5 / 21
5
しおりを挟むクマの人形は寝る時の抱き枕のつもりだった。
夜、シリルをベッドに入れ、クマの人形も一緒に入れてあげた。キョトンとしていたが、放り出さなかったので『OK』なのだろう。
クマの人形に因んで、うろ覚えではあるが【金太郎】の話をしてあげた。
「金太郎は小さいけど、とっても強かったの、熊さんと相撲をとっていた…相撲は分からないかな?」
相撲の説明は難しく、翌日、相撲の絵を描いて見せ、メイドのポレットを相手に見本を見せる事になった。
「シャルリーヌ様?これでいいんですか~?」
「回しは無いし、これでいくわよ、はっけよーい、のこった!のこった!」
「のこった、のこった…えい!」
流石、辺境の地のメイド…わたしはすんなり転がされてしまった。
「変な格闘技ですね、初めてです!」
「ええ、どこかの民族の格闘技らしいわ」
「シャルリーヌ様は博識ですねー。
そうだ!シャルリーヌ様、皆、お菓子を喜んでいました、ありがとうございます!
それでは、あたしは仕事に戻りまーす!」
ポレットは十代後半くらいで、元気いっぱいだ。
彼女が部屋を出て行き、わたしは相撲の絵を片付けた。
ふと、クマの人形相手に相撲の真似事をしているシリルが目に入り、危うく吐血しそうになった。ぶほっ!!可愛い!!
「相撲はシリルがする事は無いと思うわ、あまり役には立たないし…
それより、お父様みたいに剣とか武術を習うといいわね」
小説の《シリル》は運動や格闘等はしなかったが、いざという時の為に嗜んでおいた方が良いだろう。
ヒロインたちに討たれない様に…んんー、そうしたら、世界は破滅しちゃうかな?
「さぁ、シリル、これから楽しいゲームをしましょう!」
わたしはニヤリと笑い、昨日仕入れたカードを取り出した。所謂、トランプの様なものだ。
シリルは初めて見るのだろう、オッドアイの目を丸くしていた。
この部屋には娯楽が一つもないものね…辺境伯ってば、生真面目なのかしら?騎士団長なんて脳筋かと思ってたわ。
「カードゲームよ、色々な遊びが出来るの、最初は簡単なものがいいわね…
《神経衰弱》にしましょう!」
記憶力を試されるゲームだ、シリルの集中力や記憶力を測れるかもしれない。
ルールを教える時にはあどけない顔を見せていたが、いざゲームを開始すると、シリルの表情は怖いほど無表情になった。
そして、まるで機械の如く、カードを引っ繰り返していく。カードが合った時と、違った時、どちらもリアクションが無い!!
わたしはお手本とばかりに、大袈裟にリアクションを見せた。
「うわー!違ってたー!!」
「やったー!合ったよー!イェーイ!!」
それも数回で、中盤からはシリルが続け様にカードを取って行き、途中で混ぜてやったが、それでもわたしの番は回って来なかった。
記憶力、凄っ!!運も良いしっ!!流石、小説のラスボス様!!
「ええっと…面白かった?」
聞くと、とってもうれしそうな顔が返って来たので、負けると分かっていながら、何回も付き合ってしまった。
◇
街では、紙や絵具、カード、ボール、縄跳び…と知育的な物と、寝かし付け用に子供向けの本や冒険小説等を買っていた。
シリルはこれまで娯楽とは縁が無かった様で、何をするのにも興味を持ち、楽しんでくれた。
「今日は、お庭に出て遊びましょう!」と言うと驚いていた。
「坊ちゃまは外には出られません」と言ったのはネリーだ。
「それは、出たくないという意味?」
「前奥様が外は危険だと、出されなかったのです…」
「カルヴァン様も同じ考えなの?」
「旦那様は何も言われませんので…ですが、坊ちゃまは嫌がります」
「分かったわ」
わたしはボールを持ち、シリルに向かった。
「お外で遊ぶ人~!」と言いながら手を挙げると、シリルも釣られたのか小さな手を挙げた。
「それじゃ、着替えましょう、そんな綺麗な服を汚したら、お父様に怒られちゃうわ!」
わたしはさっさとシリルの服を脱がせ、買ってきた町の子用のシャツとズボンを着せた。
「ネリー、行って来るわね」と言うと、乳母はもう何も言わなかった。
「外は広いわよ~、気持ちいいわよ~」
繋いだ手を振りながら玄関に行くと、執事が寄って来た。流石執事、玄関を見張っているのね?
