フットサル、しよ♪

本郷むつみ

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舞さんの覚醒です♪

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「まだまだだよ。ゆっくり~」

 ゴレイロをしている舞が大きな声で指示を出す。

(守備の指示は私が出さなきゃ)

 まだまだ技術的には未熟なフローラル。しかし自分はハンドボールのゴールキーパーの経験があり、指示も出せる。自分がゴールを守りさえすれば負ける事はない。
 舞は柚季の作戦を頭の中でもう1度思い出してみた。

『私達が相手よりも勝っている所。それはスピード。攻める時、守る時、どちらもオレンジより勝っているの。だから僕とご主人様と理沙さんの3人がゾーンで守って、相手のゴール前で待っている亜紀ちゃんにパスするの。大丈夫、さっきの画像を見る限り、ドリブルで僕達を抜けるほどの技術を持った人はいないの。亜紀ちゃんはシュート打てるならそのままシュートで、無理なら少しでいいからキープしてくれたら僕やご主人様がフォローに走るの』

 確かにオレンジマジックはフィールドプレーヤー全員で攻めてくる。確かにボールさえ奪取できればカウンターの確率はかなり高い。その為には自分が指示を出して守備をしっかりしないと攻撃に移れない。
 1試合目はポジションチェンジを繰り返すオレンジマジックの動きに指示が全く出せなかった。あんな失態はもう許されない。仮にもハンドボールのGKで県選抜にも選ばれた自分が、指示も出せず、ただ飛んでくるボールを弾くので一杯一杯になっている自分が許せなかった。試合勘も試合形式の練習や1試合目のおかげで取り戻してきた。

「理沙、斜めに入ってくる人、気をつけて。柚季、後ろにも1人いるから。ボールだけじゃなく、人の動きに注意して」

 ハンドボールの試合の時のように、全神経をコート中に研ぎ澄ませる。
 この1ヶ月でやっとフットサルのゴレイロに慣れ始めた気がする。同じGKでもやはり競技が違えばいろんな面が違った。動き出しのタイミングや視線の位置。
 舞はスクラッチの練習で男性メンバーしかいない場合でもゴレイロをやるようにしていた。
 それはゴレイロ(GK)というポジションがどのポジションよりも経験が重要となる事を知っているからだ。健や他の上手い人もいれば、シュートが下手で蹴るだけでフェイントになる人もいる。そんなスクラッチで練習した経験がやっと芽を出し始めていた。

(私がフローラルの守護神なんだ。私が1点も許さなければ、絶対に負けることはない! 私が笑顔になる為に、このフローラルに誘ってくれたみんなに恩返しする為にも守りきる!)

 気合いを入れ、大きな声で指示を飛ばす。
 あの時、みんな誘ってくれていなかったら、今頃私は何をしていただろう。何も目標も無いまま、ただ時間だけが過ぎて行ったと思う。プレッシャーに押しつぶされ、楽しいはずの高校生活がただ苦しいだけの生活になっていた気がする。下手をすれば高校を辞めていたかも知れない。
 実際、志保達といる時間は楽しくて仕方が無かった。先輩後輩の壁が無く、気を全く使わない。まるで何年も前から友達でいたような感覚がある。部活の場だけではない。いつでも笑顔で過ごせる仲間達。
 志保達も自分に対し過度の期待を全くしない。むしろ色んな面で自分を引っ張っていってくれている。誰かの期待に応えようと思うのではなく、誰かの為に自ら行うのは意味合いが全然違う。

(私がみんなの笑顔が見たい!)

 飛んでくるシュートを舞は必死でゴールから弾き出した。
 舞の前には理沙、志保、柚季の3人がエリア内で必死に守っていた。その為にスペースが無く、明らかにオレンジマジックが攻めあぐねているのが分かる。
 柚季の言ったとおり、健のようなこの状況を1人で打開出来るようなテクニシャンはいない。

(なるほど、1人じゃ攻めきれないから全員で攻めてくるんだ。柚季ちゃん、凄い観察眼だね。さすがは兄弟。よく似てる)

 舞が素直に感心する。
 明らかにボール保持率はオレンジマジックだが、1試合目とは展開がまるで違う。フローラルのシュート数が明らかに増え始めていた。相手のゴール付近で待機している亜紀の存在が明らかに大きい。
 ボールを奪ったらすぐに亜紀に預ければ得点チャンスになる。その為にオレンジマジックも思い切った攻撃を仕掛けてこない。柚季の作戦は確実に流れを引き寄せていた。


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