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しおりを挟む席替えは放課後を使って行う事にした。
わたしは席替え用のクジ箱を作った。
細工するのは、わたし、エリー、パトリック、ブランドン、ドロシア、ジャネットの分だ。
わたしとドロシア、ジャネットの分は先に取っておいて、引いた様に見せかける。
エリー、パトリック、ブランドンの分は、別々の袋を用意した。
エリーはどれを引いても一番だし、パトリックは十六番、ブランドンは十八番だ。
エリーの隣はジャネットで、後ろはドロシアだ。
ちなみに、わたしは十七番で、パトリックとブランドンの間だ。
これで、攻略対象者避けは完璧よ!!おーほほほ!
高笑いしたい気持ちを抑え、わたしは後方、十七番の席に向かった。
「マジ、俺、クジ運いいわー!」
ブランドンは解放感があるのか、椅子を傾け、伸びをしている。
大柄だものね、後方の席は彼にピッタリだ。
それに引き換え、パトリックの方は不満そうな顔をしている。
見つめるのは、遠く離れた前方窓際の席…エリーだ。
ああ、何て切ないの…ごめんなさいね、パトリック!
だけど、これも世界を救う為!そして、わたしの為なの!
あなたの恋路は全力で邪魔させて貰うわ!!
「よろしくね、ブランドン、パトリック」
わたしは愛想良く、ブランドンとパトリックに挨拶をした。
ブランドンは「あー、よろしく」と素っ気なくも返してくれたが、
パトリックはわたしに疑いの眼差しを向けていた。
「この席…偶然だとは思えないんだけど?」
「ええ、天文学的な確率よね?それを何と言うか知っていて?」
パトリックは怪訝な顔のまま、「いや…」と頭を振った。
わたしはニコリと魅力的に笑って見せた。
「運命よ___」
パトリックはポカンとし、それから、顔を真っ赤にした。
「ば、馬鹿な事を言わないでくれないかな!運命だなんて、僕は信じないよ!」
うーん、ここまで意識しておいて、『信じない』は通用しないわよね??
可愛いから許すけど!
「ごめんなさいね、あなたも、わたくしとでは嫌よね?」
「いや、その…、運命というのは、あまりに他力本願な気がするから…」
ぶつぶつ言っている。
わたしは小さく笑った。
「あなたは自分の力を信じているのね、強い人だわ、パトリック」
パトリックは反論を諦めたのか、肩と視線を落とし、黙り込んだ。
◇◇
パトリックとブランドンは、席が離れた事で、逆にエリーを気に掛けていて、
休憩になる度に、エリーの元へ飛んで行っていた。
あまり引き止めても、変に思われる気がし、暫くは傍観している事にした。
席は離したんだもの、少しは邪魔になったわよね?
「アラベラ様、お昼に参りませんか?」
いつもの様に、ドロシアとジャネットが誘いに来て、
わたしは「ええ、参りましょう」と、令嬢然として席を立った。
昼休憩に入ると、一般の学園生たちは食堂へ向かう。
だが、わたしの様な、高位貴族たちは、庭に建てられた別館、
ワンランク上のカフェを使用するのが常だった。
カフェの内装は白塗りが基本で、白いケーブル席に、白い椅子と清潔感がある。
格調高い美術品等が、センス良く飾られているのも目の保養になる。
それに、一面が硝子窓になっており、明るく見晴らしが良い。
名のある高位貴族が寄付で建てたもので、学園生、教師、誰もが利用出来る
場ではあるが、料金が破格の所為か、利用する生徒は決まっている。
所謂、プライドの高い一部の生徒たちだ___
第二王子アンドリューなどは筆頭で、いつも護衛のゲイル・ダドリーを連れ、
真ん中のテーブル席を陣取っている。
二人なのに、四人用の席を使うのが、王子流らしい。
「アンドリュー様、ごきげんよう」
アラベラがアンドリューと会うのは、この時間だけだった。
婚約者らしく声を掛ける、それだけでアラベラは、婚約者の役目を果たしていると考えていた。
相手の返事や、うんざりとした様子に気付きもしない。
王子妃になる事が目的で、婚約者に興味が無いのだ。
これじゃ、婚約者をヒロインに取られても仕方ないわね…とは思いながらも、
役目上、わたしがそれを変える事は出来ない。
わたしはいつもの様に、ツンとし、お気に入りの窓辺に置かれた
四人用のテーブルに向かおうとしていた。
何故、お気に入りかというと、一番明るく、美しい背景が、
高貴な自分に相応しいと思っていたからだ。
アンドリューが中央の席に着いているのを、
『あんな平凡な場所に埋もれたがるなんて』と、嘲笑っていた。
「アラベラ」
いつもであれば、アンドリューからは「ああ」という返事しか返って来ないのだが、
今日は呼び止められ、驚いた。
わたしは『聞き間違えかしら?』と思いつつも、足を止め振り返った。
「何かおっしゃいましたか?」
「何故、席替えなどした」
アンドリューは振り向きもせず、視線を料理に向けたまま、怒りを含んだ声で言った。
わたしを叱り付けたいのね?
