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第二章
3
いつも通り、朝が明ける前に目を覚ました。
「うう~ん!寒いっ!!」
ベッドの中は暖かいが、外に出ると酷く冷たく、わたしは震えながら顔を洗い、
手早く着替えた。
冬用のコートを羽織ると、幾分寒さは落ち着いてくる。
調理場を覗くと、まだ誰も起きていない様だった。
玄関には、掃除を始めた執事セバスの姿があった。
「セバスさん、おはようございます!」
「エレノア様、お早うございます」
「鶏小屋を見て来ますね!卵を産んでいるかもしれないわ」
「有難うございます、お願い致します」
夜に雪が降ったのか、外はうっすらと白く積もっていた。
「寒いけど、綺麗ね!」
わたしはギュっギュと雪を踏み、中庭の鶏小屋に向かった。
小屋を開けてやると、鶏たちが勢い良く出て来た。
「あなたたち、元気ね!寒くないの?」
コココ…
コココ…
バサバサ!バサバサ!
「毛皮があるから暖かいのね?さぁ、卵はあるかしら?」
小屋を覗くと、大きく立派な卵があちこちに産み落とされていた。
わたしはそれを籠に入れ、小屋を掃除してやり、水を替え、餌をやった。
鶏たちは、雪の合間に顔を見せている土や、草を突いていたが、
水と餌には喜び群がった。
そうしていると、ボブがやって来たので、卵の籠を渡した。
「掃除もやっておいたわよ」と伝えたが、ボブの関心事は他にあった。
「ルシンダ様の朝食はどうしますか?」
「姉は、朝は紅茶だけだと思うけど、後で聞いてみるわね」
「綺麗な方ですね、あんな綺麗な人は初めて見た…」
「姉は結婚しているわよ?」
「へ、変な意味じゃないです!」
ボブは慌てて去って行った。
わたしは頭を振り、アーチを潜り、オースグリーン館へ向かった。
オースグリーン館の庭も、うっすらと雪が積もっている。
「この程度ならまだ大丈夫ね」
庭を見て周り、声を掛け、それから館に戻った。
姉はまだ寝ていて、わたしは調理場へ向かった。
調理場は暖炉が点いていて、暖かかった。
「マックスさん、おはようございます!何かお手伝いする事はありますか?」
「エレノア様、お早いですね!ボブも居るので、これと言ってありませんが…」
「それなら、紅茶を淹れてあげるわ!わたしも飲みたかったの!」
わたしは紅茶を淹れ、マックスとボブに渡し、それからセバスとアンナには運んであげた。
そうしていると、いつも以上に髪を跳ね散らかしたウィルが顔を出した。
「今朝は随分、賑やかだと思っていたら、あなたですね!エレノア!
僕にも紅茶を頂けますか?」
「おはようございます、それとも、これから寝るのですか?」
「これから寝ます、だけど、寝るのが勿体ないですね、皆、楽しそうですから」
わたしは紅茶を淹れ、ウィルに渡した。
ウィルは一口飲んだ後、何故か微笑み、カップの中を見つめている。
「何も変なものは入れていませんよ?」
「いえ、あなたの淹れる紅茶は、いつも何故これ程美味しいのかと、不思議がっています」
おかしな事を言っている。
きっと、眠っていない所為だろう。
「昨夜はあれから、作曲をなさっていたんですか?」
「そうなんですよ、久しぶりに興奮してしまって…
ですが、お陰で、良い曲が書けましたよ!」
ウィルが屈託なく笑う。
姉に会ったから?
