無色反転

ぱんだぱぱんだ

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第2章

砕かれた魂と古龍の血脈

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少年が盗み出したコアの力で、無色の民の集落にはつかの間の安堵が訪れた。彼の名は未だ伏せられたままだが、仲間内では既に**「影の救世主」**のような存在だった。

「これで三日は持つ。感謝するぞ」

彼の親友であるアユムは、そう言って笑った。アユムは、無色の民には珍しく、常に希望を失わない青年だった。彼らは古びた配管の上で、辛うじて差し込む上層の光の破片を眺めていた。

「三日だ。三日後に、また光に怯えなければならない」
少年は冷たく言った。
彼の心には、カガリの冷徹な眼差しと、光の刃が焼き付いていた。

「俺たちの知恵は、奴らの力の前では延命措置にすぎない。」
「だが、生きていれば望みはある。俺たちはまだ心を奪われていない」

アユムはそう言って、少年の肩を叩いた。彼らの心こそが、金種が唯一、完全に調律できない**「乱れ」**だった。

その日、事件は起きた。
金種の精鋭隊が、無色の民の居住区に踏み込んだのだ。彼らは、単なる物資の回収ではなく、**「秩序への再調律」**を目的としていた。

先頭に立つのは、やはりカガリ。彼は感情を一切見せず、隊員たちに「精神制御の術」の最大出力を命じた。

「この地に残る、あらゆる汚染された感情を排除せよ。」

神光は雷鳴のように降り注ぎ、無色の民の魂を押し潰しにかかる。人々は悲鳴を上げ、手で頭を覆った。
アユムは、その光に抗った。彼は、身を挺して幼い子供たちを守ろうとした。その一瞬の抵抗が、カガリの**「調律」にとって許されないノイズ**となった。
カガリの瞳が、僅かに色を帯びた。冷たい、水色のような光。

「個人の感情は、都市の調和を破る。徹底的に無化せよ。」

アユムに向けられた光の術は、他の住民へのそれとは比べ物にならないほど、強力だった。アユムの体から力が抜け、彼の意識は遠のく。最後に残ったのは、少年に向けて発した、**「生きろ」**という唇の動きだけだった。

調律が終わった後、金種の精鋭隊は静かに立ち去った。カガリは、振り返りもしなかった。
彼の視界には、もはやアユムという個体は存在せず、**「調律完了済みの物体」**が残されただけだった。

廃墟の隅で、少年はアユムを抱きしめた。
アユムは生きていた。だが、その瞳には光がなかった。彼はもはや、笑わない。話さない。ただ虚空を見つめ、人間としての感情と思考をすべて奪われていた。

「アユム……目を覚ませ。俺だ。お前の親友だぞ!」

少年の叫びは、虚しく闇に吸い込まれていく。彼は、暴力ではなく、精神的な屈辱によって、仲間を奪われたのだ。彼の知恵は、この残酷な世界では何の役にも立たなかった。

「……金種。カガリ……!」

怒りが、彼の心を焼いた。それは復讐心ではなく、自らの無力さに対する、魂を焦がす後悔だった。
少年は、荒れた息のまま、集落の外れに住む、**師(賢者)**の元へと走った。師は、長年無色の民を見守り、失われた古龍の伝説を語り継いできた唯一の人物だった。

師は、少年の瞳に宿る、燃えるような怒りを見て、静かに頷いた。

「その怒りこそ、お前の中に眠るものだ。だが、その怒りが力となるには、まだ足りぬ。」

師は、古い巻物を広げた。そこには、金種が恐れる、古龍ミカヅチの伝説が記されていた。

「古龍は、天地創造の雷を司り、世界の調律を拒む荒ぶる魂を持つ。その血は、絶望と屈辱の淵、己の存在そのものが否定されたとき、雷鳴を伴って覚醒する。」

「覚醒の条件は……死の恐怖を乗り越え、屈辱を乗り越えた極限の怒り。力とは、お前が最も憎む、カガリの術によってしか呼び起こせないのだ。」

少年は、巻物から目を離さなかった。彼は、師に問うた。

「その力を手に入れれば、アユムを元に戻せるのか?この世界を、この理不尽を、壊せるのか?」

師は静かに首を振った。

「力を手に入れたところで、世界が元に戻る保証はない。だが、このままでは、お前たちは必ず滅びる。」

少年は立ち上がった。彼の瞳には、迷いが消えていた。

「俺は、必ず力を手に入れる。俺の知恵は、仲間を守れなかった。だが、その知恵を使って、命懸けの罠を仕掛ける。」

彼は、アユムが失った希望と、師が守り続けてきた伝説を背負った。

「カガリを誘い出し、奴の神光の術の中で、俺は古龍の血を覚醒させる。この命、無駄にはしない。」

彼の言葉は、もはや少年のものではなかった。それは、無色の民の千年分の叫びであり、雷鳴の予兆だった。
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