【完結】バッドエンドの落ちこぼれ令嬢、巻き戻りの人生は好きにさせて貰います!

白雨 音

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第二章

11


「母に会って下さい」とウィルに言われ、一緒に夫人の部屋へ向かった。

ケイシーは既に館を出ていたので、顔を合わせる事は無かった。
顔を合わせたとしても、酷い事を言われるだけだろうから、それで良かった。

「ケイシーがあんな事をするなんて、全く思いませんでしたよ…
クレイブと結婚したいなら、そう言ってくれていたら良かったのに…
エレノア、あなたに辛い思いをさせてしまって、ごめんなさいね、申し訳ないわ…」

わたしはプリシラ夫人に謝罪された。

「いえ、疑いも晴れましたし、真相も分かったので、わたしは構いません。
わたしより、プリシラ様の方が…」

グレスターの種を食べさせられたのだ。
もし、あれが強力な毒だったらと思うと、ぞっとした。

「ええ、でも、親戚の者ですからね…
それに、ケイシーはこれまで本当に良くしてくれたのよ、だから、残念だわ…」

「母さん、そんなにケイシーを有難がらなくてもいいと思うよ」

嘆息し言ったのは、クレイブだった。
クレイブは持っていた小さな木箱の蓋を開け、中身を見せた。
そこには、紙に包まれた物が詰まっていた。

「ケイシーが持っていたよ、先生が言うには、全部毒だって___」

「!?」

場が凍った。
可哀想に、夫人は肩を落とし、両手で顔を覆った。

ケイシーは夫人に自分が必要だと思わせる為に、献身的に世話をしていたのではないか?
そして、満を持して、クレイブとの結婚を仄めかす…
その為には、夫人にはなるべく長く、病でいて欲しいのではないか…

意地悪な見方かしら?
でも、もし、ケイシーが夫人に、少しづつ毒を盛り、病を長引かせていたとしたら、
これからは回復するという事だ___

わたしは夫人に笑みを向けた。

「プリシラ様、新しい方が来られるまで、わたしがお世話をしますね!」

「いいえ、エレノアに面倒を掛ける訳にはいきません…」

「少しの間だけです、わたしにお世話をさせて下さい、
ケイシー程有能では無いと思いますが」

グレスターの種が入っていれば、見抜けるだろう。

「ああ、うれしいわ、エレノア、ありがとう、お願するわね」


◇◇


それから、プリシラ夫人の容体は、日に日に良くなっていった。
気分が悪くなる事も無く、日中、体を起こしていられる様になり、
一週間もすると、倦怠感が無くなり、自分でベッドを下り、歩けるまでになった。

二週間が経った頃、新しい侍女が決まり、町からやって来た。
名はベッシー、五十歳手前の未亡人で、プリシラ夫人とも年が近く、話相手にも丁度良かった。
プリシラ夫人はベッシーとお喋りを楽しみ、刺繍や編み物をする様になった。

長い冬が終わる頃には、ふっくらとし、色艶も良くなり、目に光が宿った。
しっかりとした足取りで歩く事が出来、館内を見て周り、
オースグリーン館の庭まで散歩に出る様にもなった。

オースグリーン館の庭に立ったプリシラ夫人は、感嘆していた。

「まぁ!すっかり見違えたわ!ここが、こんなに美しかった事は無いのよ!
全部、あなたがやったのね、エレノア!素晴らしいわ…」

「わたし一人ではありません、ウィルとボブにも手伝って貰っています」

わたしはケイシーから、謙遜する事を学んだ。

「ウィルに庭仕事が出来るとは思いませんでしたよ、あの子はお役に立っているかしら?」

「はい、ご子息は、中々筋がよろしいですわ!」

わたしの軽口に、プリシラ夫人は明るく笑った。
それは、健康な女性そのものの姿だった___

ウィルは夫人の回復を喜び、祝いの曲を作り、ピアノを高らかに弾いた。



コルボーン辺境伯の領地では、雪も溶け始め、冬の終わりを迎えていたが、
周辺の領地では、まだ雪が降り、例年にない寒波に襲われていた。
その為、周辺の領地では、食料等が高値で売れた。
それは、コルボーン辺境伯の領地を豊かにしてくれた。

わたしは雪解けと共に、オースグリーン館へ戻った。
ウィルは残念そうにしていたが、「いつでも遊びに来て」と言うと、
パッと顔を明るくし、「そうします!」と言い切った。

窓を開け、掃除をすると、館は命を吹き返した様だった。

「長く留守にしてしまって、ごめんなさいね!
今日からまたよろしくね!」

《精霊の家》と思うと、生き物の様に感じられた。


クレイブとルシンダは無事に婚約を結んだ。
それから一月は、結婚式の準備で大忙しとなった。

コルボーンの館は、招待客を泊める為の掃除等で、正にごった返していた。
そんな最中、わたしは誕生日を迎えた。
姉は忙しいし、こんな状況で、呑気に『誕生日』などとは言い難い。
わたしは、誰からも祝って貰えずに二十歳を迎えると思っていた。

