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打ち合わせをしてみた
しおりを挟むその頃、遥香は大学の仲間達と映画製作の打ち合わせをしていた。
先ほど鳳斗にメールは送ったが、その返信の確認よりも遥香にとっては打ち合わせのほうが重要だった。
今回、サークルメンバーで撮影する映画はコンクールに応募する予定。もちろん出来がよければ話だが。今回の総監督をやる 若木浩太は自信満々であった。
「今回はこの脚本を使おうと思っているんだけど」
と言いながら若木が周りのスタッフに脚本を配る。スタッフと言ってもみんな同じ大学に通う学生。
もちろん遥香や若木のように監督志望もいれば、脚本家志望や撮影照明志望、編集志望まで色んな選科の人間が揃っていた。
学校には何組も同じように映画を作っているグループがある。遥香達もたくさんあるうちの1グループだが、映画の内容は他のグループにかなり遅れを取っていた。学校の試写会や学園祭での上映会を観覧するとその差は明らかだった。
ふぅ~、今回はただで遅れてるから、最初の打ち合わせから久美にも参加してもらっているんだよね。どうせ、キャストの人数が足りず、スタッフの友達などにエキストラなどを頼まないといけないし。だったら最初から居てもらった方が説明もしやすいしね。だけど、この内容で大丈夫なのかな。
「今回はちょっとコメディー的な推理物なんだ」
「なんか少し前のドラマにあった感じだな」
「これならもう少しお笑いを増やしてもいい気がするな」
「やっぱ絵コンテが出来てないと難しいな」
スタッフが思い思いに口を開く。遥香個人はもう少しシリアスにやっても良いと思ったが、口には出さなかった。脚本は文章だけなので絵コンテやシーン割りなどは分からない。
このないように対し、どんな角度からアプローチしていくかは若木次第。
(そのための総監督なのだから)
そう思った遥香は感想を言う事はあえて避けた。
「今回はこれでいいか? みんなが良いならこれで進めるけど」
周囲のスタッフ全員の顔を見回し、反対意見が無いか若木が確認する。誰一人反対意見を言う者はいない。
当然と言えば当然である。今回の脚本はシナリオ選科の生徒が作った物。将来、その道で生きてくと言う志を持った人間が作った物。素人が考えたストーリではないのは誰が読んでも一目瞭然だった。
「んじゃ、これで進める。余裕を持ちたいから、次の連絡はなるべく早くする」
「で、今回は配役とかはどうするの?」
遥香が若木に尋ねる。さすがにこの学校には役者志望はいない。結局スタッフの友達などに頼むしかないのだ。素人が演技をするとどうしても演技がオーバーになり自然に見えない。これも他のグループに負けている理由の1つなのだ。しかし、今回は違っていた。
「あっ、脚本を頼んだ奴の連れが俳優の専門学校に行っているんだって。ついでに配役も頼んでおいた」
「じゃあ、今回は準備万端なんだ。完璧じゃん」
「でも、エキストラとかは欲しいから、とりあえず、みんな友達には声をかけておいて欲しい」
「メインキャストは決まっているけど、脇役とかまではさすがに頼めないからな」
「了解」
「オッケー」
スタッフから様々な了承の声が上がった。遥香が久美以外に声をかける人間は決まっていた。
後で千絵にメールすればいいか。千絵、出演してくれるかな? 千絵が出演してくれるならヨッシーさんも出てくれそうだよね。そうしたら幸さんも出てくれそう。鳳斗さんは……無理かな。あっ、もう返信が来ているかもしれない。でも私、なんで鳳斗さんの書く小説が気になっているんだろう?
遥香が鳳斗の事を考えていると若木が
「鈴木さん。この後、もう少し時間あるか?ちょっと相談があるんだけど」
と言ってきた。今回の映画の助監督をやる遥香としては監督の手助けは自分の役割だった。
「いいよ。なに?」
「脇役キャストを決めてきて欲しい。俺、時間もないし、友達が少ないからさ、頼める?」
若木は映画監督を目指すため、九州から上京してきてバイトを掛け持ちでしている苦労人。友達が少ないのも遥香は知っていた。
「わかった。こっちで捜してみるよ。その代わり、演技は期待しないでよ」
そう言って悪戯っぽく笑った。
「まあ、演技に関しては少しぐらいカジっていてくれた方が嬉しいけどな。まあ、メインは役者志望で固めるし、セリフ量は少ないから問題ない」
「じゃあ、帰ったら脚本をしっかり読んで配役を当てはめてみるよ」
「ごめん、頼むわ。あとさ……」
機材の確認や撮影日数、予算や撮影場所、大まかな段取りを手際よく決めていく遥香と若木。そこにいつの間にかいた機材スタッフや編集スタッフまで意見を出していた。
時間が経つのも忘れ、どこまでも映画の話をする遥香たち。より良い映画の完成を目指し、みんな真剣に議論する。若木がふと時計を見ると夜九時を回っていた。
ここにいるみんな、映画やドラマが好きでこの道に飛びこんで来た人たちなんだよね。集まれば自然と周囲が映画の話題になっていくのは仕方がない事。よく言えば映画マニア、悪く言えば映画ヲタク。
って私も人の事を言えないよね。
「おーい、ここまでにしよう。みんな言いたい事があるのは分かったから」
そう言って打ち合わせを終わらせる。
遥香も色んな物を片付けて帰り支度をした。
「ごめんね、久美。疲れたでしょ?」
「ううん。みんな真剣って事は凄く分かった。でも、お腹は空いたかな。どっかでご飯食べてかない?」
「いいよ、どこへ行く?」
久美はそう言いながら遥香を夕飯に誘うと、遥香は気軽に返事をして帰り支度を急いだ。
「こんな感じで進んでいくんだね」
「うん、いつもこんな感じで進むの。もし、久美も言いたい事があったら言ってよ」
「私みたいなエキストラでも言ってもいいの?」
「いいよ、みんなで作る映画だからさ。それで映画が良くなるなら大歓迎だよ」
久美は素直な感想を遥香に伝えると帰り支度を済ませた遥香がバックを背負いながら久美に答えた。
「お待たせ」
と一言言って久美に帰り支度が出来たことを伝えた。
「何を食べようか?」
「何でもいいよ。でも、ちょっと脚本に目を通したいから静かな所が良いかな」
「そっか、じゃあ、この間見つけたばかりの美味しい所、遥香に教えるからそこに行こう」
「相変わらず開拓しまくっているんだね」
「うん、そこのパスタは久々に大当たりの絶品でおススメだよ」
「なら、そこで決まりだね」
即決する遥香に久美が笑顔を見せる。
「んじゃ、行こう!」
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