最低のピカレスク-死刑囚は神を殺す

ねこねこ大好き

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暴君とサテラ

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「くそ!」
 地下牢でサテラが舌打ちする。いくら揺すっても鋼鉄の檻はびくともしない。
「静流の奴! 私を閉じ込めて狂をどうするつもりだ?」
 サテラは静流と食事中、突然気を失い、気づいた時には地下牢に閉じ込められていた。
「狂……お前は大丈夫か?」
 サテラの声がむなしく地下牢に響く。
「大丈夫よ、サテラさん」
 しょげたサテラはハッと顔を上げる。そこにはハーレムの一員であるルーシャが居た。
「ルーシャ! どうしてここに?」
「静流さんと舞ちゃんに教えてもらったの」
 ルーシャは受け渡し口から食事を差し入れる。
 サテラはルーシャの目をじっと見つめる。
「私を助けに来てくれたのか?」
 ルーシャは首を振って否定する。
「静流さんと舞ちゃんのおかげで、私たちは記憶を取り戻した。だからサテラさんは邪魔なの」
「なぜだ!」
「だって、サテラさんが居ると狂さん変になっちゃうんだもん」
「変?」
 ルーシャは懐かしむように目を細める。
「狂さんは、前世で私たちの希望だった。私たちが殺したいと思う人たちを殺してくれた。私の父を殺してくれた」
 サテラが言葉を失う。ルーシャは細い目でサテラを睨む。
「私たちは、狂さんに希望をもらった。だから私たちは狂さんが好き。ずっと笑っていてほしい。それをあなたは邪魔をする」
「馬鹿な! 狂は私が居ても笑っていた! お前も見ただろう!」
「狂さんはあんな笑い方しない!」
 ルーシャは怒鳴った。地下牢に反響し、耳が痛む。
「狂さんの笑みは、悪魔さえも恐れるほど血走った瞳、悪魔さえも食らうほどの恐ろしく吊り上がる口角、そして何より、地獄の底から轟くような恐ろしい笑い声。それが狂さん。普通の人間と同じように笑わない!」
「あいつは人間だ! あいつを悪魔に仕立て上げるな!」
「違う! あの人は悪魔! だから私たちは心を売った! 体を売った!」
 サテラはルーシャが息を整えるまで黙る。
「ルーシャ、落ち着け。あいつは悪魔じゃない。ただの犯罪者だ。だから救わないといけない。私たちの手で」
 ルーシャは低く、クスリと笑う。
「救う必要などありません。狂さんは強い。誰よりも」
 サテラは目を伏せて思考する。
「分かった。確かにあいつは強い。救う必要はない。だけど悪魔ではない。そう考えると、普通の人間のようにガハハハと笑っても不思議ではない」
 ルーシャはふふっと微笑む。
「ごめんなさい。私たち、悪魔のような狂さんが好きなの」
 ルーシャは年頃の娘とは思えないほど邪悪な笑みを浮かべる。
「あの芸術的な殺人を、ずっと見ていたい。狂さんに怯える男と女を見ていたい。狂さんに怯える世界を見ていたい」
 サテラは息をのむ。
「ルーシャ? まさか、お前たちは、狂を利用して、世界を混乱に陥れようとしたのか?」
「それは無いです。狂さんは私たちの思いなど聞きません。ただ、自分のやりたいように殺して、犯すだけです」
 ルーシャは冷徹な笑みを浮かべる。
「私たちは、それが本当に嬉しかった。それだけです」
 ルーシャは踵を返す。
「待て!」
 ルーシャは足を止めない。
「狂を悪魔にするな! あいつは普通の優しい人間だ! だからあいつはお前たちのために人を殺し続けた! ならばもう止めろ! これ以上あいつに甘えるな!」
 ガチャンと地下牢の扉が閉まる。残されたのはサテラだけであった。
「狂! 目を覚ませ! 女を甘やかすな! お前は悪党だけを、本当に許せない相手だけを殺すヒーローだ! それを思い出すんだ!」
 サテラは地下牢で涙を流した。

 日の光が眩しい中、アルカトラズは悲惨な虐殺が繰り広げられていた。
「助けてくれ! 俺たちが何したってんだ!」
 袋小路に追い詰められた男たちは叫ぶ。
「おいおい? ルールを聞いていなかったのか? お前たちが俺を殺せばお前たちの勝ち。殺されたら俺の勝ち」
 狂太郎は失笑する。
 男たちは土下座する。
「もう勘弁してくれ! 降参だ! 命だけは!」
「お、俺たちは人殺しも盗みもしてねえ! ここに来てからは真面目に働いている! 税金だって納めてる!」
「あんたが王だって認める! だからこの通り許してくれ!」
 男たちは一通り命乞いをすると、有無を言わさずに首を両断され殺害された。
「ふむ……これで俺の勝ちか。簡単すぎるな」
 狂太郎は城へ帰宅する。

 アルカトラズは狂太郎が王となると悪魔の都市と恐れられた。男はゲームと称され、狂太郎に殺される。女は問答無用で犯される。財産は強制的に没収される。もはや山賊や盗賊、夜盗と変わらない国家となっていた。
 もちろん、反乱軍が組織され、抵抗されたこともあった。だが狂太郎の前では無駄だった。

