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しおりを挟む「エリザ!」
お腹を満たし、店を出た所で、良く知る声に呼び止められた。
振り向かなくても相手は分かったが、わたしは足を止めて振り返った。
想像通りの人が、一直線に走って来た。
「お義兄様、そんなに急いで、どうしたの?」
「おまえを通りで見たという者がいて、追って来たんだ」
走って来たというのに、ユーグは大して息切れをしていない。
憎たらしい程に、ハイスペックな義兄だ。
「別に追ってまで来なくていいのに…」
あ、つい、本音が漏れてしまったわ!
ユーグがスッと、碧色の目を細くした。
「いや、おまえの様な、か弱く世間知らずな令嬢が、通りに行くのは危ない。
次からは行く前に、俺を誘いなさい」
誘えば付いて来るじゃないですか…
不満はあったが、それを言えば口煩く言われそうなので、飲み込んでおいた。
「お義兄様がいたら、友達も気を遣うし…わたしだって、たまには羽目を外したいし…」
「それなら尚更、俺が付いていた方がいいな」
どうしてそうなるのぉぉぉ???
頼みの綱でジェシーを見たが、彼女はご機嫌で花を飛ばしていた。
「いいじゃないのぉ、エリザぁ、ユーグ様がいてくれると、私たち安心ですぅ♡」
わたしたちの友情は、《ユーグ様》以下なのね。
「視線を感じる…」
周囲を見ると、学院生たちが、遠巻きにこちらを見ていた。
勿論、わたしたちを見ているのではなく、《ユーグ》を見ているのだろう。
ユーグは人目を惹くし、何と言っても、学院の有名人だ。
擦れ違った学院生が、わざわざ足を止めて振り返る程だ。
尤も、眺めるだけで、声を掛けて来る者はいない。
ユーグは愛想が良い方じゃないから…《義妹》に対しては別だけど!
そんな事を思いながら、通りを歩いてると、ふと、目に入った男女カップルがいた。
レオンとアンジェリーヌだ___
二人は並んで歩いて行く。
二人を知らなければ、《恋人たち》と思っただろう。
【溺愛のアンジェリーヌ】でも、二人が一緒に買い物をする場面があった気がする。
王道カップルだし、不思議ではないけど…なんだか、モヤモヤするわ。
ドロレスの話を聞いたからかしら?
「エリザ、どうした?ああ、レオンたちか…」
ユーグの目が二人に向かう。
ユーグは驚いていない。
もしかして、わたしを見たとユーグに伝えたのは、レオンだろうか?
「二人は良く一緒に出掛けているの?レオン様には婚約者がいるのに…」
「エリザ、邪推はいけない、今日はたまたまだよ、
アンジェリーヌのドレスを弁償する事になっただろう?その為の寸法合わせだよ」
成程…
だけど、良く知っているのね…
親友だし、レオンが話しているのだろうか?
レオンってば、ユーグの恋心に気付いていないのね…
わたしはレオンの鈍感さに苛立ち、内心で嘆息した。
ユーグもわたしたちといるより、アンジェリーヌと一緒にいたいわよね?
だが、《ユーグ》の想いは、届く事はない。
程なく、ユーグは家から見合いを勧められる筈だ。
ユーグが断ったので、婚約はしないまでも、婚約者候補として付き合いをする事になる。
世話になり、育てて貰った恩から、両親の頼みを無碍には出来ないのだ。
可哀想なユーグ…
元気出してね…
わたしはユーグの腕を擦った。
不思議そうに見るユーグに、わたしはとっておきの笑顔を見せた。
「お義兄様は、わたしたちとのデートを楽しんでね!」
ユーグが「ふっ」と笑う。
「ああ、そうさせて貰うよ、次は何処に行きたいんだ?」
わたしたちは、ユーグを引っ張り回し、沢山の買い物をした。
中でも、掘り出し物が幾つかあり、その内一つは、箱に入れて貰い、リボンを結んで貰った。
「エリザ、うれしそうだな、良い品が見つかったのか?」
「うん!!お義兄様のお陰よ!」
◇◇
「どうした、今日はやけに機嫌がいいな、エリザ?」
週明けの登校時、目敏いユーグが聞いてきた。
えへへ、やっぱり、分かっちゃう~??
ユーグの言う通りで、わたしは朝から超ご機嫌だった☆
「お義兄様、わたし少し変わったと思わない?」
わたしはユーグを上目に見て、長い睫毛を瞬かせて見せた。
自信があったのだが、ユーグの顔には「?」が浮かんでいる。
「いや、特には…今日は顔に締まりがないとは思ったが…」
失礼ね!
