えてないなんて、ありえないですわ)

 今までどんな事に対しても亜紀は常に結果を出してきた。
 勉強は当然、華道などの作法や料理など。親や周囲の期待に応え、それ以上の結果を出した。そうして今の自分の地位を作り上げてきた。

「こっち!」

 敵のエリアで動き回り、少しでも自分の有利な体勢でボールを受けようとする亜紀。前からの守備に加え、味方がボールを奪取した瞬間、誰よりも早く敵のゴール前に走り出す。
 体力に自信のある志保や舞の目から見ても亜紀は異常なほど走っていた。控えのいないフローラルは選手交代が出来ない。無謀とも言える亜紀の行動。しかし、誰1人亜紀を止めるものはいなかった。
 実際、亜紀が前線でプレスをかけてくれているからこそ、守りきれている要素が大きい。後ろで動いている3人は亜紀の動きで守備位置を変えてパスカットをする。亜紀のおかげで何とか無失点で抑えていると言っても過言ではなかった。

(点が取れないのなら守備で貢献しなくてわ。私の存在価値を示さなければ)

 相原財閥の1人娘として生まれ、周囲から常に特別扱いされていた。結果が出なければ非難され、結果が良ければ当たり前。そんな生活が亜紀は嫌でしょうがなかった。
 しかし、フローラルのメンバーは違っていた。みんな色眼鏡で自分を見ることなく、自然体の、1個人の相原亜紀として見てくれる。それが亜紀には嬉しかった。失敗しても結果が出なくても自分を信じてくれる。常に完璧な相原亜紀で着飾って生きてきた。
 だが、フローラルのメンバーは着飾った自分を壊してくれる。素の自分を出せる。亜紀にとって本当の友達が出来た気がした。それゆえに余計にみんなの期待に応えたい。その思いが亜紀をさらに空回りさせていた。
 7分が過ぎ、ハーフタイムを告げるブザーが鳴り響いた。疲労が隠し切れない亜紀がベンチに戻ってくる。志保がすぐに亜紀に駆け寄った。

「亜紀ちゃん、頑張らなくていいよ。もっと私達を信用してよ」

「そうだぞ、亜紀。自分で全部を背負うな。私達はチームなんだから」

「亜紀ちゃんの気持ちは分かっているから」

 理沙も舞も後に続いて亜紀に声をかけてくる。そんなメンバー達に亜紀は顔を赤くしながら否定し始めた。

「な、何の事ですわ? 私はいつものようにプレーしているだけですわよ」

「そんなことないの。完全に膝が笑っているの」

 柚季が亜紀の意見を即座に否定する。

「亜紀ちゃんは1人でやりすぎですの。そんなに僕達は必要ないかの? 僕たちは仲間じゃないのかの?」

 普段は口数の少ない柚季がこう言うとかなりの迫力がある。その迫力に押され亜紀は何も言えなくなった。

 「僕たちはチームメイトで仲間で友達なの。亜紀ちゃん1人の力で勝っても嬉しくないの。勝利するならみんなの力でなの。もっと私達を使って欲しいの」

 力強い目で亜紀を見詰める柚季。しばらく沈黙が続いた後、亜紀がゆっくりと口を開いた。

「分かりましたわ。私は何とかボールをキープしますのでフォローをお願いしますわ。やはり私の技術ではまだ得点を取るには難しいみたいですし。まあ、私はストライカーなので打てるチャンスがあれば打ちますわ」

 憎まれ口を叩きながらも顔は真っ赤になっている亜紀を見て志保たちが笑い出した。

「な、なんですの? 人の顔を見て笑い出すなんて。失礼にもほどがありますわ」

 今度は怒りで顔を赤くする亜紀。そんな亜紀に志保達は笑いながら返事をした。

「何でも無いよ。亜紀ちゃん、期待しているね。必ずフォローするから」

「うん、私がゴールを守るから。私は私に出来る事を出来る範囲で。だから亜紀ちゃんもね」

(コクコク)

「さあ、フローラル。行くぞ」

「おぉー!」




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