 現在のアルカトラズは、圧政によって市民が苦しむ悪夢の国だ。逆らうものは殺される。ただただ、狂太郎の目に入らないことを祈るのみである。

 そして惨劇は夜も続く。
「ああ! いや!」
 女が拷問室で狂太郎に犯される。女の前には男が居る。
 二人は夫婦である。狂太郎はたまたま目に留まった夫婦を攫った。
 夫は妻を守るために行動した。狂太郎は笑いながら反撃した。狂太郎の実力ならば夫の首など一瞬で落ちていた。だが狂太郎はあえて嬲った。夫の両手両足をズタズタにしただけであった。
「どうだ? 俺の女になれ。そうすれば、毎日贅沢できる。毎日気持ちよくなれる。目の前の詰まらない男と一緒に居るより、ずっと幸せだ」
「いや!」
 女は必死に抵抗する。だが体はすでに快楽で蕩けている。
「何を拒む? 滅茶苦茶感じてるじゃねえか」
 女は絶望に満ちた目で夫を見る。夫はうつろな目で見つめ返す。
「あなた……ちがうの……こいつはくすりをつかってるの……だからきにしないで……わたしがあいしてるのはあなただけだから」
 女は必死に理性を保つ。その姿に男の瞳に力が戻る。
「す……すまない……か、かならずたすける……」
 男は謝りながら、狂太郎に憎しみの表情を向ける。
 狂太郎は心底可笑しそうに笑う。
「もうこいつは一生動けない。お前らも分かっているだろ?」
 女と男の目に再び絶望が宿る。男の両手両足の筋肉はズタズタだ。さらに狂太郎は、その状態で治療した。結果、男の両手両足は、筋肉がズタズタのまま治癒してしまった。こうなっては大規模な、命がけの整形手術が必要だ。ブラックジャック先生が居れば何とかなったかもしれないが、あのような善人がこの世界に居るはずない。
 もちろん狂太郎は男を治せる。そのつもりがないだけだ。
「なあ? お前からも言ってやれ。自分など放っておいて、幸せになれって。この俺の物になれって」
「ふざけるな! ふざけるな!」
 女は抵抗しようと、力なく身をよじる。
「ころしてやる! ころしてやる!」
「そうか。なら殺してやるか。あいつらみたいに」
 狂太郎が静流を見る。
「おっけ!」
 静流が手を叩くと、舞、ルーシャが台車を押して現れる。
「名前も知らない誰かさん! あなたたちってすごい勇気あるよ! きょうちゃんに抵抗するんだもん! だからこうなってもいいってことだよね!」
 静流が台車に被さる布を引っ張る。現れたのは、死体だった。
 しかも、生きた死体、リビングデッドであった。
「……は?」
 女の表情が固まる。
 ルーシャが前に出る。
「私は死体を操ることができます。複雑な命令はできませんが、畑を耕すことはできます」
「おかげで食糧問題はゼロ! むしろ殺せば殺すほど食料が増える! もっと殺したほうがいいかな?」
 舞が残酷な笑みを浮かべる。女の体から力が抜ける。小便どころか大便すら漏らす。
「汚いな」
 狂太郎は女の耳元で囁く。
「お前もあいつらの仲間入りをするか?」
 女の体が震える。
 舞が極細の糸鋸を取り出して舐める。舞の舌から血が滴る。
「すっごい切れる! お姉ちゃんいたーい!」
「かっこつけるからよ!」
 ゲラゲラと笑う静流と舞。くすくすと普通の笑みを浮かべるルーシャ。狂っている。女がそう思うのも当然であった。
「お前ら、さっさとその汚い物を下げろ。くせえ」
 狂太郎が命じると舞とルーシャは笑うことを止めて、忠実に従う。
「さてさて、美しき愛情の結論は出たか?」
 狂太郎は女の首に手をかける。
「首を絞めると、女はマンコを絞める。試してみるか?」
 ギュッと女の首が締まる。
「おお! マンコが締まるぜ!」
 狂太郎はピストンを激しくする。その間にも女の首は締まる。
「な、なり……ます」
 狂太郎は首から手を離す。女は狂乱した笑みで狂太郎を見る。
「あ、あなた、のお、んなに、なりま、す……」
 女はせき込みながら命乞いする。
「その言葉、お前の夫に言ってやれ」
 狂太郎は女の顔を夫に向ける。男は止めてくれとでも言うように首を振る。
「あ、あなた? わたし、あなたのことをあいしてるし、あなたもわたしのことをあいしているわよね? だからいいとおもうの! だってしたいになってもあなたはいきてるもの! またあえるわ!」
 夫の首がガクリと落ちる。静流が夫の髪を引っ張って、その面を妻に見せる。
 夫は舌を噛みちぎって自殺していた。
「あ! あなた! あいしているわ!」
 女は腰を動かして狂太郎に媚びる。
「行くぜ!」
 女は狂太郎が射精すると同時に、意識を失った。
「片づけておけ」
 狂太郎は事が済むと興味を失い、拷問室を出る。
「ばいばい、名前も知らない誰かさん。でも死体になったほうが幸せだと思うの。だって、死体は喧嘩も何もしないから!」
 静流が女の顔を撫でる。女は静流が生み出した毒で即死した。
「うーん! 良い感じ! ようやくきょうちゃんらしくなってきた!」
 静流はガッツポーズする。
「きょうちゃん! わたし、前みたいに頑張るから! いっぱい人殺すから!」

 狂太郎は城の屋上で月を眺める。
「誰か足りない……確か、ハーレムは二十人居たはず……一人足りない……」
 狂太郎は不愉快そうに拳を握りしめる。
「なんだ? この違和感は? そもそも俺は何がしたいんだ?」
 狂太郎は城の壁をぶん殴る。壁に亀裂が走り、城全体が揺れた。
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