魔物に育てられた子、母を探しに旅立つ

ねこねこ大好き

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いきなり結婚

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 ジークはチネッタ城の玉座に案内される。
(なんだなんだ?)
 突然、兵士に、ついて来いと言われたので困惑中。
(まあ、中に入れたなら良いか)
 そしてすぐに困惑を無くす。

(それはそれとして、エミリアってのは誰だ?)
 キョロキョロと目線を動かす。ジークは玉座など初めてなので、内心、落ち着かないのだ。
(あれは)
 そして、玉座に座る少女、エミリアに目を奪される。
(……綺麗な子だな)
 エミリア。ゴルドー一世の十三番目の娘。王位継承権を持つ姫君。その美しい金の長い髪は帝国中に知れ渡る。
「あなたの名前は」
 エミリアが口を開くと、ジークは、ドキッとした。

「俺はジーク」
「ジーク。素敵な名前ですね」
 エミリアは微笑む。ジークは胸がドキドキする。
「まずは、あの卑劣な軍勢を退けたことに、お礼を言います。ありがとうございます」
 エミリアは深々と頭を下げる。それにジークはどぎまぎ。

「礼なんて要らないよ! 俺は俺がやりたいようにやっただけだから!」
「ふふ。謙遜なさるなんて、ますます私の夫に相応しいですわ」
「夫?」
「単刀直入に言います。ジーク。私と結婚してください。そしてこの帝国、ゴルドー帝国の帝王となってください!」
「結婚? 帝国? 帝王?」
 ジークは難しい顔をする。

「夫って何だ? 結婚って何だ? 帝国って何だ? 帝王って何だ?」
 ズゴーと玉座に居る者、エミリアまでも、ずっこける。
「えっと、帝国というのはですね」
 しかし、エミリアは笑顔で説明する。

「なるほどなるほど。つまり、帝王ってのは一番偉い、皆の父さんで、帝国ってのは大きな家って事だな。そんで、お前は俺に、皆の父さんに成れって言ってんだな」
「もう、それで、良いですわ……」
 エミリアは疲れ切った顔を上げる。三十分も説明したら、そりゃ疲れる訳だ。

「話を戻します」
 エミリアはコホンと咳払い。
「改めて、お願いします。ジーク。私の夫となって、この帝国を救ってください」
「ええ……うーん」
 ジークは煮え切らない感じ。エミリアは不安げに眉をひそめる。

「ダメですの?」
「だって俺、母さんを探したいだけだし。皆の父さんに成るなんて、想像もつかねえよ」
「お母様を探す? どういうことですの?」
 エミリアに質問されたので、ジークは答える。
「森で魔物に育てられた。そして、人間のお母様を探すために、ここへ来たということですね」
 エミリアはジークの話を聞き終わると、じんわりと涙を浮かべる。
「とてもお辛い身の上でしたわね」
 しくしくと泣き始めてしまった。ジークはもう大慌て。
「な、泣くな! 別になんてことなかったから!」
「そんなことありませんわ! お母様に捨てられて魔物と暮らすなど、これが不幸でなくて何です!」
 凄まじい迫力だ。先ほど、泣いていたとは思えない。

「決めましたわジーク! やはりあなたは私の夫となるべきです!」
「ええ……」
「何と言おうと決めました! これは決定です!」
「ううん……」
 ジークは考える。
「もしも夫に成ったら、母さんがどこに居るのか、教えてくれるか?」
 それにエミリアは笑顔で答える。
「もちろんです。私の千里眼で、あなたのお母様を必ず、見つけます」
「ならいっか」
 軽い。

「では早速式を上げましょう!」
 エミリアはウキウキしたように立ち上がる。
「お嬢様! お待ちください!」
 従者のアネッタが大声を出す。
「お嬢様! 考え直してください! このような身分も知れない者を夫にするなど! お嬢様にはもっと相応しい男が居ます!」
「それは誰だというの」
 エミリアは先ほどと打って変わって、冷たい表情をする。

「そ、それは……」
「帝国は内乱状態。このような状態で私の夫に相応しいのは、私を助けてくれた、あの卑劣な軍勢を退けたジーク以外に無いと思いませんか?」
「うう……」
「それに、今の世では、昔のように政略結婚もできません。内乱状態の国の姫君を、誰が好き好んで妻にしたいと思います? 火中の栗を拾った方がマシです」
 アネッタは言葉を失う。

「決まりましたわね」
 エミリアはジークに近づく。
「今は内乱状態ですから、正式な式は挙げられません」
「? つまり、どういうことだ?」
「こういうことです」
 エミリアは、ジークに口づけした。
「! !」
 ジークはもう目を白黒。
「今はこれで、我慢しましょう」
 エミリアはジークから離れる。
「ジーク。申し訳ありませんが、今は戦乱の中、お母様を探すのは、せめて、このチネッタ地方を安定させてからでよいですか」
 放心状態のジークは、首をかくかくさせる。

「決まりましたわ」
 エミリアはギュッと拳を握る。
「ではジーク。早速ですが、私と一緒に、領民を救いに行きましょう」
「領民を救う?」
 ジークは顔を真っ赤にしながらオウム返しする。

「今、領民は飢えています。反乱軍による略奪に加え、反乱軍に作物や家畜を荒らされました。彼らはご飯が無いのです。そして、今、この城の備蓄も少なく、とても、領民を飢えから救うことが出来ません」
「腹減ってる訳か。そりゃ可哀そうだ」
「そうでしょう。ですので、領民を救うために、ご飯を取りに行きます」
「ご飯を取りに? どこへ?」
「ダンジョンには様々な魔物が居ます。彼らを食しましょう」
「魔物を食うのか!」
「ゲテモノですが、贅沢は言ってられません。領民にも、我慢してもらいます」
「うーむ」
 ジークは魔物に育てられた。だから、魔物を殺すことに、食すことに、非常に抵抗があった。

「エミリア。飯があれば、魔物を殺さなくていいんだな?」
「? そうですが」
「ならいっぱいある」
 ジークはアイテムボックスに手を伸ばす。
「確か、ティア母さんに貰った奴が……」
 そしてごそごそと、革袋を取り出した。
「それはなんですの?」
 エミリアが聞く。

「これは色んな野菜が出てくる不思議な袋だ。ティア母さんが作ってくれた」
「色々な野菜が?」
「見ててくれ。まずはトウモロコシ」
 ジークは声を大にしてから、袋を逆さにする。

 ごとごとごとごと! 無数のトウモロコシが袋から落ちる!

「え!」
 エミリアもアネッタも側近の兵士たちも、目が点だ。
 唯一ジークだけ、マイペースだ。
「トウモロコシの次は……キャベツだ!」
 今度はキャベツが無数に出てくる!

「え!」
 もう皆、絶句だ。そんな中、ジークだけウキウキだ。
「次にジャガイモ!」
 そしてジャガイモ、ニンジン、玉ねぎを生み出す。

「これでシチューが食べられるぞ!」
 皆は固まったまま。
「? どうした? 皆? ああ、牛乳が無かったなら。それに肉も。安心してくれ。ちゃんと出てくる」
 ジークはごそごそとアイテムボックスをあさる。

「ジーク……」
 そこにエミリアが駆け寄る。
「素敵! 抱いて!」
 そして再び、キスをした。
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