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しおりを挟む「エミリアン、あなたの病の事、聞いてもいい?」
エミリアンに病の事を詳しく聞いてみた。
何かの病という訳ではなく、生まれつき虚弱体質で、
環境や気候の変化に敏感で、良く気分が悪くなったり、熱を出すらしい。
エミリアンは青白い顔をしているし、痩せているし、そもそも骨格が華奢だ。
見るからに不健康なのよね…
「エミリアン、食事は何を食べているの?」
「朝食は紅茶、昼食はサンドイッチと果実、晩食は出される物を少し…」
やはり、圧倒的に食事量が少ない様だ。
十五歳男子ではなく、令嬢並みだ。
わたしは《病気》には詳しくないが、前世では食事には気を付けていた。
栄養が如何に大事かも知っている。
それが通用するかは分からないが、試す価値はある様に思えた。
「わたし、エミリアンはもっと食事を摂った方が良いと思うわ。
丈夫な体を作るのには、食事は大事なの。
それなのに、わたしの半分も食べていないみたい。それじゃ、元気も出ないわ」
「でも、あまり食べると気分が悪くなるから…」
「気分が悪くなってはいけないけど、なるべく食べる様にしてみない?
エミリアンが好きな料理は何?」
「特には無いかな…」
「嫌いな食べ物は?」
「油っぽい物、辛い物、酸っぱい物…」
エミリアンは味の濃い物が苦手な様だ。
「ミルクはカルシウム、骨を丈夫にするからなるべく飲んだ方がいいわ」
「ミルクは臭いが駄目で…」
「それなら、ミルク粥にして貰うといいわ、少しは誤魔化せると思うから」
エミリアンは公爵子息なので、上流階級用の寮になる。
そこでは、晩餐は望む物を作って貰える。
「タンパク質は卵、お肉…栄養豊富なの、絶対に食べた方がいいわ!
それから、ビタミンCね、果実は必ず食べてね___」
わたしは用紙を取り出し、スラスラとペンを走らせた。
「献立を作ってみたわ、最初は少しずつ試してみてね。
それから、陽に当たる事!血色も良くなるわよ」
「ありがとう…エリザ、君って凄いね、教師みたい」
そんな~、褒め過ぎよぉ~♡
「わたしね、もっと、エミリアンに健康になって貰いたいの!」
エミリアンには長生きして欲しい。
【溺愛のアンジェリーヌ】では、ドロレスが幽閉になった事で、かなりの心労があった。
アンジェリーヌの事を諦め、降爵になった家を建て直そうと奔走する事になる。
それ以上の未来は書かれていなかったけど、エミリアンには幸せになって貰いたい。
とってもいい子なんだもん!!
「ありがとう、そんな風に言われたのは初めてだよ、うれしいな…」
エミリアンの血色の悪い頬が、少し赤味を見せ、わたしも赤くなってしまった。
◇◇
翌朝、寮の外にユーグの姿は無かった。
「ユーグ様、どうしたのかしら?」
ブリジットとジェシーは驚いていた。
勿論、わたしも驚いたが、昨日の放課後の事を思い出し、気持ちが重くなった。
「きっと、慣れるまで付き合ってくれていたのよ、安心したんだと思うわ。
行きましょう、遅刻しちゃう!」
わたしは二人に言い、急がせた。
本当にそうだったら良いけど…
義妹離れをして貰うのは有難いが、気まずくなるのは嫌だ。
なんだかんだ言っても、大事な義兄なのだから…
「仲直りしなきゃ…」
昼休憩の食堂で会えるので、そこで仲直りをする事に決めた。
昼休憩までが待ち遠しかった。
わたしはいつも通り、トレイに料理を乗せ、ユーグたちのテーブルに向かった。
ユーグはわたしたちが近付いても顔を上げなかった。
それでも、席は確保してくれていたので、少し望みを持った。
「お義兄様、怒ってる?」
ユーグは食事の手を止めて、「別に」と零した。
うう…その態度、絶対、怒ってるから!!
いつもと違い過ぎて分かり易いわ!!
わたしが取っ掛かりを探していた所、思わぬ場所から助けが入った。
「エリザ、こいつ、昨日からずっとこの調子で、正直迷惑している、何とかしてくれ」
ユーグの向こうから、レオンがうんざりとした顔を覗かせた。
やっぱり、わたしの所為?
