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しおりを挟むパーティ会場の学院大ホールに向かうと、エミリアンが入口付近に立っていた。
ユーグはエミリアンに「ありがとう」と礼を言い、「レオンに会って来るから、エリザを頼む」と行ってしまった。
「エミリアン、ごめんなさい、一人にしてしまって…」
「ううん、それより、上手くいったみたいだね?」
わたしの髪に刺した花を見て、エミリアンが笑みを深くした。
「ユーグから、『告白したいから、エリザのエスコートを代わって欲しい』って、頼まれたんだ」
!!??
告白は決定事項だったのね??
告白&宣戦布告だったけど!
「えへへ、ありがとう!」
うれしいけど、照れてしまうわ!
「あのね、エリザ、二人が付き合っても、友達でいてくれる?」
「勿論よ!お互い結婚しても、子供が生まれても、ずっと友達でいてね!」
わたしたちは友情を確かめ合った。
ホールには既に大勢の学院生たちが集まっていた。
エミリアンと共に、前方に進んで行くと、レオンとドロレスの姿が見えた。
だが、ユーグの姿は無い。
「来たな!ユーグはいないのか?まさか、エリザ、ユーグを振ったのではないだろうな?」
レオンまで告白の事を知っていたの??
親友に宣言して告白するのが、学院生の慣わしだなんて言わないわよね??
だけど、幸せだからいい!!
「振る訳ないでしょう!」
「ええ、エリザはユーグが好きですものね」
ドロレスが言い当てるので、わたしは真っ赤になった。
な、な、何故、知っているのですか~~~??
「それより!ユーグはレオンに会いに行くって言ってたけど?来てないの?」
レオンが僅かに眉を寄せた。
「いや、来ていない、どういう事だ?」
わたしたちは顔を見合わせた。
そこでわたしは、《それ》を思い出した。
【溺愛のアンジェリーヌ】では、確かこの時、エリザがユーグを空き部屋に呼び出し、無理心中を図った___
「まさか…!!」
わたしはパーティ会場である大ホールを出て、空き部屋を探した。
尤も、大ホール棟、食堂棟以外は閉鎖されているので、探す場所は限られていた。
控室を片っ端から開けて行く。
脇の階段を上がり、わたしは廊下を走った。
無理心中を図るなら、発見されるのを恐れ、人目に付かない場所を選ぶ筈___
わたしは角部屋の扉を開けた。
「!!」
そこには、ワイングラスを手にしたユーグとディオールの姿があった。
「ユーグ!!飲んでは駄目―――!!」
わたしは反射的に叫んでいた。
ディオールは驚いたのか、手からグラスを滑らせた。
ガシャン!と音を立て、床に散った。
ユーグはグラスを上げて見せ、床に零した。
「ディオール、俺は君の為に死ぬ事は出来ない。
俺はエリザの為に、生きなければいけない。
君もそういう人を見つけてくれ」
ユーグが机にグラスを置き、こちらに向かって歩いて来る。
「心配掛けて悪かったな」
ユーグが微笑を見せる。
わたしは、その胸に飛び込んでいた。
「心配したんだから!!ユーグの馬鹿ぁぁ!!」
「悪かった、だけど、言った通りだ、俺はおまえを置いて死んだりはしないよ」
ユーグの手がわたしの背中に回され、しっかりと抱き締める。
もしかしたら、《ユーグ》は気付いていたの?
《エリザ》が飲み物に毒を入れた事…
気付いていて、飲んだの?
想いには応えられないから、せめて、一緒に死のうと?
今となっては分からない。
だけど、そうあって欲しいと、わたしの内の《エリザ》が望んでいた。
◇
ユーグの話では、レオンに会いに行く途中で、ウエイターからメモを渡された。
『エリザの件で新たな事実が分かりました、二階の角部屋で待っています、
一人で来て下さい、ディオール』
内容が内容なので、ユーグは誰にも告げず、指定された場所に向かった。
既にディオールは来ていた。
「ユーグ様、来て下さったのね…」
「エリザの件で新たに分かった事実というのは何だ?本当か?嘘なら帰らせて貰う」
「勿論、本当です、ですが、ただでは教えられませんわ。
難しい事は申しません、ワインを私と一緒に飲んで頂けますか?
