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エピローグ
第二節:十三階、上昇しないはずの箱
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研究室の鍵を閉め、静まり返った廊下を歩く。
深夜の大学病院や研究棟というのは、妙に冷たい。蛍光灯の微かなハミングだけが、耳鳴りのように響いている。
俺はエレベーターホールの前で立ち止まった。ここがこのビルの最上階、13階だ。
壁に埋め込まれたボタンを押し、あくびを噛み殺す。
デジタル表示を見れば、エレベーターは1階にあるようだ。ゆっくりと、数字がカウントアップされていく。
3、4、5……。
「明日も朝から講義の準備か。学生たちのやる気のない視線に耐えるのも、もう慣れたもんだけどな」
苦笑いが漏れる。
ふと、エレベーターの速度が妙に速いことに気づいた。通常、このビルのはもっとのんびりした動作のはずだ。だが、表示される数字の切り替わりが、心臓の鼓動よりも速い。
9、11、13。
『ピン』という軽快な音が鳴り、銀色の扉が左右に開く。
俺は迷いなく、その「箱」の中へと一歩を踏み出した。
「お疲れ様でした、俺……」
その言葉が最後になった。
踏み出した左足が、硬い床を捉えることはなかった。
そこにあるべき鉄板の床はなく、ただ底知れない暗闇が口を開けていた。
「え……?」
理解が追いつくよりも早く、重力が俺を捕らえた。
エレベーターの籠(かご)が来ていない。扉だけが開いたのだ。
俺は一瞬だけ宙に浮き、次の瞬間には垂直の暗黒へと真っ逆さまに落下した。
「わあああああああーーーーーっ!!」
13階から1階、そして地下のピットまで。
暗闇の中を切り裂くような悲鳴が、自分自身の喉から出たものだとは信じられなかった。
深夜の大学病院や研究棟というのは、妙に冷たい。蛍光灯の微かなハミングだけが、耳鳴りのように響いている。
俺はエレベーターホールの前で立ち止まった。ここがこのビルの最上階、13階だ。
壁に埋め込まれたボタンを押し、あくびを噛み殺す。
デジタル表示を見れば、エレベーターは1階にあるようだ。ゆっくりと、数字がカウントアップされていく。
3、4、5……。
「明日も朝から講義の準備か。学生たちのやる気のない視線に耐えるのも、もう慣れたもんだけどな」
苦笑いが漏れる。
ふと、エレベーターの速度が妙に速いことに気づいた。通常、このビルのはもっとのんびりした動作のはずだ。だが、表示される数字の切り替わりが、心臓の鼓動よりも速い。
9、11、13。
『ピン』という軽快な音が鳴り、銀色の扉が左右に開く。
俺は迷いなく、その「箱」の中へと一歩を踏み出した。
「お疲れ様でした、俺……」
その言葉が最後になった。
踏み出した左足が、硬い床を捉えることはなかった。
そこにあるべき鉄板の床はなく、ただ底知れない暗闇が口を開けていた。
「え……?」
理解が追いつくよりも早く、重力が俺を捕らえた。
エレベーターの籠(かご)が来ていない。扉だけが開いたのだ。
俺は一瞬だけ宙に浮き、次の瞬間には垂直の暗黒へと真っ逆さまに落下した。
「わあああああああーーーーーっ!!」
13階から1階、そして地下のピットまで。
暗闇の中を切り裂くような悲鳴が、自分自身の喉から出たものだとは信じられなかった。
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