「お義兄様、ごめんなさい、でも、わたし、エミリアンが好きなの」
ユーグの拳に力が入り、わたしはビクリとした。
「エミリアンはとってもいい子なのよ!お義兄様にも直ぐに分かって貰えると思うわ…」
【溺愛のアンジェリーヌ】では、特に親しくする場面は無かったが、
ドロレスを追い詰める時には、協力した仲だ。
「そんな事を俺に言う必要はない、どうせ、俺などいない方がいいんだろう」
ユーグは顔を上げず、低い声で言う。
わたしの胸は痛んだ。
「どうして?そんな事、思った事も無いわ!」
「口出しをするなと言ったじゃないか、それに、昨日は席まで換えて俺を避けておいて…
そんなに俺が嫌なら、無理をして一緒にいなくてもいい、おまえはおまえで好きにしろ」
繋いでいた手を振り払われた様に思えた。
酷くショックを受けた。
だが、ユーグも同じだったのかもしれない。
わたしが先に手を振り払ったのだ…
「口出しをして欲しく無かったのは、わたしの人を見る目を信じて欲しかったからよ。
自分の友達くらいは、自分で決めさせて欲しいわ。
お義兄様だって、わたしが『お義兄様のお友達を見定める』なんて言えば、嫌でしょう?」
「……」
「席を換わったのは、わたしの友達と話して欲しくて…お義兄様を避けたんじゃないわ。
それに、お義兄様を嫌いだなんて思った事はないわ。
過保護過ぎるとは思っているけど、昔から頼りにしてるわ、いざという時には、わたしを助けてくれるもの…
ただ、もう少しだけ、わたしを尊重して欲しいの…」
ユーグが頭を落とし、額に手を当てた。
「お義兄様!?具合でも悪いの!?」
「違うよ、エリザ、誤解して悪かったな…」
チラリとわたしに目を向ける。
恥ずかしそうでいて、うれしそうな笑みに、ドキリとしてしまった。
「嫌われたと思って、落ち込んだ…」
「絶対に、嫌いになんてなったりしないわ!
わたしの、たった一人の、大好きなお義兄様だもの!」
ユーグの顔に赤みが刺す。
ユーグは口元を手で隠し、顔を反らした。
「おまえも、俺のたった一人の、可愛い義妹だよ…」
ポンポンと頭を叩かれる。
「もう!お義兄様ってば!髪が崩れちゃうわ!」
「ああ、悪い、おまえの頭は撫で易くて…」
「そんな言い訳、通用しません!」
わたしは報復に、ユーグのトレイからカットされた果実を盗み、口に入れたのだった。
これで、仲直りだ。
兄妹っていいな☆
すっかり、安堵していたのだが…
「エリザ、週末に新入生歓迎パーティがあるだろう?迎えに行くから、一緒に行こう」
まさか、誘われるとは思ってもいなくて、わたしは固まった。
自分だけエスコート役を見つけたなど、言い出し難くて、
まだブリジットとジェシーに話していない。
聞こえちゃうわよね…?
わたしはなるべくユーグに顔を近付けて、それを告げた。
「それが…エミリアンと一緒に行く事にしているの」
瞬間、ユーグも固まった。
だが、先の事もあり、何とか抑えた様だ。
「そうか、それなら、会場で会おう、俺にも紹介してくれ」
うう…怖い!微笑が引き攣ってるから!
「ええ、勿論!お義兄様に紹介したかったの!」
大嘘だ。
だけど、ユーグはエミリアンを受け入れようとしてくれている…
それが分かって、わたしはうれしかった。
「ありがとう、お義兄様!」
わたしはその腕を抱き、肩に頭を摺り寄せた。
何だか、周囲で「キャー!」と声が上がったけど、うん、気の所為ね!
「髪が崩れるんじゃないのか?」
「これは大丈夫なの♪」
「都合の良いヤツだな」
ユーグは呆れつつ、わたしの好きにさせてくれた。
「ふーん、良い事を知った。
これからユーグを怒らせた時には、エリザを召喚する事にしよう」
レオンが軽口を言い、ユーグに叩かれていた。
楽しい昼食を終え、ユーグはわたしたちを女子部棟まで送ってくれた。
わたしたちは笑顔で手を振って、ユーグと別れた。
気分は上場!で、わたしはそれを失念していた。
「エリザ!エミリアン様って…
あの、エミリアン=カントルーブ公爵子息の事じゃないわよねぇ??」
ジェシーの目がまん丸くなっている。
「ええ、その、カントルーブ公爵子息よ」
「そんな人が、エリザのエスコートをしてくれるのぉ!?一体、どうしてぇ??」
「友達になったの、それで、お願いしたら、受けてくれたのよ」
「すごーーーい!やっぱり、エリザは只者じゃないわぁ!」
いえいえ、ただのモブですから☆
ジェシーは「凄い!」と自分の事の様にはしゃいでいたが、ブリジットは違った。
今にも爆発しそうな怒りが伺え、わたしははしゃいでいるジェシーの腕を掴んだ。
「私の頼みは断っておいて!自分はちゃっかり男を捕まえてるなんて、狡いわ!」
「狡くなんてないでしょう、エリザは自分で頼んだのよぉ?
ブリジットだって、頼むチャンスはあったじゃない、それだって、エリザが用意してくれたんでしょう?
エリザを責めるのは違うんじゃないのぉ?」
ジェシーが言ってくれ、わたしは少し安堵した。
良かった、ジェシーだけでも味方でいてくれて…
「エリザが悪いのよ!私の事良く言ってくれるって言った癖に、全然良く言ってくれないし!
《友達》なんて、ジェシーと一纏めにして酷いじゃない!嘘吐き!!
あんたなんか、大嫌い!!」
ブリジットはぶちまけると、さっさと踵を返して行ってしまった。
「放っておきなよ、どうせ八つ当たりだもん、ブリジットも少し頭を冷ました方がいいわ」
ジェシーが慰めてくれ、わたしは頷いた。
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