誕生日の朝もわたしは普段通りに、鶏小屋に行き、卵を取り、鶏たちの世話をした。
庭の手入れを終え、昨日マックスから貰ったバケットをフレンチトーストにし、
野菜のスープと一緒に食べた。
片付けをし、館内の掃除をしてから庭に出ると、アーチを潜り、姉が入って来た。

「エレノア、お誕生日おめでとう、今日位はお洒落をしない?」

姉は「いらっしゃい」とわたしを二階に促し、服を選んでくれた。
それは、緑色のワンピースでフリルの多いものだ。

「こんなの着て、庭は歩けないわ」

「今日一日は、庭はお休みよ、さぁ、座って!」

姉はわたしを鏡台の前に座らせ、化粧をし、髪を梳かしてハーフアップにした。
わたしは普段、掃除や作業をするのに邪魔なので、髪はシニヨンに結っている。
つい、不満な感情が顔に出てしまった。

「ほら、そんな顔しないの!可愛い顔が台無しよ」

「顔の事は言わないで!」

どうせ、何をしても姉には敵わない。
わたしの顔は、地味で平凡だ。

「あなたは昔から、コンプレックスだったわね、
あなたは確かに地味な娘だったけど、今は違うわ」

「今更、気を遣わなくたっていいわよ…」

「気を遣って言ってるんじゃないわよ、ほら、見てごらんなさい」

姉はわたしの肩に手を置き、一緒に鏡の中を覗き込んだ。

「綺麗で艶のある髪ね、光の加減で赤く見えるのも素敵だわ。
睫毛は長くて豊ね、目は大きくて煌めいている、緑色はあなたに合っているわ。
肌も、あれだけ毎日外で陽を浴びているのに、染みも無いのよね…
今のあなたは、地味でも平凡でもない、美しい大人の女性になったのよ、エレノア」

姉の様な美人から言われると、本当にそんな気がしてくる。
真に受けてはいけないわ…と思いつつも、つい、口元は緩んでしまった。

「さぁ、行きましょう、エレノア」
「何処に行くの?」
「いいから、早く」

姉に急かされて階下へ降りた時、扉が叩かれた。
扉を開けると、そこに立っていたのは、ウィルだった。
普段とは違い、髪を整え、貴族服を着ている…

「エレノア、お誕生日だと伺いましたよ、おめでとうございます!」

ウィルが笑顔で言い、わたしは唖然としたまま、お礼を言った。

「ありがとうございます…」

「あなたが良ければ、僕と町へ行きませんか?」

「町に?」

「はい、これまで、農地や牧場には行きましたが、町へは買い物に行くだけでしたからね、
今日は、遊びに行きましょう!」

それで、お姉様がわたしを着替えさせたのね!
振り返ると、姉は微笑み、頷いた。

「ええ、勿論、行くわ!」

わたしは笑顔で答えていた。


「さぁ、乗って下さい!」

いつの間に用意していたのか、コルボーンの館の前には、二人乗りの小さな馬車が停まっていた。
ウィルが御者をし、隣にはわたしが座る。
二人だけだ___

これって、デートよね??

ウィルが考えたとは到底思えない、きっと、姉が仕組んでくれたのだろう。
それでも、うれしく、ドキドキとしていた。
見慣れた景色も、なんだか、眩しく見える…

「風が気持ちいいわ!」
「そうですね、とても気持ちがいいです!」
「ウィル!ジャックさんの所の人たちが、手を振ってるわ!」

農園の人たちが作業の手を止め、手を振ってくれていた。
昨年から、色々な所へ行き、手伝いをしていたので、皆顔見知りだ。
わたしは手を振り返す。
ウィルが「僕の分もお願いします」と言うので、大きく振ってあげた。

馬車は橋を渡り、町へと向かう。

「ウィル、何処に行くの?」
「芝居を見ましょう!クレイブから勧められました」

クレイブが勧めたという劇は、悲恋の物語で、ロマンチックではあったが、
引き裂かれる二人に胸が痛んだ。
ウィルなど、隣でボロボロと涙を零し、泣きじゃくっていた。
整えていた髪は、既に元通りで、飛び跳ねている。

「大丈夫ですか?」

わたしはハンカチで、ウィルの顔を拭ってあげた。
子供の様だが、愛おしく思える…
わたしって、世話焼きだったかしら?

「とても、悲しいです…何故、こんな酷い事が起こるのか…
ああ、僕なら、彼女と一緒に死にますよ!」

「あら、わたしなら、彼を攫って、地の果てまで逃避行をするわ!」

わたしが言うと、ウィルは目を瞬かせ、それから笑い出した。

「ははは!そうですよ!それがいい!あなたとなら、生きられそうですよ!」

誰が?
劇のヒーロー?
それとも、ウィル??

聞きたかったが、すっかり元気になったウィルが、「次に行きましょう!」と
勢い良く席を立ったので、諦めた。


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