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しおりを挟む「それじゃ、私たちはこれで…」
ブリジットとジェシーは、わたしたちに気を利かせて席を立った。
わたしは『ありがとう!』とウインクを返し、手を振った。
「エミリアン、少し席を外しても大丈夫?」
「大丈夫だけど、どうしたの?」
「《お花摘み》に…」
わたしが小さく言うと、エミリアンは頬を赤くした。
「余計な事を聞いて、ごめんね」
純粋で可愛い!!
「全然、大丈夫よ」
わたしはエミリアンに笑顔を返し、席を立った。
《お花摘み》からの帰り、会場近くまで戻って来た時、何やら険悪な声が聞こえてきた。
「平民風情が、よくも我が名門王立クレール学院のパーティに出られたものね!」
「名門王立クレール学院の名を穢す気?」
壁際で女子生徒が二人、一人の女子生徒を囲み、追い詰めている。
イジメ!?
それこそ、名門王立クレール学院でよくやるわ!!恥知らずね!!
わたしはふわふわとしたドレスのスカートを抱え上げ、早足で向かった。
ドスドスドス!!
人が見ていると気付けば、相手も思い止まるだろうと思ったのだが、それよりも彼女たちの動きの方が早かった。
「その野暮ったいドレス、私たちが綺麗にしてあげるわよ!」
バシャ!!
「きゃー!!」
何かを掛けられた様だ。
「!!」
わたしが駆け付けようとした時、会場の扉が開き、恰幅の良い、
赤髪、赤いタキシード姿の男子が現れた。
目敏く、女子たちを見つけ、一声を放った。
「おまえら!何やってんだ!!」
女子二人はビクリとして、こちらに逃げて来た。
その顔を見て、わたしは思い出した。
以前、チラリと見た事がある…
ドロレスの取り巻き?
「アンジェリーヌ!大丈夫か!?」
太い声に、わたしは我に返った。
蹲る女子の前で、赤髪の男が膝をついている。
アンジェリーヌだったのね…
わたしはそれに納得していた。
確か、【溺愛のアンジェリーヌ】でも、似たシーンがあった気がする。
アンジェリーヌの生家は平民で裕福ではない、だが、学院で恥を掻かない様にとドレス代を送ってくれたのだ。
だが、ドレス一着分には程遠く、アンジェリーヌは古着店で一着だけあったドレスを手に入れた。
それは奇遇にも、アンジェリーヌの寸法と合っていて、パーティに出席出来たのだが、
二年生の新入生歓迎のパーティの折に、ドロレスの取り巻きにドレスを汚されてしまうのだ。
たった一枚のドレスを汚されては、この先、パーティに出席する事は出来なくなる。
それに、両親が必死に働き送ってくれたお金で手に入れたドレスだ、アンジェリーヌはショックを受けて号泣してしまう。
真っ先に駆けつけたのは、アンジェリーヌと同学年であり、彼女に想いを寄せるアンドリュー=ゲーリン公爵子息…
彼が、アンドリューね!!
アンドリューは剣術、格闘技、武術に長けていて、異名は《学院の用心棒》だ。
小説と同じで、見事な赤毛に、剛健な体付をしている。
「泣くな、アンジェリーヌ!」
アンドリューは励ましているだけで、役に立っている様には見えず、わたしはついつい、口を挟んでしまった。
「ドレスを汚されたの?早く染み抜きをすれば、きっと大丈夫よ」
「染み抜き?」
アンドリューが訝しげにわたしを振り返った。
だが、アンジェリーヌが「わぁ!!」と声を上げて泣き出した。
「もう、駄目よ!!ドレスが駄目になったら、これからはパーティに出られない!
あたしの家には、ドレスを買うお金なんて無いもの!!」
感情的に泣きながらも詳しく説明している。
流石、主人公ヒロインね…ある意味、逞しいわ。
「そんなもん、気にするな!金なら俺が幾らだって出してやる!
おまえに似合うドレスを仕立ててやるよ!あいつらを見返してやろうぜ!!」
「アンドリュー…ありがとう!」
二人で手を取り合って見つめ合う…
完全に二人の世界だ。
なんだか馬鹿っぽいけど、小説でもこんな感じだったかしら?
大事なドレスなんじゃないの?染み抜きすればいいのに…
わたしがぼうっと見下ろしていると、再び会場の扉が開き、今度はユーグ、レオン、エミリアンが出て来た。
ヒロインに恋する男子たちが勢揃いだ。
「エリザ!こんな所で何をしているんだ、遅いから何かあったのかとエミリアンが心配していたぞ!」
「エリザ、大丈夫?」
あら!わたしを心配して来てくれたの?
「ごめんなさい、妙な現場に居合わせてしまって…放っておけなかったの」
「妙な現場?」
皆の視線が床の二人に向かう。
「アンジェリーヌ?どうした、何かあったのか?」
「ドレスを汚されたんだ、あの憎き、ドロレスの取り巻きたちに!」
アンドリューが吐き捨てる様に言う。
エミリアンの顔は、真っ青になった。
エミリアンはドロレスがしている事を知らなかったのだ___!
