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しおりを挟む前世を思い出したと同時に、わたしは今生きているこの世界が、
前世で好きだった小説、【溺愛のアンジェリーヌ】の世界に似ている事に気付いた。
【溺愛のアンジェリーヌ】
中世ヨーロッパ風の異世界が舞台となっている。
主人公ヒロインのアンジェリーヌは、貧しい平民の生まれだが、頭脳明晰で、
国中の優秀な者たちが学ぶ、名門王立クレール学院の特待生となる。
だが、学院生の多くは貴族や裕福層の子息、子女で、格差を思い知らされる。
馴染めずにいたアンジェリーヌに手を差し伸べたのは、学院で人気の高い四人の男子生徒。
第三王子レオン、頭脳明晰で入学以来首席のユーグ、
武術剣術に長けた学院の用心棒のアンドリュー、病弱の貴公子エミリアン。
ちなみに、レオンには婚約者がいて、彼女ドロレスは所謂、悪役令嬢だ。
レオンとユーグはアンジェリーヌより二学年上で、アンドリューは同学年、エミリアンは一学年下だ。
エミリアンはドロレスの弟でもある。
彼等と交友を深める中、四人から想いを寄せられる様になり、様々な恋模様が繰り広げられるのだが、
アンジェリーヌが異国の王女である事が発覚し、事態は急変する。
異国へ迎えられる事となったアンジェリーヌを繋ぎ止めるべく、
第三王子レオンはドロレスとの婚約を破棄し、アンジェリーヌに求婚する。
ドロレスは妬みからアンジェリーヌを襲うが、失敗。
アンジェリーヌが異国(大国)の王女という事もあり、厳しい処罰が下り、ドロレスは追放、幽閉となる。
この国にいては危険と判断され、アンジェリーヌは自国に戻される事となる。
レオンとアンジェリーヌは結ばれ、共に異国へ向かうのだった___
大筋は、こんな所だ。
わたしは書き出した概要に目を通し、息を吐いた。
「はぁ…憧れちゃうわ~」
四人の素敵な男子から想いを寄せられ、溺愛されるなんて!全乙女の夢だ。
現実には起こりえないからこそ、キュンキュンしてしまう。
「転生するなら、アンジェリーヌが良かったなー。
でも、アンジェリーヌなら、最推しのエミリアンとは結ばれないのよね…」
わたしの最推しは、悪役令嬢の弟のエミリアンだ。
病弱という事もあり、小柄で綺麗な顔立ちで、中世的な見た目をしている。
繊細で感受性も高く、いつも保護欲を掻き立てられるのだ。
「護ってあげたい~♡」
結局、姉のドロレスがアンジェリーヌを暗殺しようとした事で、エミリアンは責任を感じ、身を引くのだ。
「身を引いた後は、フリーって事よね?」
落ち込むエミリアンを支えるのも良いかも♪
「うふふふふ」
想像し、思わず笑いが漏れてしまった。
「でも、わたしが転生したのは、《エリザ》なのよねー」
ユーグの義妹、エリザ=デュランド伯爵令嬢。
エリザは義兄ユーグへの恋心を拗らせていて、ユーグの関心がアンジェリーヌにある事に嫉妬し、悪役令嬢に手を貸してしまう。
後々、エリザが関わっていた事を知ったユーグは、責任を重く見て、アンジェリーヌから身を引く。
エリザの想いは恋愛感情だが、ユーグにとって、エリザは《妹》でしか無かった。
エリザの気持ちに気付いていたユーグは、「俺たちは離れた方がいい」と距離を置こうとする。
エリザは絶望から、ユーグと自分の飲み物に毒を入れ、無理心中を図り、二人は命を落としたのだった___
「悪役令嬢に匹敵する、バッドエンドだわ…」
わたしは重い息を吐いた。
恋愛に憧れているというのに、これでは碌な恋愛が出来そうにない。
「わたしも、素敵な恋愛がした~~~い!」
そりゃ、幼い頃から、恋心を拗らせてはいるけど…
至近距離であの顔で見つめられて、ときめきはしたけど…
望みは無いし、バッドエンドなんて御免だわ!
「この際、義兄からはさっさと離れて、自身の幸せを追うべきよね!」
そうすれば、わたしと義兄は、バッドエンドを避けられるだろう。
何と言っても、無理心中を図ったのは《エリザ》なんだから!
