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しおりを挟む「ドロレス様!どうか、わたしをあなたの取り巻きに加えて下さい!」
わたしは休憩時間にドロレスの教室に押し掛け、お願いしたのだった。
ドロレスは目を眇めてわたしを見て、直ぐに視線を反らした。
「私は学院の一生徒に過ぎません、取り巻きなど必要ありません」
ドロレスの側で、取り巻き二人がわたしを見下す様に嘲笑しているけど??
それに、『私は王子妃になる者!』『私は第三王子の婚約者!』と、
あれだけ声高に言っておいて、『一生徒』はないでしょう??
勿論、ツッコミは胸の内だけだ。
わたしは聞き流し、熱意を込めて、自分を売り込んだ。
「ドロレス様の様な、素晴らしい令嬢に付いて、わたしも自分を磨きたいんです!
どうか、わたしにドロレス様のお世話をさせて下さい!
買い物でも、靴磨きでも、何でもします!
それに、わたしは美容と健康を学んでいます、必ずドロレス様のお役に立てます!」
取巻き二人が「ぷっ!」と吹き出した。
「美容ですって?白豚なのに?」
「ご自分はまともに管理出来ていないじゃないの!」
「あなたの言う通りにして、ドロレス様が白豚になったら、どう責任を取るおつもり?」
「そうよ!あなたなんかが傍にいたら、ドロレス様が白豚に…ぶはっ!!」
想像したのか、腹を抱えて笑い出した。
教室の生徒たちも、「何?」とこちらを注目する。
ドロレスはジロリと二人を睨み見た。
「あなた方、お止めなさい、はしたないですよ」
だが、二人は泣きながら笑っていて、中々止まらない様だった。
ドロレスは二人に構わず、わたしに視線を向けた。
「あなたがエミリアンの食を変えた事は、称賛します。
ですが、私は王子妃教育を受けていますし、その通り、完璧にこなしています。
この上、あなたに出来る事があるかしら?」
これは、悪役令嬢からの挑戦ね?
「はい、沢山ございます!でも、今は時間が無いので、髪型だけにしますね!」
わたしはドロレスの後ろに立ち、その豊かな黒髪を丁寧に、そして手際良く梳かした。
横の髪を取り、後ろで編込みにする。
銀色や紫色の花の飾りの付いたピンを刺す…
前髪はふんわりと軽く見せる…これぞ、お姫様スタイルだ☆
「こちらです、いかがですか?」
わたしはドロレスに手鏡を持たせ、見て貰った。
ドロレスは驚いた様に目を丸くしていた。
「フン!そんな、安っぽい!」
「ドロレス様には似合いませんわ!」
取巻き二人が貶したが、わたしは自分の腕に自信があったので、
他の生徒に向けて声を上げた。
「他のお姉様方はいかがですか?安っぽいでしょうか?」
「いいえ、とても素敵だわ!」
「ええ、可愛し、とっても洗練されてるわ!」
「私にも教えて!」
概ね好評だったので、わたしは胸を張った。
「あなたの腕は確かな様ですね、エリザ。
あなたには一週間、試用期間をあげましょう、気に入れば、引き続きお願いする事にします」
凄く上から言うな~
流石、悪役令嬢だな~なんて、思っていたけど、違った様だ。
「給金はいか程かしら?」
真顔で聞かれて、わたしは飛び上がりそうになった。
「きゅ、給金!?必要ありません!」
「そうはいきません、行動であり、物であり、頂いた事に対しては、報酬が生じるものです。
それに、私は第三王子の婚約者ですよ?
下級生を無銭で小間使いにしたとあっては、品位を損ないます。
受け取れないというのなら、このお話は無かった事にしましょう」
それは困るわ!!
「でも、生徒内で金銭のやり取りをしては…」
「勿論、申告は必要です。
あなたも従事した事を詳しく書いておきなさい」
意外と、しっかりしているのね…
わたしは無銭で全然良いのだけど…
「承知致しました、ドロレス様」
「期待していますよ、エリザ」
ははー!ありがたき幸せ!
こうして、わたしは、悪役令嬢ドロレスの小間使いになったのだった☆
◇◇
ドロレスの小間使いになった事が、ユーグに知られると面倒なので、
わたしは気付かれない時間帯を使う事にした。
朝、少し早めに登校し、ドロレスの教室を訪ね、化粧と髪型をセットする。
昼休憩、食事を終えた後、ドロレスの教室を訪ね、美容と健康についてのアドバイスをする。
放課後、図書室でエミリアンと一時間ばかり過ごし、ドロレスの寮の部屋を訪ねる___
これで、ユーグには気付かれないだろう!
