【完結】愛に溺れたらバッドエンド!?巻き戻り身を引くと決めたのに、放っておいて貰えません!

白雨 音

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二度目

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リアムが帰った後、わたしは部屋で一人、泣いた。

愚かで浅はかな自分…

愛されていなかった、可哀想な自分を思って…


◇◇


デュラン侯爵から晩餐会に招待され、
その週末、わたしは両親と共に、侯爵の館を訪ねた。

晩餐会には、デュラン侯爵、侯爵夫人、リアム、ジェシカの姿があった。
ルイーズの姿を目にし、わたしは背中がヒヤリとした。

「よく来て下さった、早く会いたいと思っていたよ、ジスレーヌ。
実に美しいご令嬢だ」

デュラン侯爵はにこやかだった。
一度目の時に、何度も顔を合わせていたので知っているが、
侯爵は日頃から穏やかで優しい人だった。
その顔が曇っていない事に、わたしは安堵した。

ルイーズとジェシカ、二人に対しては、
自害した日に正体を知ってしまったので、恐怖が強かった。
ルイーズの目は、獲物を狙うかの如く、わたしをギョロリと見る。
その濃い紅の唇は、不自然な程、口角を上げている。

「ええ、本当に素敵なお嬢様ですわね、ローレン伯爵、伯爵夫人」

ルイーズの声は、奇妙な程に明るい。
両親は緊張しつつも、わたしを褒められ、うれしそうだった。

一見、和やかな雰囲気ではあるが、
その裏に底知れないものを感じ、わたしは落ち着けないでいた。
平静を装うのに精一杯で、何を食べても味が感じられない。
そんな中、ルイーズがある提案をした。

「《侯爵夫人》の資質があるかを判断して欲しいとの事でしたわね、
それでは、暫くこの館に滞在してみてはいかが?
外から見るのと、内に居るのとでは大きく違いますからね、
侯爵家の事を、実際に見て知った方が、あなたの為になるのではないかしら?」

確かに、外から見ていた時には、華やかで、厳かな空気を感じた。
実際、内を見てしまうと、恐ろしい場所だと知れた…
わたしは、どうやって断ろうかと頭を巡らせたが、デュラン侯爵は乗り気だった。

「成程、良い考えだね、ルイーズ。
ジスレーヌ、伯爵家を離れるのは寂しいかもしれないが、
ここで私たちと暮らしてみてはどうかね?
《侯爵夫人》の事は、ルイーズに習うといい、侯爵家の事も知って欲しい___」

「まぁ!良かったわね、ジスレーヌ!」

両親もこの申し出に歓喜した。
増々断り難い状況だ。
困っていると、今まで黙っていたリアムが口を開いた。

「縁談の打診をしたばかりです、そう急ぐ必要はないのではありませんか?
ここに住むとなれば、ジスレーヌには負担も大きい。
彼女はまだ十八歳ですから、もう少し先でもいいでしょう___」

奇妙な沈黙が落ちた。

「それもそうだな…」と侯爵は引く姿勢を見せたが、ルイーズが撥ね退けた。

「ジスレーヌにも聞いてみましょう、彼女自身の事ですからね。
あなたは伯爵家を離れ、ここで私たちと過ごす覚悟はおあり?」

覚悟が無いと答えれば、それだけで「侯爵夫人の資質は無い」と判断される気がした。
今でなくても、何れ、ルイーズはこの事を持ち出すだろう。
逆に、わたしがこの話を受ける事も、ルイーズは望んでいる___
そこかしこに罠が張り巡らされている気がし、わたしは慎重に言葉を選んだ。

「リアム様、わたしを気遣って下さり、ありがとうございます。
侯爵、侯爵夫人、わたしの為にご提案下さり、ありがとうございます。
皆様のご厚意に感謝し、謹んで、お受けさせて頂きます。
どうぞ、よろしくお願い致します」

「まぁ!良かったわ!私が教えて差し上げますからね、安心なさって、ジスレーヌ」

ルイーズが明るい声で言う。
わたしも微笑み返した。

「ありがとうございます、侯爵夫人」

ふと、リアムが難しい顔をしているのに気付いた。
リアムはわたしに断って欲しかったのだろう。
一度目の時には気付かなかったが、こうして見ると、
確かに、リアムとルイーズの間には、不穏な空気があった。

何故、気付かなかったのだろう?
もし気付いていたら、あんな風にはならなかったのに…
リアム様が話してくれていたら…
リアムを責めたくなったが、わたしは「違うわ」と内心で頭を振った。

わたしは、リアムに恋をし、彼を心から愛していた。
いつもリアムの気を惹きたかった、リアムに自分を見て欲しかった。
だけど、リアムが何を考え、何を求めているかは、考えた事が無かった気がする。
リアムに何か尋ねた事があっただろうか?
彼に悩みがあるなんて、思いもしなかった。
わたしにとってリアムは、いつも完璧な王子様だったから___

わたしは一度目の時の自分に、愕然とした。

ああ!わたしはリアムに酷い事をしてしまっていたのかもしれない!

