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しおりを挟む綾辻麗華、十六歳。
コンパクトミラーに自分の目元を映し、完璧にメイクをされた長い睫毛を瞬かせた。
うん!今日も可愛い♪
「レイカって、マジで美人だよねー」
「羨ましいわー」
「何でそんなに、足細いの?」
登校してきた友達は、鞄を置くよりも早く、わたしの席に来て騒ぎ出す。
これはいつもの光景。
わたしは少し顔を傾げ、『可愛い』笑顔を見せた。
「えー、そうかなぁ、別に何もしてないけどぉ」
これは大嘘。
わたしは幼い頃から、周囲から「可愛い」「将来は美人になるぞ」とちやほやされて育ったが、
素材の良さに胡坐を掻くことはせず、美容や体型維持、諸々に努力を重ねてきた。
その結果、「可愛い」は、「アイドル級の可愛さ」へと進化していた。
「レイカさー、スカウトとかされるんじゃね?」
「アイドルとかにいそうだよねー」
「えー、ないない!でもぉ、ありがとね☆」
わたしがウインクを返すと、友達は「ぎゃはは」と笑った。
友達は元気な子が多いので、身振り手振りも大きく、
「あっ」と思った時には、後ろを通ろうとした女子にぶつかっていた。
「あー、ごめん」
「ごめんね!長澤さん!」
友達とわたしは謝ったが、彼女は俯いたまま、何やらボソボソと言うだけで自分の席へ行ってしまった。
「うわー、長澤って、マジ、暗いよなー」
「あいつ、何が楽しくて生きてんのかね?」
「髪とかボサボサじゃん、制服もシワシワだし、女子力低いよねー」
わたしは聞き流しながら、彼女の方を見ていた。
彼女はクラスの誰とも話さないし、目立った処は無いが、真面目で成績は良かった。
母子家庭とかで、苦労しているらしい。
「あ、そろそろチャイム鳴るよ!」
わたしが教えると、皆はダラダラと自分の席に戻って行った。
わたしは何気なく、窓の外に視線を向けた。
陽射しは明るく、青空が広がり、白い雲が優雅に浮かんでいる。
「平和だなー」
家庭に問題はなく、友達がいて、成績も中の中…
わたしはこの平凡な高校生活を愛し、謳歌していた。
将来は、ファッションデザイナー、美容師、ヨガインストラクターなんかもいいなー。
スカウトされたら、アイドルになるのもいいしー。
順風満帆で、夢もいっぱいだった。
だが、それは突如、終わりを告げた。
「先生、まだかな?」
わたしは時間を持て余し、机の中から小説を取り出して読み始めた。
【溺愛のアンジェリーヌ】、異世界を舞台にした恋愛小説で、ヒロインのアンジェリーヌは、四人の男子から想いを寄せられる。
お気に入りの小説で、もう、五回は読んでいるけど、飽きる事がないから不思議だ。
「ああ、エミリアン、可愛いわぁ…」
すっかり没頭していた時だ、突然、周囲が大きく揺れ出した。
ガタガタ…ガタガタガタガタ!!!
「やだ、何!?地震!??」
ガシャン!!ガシャン!!
「キャーーーー!!」
悲鳴が上がる中、わたしは頭部に打撃を受け、意識を失った____
◆
あれは、地震だったのだろうか?
何かに頭をガツン!!とヤラレた所までしか、記憶が無い。
ううん、きっと、覚えてない方が幸せね…
だって、きっと、ペシャンコになったか、頭が爆発してたもの…ううっぷ!!
「どうした!?気持ちが悪いのか!?」
誰かがわたしを支え、背中を擦っている。
わたしは呻きながら目を開けた。
そこに見えたのは、碧色の目をした、端正な彫りの深い顔…超美形で、わたしは思わずポカンとしてしまった。
な、な、なに!?この、美形!!
外国の雑誌から飛び出してきたみたいな…!?
「あ、あの、ウエルカム・トゥ・ジャパン!」
わたしが明るく言うと、その超美形は固まった。
あ、あれれ???
「打ち所が悪かったんだな、安心しろ、エリザ、直ぐに保健室に運んでやる!」
耳心地の良いバリトンと共に、わたしはその腕に抱え上げられた。
彼は負荷を物ともせずに、風を切って歩いて行く…
「う、ええ!??」
わたしは驚き、そして、振り落とされないか不安で、彼の首に腕を回し、しがみついたのだった。
うわぁ!逞しい体ね!!
それに、何か、いい臭いがする…
バン!!
彼は勢い良く扉を開け、中に入った。
「先生!診て下さい!義妹が転んで頭を打ったんです!!
変なうわ言を言っているし、重症かもしれない!」
ん??
転んだ?うわ言?
いやいや、それよりも、《義妹》??
