【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音

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「エリザ、それだけか?
おまえは昔から小食だったからな、体を壊さないか心配だ…」

わたしのトレイを見てユーグが言う。
ユーグの声が聞こえたのか、周囲がざわざわとした。
どうせ、「あの体で小食はない!」って、ツッコミたいんでしょう!
わたしは低い声で返した。

「小食だったのは、お義兄様が家を出るまでです!」

ユーグが家を出てからというもの、不安を食事で解消していたのだ。
そして、たらふく脂肪を蓄えてしまった。
体を壊さないか気にするなら、尚更、食事を管理しなくてはいけない。

「男性と違って、十五歳の娘はこれで十分なんですぅ」

「そういうものか?」

ユーグは心底不思議そうな顔をし、サンドイッチに齧り付いた。
家にいる時のユーグは、然程多くは食べていなかった様に思う。
今は見事な食べっぷりを発揮していて、見ていて清々しく、思わず笑ってしまった。

「エリザ?」

「ごめんなさい!お義兄様の食べっぷりが、あまりに気持ち良くて!」

わたしが笑い続けると、ジェシーやレオンにも伝染し、わたしたちのテーブルは賑やかになった。


食事を終えたアンジェリーヌとレオンが、先に席を立った。
ユーグも一緒に行くものと思っていたが、中々席を立たないので、わたしはそれとなく促した。

「お義兄様も行って下さい、わたしたちは大丈夫ですから」

「俺が義妹と一緒にいたいんだ、駄目か?」

「駄目じゃないけど、退屈でしょう?」

絶対に、レオンやアンジェリーヌと一緒の方が良いに決まっている。
ユーグはアンジェリーヌに淡い恋心を抱いているんだし…
尤も、それが叶わない事も知っているので、わたしとしては、後押しも出来ない。

「退屈なんかしないよ、四年ぶりに会ったんだ、おまえにはまだまだ、俺の知らない事がありそうだ…」

うぐぐ…!鋭い!!

前世を思い出す前のわたしは、【溺愛のアンジェリーヌ】の《エリザ》と同じく、地味で内気で物静かで臆病な娘だった。
前世の自分とは違い過ぎて不思議だけど、物語の《エリザ》の人格に流されていたのかもしれない。
今はその枷が外された感じがする。

「ええー、お義兄様ってばぁ、また難しい事を言ってぇ…」

わたしは笑って誤魔化しておいた。


ユーグはわたしたちを女子部棟の前まで送ってくれた。

「午後からも頑張れよ」

ユーグはわたしの頭に触れようとし、昨日の事を思い出したのか、不自然にその手を下げた。
わたしはそれに気付かない振りをして、ユーグに手を振って別れた。
ジェシーは感激し通しで、教室に入ってからも、きゃあきゃあ言っていた。

「ああ!私、エリザと友達で良かったぁ♪」

お義兄様ってば、モテモテね!
だけど、好きなのは、《アンジェリーヌ》なのよね…

何と言っても、彼女は《主人公》で《ヒロイン》だ!
【溺愛のアンジェリーヌ】、そのタイトルに違わず、四人の男子から想いを寄せられる…

「でも、思ったより、影が薄かったなぁ…」

ストロベリーブロンドや瞳は素敵だが、他の印象は薄い。
会話にも入って来ないし、きっと、《お喋り》ではないのね…

《平凡》という設定だから、仕方がないのかもしれない。
何処にでもいそうな平凡な娘が、実は異国の御姫様、という所に夢があるんだもの☆





放課後、わたしはユーグの目を欺く為、一旦、寮に向かう振りをして、こっそりと校舎に戻った。

「今日こそは、エミリアン様に会うんだから!!」

図書室は共同棟の最上階、三階の端だ。
燃え上がる想いとは逆に、わたしは壁に沿い周囲の気配を伺いながら、コソコソと廊下を進んでいた。
階段を上った所で、廊下に蹲る人を見つけた。

「!?エミリアン様!?」

銀色の髪に華奢な体つき…エミリアン様に違いない!
わたしは彼に駆け寄り、膝を付いた。

「エミリアン様!大丈夫ですか!?」

エミリアンは胸元を握り、小さく呻いていて、答えられそうに無かった。

「待っていて!人を呼んで来るから!」

わたしが立ち上がろうとすると、白く細い手がわたしの腕を掴んだ。

「すこし、やすめば…だいじょうぶ、だから…」

綺麗な顔を苦しそうに歪めて、必死で言葉を紡ぐ…
うう、保護欲を掻き立てられるわ!

「水を持って来ます、休んでいて下さい」

わたしはそれだけ言うと、廊下を引き返した。
一階まで降り、向かうは、食堂だ!

前世の学校には、手洗い場は至る処にあったが、《ここ》では見つけるのも難しい。
食堂へ行き、水筒を借り、水を入れて貰った。
ついでにハンカチを水で濡らして、急いで戻った。

図書室を最上階にしたのは、誰よーーー!!

エミリアンの元へ戻った時は、息も絶え絶えだったので、傍で支えている人に気付かなかった。
わたしは崩れ落ちる様に膝を付くと、水筒の蓋を開け、男にしては小さな唇に近付けた。

「み、水です…飲んで!」

言われるままに、エミリアンは口を付ける。
わたしは濡らしてきたハンカチを思い出し、額に当てた。

「これで少しは良くなるといいけど…」

「気持ちいいです…」

微かに漏れた美しい声に、わたしはドキリとしてしまった。
ああ!これが、夢にまで見た、エミリアン様の声なのね~~♪
目がハートになっていたかもしれない、舞い上がりそうになった時、わたしは視線に気付き固まった。
わたしとは反対側でエミリアンを支え、不機嫌そうにわたしを見ている緑色の瞳…

アンジェリーヌ!??

もしかしてだけど、これって、アンジェリーヌとエミリアンの出会いの場だったりする??
わたしがここに居るのは、場違い???
わたしはアンジェリーヌにぎこちなく笑って見せた。
彼女はフイと顔を背けた。
ええ、まぁ、お邪魔虫だものね…

わたしは退場するべきかもしれない。
だけど、アンジェリーヌとエミリアンは結ばれないのだから、そこまで遠慮する必要があるだろうか?とも思う。
わたしが迷っていると、アンジェリーヌがわたしの手からハンカチを奪い取った。

ええ!??

「エミリアン様、大丈夫ですか?」と、彼の額を拭き始める。
わたしのハンカチなのに…
ヒロインとはいえ、嫌な感じだ。

「ありがとうございます、少し、良くなりました…」

エミリアンがアンジェリーヌに微笑み返す。
アンジェリーヌも当然の様に笑みを向ける。

むぅっ!!!

どうせ、わたしはお邪魔ですよ!!!

「エミリアン様、図書室で休まれて下さい」

アンジェリーヌはわたしにハンカチと水筒を押し付けると、自分はエミリアンを支え、図書室に行ったのだった。

「な、なんなのアレ!わたしは小間使いじゃないわよ!!」

正直、嫌な感じだし、頭にきたが、ヒロインに張り合い、体調の悪いエミリアンを取り合うなんて出来ない。

「エミリアン様の為だもの、ここはヒロインに譲るわ!」

でも、これで、エミリアンがアンジェリーヌに恋をしたら…嫌だな。
【溺愛のアンジェリーヌ】を読んでいれば、当然の流れだったが…

「ヒロインがヒロインらしくないからよ!」

ヒロインはもっと、聖女の様な純真な乙女だった筈なのに…
わたしの中のヒロイン像が崩れていく。

「でも、わたしが邪魔しちゃったからかも…」

ヒロイン補正が働いたのかな??


図書室に行く気にもなれず、わたしは水筒を食堂に帰すと、そのまま寮に帰った。

「今日は疲れたから、着替えてソファでゴロゴロした~い…」

部屋の扉の向こうは、共同の居間になっており、応接セットが置かれている。
重厚な長方形のテーブルに、長ソファと一人用ソファ…
TVが無いのが悲しい所ね…
だが、部屋の扉を開けたわたしは、そんな事を呑気に考えている場合では無い事を知った。

「ああ!帰って来たぁ!!
エリザ、聞いてよ~、ブリジットってば、ずっと文句を言っているのよぉ…」

ジェシーが辟易とした様子で、わたしに飛びついてきた。
その向こう、ブリジットが腕を組み、仁王立ちになっている。
その顔には怒りが見えた。

「一体、どうしたの、ブリジット?」

わたしが聞くと、ブリジットは組んでいた手を腰に当て、捲し立てた。

「ジェシーだけ狡いじゃない!
私だってエリザの友達なのに、どうして呼んでくれなかったの!?」

はて?何の事だろう?
頭を捻ったわたしに、ジェシーがこっそり「食堂での事みたい…」と教えてくれた。

「二人で楽しそうに、レオン様とユーグ様と食事をして!
私が前を通っても知らんふりして!エリザもジェシーも酷いわ!!」

「知らんふりをしたんじゃないわよ、気付かなかったのよ、ごめんなさい」

「あんまり楽しくて、私なんて目に入らなかったって訳ね!
私を待ってくれていると思ってたのに、思い出しもしなかったのね?
私の事、友達だと思っていないからでしょう!良く分かったわ!」

怒り心頭の様だ。
あまりに身勝手な言い分だが、わたしまで感情的になっては拗れるだけなので、冷静になろうと努めた。

「ブリジットはクラスも違うし、クラスの子と食事するのかと思ったのよ…」

「ああ、私がBクラスだから、妬いてたんだ?でも、それで意地悪するなんて、最低よ!」

「そんな事言ってないでしょ、妬いてないし、意地悪した訳でもない、誤解よ、ブリジット」

「誤解なんてしようがないわ、私を呼んでくれなかったのは事実よ!
謝らなきゃ、二人とは友達を止めるから!」

まさか、こんな事で絶交宣言をされるとは思わなかった。
そんなのが通じるのは、中学生までじゃない?
とは言え、こんな事で険悪になってしまうのも馬鹿らしく、わたしは謝る事にした。

「ブリジットに声を掛けなくてごめんなさい、あなたの言う通り、わたしたち気が利かなかったわ」

たった三人のルームメイトで、一人だけ呼ばれなければ、仲間外れにされたと思っても仕方ない。
きっと、寂しかったのね…

「これからは一緒に食べましょう、ジェシーと二人で教室まで迎えに行くわ」

希望が叶ったブリジットは、途端に笑顔になった。

「ええ、是非そうして頂戴!
今回は許すけど、今度からは気を付けてよね、エリザ、ジェシー」

《友達》に対して、随分上から言うのね…
意外と我儘だし…一人娘なのかしら??
少々不満だったが、普段のブリジットには嫌な感じは無かったので、この場は流す事にした。
きっと、相当、怒ってたのね…

ああ、でも、こうなると、食堂でエミリアンに近付くのは無理だ…

皆して、どうして、わたしの恋路を邪魔するのーーー!!

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