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しおりを挟む「エミリアン、ダンスに誘ってもいい?」
わたしが聞くと、エミリアンは手を差し出し、
「僕からお願いするよ、僕と踊って下さい、エリザ」
「はい!」
わたしはエミリアンの痩せた手を取った。
エミリアンのリードは流れる様に自然だった。
大きく動く事はしないが、とても優雅だ。
わたしはエミリアンに合わせてダンスを楽しんだが、自分の巨体を制御するのは難しく、直ぐに綻びが出始めた。
「ああ!ごめんなさい!」
足を踏んでしまったり、よろけてしまったり、体を反らすとそのまま倒れそうになった。
それで、一曲終わる頃には、汗だくになっていた。
「ふー、ひぃぃ…」
「エリザ、大丈夫?」
エミリアンはわたしの体を支えてくれ、ダンスフロアから連れ出してくれた。
「だいじょうぶ、だけど、すこし、やすみたい…」
「うん、向こうに行こう…」
テーブルの方へ行き、椅子を引いてくれた。
「飲み物を貰って来るね」
「エミリアン、あなたは大丈夫なの?」
体が弱いエミリアンを使うのは心苦しい。
だが、エミリアンは笑みを見せた。
「うん、今日は調子が良いみたい、エリザといるからかな。
だから、安心して、僕に任せて」
エミリアン~~~♡♡♡
大好き~~~♡♡♡
わたしはビュッフェテーブルに向かうエミリアンの背中に、投げキッスをした。
ふっと、視線を感じて顔を向けると、遠くからこちらを見ている女性がいた。
暗紫色のドレスに、盛り上がった黒髪…ドロレスだ!
わたしは妙な焦りを感じたのだが、ドロレスはフイと顔を背け、人の中に紛れていった。
び、びっくりしたーーー!!
やっぱり、エミリアンの事が気になるのかな?
『白豚が弟に近付かないで下さる?』とか、
『弟をパシリにして、タダで済むと思わないで頂戴!』とか、言われそう!!
恐々としていると、ブリジットとジェシーがやって来た。
「エリザー!」
「いたいた、探したのよ!」
二人共笑顔だが、表面通りではないだろう。
「一緒に来てくれる?ユーグ様と話す機会を作って欲しいの」
「ええ、勿論、でもちょっと待ってね、エミリアンが戻って来るから」
ほどなく、エミリアンが飲み物のグラスを手に戻って来た。
わたしの傍にいる、ブリジットとジェシーに気付き、表情を固くした。
「エミリアン、ありがとう!
紹介するわね、二人はわたしのルームメイトなの、ブリジットとジェシーよ。
こちらは、エミリアン=カントルーブ公爵子息、わたしのお友達よ」
エミリアンは首席だし、公爵子息なので、ブリジットとジェシーは目を輝かせて、気合の入った挨拶をした。
エミリアンの方は、いつもよりも少し硬く、「よろしくお願いします」と短く答えただけだった。
人見知りかしら?
友達がいないといっていたし、コミュ障かもしれない。
「二人をユーグの所に連れて行きたいんだけど、エミリアンも来てくれる?」
「うん、いいよ」
エミリアンはわたしに手を差し出し、立たせてくれた。
ブリジットとジェシーが頬を染めている。
分かるわ!エミリアンは優しいし、王子様みたいだものね!
ユーグを探しながら、ふと、ダンスフロアの二人が目に入った。
レオンとアンジェリーヌ。
二人の親密度は上がっているのだろう、レオンはドロレスの時よりずっと、楽しそうに見えた。
女子生徒たちも、羨望の眼差しで二人を眺めている。
王道カップルだものね…
わたしはチラリとエミリアンを見た。
ドロレスの弟としては、婚約者が他の女性と一緒にいるのを面白く思わないのでは?と思ったが、
幸いにして、エミリアンは二人に気付いていない様で、ユーグを探してくれていた。
「見つけた!ユーグ様よ!」
ブリジットが声を上げる。
見ると、人だかりが出来ていて、その中央にはユーグの姿があった。
女子生徒たちは、ユーグから一定の距離を置いて、話し掛けていた。
『触れるべからず!』という、お達しでも出ているのだろうか?