わたしの話を聞かない内から、もう決めているの?
余程嫌われているみたい…
まぁ、それはそれで、都合は良いんだけど…
理性で納得していても、凹んでしまうのは、きっと、前世で憧れていた所為だ。
わたしは自分を励まし、感情を込めずに答えた。
「クラスの絆を深める為ですわ」
「必要無い!余計な事をして、俺に恥を掻かせるな!」
いきなり怒鳴られ、わたしの傷心は掻き消えた。
ん?んん??
あんまりな物言いではなくて??
わたしのクラスの席替えに、何故、関係の無い三年生が『必要無い』と断言するのか?
それに、何がどうなれば、アンドリューの恥になるのか??
全く持って謎だった。
「どの様な恥になったのでしょうか?」
「そんな事も分からぬ愚かな女が、よくも俺の婚約者になれたものだ!」
アンドリューは忌々しげにナプキンをテーブルに叩き付けると、そのままの勢いで出て行った。
わたしは思わず唖然としていた。
幾らなんでも、酷過ぎる…会話が成立しないわ…
「アンドリューは、気でも触れたのかしら?」
あまりに情緒不安定だ。
ゲームをしていた時は、アンドリューを『堂々としていて、気品もあって、
頼れる素敵な王子様♡』と思っていたのに…
「きっと、何か嫌な事がおありだったのですわ」
「ええ、アラベラ様が気になさる事はありませんわ!」
「アラベラ様、紅茶を飲めば、気分も良くなりますわ」
ドロシアとジャネットに促され、わたしはいつものテーブルに向かった。
ドロシアとジャネットの食事代は、いつもわたしが払っている。
ドロシアは侯爵令嬢、ジャネットは伯爵令嬢なので、
自分で払えない事も無いのだが、アラベラが施しをして相手を見下したいのと、
ドロシアの家がケチなのと、ジャネットは浮いた金で遊びたい事もあり、
自然とこうなっていた。
前世の記憶が蘇った今、その愚かさに頭を抱えたくなった。
友達をお金で支配しようなんて!
それは、《友達》とは言えない。
利害関係が一致していたとしても、見下されている事に不満はある筈だ。
裏切られても自業自得…
いえ、もしかしたら、今もわたしの失脚を狙っているのかも!
恐ろしい想像をしてしまった所為で、ジャネットがわたしの椅子を引いてくれた時、
冷や汗が流れた。
「あなたが椅子を引く事は無いのよ、ジャネット」
「そんな!アラベラ様の椅子ですもの、幾らでもお引きしたいですわ!」
ジャネットは変に作った笑顔を見せる。
その媚びる態度が嫌なのよね…
わたしは内心で嘆息しつつ、言った。
「でも、わたくしたち、お友達でしょう?お友達はしないものよ、そうでしょう?
それとも、わたくしたち、お友達ではなくて?ドロシア、ジャネット」
「そ、そんな!お友達だなんて!恐れ多いですわ!」
「ええ!アラベラ様のお友達になれる様な者は、この学園にはおりませんわ!
私たちなんて、ねぇ…」
二人は、奇妙な笑みを浮かべ、捲し立ててくる…
わたしの言った事を、《引っ掛け》と捉えたのだろうか?
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以前の事を思い出した。
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それにより、アイデンティティは再構築され、善悪の価値観も変わってしまった。
悪い事だと知っていて、それをする事は出来ない。
わたしは、わたしが《正しい》と思う事をするわ。
余命半年、せめてこれ以上、罪を重ねない様にしなくては…
「もう、二度と、悪役令嬢には転生したくないもの!」
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