ジェシーやエミリアンには話していて、口止めと協力を取り付けた。
特に、エミリアンは喜んでいた。
「姉さんとエリザが仲良くなるなんて、うれしいな。
姉さんの事、お願いね、エリザ」
うう…天使!!!
「任されましたーーー!!」
◇◇
「ドロレス様、最近、雰囲気が変わったんじゃね?」
「ああ、なんか、あんなに可愛かったかな?」
「もっと、怖い人かと思ってたけどなー」
「めっちゃ美人だし、流石、第三王子の婚約者だな」
共同棟で擦れ違った男子生徒たちの会話が耳に入り、わたしはこっそりとほくそ笑んだ。
ドロレスのイメージチェンジに心血を注いできたが、効果は上々の様だ。
ドロレスは美人で、目鼻立ちもしっかりしている為、
キツめのメイクは止めて、派手になり過ぎず、ナチュラル感を出すものに変えた。
口紅は毒々しい赤色は止め、青味のあるピンク色にした。
これぞ、知的美人風だ。
近寄りがたかった雰囲気は消え、今では皆が羨望の眼差しを送る様になっていた。
効果が出れば、遣り甲斐もあるというものだ。
わたしは何かを成し遂げた充足感に満足していた。
◇◇
放課後、いつも通りに、図書室でエミリアンと別れ、寮に向かおうとしていた時だ。
「キャー!」
茂みの向こうから悲鳴が上がった。
何事かと駆け付けると、泉の淵で、ずぶ濡れになった女子生徒が蹲っていた。
「あなた、大丈夫!?」
わたしが駆け付けると、女子生徒は顔を上げた。
顔を見て、わたしは彼女がアンジェリーヌだと気付いた。
だが、アンジェリーヌはわたしの助けを無視して、思い切り大声を上げた。
「キャーーー!!ごめんなさい!ごめんなさい!許してーーー!!」
「ちょっと、大丈夫?落ち着いて…」
わたしは落ち着かせ様としたが、アンジェリーヌはわたしの手を振り払った。
茂みがガサガサと音を立て、男子生徒が飛び込んで来た。
見事な金色の髪…レオンだ。
彼は状況に気付くと、すぐさまアンジェリーヌの側に膝を付いた。
「どうした、アンジェリーヌ!何があった!?」
「あ、あたし、泉に落とされて…」
「一体、誰がそんな事を…また、あの女か!?」
アンジェリーヌは頭を振ると、震える手でわたしを指した。
え??わたし???
わたしも驚いていたが、レオンも目を見開いていた。
「わ、わたしは何もしていないわ!たった今、悲鳴を聞いて駆けつけたんだから!」
わたしは強く無実を訴えた。
レオンは茫然としつつ、頭を振った。
「あ、ああ、エリザがこんな事をする理由などない…
アンジェリーヌ、見間違いではないか?」
「本当です!あたし、はっきり見たの!
それに、こんなに太っている女子は彼女しかいないもの!見間違えたりしないわ!」
失礼ね!!
同情する気も失せてしまったわ!
「それに、理由ならあります!彼女、ドロレス様の取り巻きになったんです!
いつも、ドロレス様と一緒にいて、あたしを睨んで来るの…!!」
アンジェリーヌが両手で顔を覆い、声を上げて泣き出した。
「エリザ!本当なのか!?あの女の取り巻きなのか!?」
レオンが恐ろしい目でわたしを睨んだ。
わたしは自分が不利な立場だと知り、真っ青になっていた。
「ドロレス様と親しくしているのは事実ですが、彼女の言った事はデタラメよ!」
「あの女が、どんなに性悪か、君は知らないのか!?
ユーグの義妹だから信用していたというのに…君がそれでは、ユーグも救われない!」
レオンを説得するのは諦め、わたしは話を反らした。
「それより、レオン様!アンジェリーヌを着替えさせないと!」
「分かっている!いいか、二度とアンジェリーヌには近付くな!
この事は、ユーグにも話しておく!」
レオンはアンジェリーヌを抱え上げると、走り去った。
わたしは茫然と二人が去った方を見ていた。
「アンジェリーヌがあんな事を言うなんて…」
わたしは普段ドロレスと一緒にはいないし、アンジェリーヌと遭遇した事もない。
アンジェリーヌが言った事はデタラメだ。
「一体、どうして?」
アンジェリーヌの気が触れたか、それとも…
「まさか、わたしを陥れる為?」
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