嫌な考えが浮かび、わたしは頭を振った。
「それは良かったですね!でも、もう、ベッドに入られた方がよろしいですよ!」
「ふふ、そうします、あなたの言う通りに…おやすみ、エレノア」
わたしがカップを受け取ると、ウィルはわたしの頬にキスをした。
いつもの、挨拶のキスだ。
だけど、何故か、胸が疼く。
去って行くその背中を引き止めたくなってしまう…
「馬鹿よね…」
ウィルは辺境伯で、わたしは伯爵令嬢、今はオースグリーン館の主。
釣り合いなんて取れないわ…
それに、元より、わたしなんて、お呼びではない。
ウィルはわたしに恋なんてしないわ…
わたしは誰からも恋をして貰えない。
姉程に美しければ、違っただろう…
わたしの方こそ、姉が羨ましい。
わたしが姉の様であれば、ネイサンも浮気をしなかっただろう。
わたしも愛されたいわ…
誰かに…
ウィルに…
◇
昼近くになり、目を覚ました姉は、やはり紅茶しか飲まなかった。
わたしは姉を連れて、オースグリーン館へ戻った。
昼食位は自分たちで用意しなければと思ったのと、姉に館を案内したかったのだ。
姉は曾祖母を「大好き」と言った。
自分も遺産が欲しかったと…
わたしがペンダントを貰った時、姉は意地悪く言っていた。
「あんなに可愛がってもらったのに、貰ったのは、そんな安っぽいペンダントだけなの?」
本当は愛されていなかったのよ!という風に。
『羨ましかった』『悔しいから』なんて、考えもしなかったわ…
「狭いし、小さいけど、独りで住むには十分な様ね…」
姉は興味深く周囲を見ていた。
尤も、姉は家事などしないので、見て歩くだけで、手に取ろうとはしなかった。
「遺言は曾祖母からだったけど、この館には来ていないみたいなの。
三百年以上、主はいなかったと言われたわ」
「グリーン一族の遺産という訳ね?私たちの先祖って、不思議よね…」
わたしはウィルから聞いた、オースグリーン館の始まりを話した。
姉は無表情で聞いていたが、聞き終わると、頭を振った。
「御伽噺だわ、きっと、後世に受け継がれる間に、変えられたのよ。
だけど、もしかしたら、ご先祖様の一人が、神様、精霊かしら?と、交わったのかもね?」
「そうだったら、ロマンチックだわ!お姉様も意外とロマンチストなのね!」
姉は瞼を下ろし、半眼になると、ニヤリと笑った。
「あなたが好きそうな事を言っただけよ、昼食を作って貰う為にね」
「ガッカリしたから、昼食作りは手伝って貰うわ!
昨日貰ったバケットがあるから、フレンチトーストと、野菜のスープでいい?」
「十分よ」
わたしは無理矢理姉に手伝わせ、フレンチトーストと野菜スープを作った。
家事をした事の無い姉は、卵を割る事も出来なかった。
加減が分からず、潰してしまうのだ。
だが、持ち前の負けん気の強さで、家に置いていた卵に目を付け、それを割り始めた。
そして、全て割り終える頃には、コツを掴んだ様で、胸を張っていた。
「これから卵を割る時は、私に任せて頂戴!」
わたしは大量に割られた卵から、欠片を取り除く様に言い、
何を作ろうかと頭を悩ませたのだった。
自分が割ったからか…いつもなら、野菜スープしか食べなかっただろう姉は、
フレンチトーストと卵だけのオムレツを、「美味しい」と言い、驚く程沢山食べていた。
「お姉様、そんなに食べて、大丈夫なの?」
「たまには良いでしょう?それに、美味しいのがいけないのよ!
私用には、もっと、不味い物を作って頂戴」
「それなら、自分で作ればいいわ」
簡単だ。
食事の後は、姉に掃除を教えてやり、二人で館の中を掃除した。
意外にも、姉は「やらない」とは言わなかった。
ここでも、負けん気の強さを発揮し、真剣に取り組み、完璧にやり遂げていた。
勿論、後から、「腰がいたい!」「足が痛い!」「もう、動けないわ!」とへばっていたけど。
わたしは小さな長ソファに姉を休ませ、紅茶を淹れてあげた。
「お疲れ様」
「ありがとう…ああ、どうして、こんなに美味しいのかしら、こんな、田舎の紅茶なのに…」
時々失礼な事を言う。
無自覚な所が、質が悪いわね…
「自然豊かな場所の方が、作物は良く育つし、美味しいものよ!
それに、この辺は水も綺麗なの、オースグリーン館の井戸水を飲んでみる?」
わたしはそれを渡してあげた。
姉は「ただの水でしょう?」奇妙な顔をしていたが、一口飲み、目をパチクリとさせた。
「あら、水って、こんなに美味しいものだったかしら?」
「ここの水は特別なのよ!恐らく、ご先祖様が掘った井戸だもの」
「そういえば、曾祖母の館では何でも美味しかったわよね?水も美味しかったわ」
「わたしは良く覚えていないけど…」
味は覚えていないが、確かに、美味しかった気がする。
あの館には、わたしは幸せな記憶しかない。
何をしても、何処にいても、そこには曾祖母の笑顔があり、それだけで満たされていた。
「落ち着くと思ったけど、曾祖母の館を思い出すからだったのね…」
姉が零した事は、わたしにとって、最上級の誉め言葉だった。
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