【完結】バッドエンドの落ちこぼれ令嬢、巻き戻りの人生は好きにさせて貰います!

白雨 音

文字の大きさ
37 / 38
第二章

16

しおりを挟む
バートン伯爵とアンバーを見送り、漸く部屋に案内して貰った。
わたしの部屋とウィルの部屋は、中の扉で繋がっていた。
流石侯爵家だ、客室も段違いだ___

部屋の探索を終えた頃、見計らったかの様に、お茶が運ばれて来た。
侯爵家の紅茶は高級で、一度目の時は美味しいと思っていた。
だが、改めてそれを味わうと…

「わたしの淹れる紅茶の方が、美味しいわよね?」

「はい!オースグリーン館で、あなたが淹れて下さる紅茶に勝るものはありませんよ!」

わたしは良い気分になり、頷いた。
ウィルはカップを皿に戻し、改まって言った。

「エレノア、先程は、庇って下さり、ありがとうございました…」

「わたしは本当の事を言っただけよ」

本音を言えば、『金が無い、爵位だけの男』と蔑んだあの女に、
一泡吹かせてやりたかったのだ。
わたしは肩を竦めた。

「僕はずっと、彼女に会うのが怖かったんです…
それで、いざ、彼女を前にすると、また、酷い事を言われるんじゃないかと、
足が竦んで動けませんでした…
だけど、あなたが教えてくれたでしょう?僕には、爵位以上の価値があると…
それに、僕の為に盾になって下さるあなたを見ていたら、いつの間にか怖さも消えていました。
あなたのお陰ですよ、エレノア、あなたが居てくれて良かった…」

ウィルがわたしの手をしっかりと握る。

「本当は、まだ未練があったらどうしようと、不安だったの。
あなたは彼女を簡単に許してしまうし、優しくするし…あなたが愛した人だもの…」

「《愛していたと思っていた》人です、だけど、違っていました。
今なら分かります、あなたに出会えたから。
許す事は、忘れる事の様に思います、僕の内に彼女はもういません、
あなたのお陰で、いなくなりました」

ウィルらしい、決着の付け方だ。
わたしは微笑み、上目に、強請る様に彼を見た。

「わたしだけね?」

「はい、その通りですよ、僕にはあなただけです…エレノア」

ウィルのキスは、わたしの嫉妬心を消し去ってくれた。





ウィルがパーティの打ち合わせに呼ばれ、行ってしまったので、
時間を持て余したわたしは、庭園を散歩する事にした。
一度目の時は、ここに居たというのに、庭園を楽しむ余裕など無かった。

庭園に出ると、同じ様に、優雅に散歩を楽しむ招待客の姿がチラホラ見えた。
綺麗に整えられた庭園には、色彩豊かな花が咲き乱れている。

「凄いわね、綺麗だわ…わたしも少し花を植えようかしら?」

これまでは食料が乏しく、野菜やトウモロコシばかりを作っていたが、
領地でも良い物が出来始めたので、これからは花を植えるのも良い気がした。

「結婚の記念に、ウィルと二人で何か植えようかしら?」

それを思い描き、「うふふ」と一人笑っていた所、声を掛けられた。

「やぁ、君は招待客?」

振り向くと、少し先に、一番会いたく無かった男の姿があり、わたしはギョッとした。

「ネイサン!?」

「僕の事を知っているの?そんなに有名かな?」

ネイサンは甘い笑みを見せ、優雅に歩いて来た。
驚く事に、彼はわたしの事を覚えていないらしい。

お見合いしたのに??

あまりにお粗末な記憶力だ。
それとも、思い出したくない事の分類に入れられたのだろうか?

わたしもそうだもの!

有名と言えば有名かしら?女好きさんでね!という皮肉は飲み込み、
忠告だけに止めた。

「結婚式の前日に、他の女性に声を掛けるなんて、感心しないわよ、ネイサン」

「そんな冷たい事は言わないで、ただの挨拶だよ、婚約者は気にしないよ」

そうかしら?
わたしは顔を顰め、頭を振った。

「あなたの婚約者は呑気者ね!
でも、わたしの婚約者が知れば、あなた、無事ではいられないわよ?」

ウィルにそんな事が出来るとは思わないけど。
ハッタリだ。
わたしは左手の指輪を見せた。

だが、ネイサンは他の事が気になったのか、鼻で笑った。

「その指輪を見る限り、婚約者は下級貴族らしいね?
僕なら君に、その十倍以上の高価な指輪を嵌めてあげるよ、
君はそれだけの価値のある女性だ…」

ネイサンが魅力たっぷりの笑みを見せ、わたしを見つめてきた。

もしかして、わたしを誘ってる?
わたしを、地味で平凡で死ぬほど退屈だと言っていたのに、頭でも打ったのかしら?

