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第3章
裁きの光と荒ぶる雷
しおりを挟む少年は、師(賢者)が命をかけて遺した古龍の知識を、頭の中に叩き込んだ。
『力は、極限の屈辱と死の恐怖によって喚ばれる』
彼は、手作りの粗末な火薬玉を調整し、盗み出した小型コアを改造した。覚醒のための条件は、自らカガリの最も安全な場所へ飛び込み、彼の最も強力な術を浴びること。それは、生きて戻ることを前提としない、死を前提とした計画だった。
「ごめんなん、アユム。もう少しだけ、待っていてくれ」
少年は、光を失った仲間の頬をそっと撫でた。そして、彼は最後の準備として、金種の上層へ向かう、廃棄物運搬路へと身を投じた。
その夜、色都の中枢、神光を司る調律システム中枢の深部に、警報が鳴り響いた。
「ノイズ感知。単独侵入。警戒レベル三。」
カガリは、優雅な椅子に腰掛けたまま、静かに端末を見つめていた。彼の表情に焦りはない。
「やはり来たか。予想通りだ。その無駄な勇気は評価しよう。しかし、所詮はノイズ。秩序の前に、意味はない。」
カガリは、光の術師としての直感で知っていた。この少年は、他の無色の民とは違う。彼は**「秩序の外」**から生まれた、最も危険な異物だと。
「システムを完全に封鎖。逃げ場は与えるな。だが、殺すな。彼の命は、秩序の再調律に必要だ。」
彼の声には、僅かな高揚が含まれていた。完璧なシステムに、予測不能なノイズが挑戦してくる。それは、調律者としての彼の能力を試す、最高の遊戯だった。
調律システム中枢の最深部。主人公は、複雑なセキュリティーを突破したが、彼の知恵の限界はそこまでだった。
彼は、カガリが仕掛けた最後の罠、不可視の光の檻に捕らえられた。鋼鉄の拘束具が彼の四肢を締め付け、すべての武器と道具を無力化する。
「私を破ったと?」
背後から、冷たい声が響いた。カガリだった。
「残念ながら、その知恵は三流だ。私は君がここにたどり着くまでのすべての行動パターンを予測していた。君の『怒り』が、君の思考を単純にしている。」
カガリは、目の前の少年に、屈辱的な言葉を投げつける。
「無色の民よ。なぜ、無駄に抗う?君たちは、調律された世界の安定を享受すべき存在だ。なぜ、その平和を自ら壊そうとする?君の命は、色都の秩序を守るための見せしめとして、私の調律に使われる。」
カガリは、右手を少年の額に向けた。彼の掌に、金色の光が集束する。
「これは、最後の調律だ。君の個人的な怒りなど、この光の前では塵となる。受け入れろ、無色の民よ。君は、無力だ。」
神光制御の術が、少年の全身に流れ込む。それは、肉体的な苦痛ではない。彼の心の奥底に宿る、仲間への愛、自由への渇望、師の教え、そのすべてを、無化する光。
少年の意識は深く沈み、彼の脳裏から、愛する仲間の笑顔が、師の優しい声が、すべてが剥ぎ取られていく。屈服。絶望。彼の魂は、**「無力」**という言葉に押し潰され、呼吸を止めた。
そのとき、遠く色都の底で、陽動を仕掛けていた**師(賢者)**が、カガリの遠隔システムによる防御術の反撃を受け、命を落とした。師は、最後まで少年の名を叫び、その覚醒を信じていた。
――極限の絶望と屈辱、そして愛する者の死。
三つの要素が重なり、少年の心は完全に崩壊した。
「……光?」
意識のないまま、少年は、声にならない声を絞り出した。彼の心の奥底で、彼はカガリの言葉を反芻していた。
『君は、無力だ。』
違う! 俺は、ただのノイズじゃない!
俺は、知恵で仲間を守ろうとした。
俺は、命をかけてここに立っている。
俺は、無色の民の魂を背負っている!
剥ぎ取られたはずの感情が、すべて一点に集中した。それは怒りを超えた、存在そのものの叫び。カガリの神光が届かない、魂の最奥で、禁忌の力が目覚めた。
「何……!?」
カガリの冷徹な顔に、初めて驚愕の感情が走る。彼の放った光の術が、少年の体から迸った黒い雷の奔流に触れた途端、水に油が触れたかのように弾け飛んだ。
ゴオオオオオオオオオッ!!
それは、都市の調和を破る荒ぶる自然の咆哮。少年はもはや、無力な人間ではない。彼の体は、古龍ミカヅチの力の奔流そのものとなり、鋼鉄の拘束具を光る砂に変えて立ち上がった。
背中に、雷光を思わせる古龍の紋様が灼熱とともに刻まれる。
ミカヅチの力は、意志を持つ雷。カガリが展開した防御の光壁を貫通し、都市の支配の根源である魔導システムの中枢回路を焼き尽くしていく。破壊されたシステムから火花が散り、色都の天に、古龍の雷鳴が轟き渡った。
「馬鹿な……竜血の刻印……!」
カガリは呻いた。彼の完璧な世界に、未知の異物が生まれた。
少年は、ミカヅチの力に意識を乗っ取られかけていた。その瞳は濁り、理性ではなく、千年の怒りが宿っていた。彼は、目の前の精鋭隊を、ただ一瞥しただけで、雷の奔流で吹き飛ばす。
金種の支配が始まって以来、初めての世界の**「不協和音」**だった。
崩壊する調律中枢の中、少年はミカヅチの力に導かれるまま、都市の外壁へと向かった。
彼の背後で、カガリが立ち上がる。服の一部を焦がされたカガリは、もはや冷静ではいられなかった。彼の調律を、彼の秩序を、たった一人の**「ノイズ」**が破壊したのだ。
「許さない……許さないぞ、無色の雷鳴(むしょくのらいめい)よ。これは、調律の失敗ではない。新たな調律の始まりだ。」
カガリは、崩れ落ちる壁を背に、主人公の逃げた方向を見据えた。彼の心に、秩序を守るという使命感とは別に、個人的な復讐の炎が灯った。
その頃、雷鳴に導かれた無色の民たちは、古龍の力によって開かれた都市の壁の裂け目から、次々と荒野へと脱出していた。
少年は、荒野の境界線で立ち止まった。彼の力は、まだ制御不能だ。彼は自由を得たが、その手には、古龍の力による破壊の痕が残り、心には力の支配への恐怖が芽生えていた。
彼は、荒野に広がる闇を見つめた。
カースト都市という支配から逃れた先には、人間と霊獣の間の支配という、さらに大きな戦いが待っていることを、彼はまだ知らない。
古龍ミカヅチの力は、彼を解放者にした。
だが、その力は、次の支配者を生み出す呪いともなり得るのだ。
遠く、色都の残骸から、カガリの追撃の光が瞬き始めた。
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