33 / 33
最終話
しおりを挟む「ああ、そうだ!王女を暗殺する様に、エリザ=デュランド伯爵令嬢から、金を貰い頼まれた!」
エリザ=デュランド伯爵令嬢…って、わたし!??
わたしは茫然となった。
周囲の生徒たちがわたしに気付き、さっとわたしから離れた。
「エリザ!」
ユーグ、レオン、ドロレス、エミリアンが駆け付けて来て、わたしを囲んだ。
わたしはパニック寸前で、ユーグに縋り、訴えていた。
「わたしじゃない!わたし、何もしていないわ!」
「当たり前だ!おまえがそんな事をする筈がない!」
ユーグがキッパリと言ってくれ、わたしは幾らか安堵した。
「どうせ、おまえの名を騙った誰かだろう!」
「そうですわ!不可解な現象の裏には、何かあるものよ…」
「エリザ、心配しないで、僕たちがついてるよ!」
レオン、ドロレス、エミリアンの言葉に泣きそうになった。
ユーグはわたしを守る様に抱き締めてくれた。
「エリザ=デュランド伯爵令嬢!出て来い!!」
警備の者が叫ぶ。
わたしは恐ろしく、ユーグにしがみ付いていた。
だが、こんな緊迫した状況に、突如、大きな笑い声が轟いた。
「はははっ!はーははははーー!!」
体を仰け反らせて笑っていたのは、アンドリューだった。
「お、おまえは何を笑っている!」
気でも触れたのでは?と、皆が恐々として見ている中、アンドリューは気が済んだのか、笑いを消した。
「あー、悪ィ、悪ィ、あんまり面白い事言うからよー、冗談かと思ったぜ、おい、今の冗談だよな?」
アンドリューが捕まえている男を小突く。
男は顔を上げずに、「冗談ではない!」と吠えた。
「だったら、おまえ、エリザ=デュランド伯爵令嬢の顔、知ってんだろうな?」
「顔は見ていない…フードを被っていた」
「顔を隠す位なら、名だって偽るだろうよ!どうせ、エリザ本人だって証拠は無いんだろう?」
アンドリューの声は野太い、故に、彼の言う事は皆の耳まで届いた。
「確かに、そうだよな…」「顔を隠すのに、本名告げる馬鹿いないよなー」
「しかも、爵位まで言ってんの?」「人の名を騙って、王女を暗殺するなんて酷いわ…」
わたしは聞こえて来る声に安堵した。
「そんでさー、俺、良い事知ってんだよなー」
アンドリューが呑気な調子で言い出し、皆、「今度は何を言い出すんだ?」と、
面白半分、怖いもの見たさで彼を注目した。
アンドリューは男の首根っこを掴み、その耳に向けて言った。
「おまえがアンジェリーヌと一緒にいる所、俺見ちゃった☆」
◆◆ アンジェリーヌ ◆◆
「エリザだけは、絶対に許さない!絶対に幸せになんてさせないわ!」
アンジェリーヌはその胸に、エリザへの激しい憎悪を燃え上がらせていた。
アンジェリーヌは転生者であり、前世では【溺愛のアンジェリーヌ】の読者で、内容も知っていた。
前世を思い出し、自分が《ヒロイン》であると知った時には、世界の全てを手に入れた気分だった。
最初こそ、物語通りに進んでいたが、いつしか、大きく変わってしまっていた。
四人の主要人物から溺愛される筈が、皆離れていき…今や傍にいるのは、アンドリューだけだった。
思い通りにならない事に、アンジェリーヌは酷く苛立っていた。
「あたしがヒロインなのに!!ここはあたしの為にある世界なのに!!」
そして、ままならない原因を、《エリザ》と決めつけたのだった。
「どうせ、《エリザ》は無理心中で死ぬ《モブ》だもの、死んだって構わないわよね。
ううん、《エリザ》の死は絶対に必要だわ、この世界を立て直す為にも___」
アンジェリーヌが考えた方法は、【溺愛のアンジェリーヌ】を模した作戦だった。
人を雇い、学院パーティの会場で、グランピュロス王国の王女である自分を襲わせる。
そして、犯人には、主犯として《エリザ》の名を言わせる。
そうすれば、エリザは【溺愛のアンジェリーヌ】のドロレス同様、追放、幽閉となるだろう___
誰に頼むかだったが、アンジェリーヌが王女という事で、警備は厳しく、会える者は限られていた。
アンドリューでも良かったが、彼にはパーティの折、エスコートをして貰い、且つ、自分を守って貰う必要がある。
そこで一気に距離が縮まり、彼と結ばれる筈だ。
目を付けたのは、警備の男だった。
警備の者といる分には、疑われる事はない。
それに、警備の者に興味を持つ者は稀だ、存在感の無い方が都合も良かった。
「あなた、名は何と言うの?」
「これは、王女様!ジャンと申します…」
「ジャン、いつもご苦労様___」
アンジェリーヌは警備の男に声を掛け、好意があると思わせ、十分に自分に惹き付けてから、話を持ち掛けた。
ジャンは忠誠心があり、詳しい事情を話さなくても良かった。
「エリザは危険人物なの、彼女を排除しなくてはいけないのよ…
あなたはそれ以上知らない方が良いの、
あなたは一旦捕らえられるでしょうけど、必ず救い出すと約束するわ。
これは、大義の為、二人だけの秘密よ___」
ジャンは神妙な顔で、頷いた。
「王女様の為、グランピュロス王国の為ならば、何でも致します」
◆◆◆ ◇◇◇
「俺さー、あんたらが何か企んでんのか気になって、それとなく尾行してたんだよ。
何かしたら止める気だったけど、まさか、アンジェリーヌを狙うとはなー」
「ち、違う!!王女様は関係ない!会ってもいない!いい加減な事を言うな!!」
「へー、暗殺しようとした相手を庇うんだ?オモロイねー、あんた。
尤も、暗殺するなら、二人きりの時の方がいいよな?