「お義兄様には、特別に教えてあげる!
今朝、体重を測ったら、入学時より、十キロも痩せてたの!凄いでしょう??」
お腹周りの肉とか、お尻とか、太腿とか、少しだけど、スッキリした気がしていたが、
まさか、こんなに痩せているなんて思ってもみず、うれしさも倍増だ!
これも、日々のエクササイズと食事管理の成果ね!
「十キロも痩せて、大丈夫なのか?」
ユーグの返しに、わたしは思わず、あんぐりと口を開けてしまった。
そんな的外れな心配をするのは、ユーグだけだ。
「大丈夫よ!わたしの目標は、後二十キロ減なんだから!」
「あまり無理をするなよ、体を壊しては元も子もなくなる」
「今の状況の方が健康に悪いの!太り過ぎって、病の引き鉄になるのよ?
それに、健康に痩せるのが、わたしのやり方だもん!
お義兄様は安心して見ていて下さい!」
わたしは胸を張ったが、ユーグはわたしの隣のジェシーに目を向けた。
「ジェシー、エリザは大丈夫なのか?」
「は、はい!エリザは運動もしていますし、しっかりしているので、多分…」
どうして、『多分』なのよぉ!
◇
昼休憩の食堂、わたしはトレイに料理を乗せ、いつも通り、エミリアンの隣に座った。
「エミリアン、わたし、週末に通りに行ってきたの、それでね…」
わたしはスカートのポケットに入れていた物を取り出し、エミリアンに向けた。
「エミリアンにピッタリな栞を見つけたの!貰ってくれる?」
「僕に?エリザ、ありがとう、うれしいな…」
エミリアンは頬を赤くし、それを受け取ってくれた。
栞には絵具で絵が描かれていて、それは、水辺に佇む、銀色の竜の姿だった。
竜の目の色は紫色だし、これを見た時、エミリアンの姿が浮かんだのだ。
「銀色の竜…」
「そう!エミリアンっぽいでしょう?」
「ええ!?そんな、僕なんて…」
エミリアンは赤くなり、ぼそぼそと言っていた。
エミリアンは控えめで、謙遜するタイプだから!
そんな所も、可愛い~~~~♡♡♡
ジタバタ悶えていると、ふっと、ユーグがこちらを見ているのに気付いた。
だが、目が合うと、ユーグはさっと顔を背けた。
んんん???
どうしたのかしら??変なお義兄様…
「エリザ、姉さんに話してくれたんでしょう?」
食事を進める中、エミリアンに小声で言われ、わたしは一瞬、何の事かと頭を捻った。
続きを聞き、直ぐにそれを思い出した。
「昨日ね、姉さんから手紙が届いたんだ。
僕の事を避けていたんじゃなくて、王子の婚約者だから、僕を特別扱いすると、周囲に不審を与えるからだって。
僕、姉さんの事、何も分かっていなかったみたい…
姉さんは何れ王子妃になるんだし、言動は制限されるよね…
姉さんの立場も考えずに、嫌われたなんて言って…自分が恥ずかしいよ…」
「ごめんなさい、わたしも余計な事を言ってしまって…」
「ううん、姉さんの考えが分かって、安心したから、ありがとう、エリザ」
エミリアンが怒っていない様なので、安堵した。
「姉さんね、僕に友達が出来た事を喜んでくれて、最近、元気そうだって…
僕の事、見ていてくれたみたい。
離れていても、僕を想っている、僕の事、大事な弟だって言ってくれたんだ…」
「良かったわね、エミリアン」
「うん、全部、エリザのお陰だよ、ありがとう」
エミリアンがふわっと笑う。
ああ、今日も天使は健在です!!!
◇◇
《わたし》は前世で【溺愛のアンジェリーヌ】を読んでいた事もあり、唯一、先の展開を知っている存在と言えるだろう。
そして、わたしは、ドロレスとエミリアンを救いたいと思っている。
「だって、二人共、悪い人じゃないもの…」
それなのに、家は降爵、ドロレスは追放、幽閉なんて…あんまりだ。
この記憶を生かさない手はない___
ドロレスの側にいて、彼女が道を誤るのを止めるのはどうだろうか?
最悪、アンジェリーヌの暗殺計画を立てさせなければ、ドロレスが罰せられる事は無い筈だ。
「わたし、悪役令嬢ドロレスの取り巻きになるわ!」
【溺愛のアンジェリーヌ】でも、《エリザ》はドロレスに陰ながら協力していた。
わたしは、ドロレスとはそれなりに顔見知りだし、難しくはないだろう。
わたしは自分の思い付きに、小躍りしたのだった。
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