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しおりを挟む「おい、見ろよ、あの女子!めっちゃ太ってるな、白豚かよ!」
共同棟の周辺にいた男子生徒がわたしに目を留め、声を憚らずに囃し立てる。
周囲の女子生徒たちはくすくすと笑っている。
わたしが太っているのは確かだが、それに対して意地悪を言ったり、嘲笑するのは、当人の人間性の問題だ!
それに、いつまでも白豚と思うなかれ!
あんたらが目を見張る程、痩せてやるんだから!!
わたしはツンと顔を上げて堂々と歩いた。
「馬鹿、おまえ知らないのか、あの白豚、ユーグ様の義妹だってさ」
「ユーグ様の耳に入ったら、どうなる事か…」
「普段、滅多な事では怒らないからな、怒らせたら怖そうだ…」
「しかも、あんな義妹でも溺愛しているらしいぜ…」
皆一様に、ユーグを恐れている様だ。
それに、シスコンも露見しているらしい…
妹としては恥ずかしくなるが、面と向かって意地悪を言ってくる者がいないので、助かってもいる。
お義兄様の事は、放置しよう…
一日二日で、重度のシスコンは治らない。
アンジェリーヌに対する気持ちが深まれば、少しはマシになるでしょう!
◇
昼休憩になり、わたしは約束通り、ジェシーと一緒に、Bクラスまでブリジットを迎えに行った。
「エリザ、ジェシー!さぁ、行きましょう!遅れたら失礼になるわ」
ブリジットはご機嫌で教室から出て来た。
メイクはバッチリだし、髪型も可愛く、髪留めには宝石もあしらっている。
ブリジット、気合入ってるな~。
料理をトレイに乗せ、わたしはカウンターの近くのテーブルを見る。
奥のテーブルにエミリアンの姿を発見し、安堵した。
良かった、今日は元気そう…
「エリザ、早く行きましょうよ!」
ブリジットに急かされ、わたしたちはユーグのいるテーブルに向かった。
ユーグはしっかりと、わたしと友達の席を確保してくれていた。
それも、目敏く三人分だ。流石、首席のお義兄様!そつがないわ!
テーブルには昨日と同じく、レオンとアンジェリーヌの姿もあった。
三人は、いつも一緒に食べていたのね…
「お義兄様、レオン様、アンジェリーヌ様、紹介します、
こちらは、わたしのルームメイトで、ブリジットです」
ブリジットから『紹介してよ!』という圧を感じていた事もあり、わたしは三人にブリジットを紹介した。
「エリザがお世話になっているね、これからも仲良くしてやって欲しい、ブリジット」
ユーグから声を掛けられて、ブリジットの顔は輝いた。
「はい!勿論です!私たち大親友ですから!」
大親友??
チラリと皮肉に思ってしまったけど、意地悪になりそうだったので止めておいた。
レオンは短く「ああ」と頷いただけだった。
そもそも、レオンとは友達でも何でもないので、そんなものだろう。
アンジェリーヌに関しては、一瞥しただけで終わった。
わたしとアンジェリーヌは、《恋敵》だものね!!
尤も、ブリジットの目当てはユーグとレオンなので、アンジェリーヌの事は全く気にしていなかった。
わたしはユーグの隣に座り、その隣には当たり前の様にブリジットが座り、その隣にジェシーが座った。
ジェシーは少し不満そうだったが、ブリジットに臍を曲げられると面倒だと思ったのか、何も言わなかった。
可哀想だから、席は日替わりにしてあげよう…
昨日と同様、食事が終わった後、ユーグはわたしたちを女子棟まで送ってくれた。
ブリジットは昨日のジェシーの様に、興奮していた。
「ああ、あのレオン様やユーグ様と一緒に食事が出来るなんて!夢みたい!
ユーグ様って、素敵ね!あんな素敵な方がこの世にいるなんて、知らなかった…」
ユーグの事をべた褒めしているのは気になった。
お義兄様ってば、愛想良過ぎなのよ…
普段は然程愛想なんて見せないし、ガードが固い癖に、わたしやわたしの友人には、全く警戒しない。
お義兄様の唯一の弱点は、《シスコン》ね…
わたしは内心で嘆息した。
◇
その日の放課後も、わたしは寮に帰ると見せ掛け、共同棟に戻って来た。
「今日こそは、エミリアン様と出会うんだから!!」
息巻きながらも、邪魔が入ってはいけないので、コソコソと図書室に向かう。
今日は無事に図書室まで辿り着けた。
エミリアン様~♪
わたしは目を見開き、その姿を探した。
そして、奥の机にその銀色の頭を見つけた。
エミリアンは本を読んでいた。
青白い肌、痩せていて華奢な体…
わたしはドキドキしながら、エミリアンの方へ向かった。
幸い、アンジェリーヌはいない。
声を掛けるなら、今がチャンスだ!