椅子の上に下ろされたわたしは、マジマジとその人を見上げた。
背が高く、スラリとして見えるが、逞しいのは検証済みだ。
ダークブロンド髪に、宝石の様な碧色の瞳、彫りの深い端正な顔立ち…
「お義兄様…」
自然とわたしの口から言葉が零れた。
ああ!思い出したわ!!
わたしは、エリザ=デュランド伯爵令嬢、十五歳!
今日は王立クレール学院の入学式で、講堂に向かっていた所…すっころんだのだ!
「ああ!入学式!!」
完全に遅刻よ!!
バタバタと慌てふためき、立ち上がろうとしたが、両肩を掴まれ、強制的に椅子に戻された。
彼が神妙な顔つきで、わたしを覗き込む。
「入学式なんかどうだって良い、何かあったらどうするんだ、しっかり診て貰いなさい」
この超美形の彼は、生まれて間もなく両親を亡くし、
養子として我がデュランド伯爵家に迎えられた、四歳年上の義兄、ユーグだ!
王立クレール学院に首席で入学して以降、ずっと首席を守っている天才で、
わたしに凄く優しくて、わたしの理想であり、わたしの王子様…
そんなに見つめられると、顔が赤くなってしまうわ…!
彼は大人しくなったわたしの頭を撫で、「いい子だ」と微笑んだ。
きゅうううん!!!
うう、駄目だわ、超美形の笑み!凄い効果!!
その後、わたしは診察を受ける事になったのだが、自分の体が目に入り、気付いてしまった。
前世のわたしは美容や体型に気を使っていたが、今世のわたしは違っていて…
「腕、太っ!!やだ!お腹まで!!足なんてボンレスハムじゃないの!!
まさか、顔まで!?なに、なんなの、この肉まん!!いやーーーーーーーーー!!」
美しく白い肌ではあるが、ぶくぶくと肉付きの良い体に、つい、発狂しそうになってしまった。
ユーグがすかさず押さえ付け、「先生、やはり、打ち所が…!」と診察を急がせた。
先生は無表情でさっさと診察をすると、
「大した事はないわ、一応、痛み止めの薬を出しておくわね」と、わたしたちを保健室から追い出したのだった。
わたしは自分の体型や顔にガッカリし、肩を落としていたが、ユーグは違った。
「何もなくて良かった…」
心底安心した様に言われ、わたしの胸はまたもやドキュンとした。
ああ、こんな白豚を心配して下さるなんて!なんて寛容なお方なのかしら!!
聖人に違いない!拝んでおこう…むにゃむにゃ
「エリザ?何をして…」
「いえ!それより、心配して下さって、ありがとうございます、お義兄様!」
ユーグは少し不思議そうにわたしを見た後、ふっと苦笑した。
「他人行儀だが、仕方ないか、会うのは四年ぶりだからな…」
そう、ユーグは王立クレール学院に入学し、王都に行ってしまって以降、一度もデュランド伯爵家に戻って来ていなかった。
理由は勉学に忙しいとか、往復で一週間掛かるからだとか…
「ええ、本当に分からなかったわ!この超美形は一体誰なのかと!」
つい、本音を言ってしまい、わたしは慌てて手で口を覆った。
ユーグは軽口と思ったのか、肩を揺すって笑った。
「心配していたけど、俺がいなくても、大丈夫だったみたいだな、エリザ。
強くなったな…」
その目は少し寂しそうに見える。
ユーグは家を出るまで、わたしを可愛がってくれた。
わたしは人見知りに加え、内気な子で、何処へ行くにもユーグに引っ付いていた。
ユーグはわたしの世話を嫌がらず、わたしの言いたい事を代わりに言ってくれたり、フォローしてくれたりと、いつもわたしを護ってくれていた。
王立クレール学院を受験すると聞かされた時、わたしは酷く不安になり、「行かないで」と言えないまでも、毎夜泣いたものだ。
ユーグが行ってしまってからは、不安や寂しさから、食が進み…こんな体型になってしまった。
このマシュマロボディは、お義兄様の所為だったのね!!
「全然、大丈夫じゃないわ!お義兄様の所為で、こんなに太っちゃったもの…」
わたしは自分のお腹の肉を摘まんだ。
ムニュっと。
なんなの、この厚み!!ステーキにしてやりたいわ!!
「おまえ位の年頃の娘は、その位で丁度良い」
丁度良いですって!?
そんな訳あるかーーー!!!
思わず睨み見てしまったが、ユーグは寂しそうな目でわたしの頭を撫でていた。
もう!調子狂うなぁ…
お義兄様はシスコンだからねぇ…
「お義兄様は、こんなに太ってしまったのに、わたしだって分かったの?」
「太っても痩せても、おまえなら絶対に分かるよ、俺はおまえの兄だからな」
頭をポンポンと叩く。
ああ、胸が切なく疼く…
分かっている、どんなに溺愛してくれていても、特別扱いしてくれても、
この人は、わたしを《妹》としか見ていない。
わたしが欲しいのは、そんな感情ではないのに___
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