「ドロレス様はいなかったわ!取り巻きたちが勝手にした事よ!」
わたしはエミリアンを遠避けようとしたが、アンドリューたちの怒りは深かった。
「あいつが仕組んだに決まっているだろう!」
「ああ、ドロレスならやり兼ねん…
アンジェリーヌ、すまない、私の所為だ、ドレスは私が弁償しよう___」
「そんな!レオン様の所為ではありませんわ!こんな事で気に病まないで下さい…」
「そうだ、それに、俺がアンジェリーヌに相応しいドレスを買ってやると、約束したんだ!
例え王子でも、俺の邪魔はさせねーぜ!」
「姉のした事でしたら、弟の僕が責任を取ります…」
エミリアンは責任を感じていた。
だが、アンドリューは恐ろしい目つきでエミリアンを睨み付けた。
「おまえ!あの女の弟か!責任を取るより、他にやる事あんだろ!
金で解決なんか出来ねーんだよ!姉を監視するなり、家に連れ帰るなりしろよ!」
エミリアンは肩を落とし、「申し訳ありません…」と謝罪した。
エミリアンに責任はないのに!わたしはカッとし、エミリアンの前に仁王立ちになった。
「アンドリュー!あなたの怒りは尤もだわ、自分の愛する女性が傷付けられたんですものね!
だけど、エミリアンにまで当たらないでよね!
そもそも、ドロレスはいなかったって言ったでしょう!彼女が仕組んだなんて、勝手に決めつけないでよ!
疑わしきは罰せずよ!まずは、証拠を出しなさいよ!」
ドレスを汚したのは、取り巻き連中だ。
彼女たちは【溺愛のアンジェリーヌ】の中でも、「ドロレスの望み」というのを盾に、好き勝手していたのだ。
全ての責任をドロレスに押し付けようとして、結局は罰則処分になるのだけど…
わたしは「一歩も引かないから!」と、アンドリューをギロリと睨み付けたが、
当のアンドリューは何故か顔を真っ赤にして、あわあわしていた。
「おまっ…ば、馬鹿じゃねーの!誰が、アンジェリーヌを好きだって言ったよ!!
そりゃ、アンジェリーヌとは良く顔を合わせるけどよ、別に、特別な感情なんか…
俺はただ、あの女たちを見返してやりたかっただけだっつーの!!」
あら…
そういえば、アンドリューは見た目に反して、照れ屋だったかしら?
「ごめんなさい、そうね、告白は自分でしなくちゃね…
アンジェリーヌ、今のは聞かなかった事にして頂戴」
わたしは何とかフォローしようとしたのだけど、
「ば、ば、バカヤローーーー!!!」
アンドリューは遠吠えと共に、物凄い勢いで走り去って行った。
「アンドリューは素直じゃないわね…」
肩を竦めて振り返ると、エミリアンとレオン、ユーグが奇妙な顔でわたしを見ていた。
アンジェリーヌなどは、顔を歪め、睨んでいる。
「ごめんなさい、もう、邪魔はしないわ!
それで、ドレスはどうする?大事なドレスでしょう?染み抜きをしましょうか?」
「私が同じ物を仕立てさせよう、我が婚約者の取り巻きのやった事ならば、私が責任を取る。
エミリアン、君が責任を感じる事はない。
それに、責任を取るには子供過ぎる、ここは、将来の義兄に任せるんだ」
「申し訳ありません、殿下…」
エミリアンは頭を落とす。
わたしはエミリアンの細い肩を撫でた。
でも、これでいいのよ。
【溺愛のアンジェリーヌ】でも、レオンが同じ物を仕立てさせ、アンドリューが新しいドレスを買った。
アンジェリーヌは、自分が大事にしているドレスと同じドレスを贈ってくれたレオンに、惚れ直すのだ。
「エミリアン、顔色が悪いわ、寮に戻る?」
「うん…そうさせて貰うよ、ごめんね、エリザ…
姉と話してみます、もし、姉がした事なら、改めて謝罪に伺います…」
わたしがエミリアンを連れて歩き出すと、ユーグも一緒に付いて来た。
「お義兄様、付いて来なくても大丈夫よ?
わたしはエミリアンを襲ったりしないわ」
わたしは軽口を言ったが、ユーグは神妙な顔をしていた。
「おまえは寮に入れないだろう、俺が部屋まで付き添うよ、心配だろう?」
「ありがとう、お義兄様」
やっぱり、ユーグは優しい人だ。
だけど、【溺愛のアンジェリーヌ】でこんな場面はあったかしら?
でも、わたしがイレギュラーな動きをしているんだから、少々違っていても仕方は無いわよね?
「エミリアン、今日はありがとう、その、あまり気に病まないでね…」
「ありがとう、エリザ、それから、ごめんね…」
やはりエミリアンは元気が無かった。
エミリアンは姉を慕っているんだもの、仕方ないわよね…
それもこれも、アンドリューが余計な事を言うからよ!!
「お義兄様、エミリアンをお願いね」
「ああ、任せてくれ、おまえはパーティに戻るのか?」
「ええ、ブリジットとジェシーもいるから」
「そうか、気を付けるんだぞ」
わたしは寮の前でエミリアンをユーグに預け、引き返した。
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