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しおりを挟む優しく触れた唇は、甘く誘う。
わたしは直ぐにうっとりとし、我を忘れ、キスに夢中になった。
「ぅん…はぁ…」
「ん…チュ…」
いつしか、わたしはベッドに組み敷かれ、オーウェンからキスを受けていた。
頬や瞼、額…顔中にキスを浴びる。
幸せで、わたしは「ふふ」と笑っていた。
「君は、可愛い…ロザリーン」
名は呼ばないで…
《ロザリーン》と聞くだけで、この夢が色褪せてしまう。
わたしは唇で、彼の口を封じた。
「君は素敵だ…」
だが、キスが首から胸元に下りてきた時、わたしはそれに気付き、身を捩った。
「すまない、性急過ぎたか?心の準備が出来ていないなら、今日は止めよう」
「違うんです…胸は見ないで下さい…」
左の乳房の上には、剣で斬られた跡が残っている。
王が「醜い」と言った様に、メイドが悲鳴を上げた様に、それは醜く、悍ましいものだった。
オーウェンが目にすれば、行為を止めるかもしれない…
もし、嫌な顔をされたら…
わたしは不安で、胸を手で押さえた。
「それは、傷の事か?」
「はい…すみません」
「謝る事はない、その傷があったから、私は君と結婚出来たんだ」
優しく頬を撫でられ、わたしは恐る恐る、視線を上げた。
そこには、愛しむ様な、優しい表情があった。
「それに、私は騎士だ、傷ならば私の方が多い。
君が見たくないというなら、灯りを消す」
「いいえ!漢の方の傷は勲章ですもの!でも、わたしは…」
「君の傷も勲章だ、賊から逃げ切ったのは、君だけだった。
それに、君の傷なら、私は既に見ている。
馬車の中で瀕死だった君を、その場で手当したのは私だ。
君がショックを受けてはいけないので、言わずにいたが…」
「あれは、あなただったのですか?」
わたしに声を掛けてくれた?
必死に「死ぬな」と言ってくれた…
オーウェンは頷き、胸を押さえていたわたしの手を掴んだ。
「私には、その傷さえ愛おしい…」
オーウェンの唇が肌に触れ、わたしは震えた。
舌で執拗に傷を舐められ、わたしは堪らず、彼の頭を抱いた。
「あ…ん…」
左胸を舌で、右胸を指で愛撫され、わたしは快楽の海に流され、溶けていった。
わたしたちは絡み合い、求め合った。
「ロザリーン」と呼ばれる度に、わたしはその口を塞いだが、
オーウェンがわたしを深く突き上げ、熱を吐き出した時…
「愛している、ロザリーン」
もう、それを塞ぐ力は残っていなかった。
ただ、涙が零れた。
オーウェンはわたしの涙を指で拭い、頬を撫でてくれた。
その厚い胸に抱きしめられ、わたしは意識を手放した。
◇
翌朝、オーウェンはいつも通り、早くに目を覚まし、
わたしにキスをしてから、ベッドを下りた。
わたしも目が覚めていたが、気恥ずかしく、つい、眠った振りをしてしまった。
オーウェンが身支度に行っている間に、わたしは脱ぎ捨てられた夜着を拾い、身に着けた。
生地は薄いが、それでも落ち着けた。
「ああ、起きたのか、ロザリーン、私が起こしたかな?」
「いえ、わたしもいつもこの時間に起きているので…着替えて来ます」
わたしがベッドから降りようとすると、オーウェンが遮る様に、キスをしてきた。
「私が行くまで、ここに居てくれ…朝食を運んで来る」
オーウェンは寝室を出て行き、暫くして、トレイを持って戻って来た。
紅茶を淹れ、渡してくれた。
「君の好きな紅茶だ」
「ありがとうございます」
「体はどうだ?」
覗き込まれ、わたしは赤くなる顔を俯かせた。
「大丈夫です…」
「そうか…その…無理をさせたな。
今日はゆっくり休むといい、館の者には、まだ回復していないと言っておこう…」
オーウェンの声も、何処かそわそわとして聞こえ、わたしは増々赤くなった。
オーウェンが、わたしとの行為に満足したかどうか、気になった。
満足なんて…していないわよね?
わたしはただ、流され、翻弄されていただけだ…
そんな自分に嘆息した。
「あの、わたし…初めてだったので…満足して頂けなかったかと思いますが…」
「満足以上だ、だが、私は久しぶりで、君は可愛いし、抑えが利かなかった…
性急過ぎて、君を怖がらせたのではないか?」
「いいえ!ただ、恥ずかしくはありました…」
あんな事をするとは思わなかった…
聖職の家系で、『修道女にする』と言われてきた。
ロザリーンに付いて神殿に上がってからは、修道女としか会話をしていない。
その為、わたしは夫婦の事に関し、上辺の知識しか持っていなかった。
教えてくれたのは、オーウェンだ___
もじもじとしていると、オーウェンが不意打ちに、わたしの唇を奪った。
「!?」
驚きながらも、喜びの方が勝ってしまい、わたしはうっとりとそれを堪能した。
「困ったな、君を離せなくなりそうだ…」
オーウェンが唇を離し、熱い息を吐いた。
わたしは「カッ」と赤くなり、髪を掴み、顔を隠した。
オーウェンはわたしの頭や背を、名残惜しそうに撫でた。
オーウェンは朝食を済ませると、トレイを持ち立ち上がった。
「ジャスティンの顔を見てから行く事にする、君は大丈夫か?」
「はい、心配なさらず、ご存分にお働き下さい、お気を付けて…」
「ありがとう、ロザリーン」
オーウェンは熱いキスを残し、寝室を出て行った。
わたしは夢心地のまま、ベッドを下り、部屋へ戻った。
身体を洗っていると、昨夜の事が頭に蘇り、体が熱くなった。
「傷を見ても、嫌な顔をしなかったわ…」
嫌な顔処か、愛しんでくれた。
【その傷があったから、私は君と結婚出来たんだ】
そう言われた時、わたしは初めて、この傷に感謝した。
オーウェンと出会えた。
彼は瀕死の所を助けてくれた、だから、後々まで、わたしを気に掛けてくれたのだろう。
「生きていて、良かった…」
わたしは幸せに包まれ、息を吐いた。
◇◇
オーウェンが居ない館は、やはり寂しく、ジャスティンも元気が無かった。
わたしはジャスティンを励ました。
「寂しいのね、わたしもよ。
でも、悲しんでばかりだと、お父様を心配させてしまうわ。
楽しい事を考えましょう!」
「楽しい事?」
「お父様が居ない時にしか出来ない事をするのもいいんじゃないかしら?」
「いつも居ないよ」
確かにそうだった。
わたしは夜中や朝の時間にオーウェンと会えるが、ジャスティンは寝ている時間で、
《お休みのキス》は欠かしていないものの、会って話す事は難しい。
わたしは頭を巡らした。
ふと、アラベラが日記を書いていたのを思い出した。
オーウェンは彼女の日記を読んだのだ…
「日記を書くのはどうかしら?」
「日記?」
「一日の出来事を書いておけば、お父様が帰って来た時に話せるでしょう?
それに、話せなくても、読んで貰えるわ」
「うん!いいよ!」
ジャスティンの目に光が見えた。
「それじゃ、日記に書ける様に、二人で色々な事をしましょう!」
わたしたちは一緒に散歩をし、新しい発見がないか、探した。
一緒にブランコで遊び、駆けっこをした。
ジャスティンは「お父様に見せるんだ!」と、絵も描いていた。
勉強も頑張っている。
わたしは、そんなジャスティンの様子を日記に書き、オーウェンに愛の言葉を綴った。
【ジャスティンはあなたを驚かせようと、熱心に勉強に取り組んでいます】
【今日は、難しい計算と歴史を学んでいました】
【家庭教師も、熱心で覚えも早いと褒めています】
【あなたの喜ぶ顔が目に浮かびます】
【オーウェン、何も変わりはありませんか?】
【あなたが無事なら、それ以上に望むものはありません】
【あなたの無事を祈っています】
【おやすみなさい、オーウェン、愛しています】
「どうか、オーウェンに届きますように…」
わたしは夜の空に呟いた。
わたしは、この幸せがずっと続くと思っていた。
欠片も疑わなかった。
だが、既に暗雲は、すぐそこまで迫って来ていたのだ…
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