【完結】婚約者はお譲りします!転生悪役令嬢は世界を救いたい!

白雨 音

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【第二王子アンドリュー以外の攻略対象者を、エリーに近付けてはいけない!】

他のルートに入られたら、国は大混乱になるし、犠牲も大きい、
それに、わたしの運命は最悪の道を辿ってしまう!

「ヒロインの恋の芽は、悉く摘み取らなくちゃ!」

これぞ、極めて重要な、悪役令嬢の仕事だ!

わたしはエリーを見張り、近付く者たちがいれば、邪魔する事にした。

特に注意すべきは、パトリックとブランドンだ。
同じクラスで席も近い二人は、付き人の如く、いつもエリーの傍に居る。
他のクラスメイトは、エリーに近付きもしないので、
端から見れば、公認の仲良し三人組だ。

休憩中は、しきりにエリーに話し掛けているし…
二人共、エリーの気を惹こうとしているのが見え見えよ!

「親密度が高い証拠よね…これは、非ーーー常に、不味い状況だわ!」

親密度を下げるには、ヒロインに近寄らせない事だけど…
同じクラスで隣の席となれば、引き離したくても離せない。

わたしは授業を受けつつ、頭の片隅でそれを考えていた。

そして、閃いたの!

「そうよ!席が近いなら、《席替え》をすればいいのよ!」

古典的だけど、効果は十分に見込めるだろう。

席順は、入学当初から《成績順》と決まっているが、
大した理由がある訳ではない。
わたしは早速羽ペンを持ち、まっさらな用紙に書き込んだ。

【席替え希望の嘆願書】
【生徒間の親睦を深め、絆を強くする為】
【互いを良く知り合う為に、我らは席替えを求む!】

筆頭に、アラベラ・ドレイパーの名を入れ、隣のジャネットに渡した。

「ジャネット、これに名を書いて、次に回して」

ジャネットは驚いた顔をしていたが、「ええ、ここですね…」と素直に名を記し、
前の席の男子を呼んだ。

「アラベラ様からよ、ここに名を書くのよ!全員に回して!」

男子は緊張した面持ちで頷くと、用紙を受け取った。
皆、《アラベラ》を恐れているので、文句を言う者はいなかった。
嘆願書は教師の目を搔い潜り、クラス中を回り、
授業終了の鐘の後、パトリックの手によって返された。

「ドレイパー、悪いけど、僕は署名出来ないよ」

何か企んでいるだろう?と、その大きく愛らしい目は言っている。
わたしは背が高いので、パトリックと並んでもあまり変わらないだろう。
パトリックは線も細いし、まるで子犬の様に可愛い。
不満そうな顔をしていても、番犬の様で微笑ましい位だ。
犬種でいうと、柴犬かしら?それとも、チワワ?

ジャネットとドロシアは、「まぁ!」と非難の声を上げたが、
わたしはそれを無視し、パトリックを見つめ、落ち着いた口調で言った。

「そう、それでは、あなたは、クラスの親睦を深めたくないとおっしゃるのね?」

「そうは言っていない、席替えをする事が重要だと思えないだけだよ。
そんな事をしなくても、話す機会は幾らでもあるよ、本人の気持ち次第でね」

「ええ、確かにそうね、だけど、あなた自身、他の誰かに興味を持ち、
話し掛ける事はあって?パトリック」

「それは、勿論…」

パトリックの目が泳ぐ。
生真面目な彼は、嘘も苦手だ。
それに、パトリックはそれ程社交的ではない。
人間関係の構築よりも、勉学や研究の方が、優先順位が高いのだ。

「それなら、例えば、わたくしの事は何をご存じ?」

「アラベラ・ドレイパー公爵令嬢、成績はAクラス二十番、席順であれば簡単に分かるよ」

フン!と鼻で笑ったパトリックに、わたしはニヤリとした。

「席順であれば、『それしか分からない』と、申し上げましょう」

パトリックは一瞬で笑みを消し、可愛い口を不満そうに尖らせた。
あら!可愛い!
美少年がやってこその可愛らしさだ。

「その点、お隣のエリー・ハートの事は良くご存じですわよね?」

わたしが当てこすると、パトリックは「ぽっ」と頬を赤くした。
そして、「いや、それは…」と変にオロオロし始めた。
ああ!何て純朴なの!可愛過ぎるわ!!

「同じクラスで、成績なんて、些細な事だと思いません?
話さなければ、本当の意味で、その人を知る事は出来ませんわ。
そして、人を知る事は、その分、自分の視野が広がるという事ですわ。
それは、きっと皆の将来の役に立つでしょう」

パトリックは口をもごもごとさせただけで、何も言い返せない様だった。

「パトリック、あなたも例外ではないわ、学者は研究ばかりしていれば良いの?
学者こそ、より多くの事に目を向け、知るべき職業じゃありません?」

パトリックは息を飲んだ。

「僕が、学者を目指していると、どうして知っているの?」

前世で乙女ゲームをやっていたから。
とは、当然言えないけど。
わたしはパトリックに向け、魅力的な笑みを浮かべた。

「教室の後ろの席からは、多くが見えるものよ、パトリック」

「そ、そんな事をしている暇があるなら、授業を真面目に受けるべきだよ!」

あらら、確かにね!

「ええ、その通りですわね。
そんな風に言って下さったのは、あなたが初めてですわ、パトリック、ありがとう」

パトリックは拍子抜けした様で、「ええ…ああ…」と、もごもご言っている。
これは、もう一押しね!
わたしは少し頭を傾げ、上目にパトリックを見た。

「パトリック、どうしても反対かしら?」

「いや、だが、君は何か企んでいそうで…」

「あら!何も企んでなんていませんわ!」

「だが、君はエリーを虐めているし、彼女を陥れる為じゃないかと…」

失礼な事を堂々と言う子ね!
でも、可愛いから許すわ!!