「シリル様、シャルリーヌ様、どちらへ?」
「庭を散歩するわ、ボールで少し遊ぶけど、何も壊さない様に気を付けるわ」
執事は一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに「いってらっしゃいませ」と頭を下げた。
シリルの母親はどうしてシリルを外に出さなかったのかしら?
外が危険だなんて…もしかして、《魔眼》だから?外の方が人の悪意に触れやすいとか?
気になったが、部屋の中だけでは体に良くない、病気になっては元も子もないだろうと考えない事にした。
「綺麗なお庭ね~、シリルは花が好きかしら?」
シリルはキョロキョロと周りを見ている。そして、しゃがみ込んだかと思うと、小さな虫を見ていた。
虫に興味を持つなんて、男の子あるあるかしら?
「触っては駄目よ、握ったら潰れて死んでしまうから、殺さないようにね。
小さな虫さんにも命があるの、きっと家族もいるわ、死んじゃうと悲しむわ…」
将来のラスボスに命の尊さを説く…ちょっと変な気がするし、わたしなんかが偉そうに言える事でも無いんだけど。
でも、いつか思い出してくれますように。
翌日から、午前中は庭で散歩やボール遊び、縄跳びをする事にした。
午後からは、読書やゲームの時間に当てた。
シリルは寝つきが悪い子だったが、外で遊ぶ様になり、ベッドに入ると直ぐに眠る様になった。昼寝をする時もある。
その変化に乳母も驚いていた。
「部屋から出なかった坊ちゃまが…
坊ちゃまは普段と違う事をするのは嫌がっていましたのに…」
部屋の中が安全に思えたのだろう。
実母がそう言い聞かせていたのかもしれない。
わたしが買い物に出掛けた時、シリルは凄く心配していた、それは、こういう背景からだろうか?
わたしが外から色々な物を運んで来る事で、シリルの好奇心が高くなったのかもしれない。
いつも通り、シリルと庭を散歩していると、何処からともなく男たちが現れ、わたしたちを取り囲んだ。
皆、フードを被り、マスクをしている。身形は薄汚れていて、荒くれ者の様だ。
「痛い目を見たくなければ、子供を置いていけ!」
誘拐!?人攫い!?
わたしは咄嗟にボールをぶつけると、シリルの手を引き、駆け出した。
「待て!!」
「だ、誰かーーー!人攫いよーーーー!!」
暴漢に入られるなんて、ここの警備はどうなってるのよ!!
わたしは喚きながら走ったが、シリルは小さい子供で速くは走れない、直ぐに男たちに囲まれてしまった。
わたしはシリルに被さる様にして、蹲る。
「助けて!!誰かーーーーーーーーー!!」
男たちがわたしをシリルから引き剥そうとしてくる、蹴ったり、髪を掴んだり…
きっと、誰かが気付いて来てくれる筈!執事はいつも玄関を見張っている位だもの…
誰かが来るまで耐えればいい…お願い、お願い!早く来て!!
「しぶといヤツだな!こいつ…!!」
ビシューーーーーーーーーーーツ!!
気付くと、暴力は止んでいた。それ処か、人の気配が無くなった。
わたしは恐る恐る顔を上げ、周囲を見た。
周囲に男たちはいない、わたしはガタガタと震えながらシリルを抱き締め、泣いていた。
「うう、うわあああん!!」
怖かったよーーー!!
もう、怖いの、嫌あぁぁーーー!!!
「ふええええ」と情けなく号泣していると、漸く使用人たちがバタバタと走って来た。
「シャルリーヌ様!?」
「どうなさったのですか!?」
あなたたち、遅いのよーーー!!辺境伯の使用人の癖にーーー!!高い給金貰ってる癖にーーー!!
悪態を吐きながらも、緊張の糸が切れ、わたしは気を失った。
651
あなたにおすすめの小説
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~
しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。
豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。
――食事が、冷めているのだ。
どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。
「温かいごはんが食べたい」
そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。
地下厨房からの高速搬送。
専用レーンを爆走するカートメイド。
扉の開閉に命をかけるオープナー。
ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!?
温かさは、ホッとさせてくれる。
それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。
冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、
食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ!
-
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
【完結】確かにモブ…私モブのはずなんです!
水江 蓮
恋愛
前世の記憶を持つミュリエルは、自分の好きだった乙女ゲームに転生していることに気がついた。
しかもモブに!
自分は第三者から推しを愛でれると思っていたのに…
あれ?
何か様子がおかしいな…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる