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しおりを挟む名門王立クレール学院は、男子部と女子部に分かれていて、
男子部は基礎三年、専門二年の五年制であり、女子は三年制となっている。
男女別棟だが、敷地は同じで、共同スペースは多く、共同棟もある。
行事等は合同で行われる___
◇
ダイエットくらい、簡単よ!!
前世では美容や体型に気を使っていたし、ヨガインストラクターになるのもいいなと思っていた位だ。
前世の知識と経験があれば、鬼に金棒よ!
早速、授業中に、片足上げ、踵上げ、爪先上げ、足に本を挟んだりと、エクササイズに勤しんだ。
教室の移動の際には、腿上げをしたり、遠回りをして教室に向かう。
昼食は食堂で栄養を考えた料理を選ぶ。野菜多めは勿論、タンパク質だって必要よ!
昼休憩は無駄に校舎を徘徊した。
それから、メイクの研究ね!
女子生徒たちは皆、化粧をしているので、悪目立ちする事はない。
「素材が悪くても、メイクでなんとでもなるわ!!」
尤も、エリザはあまり化粧品を持っていなかったので、買い足す必要がある。
少ない化粧品を使い、出来得る限りの努力をした。
「白くてモチ肌なのは良いけど、ソバカスが目立つのよね…
美女メイクよりも、可愛い系が似合うかな?」
ソバカスはファンデーションで隠して…
目元にはほんのり赤味を入れて…
小さな唇には明るいピンク色の口紅を…
「うん、可愛い!」
それから、白金色の髪はジェシーに頼んで、一本の編込みにして貰った。
ちなみに、ジェシーはわたしと同じCクラスで席も近く、ブリジットはBクラスだ。
「エリザ、これで良い?」
「完璧よ!ありがとう、ジェシー!」
これで少しは涼しくなるだろう。
そんな事を熱心にしていたわたしは、「エミリアンに会いに行く!」という本日最大のイベントを忘れてしまっていた。
それを思い出したのは、放課後になってからだ。
エミリアンの行動パターンは分かっている。
エミリアンは病弱という事もあり、昼休憩や放課後はいつも、図書室で過ごしている。
わたしはジェシーに「用事があるから!」と別れを告げ、図書室に向かった。
ああ、どうしよう!
推しに会えるなんて、うれし過ぎるわ!!
今の今まで忘れていた事は、ご愛敬だ☆
軽やかにスキップをしそうになったが、ドスンドスンという地響きと共に、断念した。
「スキップより、まずは腿上げね…」
わたしはピンと背筋を伸ばし、腿を高く上げて歩いた。
「___自分の立場を弁えるのね!」
不意に耳に入った鋭い声に、わたしは咄嗟に振り返っていた。
廊下の突き当りで、三人の女子生徒と一人の女子生徒が対峙していた。
三人の女子生徒が一人の女子生徒に圧力を掛けている様に見える。
「まさか、イジメ!?」
三人の生徒たちが去って行き、一人の女子生徒はその場に崩れた。
わたしは慌てて彼女の元に駆け付けた。
勿論、スマートにとはいかず、ドスドスという地響きと共にだったが…
「だ、だいじょうぶですか!?」
声を掛けると、蹲っていた女子生徒が顔を上げた。
平凡な顔立ちで、化粧はしていないのか、そばかすも隠していないが、濃い緑色の瞳は綺麗だった。
それに、髪の色も赤色と金色が混ざり…ストロベリーブロンドというものだろうか?魅入ってしまう色合いだ。
彼女が訝しげにわたしを見る。
わたしは何か微妙な空気が流れているのに気付いた。
あれ??もしかして、声を掛けちゃ、いけなかった??
「あの、怪我はありませんか?」というわたしの言葉を、
「アンジェリーヌ!!」という大きな声が掻き消した。
見事な金髪の男子生徒が走って来たかと思うと、わたしを押し退ける様にし、女子生徒を支えた。
彼女は、「怖かった…」と彼に縋り付く。
「アンジェリーヌ、また何かされたのか!?君がやったのか!?」
傍観していた所、急に琥珀色の目でギロリと睨まれ、慌てた。
「ええ!?わたしじゃありません!」
「それなら、こんな所で何をしていたと言うのだ!」
「具合でも悪いのかと思って、声を掛けた所です」
彼女がフォローしてくれると期待したのだが、男の胸に顔を伏せたままで、そんな気配はない。
それだから、目の前の金髪の男はわたしを敵視している。
怖い顔で睨んでいるけど、ユーグに劣らぬ、超絶美形だ!凄い迫力!!