「わたしがエリーを?虐めているつもりは無いのだけど…
ほら、わたくし、ハッキリと物を言う所があるでしょう?」

これまでよりは手加減するつもりだし、
わたしがエリーを虐めていると思うのは、王子アンドリューだけで良い。

「わたくしに非があると思った時には、教えて頂けます?
わたくしも改めますわ、あなたの言う事なら信じられそうよ、パトリック」

パトリックは納得したのか、素早く署名をすると、席に戻って行った。
エリーから話し掛けられているが、彼は頭を傾げている。
上手く誤魔化せた様だ___

わたしはニヤリと笑うと、早速、嘆願書を手に教室を出た。





担任教師に、席替えの嘆願書を見せたが、「成績順の方が分かり易い」
「決まっている事だ」と消極的だった。

「成績順と申されますが、教科により、それも異なるものですわ。
わたくしも、全て二十番ではございません。
その理屈であれば、教科毎に席を替える事になりますわ」

「だが、私のクラスだけ特別というのは…」

「生徒に自主性があるという事ですわ!他のクラスが不甲斐ないのです」

担任教師は尚も渋っていたが、生徒たちで席替えをし、表を作り、
教壇に貼っておくと言うと、漸く、学年主任教師に掛け合ってくれた。
学年主任教師の方は、大雑把な人で、「席替え位いいだろう」とあっさりと許してくれた。

許可が貰え、意気揚々と教室へ戻っていた所、思い掛けず、
エリーが男子生徒と居る所に遭遇した。

「今度は一体誰なの?」

廊下の曲がり角に身を潜め、覗き見た。
黒髪に、スラリとした肢体…そのフォルムで直ぐに分かった。
彼はアラベラの婚約者、第二王子アンドリューだ!

あ、あ、あ、アンドリュー様~~~!!!

彼こそが、【白竜と予言の乙女】の、わたしの…否、全白乙女たちの《ヒーロー》だ!
その身に纏うは、王子の気品!だが、内には強い正義感があり、悪を憎む。
人を先導する行動力とカリスマを持った彼は、全ての民の救済を掲げ、
剣難の道を切り開いていく___
彼こそ、王子の中の王子なのだ!

ああ…でも、今のわたしは、あなたが憎む《悪役令嬢》…
わたしたちは、結ばれない運命なのね…
許して、アンドリュー様!
わたしも《ヒロイン》に生まれ代わりたかった!!

廊下の端から、熱く見つめていた所、二人の会話が聞こえてきた。

「急に席替えだなんて、あたし、何か怖くて…」
「可哀想に、せめて、俺が二年生だったら良かったんだが…」

アンドリューは一学年上、三年生だ。

「何かあれば、俺に相談して欲しい、エリー」
「でも、あなたにご迷惑は掛けられません…」
「それは、俺が王子だから?それとも、あの女の婚約者だからか?」

目の前でメロドラマが繰り広げられている…
いい雰囲気だし…
ああ、羨ましい…

わたしだって、恋愛したいっ!!

恋愛は乙女ゲームの醍醐味なのに、悪役令嬢じゃ、恋愛すら出来ない。
こうして、眺めているだけだなんて…

「ああ、わたしこそ、悲劇のヒロインじゃないの…」

「《悲劇のヒロイン》とは、どういうものですか?」

直ぐ後ろで声を掛けられ、わたしは「ぎゃ!」と、飛び上がりそうになった。
「驚かせないでよ!」と振り向き、睨み付けると、立っていたのは白衣姿の教師、
サイファーで、わたしは「むむ」と口を噤んだ。

「先生、独り言に入って来ないで下さい」

「すみません、気になったもので、教師の性でしょう」

サイファーは、人良さそうな顔で、穏やかに微笑んでいる。

サイファー・オッド。
【白竜と予言の乙女】でも登場するが、立ち位置的には、
場面が展開する時に、都合良く情報を齎してくれる、ノンプレイヤーキャラクターだ。

名があるだけでもいいわよね。
台詞もあるし。
それに、美形___恵まれたキャラだわ。

「先生、授業に遅れますので、失礼します」

わたしはさっさと話を切り上げる事にし、踵を返したが、
サイファーは構わずに隣に並び、話し掛けてきた。

「先程、職員室に来られていましたが、席替えに熱心な様ですね?」

「ええ、いつも同じ席だと、単調でしょう?刺激が必要だわ」

「成程、その気持ちは良く分かります」

ノンプレイヤーキャラクターだものね!
決められた時に出て来て、決められた台詞を言うだけ。
尤も、ここはゲームではないから、自由意志を持っているわよね?

「先生も刺激を求めているの?」

「はい、それで、魔法学園の教師になりました」

魔法学園の教師に刺激を求めたの??
思考回路が気の毒な人だ。

「それで、刺激はあったんですか?」

「はい、先日は女子生徒を助けました、あんな事は初めてですよ」

サイファーは「ふふふ」と笑う。
わたしにとっては、笑い事ではない。

「それは、一刻も早く忘れるべき事ですわ!」

「残念な事に、記憶力が良くて…」

何て、嫌な教師なの!
ノンプレイヤーキャラクターの方がマシだわ!

「君はとても変わっている、君といると、刺激が得られそうです」

銀縁眼鏡の奥で、青灰色の目がキラリと光る___
その察しの良さに、わたしは内心ギクリとした。

「先生、生徒を口説くと学園を追い出されますよ!わたしには近付かない方がいいわ!」

わたしは言うだけ言うと、ダッシュでその場を後にした。

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