「ネイサン、わたしが誰だか分かってる?エレノアよ、去年一度会ったでしょう?」

わたしが名乗ると、ネイサンは頭を傾げた。
それから、漸く思い出した様で、「あの、エレノアかい?」と声を上げた。

「驚いたな!君があのエレノアだって?信じられないよ、姉妹ではないのかい?
それにしても、随分綺麗になったね…
これ程美しくなると知っていたら、僕は君を選んでいたよ…」

本気で言ってる?
きっと、最初が悪過ぎたから良く見えるだけね。

「ネイサン、結婚式前だし、先程からの不適切で失礼な発言は忘れてあげるわ、
だから、さっさとわたしの前から立去って下さらない?
わたしの婚約者があなたを放り出す前にね、結婚式前に怪我はしたくないでしょう?」

「君の婚約者は野蛮そうだね、一体、何処の誰と婚約したんだい?
君だって、僕と結婚しなかった事を後悔しているんだろう?」

今度はわたしが鼻で笑う番だ。

「いいえ!あれは英断よ!
何度生まれ変わっても、わたしがあなたと結婚する事は無いわ!」

一度で沢山だもの!

ネイサンは眉間に皺を寄せ、『理解出来ない』という風に、頭を振った。

「君はどうして、最初から僕を嫌っているんだい?
ああ、本当は、その逆なのか…君は僕の事が好きなんだね?」

ネイサンがわたしの手を掴む。

「何するの!?離してよ!」

「君はずっと、僕の気を惹こうとしていたし、今もそうだ…
僕も君に惹かれているよ、エレノア…」

「変な雰囲気を出さないでよ!離してって、言ってるでしょう!」

わたしは思い切り、ネイサンの足を蹴飛ばした。
ネイサンは声にならない悲鳴を上げ、その場に沈んだ。

「フン!この、勘違いナルシスト男!」

わたしが超然とネイサンを見下ろした時だ…

「エレノア!大丈夫ですか!?」

ウィルがバタバタと走って来た。
そして、足元で呻いているネイサンには見向きもせず、わたしの両肩を掴んだ。
眼鏡の奥の青灰色の目が、真剣な色でわたしを覗き込む。

「あなたの只ならぬ声が聞こえたので、飛んで来ましたよ!どうされたのですか!?
怪我をされてはいませんか?それとも、幽霊が出ましたか?」

わたしは「ふっ」と笑い、ウィルに抱き着いた。

「そうなの!幽霊よ!怖かったわー!!」

「侯爵家がそんな恐ろしい所とは知らず、あなたをお誘いしてしまい、申し訳ありません…」

「いいのよ!あなたが傍に居てくれたら、何も心配はないわ!
ああ、こちらは、ボーフォート侯爵子息のネイサン、あなたの親戚と結婚なさる方よ」

ネイサンは何とか立ち直り、地面から身を起こすと、汚れを払った。
そして、不機嫌な顔を瞬時に引っ込めると、冷笑を見せ、目を細くしウィルを見た。

「如何にも、僕がボーフォート侯爵子息のネイサンです」

「コルボーン辺境伯、ウィリアムです」

名を聞き、ネイサンはあんぐりと口を開けた。

「こ、コルボーン、辺境伯?」

侯爵と辺境伯とでは、侯爵の方が爵位は上だが、下に見る程の下級貴族ではない。
コルボーン辺境伯の機嫌を損ねればどうなるか、ネイサンにも察しが付いただろう。

わたしはわざとらしく、ウィルに話題を振った。

「そういえば、ウィルは侯爵から、明日のパーティで演奏を頼まれているのよね?」

《侯爵》の部分は強調してやった。
ネイサンは「ひっ」と息を飲み、顔色を変えた。
勿論、ウィルはそんな事には気付かず、屈託の無い笑みで明るく答えた。

「はい、結婚披露のパーティですので、幸せで華やかな曲をご用意しましたよ!
侯爵からも楽しみだと言って頂けました、あなたも楽しみにしていて下さい!」

「あ、ああ、はい…それでは、僕は急ぎますので、これで…」

ネイサンはそそくさと、逃げる様に去って行った。

いい気味だわ!

わたしはウィルの腕に自分の腕を絡めた。

「ねぇ、ウィル、わたしたちは急がないし、少し、散歩をして行かない?」

「はい!僕も丁度、あなたをお誘いしようと思っていた所ですよ!
大丈夫です、今度幽霊が出た時には、僕があなたの盾になりますからね!」

頼りになるのかならないのかは分からないが…
これ程愉快な人はいないわ!

ウィルといると、いつも明るい気分になる。
彼は間違いなく、わたしを幸せに出来る人だ___

「ありがとう!頼りにしているわ!」

わたしたちは手を繋ぎ、咲き誇る花たちの間を歩いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい

千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。 「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」 「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」 でも、お願いされたら断れない性分の私…。 異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。 ※この話は、小説家になろう様へも掲載しています

3回目巻き戻り令嬢ですが、今回はなんだか様子がおかしい

エヌ
恋愛
婚約破棄されて、断罪されて、処刑される。を繰り返して人生3回目。 だけどこの3回目、なんだか様子がおかしい 一部残酷な表現がございますので苦手な方はご注意下さい。

処理中です...