ユーグ様との最後の思い出に…」
ディオールは震える手で二つのグラスにワインを注ぎ、一つをユーグに差し出した。
彼女の手は震え、その表情も何処か狂気を孕んで見えた。
ユーグはそれを指摘する事はせず、手に取った。
ディオールが自分のグラスを、ユーグのグラスに合わせる。
「飲み干した後、真実をお話しますわ」
その笑みも引き攣っていた。
「ディオールは明らかに変だった。
何か入れたのだと思った、だから、最初から飲むつもりは無かったんだ。
どう口を割らせるかが問題で、時間を引き延ばしていた所に、おまえたちが乱入して来たんだ。
正直、驚いたよ___」
ユーグはわたしに「飲むな」と言われて、口を割らせる事もどうでも良くなってしまったらしい。
頼りになるのか、ならないのか、分からないわね!
「結局、聞く事は出来なかった…悪かったな」
「もう、忘れましょう、過去の真実よりも、今が大切だもの」
ディオールが罪を告白したとして、それが何になるだろう?
ディオールが満足するだけだ。
「だが、おまえは来たばかりで、ワインに何か入れられていると、どうして分かったんだ?」
ユーグの目が真剣な色を見せる。
わたしはしばし固まり…
「愛の力!かしら?」
適当な事を言ったのだが、ユーグは気に入った様で、頬にキスをしてくれた。
唇でも良かったのに!
「おまえたち、少しは人目を気にしろ」
レオンに呆れた様に言われたが、レオンには言われたくないのよねー。
レオンとドロレスは、今や学院でも指折りの《バカップル》だ。
「パーティに戻ろう、私はまだ一曲も踊っていないんだ」
「ええ!?ファーストダンスは??」
レオンとドロレスは、ファーストダンスを置いて付いて来たらしい。
友情には感謝!だけど、会場では皆が今か今かと待っているだろう。
皆の為にも、わたしたちは急いで会場に戻ったのだった。
学院生たちはファーストダンスが始まらない事に、何事かとざわめいていた。
そんな中、レオンとドロレスは堂々と登場し、如何にもこれが当初より予定されていた事かの様に振る舞ったので、
皆はすっかり騙され、二人を温かく迎えたのだった。
ダンスフロアの中心で、レオンとドロレスが踊っている。
二人は互いに見つめ合い、その表情には柔らかい笑みがあった。
新入生歓迎パーティの時とは全く違う。
二人は今や、学院生の誰もが認める、理想のカップルだった。
【溺愛のアンジェリーヌ】では考えられない事だ___
そんな事を思ったわたしは、ふと、考えが逸れた。
【溺愛のアンジェリーヌ】では、エリザとユーグの無理心中だけでなく、
アンジェリーヌの暗殺計画があった。
エリザであるわたしが動かなければ、無理心中は避けられると思っていた。
だけど、形を変えて、それは起こった…
それなら、アンジェリーヌの暗殺は?
ゾクリとした。
アンジェリーヌは!?
わたしはパーティ会場を見回した。
「エリザ、どうした?」
「ユーグ、アンジェリーヌは何処かしら?」
「アンジェリーヌ?」
ユーグは訝し気にしたが、わたしは構わずに、「アンジェリーヌを探して!」とその場を離れた。
アンジェリーヌが誰かに狙われているかもしれない。
【溺愛のアンジェリーヌ】で彼女を助けたのは、レオンだった。
今のレオンはアンジェリーヌに近付く事は無い、そうなれば、誰が暗殺を止めるのか___!
「キャーーーー!」
突如、悲鳴が上がり、わたしはギクリとした。
人混みを掻き分けて進む、その先には、薄紅色のドレスに身を包み、豪華に着飾ったアンジェリーヌの姿があり、
近くには、ナイフを手にした警備服の男、そして、その男を捕らえているアンドリューの姿があった。
アンドリュー!
わたしはアンドリューの存在を思い出し、安堵の息を吐いた。
すっかり忘れていたけど、アンドリューも又、アンジェリーヌに心を奪われた一人だ。
「そこを開けろ!」
騒ぎに気付き、警備の者が数人、駆け付けて来た。
だが、状況を見て、青くなった。
「王女様!もしや、この者が王女様の命を狙って?」
警備の者たちが愕然とするのも当然だ。
彼等は、王女の警護を担う者たちなのだから。
だが、あろうことか、男の言った事は…
「ああ、そうだ!王女を暗殺する様に、エリザ=デュランド伯爵令嬢から、金を貰い頼まれた!」
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