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誘われてみた
しおりを挟む時間
刻一刻と過ぎていく時間
止まる事や戻る事はない
だからこそ無駄に過ごしてはいけないのに
過ぎ去り、置き去りにした時間はもう戻らない
失敗や挫折、そんな言葉があることすら忘れていた。
だけど……
当たり前のことをあの人が気づかせてくれた
歩いてきた道には後悔の2文字
これから歩む道は暗闇で先が見えない
しかし、あの人が僕(私)の手を引き、導いてくれる
今からでも遅くはないと
まだスタートすらしてないと
そうやって教えてくれた
自分の歩く道に何を残すか、残せるか
僕(私)は何も考えず、行動せずに過ごす日々に終止符を打った
「やだよ。金は無いし、面倒くさい」
白川鳳斗は電話に向かってぶっきらぼうに言い放つ。電話の相手は鳳斗の親友、 名倉幸隆だった。
「お前の心配してやっているんだろうが。親友の心遣いがわからんのか」
「違うだろ。ただ、タクシー代わりがほしいだけだろが」
「それはある!」
電話の向こうから自信満々で言う親友の声を聞き、鳳斗は呆れるしかなかった。
「即答で肯定することじゃねぇ。別に俺じゃなくてもいいだろ。他にも行きたい奴ぐらい沢山いるだろ?」
「お前もいい加減に彼女ぐらい作ったほうがいいって。童貞を守っても誰も褒めてくれないぞ」
「童貞言うな。そして俺も好きで守っているわけじゃねぇ。それ以上に女の子との飲み会が嫌いなんだよ」
俺は自分の事を過大評価は絶対にしない。
高校を卒業して約4年。今は小さな会社で毎日同じような仕事をし、帰って寝るだけの生活。ルックスは中の下で身長も男としては低い方。口も巧いほうではない。オシャレにも興味もないし、スポーツも苦手。取り柄がなく特徴もない。趣味もない。お酒にも弱い。流行にも疎い。
ないない尽くしの俺だけど、頑張って生きてはいるよ。色んな事に絶望しながらだけどね。
そんな俺が飲み会? はあ~? こいつは俺に場を盛り上げるスキルがあると思っているのか? 間違いなく会話は続かない。会話のボールを投げられてもキャッチ出来ない自信がある。
なんで自分がモテない事を再認識しないといけないんだよ。こんな苦行を何回も受けるって、俺はドMじゃないから。
「親友って言うぐらいなら俺の事を分かっているだろが」
女の子との飲み会となれば空気を読む事や会話を盛り上げること。そんな技能が必要とされる事を鳳斗はよく分かっていた。
そしてそれは親友の幸隆にあって、自分にはないものと知っていた。
鳳斗の親友、幸隆は俗に言う八方美人に近い。あだ名は幸(ゆき)と呼ばれ、身長も一般男性並みで顔もイケメンの部類に入る。1年留年をしたものの大学生活を満喫している。性格は物事をポジティブにとらえ、何事に対してもそつなくこなす。知識も豊富で話術が上手い。
異性を楽しませる手品も巧いし、その上サッカーもしていて運動神経もかなりよい良い。ただ1つだけ、残念過ぎるほどの下ネタ好きが玉の傷だった。
飲み会に参加したところで、モテない事を話のネタにされ、女の子達を送る為のタクシーになり、余分な出費をする。毎回、同じ事を繰り返すだけ。
鳳斗は思わずため息をつきそうになった。
「マジで頼むって。みんなが飲めないと盛り上がらないだろ。カラオケとか2次会に行く時とか、女の子たちを送って行くのにどうしてもタクシーが必要なんだって」
「お金を出して普通のタクシー呼べばいいだろ。と言うか俺をタクシーって断言して言うんじゃねぇ」
しっかりとツッコミを入れ、鳳斗が幸隆を冷たくあしらう。電話越しにその台詞を鳳斗から聞いた隆行は酷く嘆いた。
「友達だろ、親友だろ、心の友と書いて心友だろ」
「お前は青いネコ型ロボットアニメに出てくるガキ大将かよ!」
鳳斗が電話口で苦笑する。
そしていつまでも決まらないこの話題に終止符を打つため、幸隆は鳳斗の妥協点を探り始めた。
「よし、わかった。お前の飯代は野郎どもで出す。それならどうだ」
「だったら素直にその金をタクシー代に使ったらいいと思うのは俺だけか?」
幸隆はかなり譲歩した解決案を鳳斗に提示するが、それでも鳳斗の考えは変わらない。そんな鳳斗の態度に幸隆はいらだち始めていた。
「駄目だって。それじゃ男と女の子と人数が合わないだろうが。それにタクシー代のほうが絶対に高くつく。何のためにワンボックスカーを買ったんだよ!」
「少なくともお前のタクシーになるためではないな」
なかなか引き下がらない幸隆。気付けば1時間以上2人の話は平行線をたどっている。いい加減にお腹が空き、トイレにも行きたくなった鳳斗の心がボキッと言う音と共に折れた。
「分かった分かった。俺の負けだ。行ってもいい」
「男にイってもいいって言われても嬉しくもなんともないな」
「切るぞ」
「待った、待った。んじゃ、今度の土曜日、夜7時に俺の家に迎えに来てくれ。んで、奴を迎えに行く」
「土曜日って明後日だろ。ちょっと待て。あと奴って奴か」
「んじゃ、よろしく」
鳳斗の気が変わるのを恐れた幸隆はすぐに電話を切った。
「おい、ちょっと待てや、コラ」
あの野郎。電話を切りやがった。マジかよ……。もうツッコミポイントが沢山ありすぎてどこからツッコめばいいんだよ。しかももう1人の男ってあいつかよ。
鳳斗は通話が切られた携帯電話を眺めながら、気の乗らない約束をした事を少し後悔した。
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