「詳しく話を聞かせて貰うぞ!」
相手が超絶美形なので、『お話するのもいいかなー』と思ってしまったが、
ガッシリと強い力で肩を掴まれ、脳内お花畑だった自分を呪った。
「痛っ!!」
何するのよ!この、乱暴者!!
言ってやろうとした時だ、誰かが彼の腕を掴み、わたしの肩から離させた。
見ると、いつの間に来たのか、ユーグが立っていて、
何やら不穏な気を発し、冷たい表情でこちらを見下ろしていた。
「レオン、俺の義妹を傷つけたら、幾らおまえでも許さないからな!」
レオン?
まさかと思っていたけど、やっぱり、この二人は…
【溺愛のアンジェリーヌ】のヒロイン、アンジェリーヌと第三王子レオン!??
有名人じゃない!キャーー!!
「おまえの義妹?まさか…」
レオンが訝しげに、わたしとユーグを交互に見る。
わたしは相手があの《レオン》という事もあり、照れてしまったのだけど、ユーグには関係無かった。
更に厳しい顔つきになっている。
ああ、お義兄様の不機嫌度が増しているわ…
「『まさか』とは?おまえは友の言葉も信じられないのか?
それならいい、今を持って、おまえとの友好関係は破棄する!」
うわああ!!何を言っているのですか!!お義兄様!!
「お義兄様!この程度の事で、早まらないで下さい!」
わたしは慌ててユーグの制服の裾を掴んだ。
だが、ユーグは何を思ったのか、わたしをしっかりと腕に抱き、レオンを足蹴にした。
「ドカ!!」
「うわぁ!!」
レオンが間抜けな声を上げ、廊下に尻もちを着いた。
きゃあああああ!!!
「お義兄様止めてー!この人、第三王子でしょう!?首を刎ねられちゃうから!!」
「王子だろうと関係ない、おまえを傷つける者は誰であれ、地獄を見せてやる」
駄目駄目!!そんな物騒な事言っちゃ駄目―――!!!
勝手に、バッドエンドに突き進まないでぇぇぇ!!
「わたしは肩を掴まれただけです!それも誤解だし…こんな事で一々報復しないで下さい!
お義兄様、第三王子に謝って下さい!」
わたしはユーグの腕を引き、その後頭部を掴むと、無理矢理下げさせたのだった。
一連の流れを見ていたレオンは、「ぷっ」と吹き出した。
「疑って悪かったな、確かに、おまえたちは兄妹らしい。
入学以来首席のおまえに、そんな態度が取れるのは、身内くらいだろう?」
レオンが白い歯を見せて笑う。
あら!案外良い人じゃない?
ユーグを見ると、先程まであった冷たい表情は消え、
少し困った様な、それでいて柔らかい笑みを見せていた。
《兄妹》《身内》という言葉がうれしかったのかもしれない。
生まれて間もなく両親を亡くしたユーグは、《家族》を殊の外、大事にしているから…
「おまえの義妹なら、卑怯な真似はしないか…
誤解して悪かったな、名は何というのだ?」
「エリザだ」
わたしが答える前にユーグが答えてしまった。
ユーグの手はわたしの肩を擦り、そして、頭を撫でた。
「お義兄様!髪が崩れちゃうから!」
わたしがその手を掴むと、悲しそうに見られた。
うう…罪悪感!
「そうだぞ、ユーグ、例え義妹であっても、無暗に令嬢の頭に触れるものではないぞ。
おまえは少し女性の扱い方を学んだ方がいい」
「言っていろ」
ユーグは短く返し、不機嫌そうに口を曲げた。
ユーグは単に、わたしを《令嬢》と見ていないだけだろう。
「あのぅ…」と、アンジェリーヌが顔を上げた。
「アンジェリーヌ!大丈夫か?」
レオンは先の事を思い出し、アンジェリーヌを支えた。
アンジェリーヌは手で額を押さえた。
「少し眩暈がして…でも、レオン様のお陰で良くなりました」
アンジェリーヌが微笑むと、レオンは安堵の息を吐いた。
流石、【溺愛のアンジェリーヌ】の王道カップルね!お似合いだわ!
「アンジェリーヌ、立てるか?
ユーグ、悪いがアンジェリーヌを送って行く___」
レオンはアンジェリーヌを支え、歩いて行った。
ぼんやりと見送っていた所、ユーグに聞かれた。
「レオンはおまえがアンジェリーヌに危害を加えたと思ったのか?」
「そうみたい、誤解なのよ?
わたしは彼女が蹲っていたから、声を掛けただけなの」
三人の女子生徒は、悪役令嬢ドロレスと、取り巻き二人だと思うが、はっきりと見た訳ではなかったので、黙っておく事にした。
信じてくれるだろうか?
上目で伺うわたしに、ユーグは「優しいな」と零し、また少し寂しそうな目をした。
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