義兄がアンジェリーヌと結ばれる事はないだろうが、確か、婚約者候補がいた。
義兄の事は彼女に任せれば良い。
「決めたわ!わたしは前世の推し、エミリアン様一筋でいくわ!!」
わたしは寮の個室だというのも忘れ、高らかに宣言し、ルームシェアしている、
ブリジットとジェシーから、「何事なの?」「夜中だから静かにしてぇ」と扉を叩かれた。
「ごめんね、寝ぼけちゃった!」
わたしは二人に平謝りすると、ベッドに飛び込んだ。
ボフン!!
思い切りベッドが沈み、体に予想以上の衝撃を受け、わたしは驚いた。
「うっぷ!自分の体型を忘れていたわ!
でも、エリザは白豚じゃなかった筈だけど??」
ぽっちゃりではあったが、これ程とは思っていなかった。
白金色の髪は細く美しいが、顔は厚い肉に覆われていて、美しいとかいう以前の問題だ。
瞳は緑色で素敵だけど…
「これは、問題大ありね!」
明日からは締めていかなきゃ!!
「明日…明日になれば、エミリアン様に会えるんだわ!
ああ、早く明日が来ないかな~♪うふふふ」
わたしは笑いながら眠りに落ちていた。
◇◇
王立クレール学院は全寮制で、男子三棟、女子三棟、身分毎に振り分けられている。
上級貴族向けの寮は、豪華で一人部屋な上に、侍女も付いていて、食事も部屋に運ばれる。
中流貴族向けの寮は、三人一部屋で、共同の玄関や居間から、それぞれの部屋に分かれている。
下級貴族、平民向けの寮は、二人一部屋、個室は無い。
どの棟も、掃除や洗濯は専門の人を雇っている為、必要無い。
寮の食堂で朝食を食べていた所、何やら視線を感じて、わたしはチラリと目を向けた。
先輩たちだろう、知らない女子生徒たちが並んで座っている。
さっと目を反らされたが、確かに、こちらを見ていた様に思う。
なんだろう?
感じ悪いんだけど…
もしかして、太っている所為かしら?
わたしが皆の分の朝食も平らげてしまわないか、心配してたりする??
卑屈な冗談を頭に浮かべながら、わたしはトレイに乗った朝食を平らげた。
『明日から締めていく!』と決めたものの、ペロリと食べてしまった。
「この、溢れる食欲はなんなの…?」
自分でも不思議だ。
わたしはお腹の肉を摘まんで戒めた。ムニムニ…
寮を出て学院へ向かっている時も、視線を感じていた。
「私たちさ、注目されてる?」
隣を歩いていたジェシーも気付いた様で、こっそりと耳打ちしてきた。
「わたしが太ってるからかな?やっぱり、目立つ?」
身長は低いので目立たないと思っていたが、やはり横に広がっていれば、それなりに…
わたしが自分の体を見下ろしていると、「違うわよ」とブリジットが呆れた様に否定した。
「学院が誇る天才、ユーグ=デュランド伯爵子息の義妹に、皆興味を持ってるのよ!」
ああ、お義兄様か…
すんなりと納得してしまった。
あの後、ユーグはわたしを連れて、入学式真っ最中の講堂に入って行き、席まで送り届けてくれたのだが、
周囲の入学生たちは、式の間にも関わらず、「きゃぁ」「きゃぁ」言っていた。
気持ちは分かるわ、超美形だものね!
それに加え、優しいし、大人だし、頭脳明晰で首席だし…
弱点が見当たらないわ…
ユーグが女子たちの憧れだというのは理解できるが、
その余波を受けて、注目されるなんて、悪夢だ___
前世では、注目を浴びる事は好きだった。
だけど、それはわたしの努力の成果で、自分の美しさを誇っていたからだ。
今のわたしには、特に誇れるものはない。
猛勉強して、何とかこの学院に入学出来た、という程度だ。
《ユーグの義妹》なんて、全然、誇れないんだから!!
「…あれが、ユーグ様の義妹?」
「太り過ぎじゃないかしら?」
「あんなのが義妹じゃ、恥ずかしいだろうな」
「義妹は首席じゃないのか?」
「ああ、Cクラスらしいぜ、やっぱ、出来が違うな…」
好き勝手言ってくれちゃって!!
しっかり聞こえてるんだからね!!
睨み付けてやろうかと思ったが、ユーグに告げ口されると面倒なので止めておいた。
わたしは足早に校舎に入ると、教室に急いだ。
尤も、体が重く、然程速くはない上に、大量の汗を掻いた。
ふひ~~
足腰は痛いし、疲れるし…
「やだ、悲惨~」
「近寄りたくない~」
「白豚決定!」
クラスメイトの心無い言葉を耳にし、わたしはギュっと、厚みのある手で拳を握った。
くううう!!
見てなさい!絶対に痩せて、見返してやるんだからねっ!!
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