想い、結び、繋ぐ(仮)

本郷むつみ

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とりあえずやってみた

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 鳳斗が飲み会から1人で暮らすアパートに帰って来たのは日付が変わる頃だった。
 帰宅してすぐにパソコンを開く鳳斗。飲み会後、全員でカラオケに行ったのだが、鳳斗の頭の中は小説のネタをずっと考えていた。
 上の空のカラオケだったので幸隆に「ノリが悪いぞ」と言われる場面もあったが、遥香が察してくれてフォローしてくれていた。

 結局、カラオケの間はずっと遥香ちゃんと2人で小説の内容や設定の話をしていたな。幸やヨッシーが超が付くほどうるさかったけど。遥香ちゃんとラインの交換をしただけでも今日の飲み会は成功だな。
 まあ、幸とヨッシーはちゃっかり女の子全員と連絡先を交換していたみたいだけど。

「さてと、始めましょうかね」

 パソコンを前にし、自分に書けそうな題材を頭の中で模索する。
 推理小説を書こうにもトリックは全く思いつかない。ファンタジーはありきたりでどこかで見たような物になってしまう。結局自分には見たことや聞いたこと、経験した事しか書けない事を鳳斗は悟った。

「なんかの本に歴史から学ぶ者は賢人。経験から学ぶ者は愚者とか書いてあったけど、経験ってやっぱり重要だわ」
 
 うん、無理。やっぱり俺にはファンタジーとか推理とか無理だわ。なんも思い浮かばない。と言うわけで、とりあえず恋愛物でも書いてみましょうかね。
 あんまり経験ないけど、理想の恋愛を書けばいい……か。とりあえず周りの人間を基にして恋愛させてみましょうか。幸いなのか不幸なのか、俺の周りにはクセが強い奴が多いしね。

「……本当に俺の周りにはネタになりそうな奴が多いな」

 苦笑しながら設定を考える鳳斗。少しずつ頭の中で登場人物の設定が決まり始めていく。メモを取り、細部を決めると、鳳斗の頭の中でTVドラマのように人物が動き始めていった。
 出だしを書き始めると鳳斗が調子に乗り始め、指先が軽快に動き始める。順調にページのカウントが次々に増えていった。

「おっ、なんか小説っぽくないか? 面白いかどうかは別だけど」

 とりあえず出会いはこんな感じで。めっちゃベタだけど、まあいいか。おっと、その前に小説の書き方ぐらいはググって勉強しておくか。
 作法? プロット? 一人称? 何それ? ブログを書くのとは全然違うじゃん。
 う~ん、めんどい。いきなり本筋を書いちゃおっと。

 ♪♪♪♪~

 誰だよ、こんな時間に電話だなんてよ。何時だと思ってんだ。……人の迷惑を考えずに電話をかけてくる奴なんて、俺の周りだと2人しかいねぇわ。あ~、出たくねぇ~。だけど、出なきゃ出ないで後がウザそうだし。しょうがない、出るか。

「もしもし」
「まだ、起きていたか? 下半身は起きてたかもしれんがな」
「下半身の心配は余計なお世話じゃ。あと気遣いのポイントがあまりにも違い過ぎない?」

 電話の相手は鳳斗の予想通りの相手、幸隆だった。

「ちゃんと遥香ちゃんに連絡したか?」
「あ? してねえよ。と言うか、そんな事でわざわざ電話してきたのか?」
「お前が連絡先を交換するなんてあまりないからな」

 今までの鳳斗は飲み会などに行っても連絡先を交換する事はほとんどなかった。その場限りの関係で終わってしまうことが当たり前で、それが鳳斗のトラウマにもなっている。

「そんなことで心配されたくね~よ。お前は俺の何なんだよ」
「遥香ちゃんといい感じだっただろ。連絡しろよ」
「今日は遅いから明日な。お前だって遥香ちゃんと交換していただろ。久美ちゃんも千絵ちゃんも」
「俺は今まで久美ちゃんと電話で話していた」
「はあ? 飲み会が終わって帰ってからも電話してたのか?」
「まあな。アフターケアは重要だぞ」

 自信満々でそう言い放つ幸隆に少し呆れ気味で皮肉を少しこめて鳳斗が答える。

「お前のそうゆうマメさは尊敬するよ」
「そう褒めるな」
「誰も褒めてねぇよ。どう聞いたらそう聞こえるんだよ。お前の言語処理能力は絶対におかしいから、脳の病院に行って検査してもらえ」

 幸隆のポジティブな性格に鳳斗はマシンガンのごとくツッコミを入れる。

「とりあえず、明日は必ず連絡しろよ」
「だからお前にそんなことまで心配されたくねぇよ。なんかあの子とは付き合うとか彼氏彼女とか、そんなんじゃないんだよな」
「言っている意味がよくわからんぞ」
「自分でもよくわからん。が、連絡はする。だからお前は俺に余計な干渉するな」
「ん、わかった。じゃあな」

 普段と違い、かなり素直に電話を切る幸隆に違和感を覚える鳳斗。
 しかし、電話はもう切れているので追求する事は出来ない。違和感を無理矢理振り払った鳳斗は、またパソコンのキーボードを叩き始めた。登場人物の設定や思想などを自分なりの表現で文字にしていく。次第に鳳斗の頭の中で進んでいるドラマがパソコンを打つ手より早く展開していった。
 キーボードを打っていた指を止める鳳斗。しかし、頭の中では小説の登場人物が好き勝手に動き、鳳斗の意思とは関係なく物語を進めていく。そして遂に物語はエンディングに。これには鳳斗も苦笑するしかなかった。

「なんでだよ」

 ありえないだろ。俺の頭の中はどうなっているんだよ。
 でも、まあオチまで出来たのは大きいな。……とりあえず、少しずつ書き進めていって後で色々付け足していくのがベストだろうな。
 ちゃんと小説を書いている人から言わせればプロット? とか言うのを作れ! って言われるんだろうな。とりあえずメモぐらい取っておくか。

 そう思った鳳斗はメモ用紙に走り書きで大体のあらすじを書きとめていく。メモを終えた鳳斗は自分の書いた小説を読み直してみた。

「これ、面白いのか?」

 それよりも何よりも小学生が書いた作文みたいだよな。初めは小説っぽいって思ったけど、読んでいたら自信が無くなってきた。大学にも行っていない俺にはやっぱり高すぎるハードルのような気がするぞっと。
 国語の成績も決して良くなかったしね。読んだやつらに陳腐って一笑される気がする。こんなんでいいのか? もう少し捻りが欲しいけど。駄目だ。全く頭が働いていない。

「寝るか」

 鳳斗に睡魔が襲ってきた。鳳斗が壁にかかった時計に目をやると、針は午前5時を指している事に気付く。書いた小説を保存し、パソコンの電源を落とす鳳斗。
 大きな欠伸をし、睡眠を取るための準備をし始めると、またもや携帯が鳴り響いた。しかし今度は着信音ではなくSNSの着信音だった。
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