声を掛ける雰囲気では無かったが、ブリジットに「早く早く!」と後ろから突かれ、仕方なくそちらに向かった。
「お義兄様!」
声を掛けると、案の定、周囲の女子生徒たちはわたしに鋭い目を向けた。
うう…針のムシロだわ。
「エリザ!やっと来たか、行こう、失礼するよ___」
ユーグがわたしの手を引き、歩き出す。
「お義兄様?わたし、約束なんてしていませんよね??」
「ああ、方便だ、何でもいいから、あの場から離れたくてね…」
「お義兄様は、モテモテね!」
わたしは囃し立てたが、ユーグは顔を顰め、頭を振った。
ユーグはお堅いから…
親しくもない女生徒たちと会話を楽しむタイプではない。
わたしたちは適当なテーブル席に着いた。
わたしたちがいれば、ユーグも女子たちから囲まれる事は無いだろう。
わたしは気を利かせて、ユーグの両隣をブリジットとジェシーに譲ってあげた。
ブリジットの隣にわたし、エミリアンと輪になっている。
「お義兄様、ブリジットとジェシーは覚えているでしょう?」
話の切っ掛けだったが、毎日食堂で一緒なのだから、聞くまでもない事で、ユーグに奇妙な顔をされた。
「ああ、記憶力は良い方だ」
あ、少し、ご機嫌斜めかも…
「そうね、それじゃ…二人はお義兄様に任せて、エミリアン、料理を取りに行きましょう!」
わたしは座ったばかりだというのに、エミリアンの手を引き、ビュッフェテーブルに向かった。
流石に違和感を持ったのか、エミリアンが伺う様にわたしを見た。
「エリザ?」
「ごめんなさい、二人がお義兄様と話したいみたいだから…
お詫びに、エミリアンの料理を選んであげるわね!
朝は食べていないんでしょう?」
「うん、今日はね…でも、エリザに教えて貰ってから、なるべく食べる様にしているよ。
少しだけど、食べられる量も増えたんだよ」
エミリアンが「ふふふ」と笑う。
うう~ん!かわいい~~~!!!
「凄いじゃない!それじゃ、まずは…」
わたしは皿に料理を盛り、エミリアンに渡した。
「僕、こんなには食べられないよ…」
不安そうなエミリアンにわたしは余裕の笑みを返した。
「大丈夫よ、残ったらわたしが食べるから!」
わたしたちは笑いながらテーブルに戻った。
心配していたが、ユーグが上手く二人に質問をし、話させている様だった。
「授業はどう?」とか、「もう慣れた?」とか、無難な質問だ。
わたしたちが席に着いた時も、ブリジットは懸命に話していた。
ユーグはそれに頷きながら、わたしをチラリと見て小さく頷いた。
ブリジットが話し終えるのを待って、ユーグが席を立った。
「俺たちも料理を取りに行かないか?」
ユーグに誘われ、ブリジットとジェシーは顔を輝かせて付いて行った。
ユーグが二人を邪険にせず、楽しませていると分かり、感謝の念が浮かんだ。
ユーグは女子たちとは一定の距離を保っていて、それは素っ気なく、冷たいとさえ感じるものだ。
本気を出せば、幾らでも感じ良くなれるのに、それをしないのは、本気の相手ではないからだろう…
お義兄様も、アンジェリーヌと踊りたかったわよね?
ダンスフロアでは、レオンがアンジェリーヌではない他の令嬢と踊っていた。
アンジェリーヌと踊った事で、他の誘いを断れなくなったのだろう。
ユーグはこうなると分かっているから、誰とも踊らないのかしら?
ぼんやりと考えていると、三人が戻って来た。
それから程なくして、レオンがやって来た。
少々厳つい顔つきで、ユーグに向けて短く聞く。
「ユーグ、いいか?」
「ああ、すまない、席を外させて貰うよ」
ユーグはあっさりと席を立った。
だが、相手が第三王子という事もあり、ブリジットとジェシーは愛想良く見送ったのだった。
「エリザ、ありがとう!」
「ユーグ様とお話出来るなんて、夢みたい!」
「ああ、ユーグ様、いい匂いがしたぁ…」
「私はどさくさ紛れて腕に触れたわよ!」
二人は大はしゃぎだが、これはエミリアンには聞かせたくないわ…
「エミリアン、美味しい?」
「うん、美味しいよ、エリザも食べてね」
「うん!美味しい♪」
わたしはエミリアンと二人の世界に入ろうと苦心した。
それでも、聞こえてきてしまう…
「ユーグ様の残された物、食べていいわよね?」
「戻って来られないもの、私たちでお片付けしなくちゃ!」
ううーん、義妹としても聞きたく無かったわ…
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