自分の想いや理想ばかりを押し付けて、彼を知ろうとはしていなかった!
これで、愛していたと言えるだろうか?

わたしは、自分がリアムから愛されていなかった事を知り、ショックだったが、
リアムも、わたしから愛されていないと思ったのではないか…
だから、あんな風に婚約解消を…


わたしが悶々としている内に、晩餐会は終わっていた。

「君を窮地に立たせてしまい、すまなかったね、ジスレーヌ」

リアムに言われ、わたしは我に返った。
取り繕う様に、笑みを見せた。

「気になさらないで下さい、リアム様のお気持ちは聞いています。
わたしはあなたの足枷にならない様、気を付けます」

「ありがとう…だけど、気負う必要は無いよ、いざとなれば、僕が守るからね」

碧色の瞳がキラリと光り、わたしは息を詰めていた。

ああ…
やはり、見惚れてしまう…

胸がドキドキとし、切なく鳴る。

「そんなに見つめないで、ジスレーヌ」

リアムが「ふっ」と笑ったかと思うと、そっと、唇を重ねられた。
その感触が懐かしく、愛おしく…涙が滲んだ。

リアムの指が、わたしの目尻を拭い、
夢の時をくれた唇が、今度は謝罪を零した。

「ごめん…」

夢は覚め、そこには、寒々とした現実があった。


◇◇


わたしはそのまま侯爵の館に残り、両親が後から荷物を送ってくれる事になった。
わたしに用意された部屋は、二階にある客室だった。
侯爵、侯爵夫人、ジェシカの部屋は二階、リアムの部屋は三階だ。


「ジスレーヌ、お部屋は気に入ったかしら?
不足があれば、何でもおっしゃってね、直ぐに用意させるわ___」

翌日、昼前頃、ルイーズとジェシカが、わたしの部屋を訪ねて来た。

「素敵なお部屋をご用意して下さり、感謝致します、侯爵夫人」

ルイーズを前にすると、やはり緊張する。
わたしは気付かれない様、なるべく自然に、感謝を述べた。
勿論、不足など言うつもりはない。

「あなたに侍女を付けましょうね、クロエ!」

ルイーズが呼ぶと、メイド服姿の痩せた三十歳頃の女性が入って来た。
一度目の時に会っているので知っている、確か、ルイーズが可愛がっていたメイドだ。
今後、わたしの事はクロエを介し、ルイーズに筒抜けとなるだろう___

『ジスレーヌに負担が大きい』と言った、リアムの言葉が思い出された。

こういう事だったのね…
リアムが家に居ても落ち着く事が出来ないと言っていたのも、同じ理由だろうか?
わたしは漸く、事の深刻さに気付いた。

ああ、やっぱり、わたしって、馬鹿ね…

だが、こうなっては仕方が無い。
ルイーズに弱味を握られ、失脚させられない様、気を付けるしかない___

「クロエ、これから暫くお世話になります、よろしくお願い致します」

わたしがクロエに向かい、丁寧に挨拶すると、ルイーズとジェシカは大きく笑った。

「あら、嫌だわ!あなた、侍女の扱い方もご存じないのね?
でも、仕方ありませんよ、伯爵家と侯爵家とは、格が違いますからね。
あなたには学ばなければいけない事が多そうね、ジスレーヌ。
でも、安心なさって、これからは、私があなたに、侯爵家の作法を教えて差し上げます___」

ルイーズが大きく口角を上げた。

「お手柔らかにお願いしますよ、お義母さん」

感情を込めない、淡々とした声に振り返ると、リアムが入って来た。
その碧色の目は冷ややかにルイーズを見ている。
ルイーズの方は、少し嘲る様な笑みを浮かべていた。

「ええ、勿論よ、大切な息子の婚約者候補ですもの。
それより、あなたはこんな所に居ても良いの?準備で忙しいでしょう?」

「その事を伝えに来たんです、僕の大切な婚約者候補に」

「そう、ゆっくり別れを惜しむのね、邪魔はしませんよ。
さぁ、私たちは行きましょう、ジェシカ」

ルイーズとジェシカはニヤニヤとし、部屋を出て行った。

別れを惜しむ?

不穏に思いつつ、わたしはリアムに椅子を勧めようとしたが、
彼は遮り、「歩きながら話してもいいかな?」と、外に誘った。

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