そう思いながらも、彼を目の前にすると、言葉が浮かんで来なかった。
エミリアンは繊細で大人しい、ズカズカと踏み込む女は苦手よね?
嫌がられたくないし…
わたしは適当な本を取り、エミリアンの向かいに座った。
本を開き、それを盾にして、エミリアンを観察する。
睫毛が長い!!
やっぱり、綺麗な顔してるぅ!!
ああ、なんて華奢なの!護ってあげたいわぁ~~~!!
わたしの熱い視線に気付いたのか、不意にエミリアンが顔を上げた。
銀色の髪、白い肌に、鮮やかな紫色の瞳が映える。
!!!!
綺麗!!お人形みたい!!女装させたいーーー!!!
あ、最後、変な感情が混ざってしまったわ。
じっと、見つめ合っていると、その小さな唇が動いた。
「あなたは、昨日の方ですか?ハンカチと水を頂いた…」
昨日の事を覚えているとは思っていなかったので、わたしは一瞬ポカンとしてしまった。
「違っていたらすみません…」
エミリアンが恥ずかしそうにしたので、わたしは慌てて返事をした。
「いえ、その通り!水筒とハンカチを渡したのは、わたしです!」
ちょっと、主張し過ぎたかしら??
「ごめんなさい、あなたが覚えているとは思わなかったから…
あれから、気分は良くなりました?」
「はい、お陰様で回復しました。
ずっと、あなたにお礼を言いたかったんです…
僕の為に、あんなに汗だくになって、水筒を持って来て下さって…
あなたの方が倒れてしまうのではないかと心配しました…」
あ、汗だく…
うう、そんな姿、見られたくなかった…
《推し》にはいつだって、美しい姿を見せたいものだ。
少々落ち込んだが、『エミリアン様の命には代えられないわ!』と、自分を慰めた。
「助けて下さり、ありがとうございました」
エミリアンが丁寧に礼をした。
「そんな、気にしないで下さい!困った時はお互い様ですから!」
わたしが明るく返すと、エミリアンは「ありがとうございます」と、ふわっと微笑んだ。
それは、まるで、花が綻ぶようで…
可愛い~~!!何て、可憐なのぉ~~!!
「わたしは、デュランド伯爵の娘、エリザです、エリザって呼んで下さい!
エミリアン様と同じ一年生です、Cクラス」
「僕はカントルーブ公爵の息子、エミリアンです。
あなたは僕の事を知っていたみたいですが…」
不思議そうだ。
そう言えば、昨日出会った時から、名を連呼していた。
不審に思われてはいけないわ!ストーカーじゃないのよ!!
「ええ、エミリアン様は首席だから!入学式の時から覚えていました!」
入学式には遅れて、エミリアンの活躍は見られなかったんだけど…
「そうなんですか、ありがとうございます」
純粋なエミリアンは疑う事無く信じてくれた。
少し恥ずかしそうに銀色の前髪を指で摘まむ仕草も、か~わ~い~い~~~!!
「本、お好きなんですか?」
そっと、エミリアンの目がわたしの手元の本に向けられた。
わたしは反射的に、「大好きです!」と答えていた。
「その本、僕も読みました、面白いですよ」
「そうなんですか!?わたしは初めてです!楽しみだわ!」
エミリアンが小さく笑う。
まるで少女の様で、野の花が咲いたかの様に見える。
はぁ…
やっぱり、可愛い~~!!わたしの天使~~~♡♡♡
それから、わたしたちはお喋りを封印し、互いに読書に励んだ。
下校の時間になると、エミリアンは本の借り方を教えてくれ、寮の近くまで一緒に帰ってくれた。
寮の自分の部屋に戻り、わたしはベッドにダイブした。
「きゃ~~~!!」
漸く、愛しの推し、エミリアン様と出会えた!!
わたしの事を覚えて下さっていたし、話し掛けて下さったわ!!
想像していた通り、綺麗だったし、可愛いし、ほわほわしていたし…
「ああ、天使!!大好き!!!」
あまりの幸せに、ベッドの上で足をバタバタさせた。
それから、わたしはエミリアンの気を惹くべく、読書に励んだ。
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