何で、突然、暗殺しようと思ったんだよ、まさか、痴情の縺れじゃねーよな?」
アンドリューに言われ、男は沈黙した。
側にいて傍観していた警備の者たちは、「はっ」とし、「不敬罪だぞ!」とアンドリューを責めた。
「悪ィ、悪ィ、それで、アンジェリーヌ、あんたは何か言う事ねーの?
自演でしたって言えば?余興だって事にすれば、皆許してくれるぜ?」
アンジェリーヌは険しい顔をしていたが、一瞬で表情を消した。
「あたしは何も存じません、この者とは会った事も話した事もないわ」
冷たく言い切った。
「それじゃ、仕方ないな、王宮に行くかー。
俺は見た事を全て話す、俺の名誉に掛けて、絶対にこの男の口を割らせてやる!
アンジェリーヌ、逃げられると思うなよ!」
アンドリューは啖呵を切り、男を引っ張って行く。
警備の者たちは後ろから慌てて付いて行った。
「レオン様、アンジェリーヌ様はいかがなさいましょうか?」
警備の一人に聞かれたレオンは、王子然として答えた。
「襲われ掛けたのだぞ、王宮へ連れて行き、保護すべきだろう」
「はい、その様に致します___」
アンジェリーヌは警備の者に付き添われ、会場を出て行った。
わたしたちはそれを遠目に見ていたが、突如、「私も王宮に行く!」とレオンが宣言した。
「エリザ、安心しろ、おまえの疑いは晴らしてやる!」
「レオン様!御願い致します」
答えたのは、わたしでもユーグでもなく、ドロレスだった。
レオンは熱い瞳でドロレスを見つめ、「ああ、任せろ」と彼女の肩を撫でた。
すっかり二人の世界が出来上がっていて、わたしたちは声も出せず、頬を赤くするしかなかった。
レオンはドロレスに暫しの別れを告げると、颯爽と会場を出て行った。
恐らく、彼等と一緒の馬車で王宮に戻るつもりだろう。
パーティは中断していたが、再び音楽が流れ出し、賑やかさを取り戻した。
「エリザ、気にするな…と言っても無理か」
「ううん、大丈夫!アンドリューが証言してくれるし、
レオン様もドロレス様もエミリアンも、わたしを信じてくれたし、
それに、ユーグがいるもの!」
誰に何を言われても、わたしは大丈夫。
皆がいてくれるから、
ユーグがいるから、
絶対に、生き残ってみせるわ___!
「ユーグ!踊りましょう!わたしたち、まだ踊っていないのよ?」
ユーグは微笑み、わたしにその手を差し出した。
◇◇
その後、男の証言から、アンジェリーヌの自演だった事が判明した。
この事は、グランピュロス王国にも伝えられ、王室を震撼させたらしい。
アンジェリーヌはグランピュロス王国に強制送還される事になり、一度も学院に登校する事無く、国を去った。
わたしとアンドリューは名誉を取り戻し、一躍、学院の有名人となった。
注目され慣れているアンドリューは、陽気に対応しているらしい。
わたしはと言えば…
「見て!エリザ様だわ!」
「今日も素敵ね~」
「大国の王女にも嫉妬されるんですもの、当然ね!」
「知ってる?彼女、ドロレス様ともお友達なのよ!」
「確か、白豚って呼ばれてたよな?」
「すっかり見違えたなー」
「可愛いし、なんかいいよなー」
「彼女の可愛さを見抜いていたユーグ様って、凄いよなー」
「ありがとう!あなたも、ありがとう!
メイクを教えて欲しい?いいわよ、明日の朝でいいかしら?」
アンドリュー同様、陽気に対応している☆
「ユーグ!」
共同棟の入り口に、ユーグの姿を見つけ、わたしは駆け出した。
地面を蹴り、彼の胸に飛び込む。
固く逞しい胸は、すんなりとわたしを抱き止めた。
「髪型が崩れるんじゃないのか?」
「いいの!愛の証だもの!」
わたしたちは笑い、唇を重ねた。
この夏休暇は、一緒にデュランド伯爵館に帰り、両親に結婚の許しを得るつもりだ。
わたしたちの物語は、まだまだ始まったばかり☆
《完》
394
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~
浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。
「これってゲームの強制力?!」
周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。
※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます
氷雨そら
恋愛
本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。
「君が番だ! 間違いない」
(番とは……!)
今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。
本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。
小説家になろう様にも投稿しています。
王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする
葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。
そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった!
ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――?
意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる