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「シリル、帰る前に、もう一度本屋に寄ってもいいかしら?」
そのまま辺境伯邸に帰るつもりでいたが、どうしてもあの本が気になり、本屋に入った。
【古の術書】
《魔眼》に関する記述があるかもしれない。
よくよく考えてみれば、わたしは《魔眼》を知っているとは言えない。《小説》の知識だけで、そもそも記憶も曖昧だ。
どういうものかを知りたい、もしかしたら、何か助けになるかも…
わたしは淡い期待を胸に、呪術、魔術関係の本を抜き出した。
購入の際には紙で包んで貰い、更に袋に入れて貰った。
「お母様、どんな本を買ったの?」
「古い本なの、わたしの父に送ってあげようと思って…」
シリルに嘘を吐くのは良心が痛んだが、シリルの口からカルヴァンに伝わる事を避けたかった。
呪術を嫌悪しているカルヴァンに、幾ら説明した処で、聞いて貰える気はしない。
そういえば…と、わたしはこれまで考えなかった《メレーヌ》の事を思い出した。
メレーヌは呪術に心頭していて、研究もしていた。ならば、館にはメレーヌの研究資料や彼女が使っていた本があるのでは?
わたしはそれに気付き、内心で小躍りした。
辺境伯邸に帰ると直ぐに、事件に遭遇した件、それでカルヴァンの帰りが遅くなる事を家令に伝えた。
「そうでしたか、シリル様の誕生日だというのに残念ですが、ご無事で何よりです」
「ええ、二人だけど、晩餐は予定通りにしてね」
「承知致しました、奥様、お荷物をお持ち致します」
家令がわたしの抱えている袋を見た。わたしは後ろめたさもあり焦ってしまった。
「い、いえ、大丈夫よ、たまには運動しなくちゃ!
さぁ、シリル、着替えましょう!」
シリルを部屋へ送り、わたしは自分の部屋に急いだ。
部屋に入っても安心出来ず、わたしはキョロキョロと目を動かして本の隠し場所を探した。
「ああ、まるで、大金を持ってる気分!」
そわそわして落ち着かないわ!!
ベッドマットの下?クローゼットの奥?引き出しの中は見ないわよね??んんん…
「ここが良いわ!」
画材を纏めている場所で、袋のまま置いておけば画材の一部に見える筈だ。
特に、絵に興味が無い者にはね!
「完璧な擬態!さぁ、急がなきゃ!」
息つく間もなく、わたしは町娘のドレスを脱ぎ捨て、華やかなドレスに着替えた。
髪を整え、化粧を直し、鏡を覗き込んでチェックする。
「うん、美人よ!」
わたしは満足のいく出来映えに頷くと、包みを持って再びシリルの部屋へ向かった。
「シリル!七歳のお誕生日、おめでとう~!誕生日のプレゼントよ!」
プレゼントは薄くやや長方形の包みで、青色のリボンを掛けている。
シリルは頬を赤くし「ありがとうございます!」と両手で受け取った。
そわそわとしながらも、小さな手は慎重にリボンを外し、包みを開いた。
中身を見たシリルは、目と口を大きくした。
「!!これ、僕!?こっちは、お父様だ!」
わたしからのプレゼントは、わたしが油絵具で描いた《父子》の絵だ。
「そうよ、似ているかしら?」
「似てる!凄い!僕とお父様!」
シリルが絵を掲げてくるくると回る。
「喜んで貰えて良かったわ、わたしが描いたのよ!」
「お母様凄い!でも、お母様がいない…お母様も描いて!」
「そう?それじゃ、一度持ち帰るわね」
「ここで描いて!描くのを見たい!」
うう、お誕生日様の我儘は断れない!いや、そもそもシリルの望みは全て叶えてあげたい!
馬鹿親なわたしは速攻、画材を取りに走ったのだった。
シリルの後ろにカルヴァンを描いていたので、《わたし》はカルヴァンの隣に入れる事にした。
カルヴァンが見たら、『契約妻の癖に図々しい』と思うかしら?
『この婚姻は五年で解消するんだぞ』とかなんとか言いそう!
想像のカルヴァンに内心で笑いつつ、わたしは筆に絵具を付け、板のキャンバスに向かったのだった。
晩餐の時間になり、わたしは内心わくわくとしながらシリルと食堂に向かった。
「!!」
食堂に入ったシリルは、鮮やかな布や色紙、花等で飾り付けられた壁やテーブルに、目を丸くし口をぽかんと開けて驚いていた。
わたしたちが外出している間に、使用人たちに飾り付けをして貰ったのだ。
料理もシリルの好きなものを出して貰った。
デザートは生クリームのケーキで、チョコレートの板に《シリル7歳おめでとう》と書いて貰っていた。
「凄い!」
シリルは素直な驚きを見せ、どれも喜んでくれ、終始笑顔だった。
だけど、この場にカルヴァンがいたら、きっと、もっともっと幸せだっただろう…
カルヴァンの立場であれば、一緒に居られない事は珍しくないだろう、寂しくはあるが、一方で『責任感のある人だ』と誇らしく思う。
だから、祈ろう。
カルヴァンが家族と共に過ごせる様に、平和と平穏を…
「彼がいる時間を、もっと大切にしなくちゃ…」
その夜、わたしは【古の術書】を読みながらカルヴァンの帰りを待っていたが、結局、彼が帰って来たのは翌朝になってからだった。
あの後、セザールは駆付けて合流したのか、二人で帰って来た姿を見て少々妬けてしまった。
「シャルリーヌ!早いな…まさか、シリルに何かあったのか!?」
カルヴァンはわたしを見て驚いた。そういう所も憎たらしいわ!
「いいえ、誕生日は恙なく終わり、シリルも喜びました。
昨日の事が気になって早くに目が覚めてしまったんです、よろしければ、事件の顛末を教えて頂けますか?」
「私の部屋…いや、書斎で話そう」
考えてみれば、カルヴァンは徹夜をしたのだろう、顔に疲労困憊の色が滲んで見えた。
「ごめんなさい、あなたは疲れているわよね、一度寝てからでいいわ。
話はセザールから聞いてもいいし…」
「辺境伯夫人、私も疲れております」
セザールはしっかりと主張をする。彼はわたしが契約妻だと知っているものね!
一方、契約夫のカルヴァンは優しかった。
「話す位大丈夫だ、行こう、シャルリーヌ」とわたしを書斎に促した。
カルヴァンの話によると、魔獣を捕獲し見世物にしている店があり、そこから逃げ出した魔獣が広場に乱入したという事だった。
魔獣を虐待したり酷い扱いをしていて、管理も杜撰だったので、いつ逃げ出しても不思議は無かったそうだ。
魔獣の捕獲、見世物、売買は許可されていない為、店を特定し、検挙したのだった。
「酷い話ね!魔獣が可哀想よ!」
「ああ、事情に関わらず、人間を襲えば処分しなくてはいけない…」
意外だったが、カルヴァンも魔獣の殺傷には反対だった様だ。
「あなたが気に病む事は無いわ、あなたは皆を護ったんだもの。
憎むべきはこんな事を引き起こした強欲人間たちよ!人間とも呼びたくないわ!」
「ふっ、怒ってくれてありがとう、少し救われたよ」
カルヴァンの目が優しい。
少し潤んでいて、あの時の事を思い出し、わたしは緊張した。
だが、疲れていたカルヴァンは、次の瞬間には眠りに落ちていた。
ガクリと体が揺れ、頭を落とす。
「もう!ヘタレなんだから!」
わたしは彼の逞しい体をソファに倒し、ブランケットに包んであげた。
巨体なのでブランケットは二枚必要だった。
ふふ、熊みたいで可愛い!
「お疲れさま、旦那様…」
ブランケットから覗く黒い髪に、そっと唇を落とした。
◇
「遅くなってすまなかった、七歳おめでとう、シリル」
目が覚めたカルヴァンは、シリルの部屋を訪れ、昨日渡せなかったプレゼントを渡した。
それは訓練用の子供用の剣で、シリルは大いに喜んだ。
「剣だ!ありがとう、お父様!!」
やっぱり、男の子は剣とかカッコイイものが好きなのね…
ちょっと負けた気がして悔しい。
「お父様、お母様からのプレゼントです!」
シリルが得意気にわたしの描いた油絵を見せたので、わたしは緊張とドキドキで綯い交ぜになった。
カルヴァンは喜ぶかしら?それとも、嫌かしら?
「これは、私たちか!いつの間に肖像画を頼んだんだ?」
「お父様、これは、お母様が描いたんです!」
「君が!?」
カルヴァンが目を見開いた。初めて見るおかしな顔に、わたしはつい吹き出してしまった。
「なんだ、冗談か…」
「冗談ではありません、こちらの絵の画家は《わたし》です!」
「見事だ、それに良い絵だ、しかし、君が絵を嗜むとは知らなかった…」
「能ある鷹はなんとやらです!」
「まったく、君は多才だな」カルヴァンが『参った』という様に零したので、わたしの口元はゆるゆるになった。
お茶の時間には、わたしとシリルでパンケーキを焼き、重ねてクリームと果物で飾り、ケーキを作った。
そして、カルヴァンと一緒に、誕生日会のやり直しをした。
やはり、カルヴァンがいるとシリルの笑顔はより輝いて見えた。
今のシリルは、誰から見ても《普通の子》で《幸せな子》だった。
《小説》のシリルや、シリルのこれまでの事を思い、わたしの胸は切なくなった。
ずっと、こんな日が続けばいい…
そう願ったが、二日後、カルヴァンがまたもや仕事で家を空ける事になった。
「シリル、これまで通り勉強と訓練に励む様に」
「はい!」
「シャルリーヌ、すまないが、家の事とシリルを頼む」
「はい、お任せ下さい、どうか、ご武運を」
「ありがとう、行って来る…」
カルヴァンがわたしの頬に、触れるか触れないかのキスをした。
「!??」
わたしは驚き固まったが、直ぐに、シリルや使用人たちの手前、《夫婦ごっこ》をしたのだと思い当たった。
わたしだけ翻弄されて、馬鹿みたい!
もう、もう、もう~~~!嫌いじゃないのが、悔しい!!
そのまま辺境伯邸に帰るつもりでいたが、どうしてもあの本が気になり、本屋に入った。
【古の術書】
《魔眼》に関する記述があるかもしれない。
よくよく考えてみれば、わたしは《魔眼》を知っているとは言えない。《小説》の知識だけで、そもそも記憶も曖昧だ。
どういうものかを知りたい、もしかしたら、何か助けになるかも…
わたしは淡い期待を胸に、呪術、魔術関係の本を抜き出した。
購入の際には紙で包んで貰い、更に袋に入れて貰った。
「お母様、どんな本を買ったの?」
「古い本なの、わたしの父に送ってあげようと思って…」
シリルに嘘を吐くのは良心が痛んだが、シリルの口からカルヴァンに伝わる事を避けたかった。
呪術を嫌悪しているカルヴァンに、幾ら説明した処で、聞いて貰える気はしない。
そういえば…と、わたしはこれまで考えなかった《メレーヌ》の事を思い出した。
メレーヌは呪術に心頭していて、研究もしていた。ならば、館にはメレーヌの研究資料や彼女が使っていた本があるのでは?
わたしはそれに気付き、内心で小躍りした。
辺境伯邸に帰ると直ぐに、事件に遭遇した件、それでカルヴァンの帰りが遅くなる事を家令に伝えた。
「そうでしたか、シリル様の誕生日だというのに残念ですが、ご無事で何よりです」
「ええ、二人だけど、晩餐は予定通りにしてね」
「承知致しました、奥様、お荷物をお持ち致します」
家令がわたしの抱えている袋を見た。わたしは後ろめたさもあり焦ってしまった。
「い、いえ、大丈夫よ、たまには運動しなくちゃ!
さぁ、シリル、着替えましょう!」
シリルを部屋へ送り、わたしは自分の部屋に急いだ。
部屋に入っても安心出来ず、わたしはキョロキョロと目を動かして本の隠し場所を探した。
「ああ、まるで、大金を持ってる気分!」
そわそわして落ち着かないわ!!
ベッドマットの下?クローゼットの奥?引き出しの中は見ないわよね??んんん…
「ここが良いわ!」
画材を纏めている場所で、袋のまま置いておけば画材の一部に見える筈だ。
特に、絵に興味が無い者にはね!
「完璧な擬態!さぁ、急がなきゃ!」
息つく間もなく、わたしは町娘のドレスを脱ぎ捨て、華やかなドレスに着替えた。
髪を整え、化粧を直し、鏡を覗き込んでチェックする。
「うん、美人よ!」
わたしは満足のいく出来映えに頷くと、包みを持って再びシリルの部屋へ向かった。
「シリル!七歳のお誕生日、おめでとう~!誕生日のプレゼントよ!」
プレゼントは薄くやや長方形の包みで、青色のリボンを掛けている。
シリルは頬を赤くし「ありがとうございます!」と両手で受け取った。
そわそわとしながらも、小さな手は慎重にリボンを外し、包みを開いた。
中身を見たシリルは、目と口を大きくした。
「!!これ、僕!?こっちは、お父様だ!」
わたしからのプレゼントは、わたしが油絵具で描いた《父子》の絵だ。
「そうよ、似ているかしら?」
「似てる!凄い!僕とお父様!」
シリルが絵を掲げてくるくると回る。
「喜んで貰えて良かったわ、わたしが描いたのよ!」
「お母様凄い!でも、お母様がいない…お母様も描いて!」
「そう?それじゃ、一度持ち帰るわね」
「ここで描いて!描くのを見たい!」
うう、お誕生日様の我儘は断れない!いや、そもそもシリルの望みは全て叶えてあげたい!
馬鹿親なわたしは速攻、画材を取りに走ったのだった。
シリルの後ろにカルヴァンを描いていたので、《わたし》はカルヴァンの隣に入れる事にした。
カルヴァンが見たら、『契約妻の癖に図々しい』と思うかしら?
『この婚姻は五年で解消するんだぞ』とかなんとか言いそう!
想像のカルヴァンに内心で笑いつつ、わたしは筆に絵具を付け、板のキャンバスに向かったのだった。
晩餐の時間になり、わたしは内心わくわくとしながらシリルと食堂に向かった。
「!!」
食堂に入ったシリルは、鮮やかな布や色紙、花等で飾り付けられた壁やテーブルに、目を丸くし口をぽかんと開けて驚いていた。
わたしたちが外出している間に、使用人たちに飾り付けをして貰ったのだ。
料理もシリルの好きなものを出して貰った。
デザートは生クリームのケーキで、チョコレートの板に《シリル7歳おめでとう》と書いて貰っていた。
「凄い!」
シリルは素直な驚きを見せ、どれも喜んでくれ、終始笑顔だった。
だけど、この場にカルヴァンがいたら、きっと、もっともっと幸せだっただろう…
カルヴァンの立場であれば、一緒に居られない事は珍しくないだろう、寂しくはあるが、一方で『責任感のある人だ』と誇らしく思う。
だから、祈ろう。
カルヴァンが家族と共に過ごせる様に、平和と平穏を…
「彼がいる時間を、もっと大切にしなくちゃ…」
その夜、わたしは【古の術書】を読みながらカルヴァンの帰りを待っていたが、結局、彼が帰って来たのは翌朝になってからだった。
あの後、セザールは駆付けて合流したのか、二人で帰って来た姿を見て少々妬けてしまった。
「シャルリーヌ!早いな…まさか、シリルに何かあったのか!?」
カルヴァンはわたしを見て驚いた。そういう所も憎たらしいわ!
「いいえ、誕生日は恙なく終わり、シリルも喜びました。
昨日の事が気になって早くに目が覚めてしまったんです、よろしければ、事件の顛末を教えて頂けますか?」
「私の部屋…いや、書斎で話そう」
考えてみれば、カルヴァンは徹夜をしたのだろう、顔に疲労困憊の色が滲んで見えた。
「ごめんなさい、あなたは疲れているわよね、一度寝てからでいいわ。
話はセザールから聞いてもいいし…」
「辺境伯夫人、私も疲れております」
セザールはしっかりと主張をする。彼はわたしが契約妻だと知っているものね!
一方、契約夫のカルヴァンは優しかった。
「話す位大丈夫だ、行こう、シャルリーヌ」とわたしを書斎に促した。
カルヴァンの話によると、魔獣を捕獲し見世物にしている店があり、そこから逃げ出した魔獣が広場に乱入したという事だった。
魔獣を虐待したり酷い扱いをしていて、管理も杜撰だったので、いつ逃げ出しても不思議は無かったそうだ。
魔獣の捕獲、見世物、売買は許可されていない為、店を特定し、検挙したのだった。
「酷い話ね!魔獣が可哀想よ!」
「ああ、事情に関わらず、人間を襲えば処分しなくてはいけない…」
意外だったが、カルヴァンも魔獣の殺傷には反対だった様だ。
「あなたが気に病む事は無いわ、あなたは皆を護ったんだもの。
憎むべきはこんな事を引き起こした強欲人間たちよ!人間とも呼びたくないわ!」
「ふっ、怒ってくれてありがとう、少し救われたよ」
カルヴァンの目が優しい。
少し潤んでいて、あの時の事を思い出し、わたしは緊張した。
だが、疲れていたカルヴァンは、次の瞬間には眠りに落ちていた。
ガクリと体が揺れ、頭を落とす。
「もう!ヘタレなんだから!」
わたしは彼の逞しい体をソファに倒し、ブランケットに包んであげた。
巨体なのでブランケットは二枚必要だった。
ふふ、熊みたいで可愛い!
「お疲れさま、旦那様…」
ブランケットから覗く黒い髪に、そっと唇を落とした。
◇
「遅くなってすまなかった、七歳おめでとう、シリル」
目が覚めたカルヴァンは、シリルの部屋を訪れ、昨日渡せなかったプレゼントを渡した。
それは訓練用の子供用の剣で、シリルは大いに喜んだ。
「剣だ!ありがとう、お父様!!」
やっぱり、男の子は剣とかカッコイイものが好きなのね…
ちょっと負けた気がして悔しい。
「お父様、お母様からのプレゼントです!」
シリルが得意気にわたしの描いた油絵を見せたので、わたしは緊張とドキドキで綯い交ぜになった。
カルヴァンは喜ぶかしら?それとも、嫌かしら?
「これは、私たちか!いつの間に肖像画を頼んだんだ?」
「お父様、これは、お母様が描いたんです!」
「君が!?」
カルヴァンが目を見開いた。初めて見るおかしな顔に、わたしはつい吹き出してしまった。
「なんだ、冗談か…」
「冗談ではありません、こちらの絵の画家は《わたし》です!」
「見事だ、それに良い絵だ、しかし、君が絵を嗜むとは知らなかった…」
「能ある鷹はなんとやらです!」
「まったく、君は多才だな」カルヴァンが『参った』という様に零したので、わたしの口元はゆるゆるになった。
お茶の時間には、わたしとシリルでパンケーキを焼き、重ねてクリームと果物で飾り、ケーキを作った。
そして、カルヴァンと一緒に、誕生日会のやり直しをした。
やはり、カルヴァンがいるとシリルの笑顔はより輝いて見えた。
今のシリルは、誰から見ても《普通の子》で《幸せな子》だった。
《小説》のシリルや、シリルのこれまでの事を思い、わたしの胸は切なくなった。
ずっと、こんな日が続けばいい…
そう願ったが、二日後、カルヴァンがまたもや仕事で家を空ける事になった。
「シリル、これまで通り勉強と訓練に励む様に」
「はい!」
「シャルリーヌ、すまないが、家の事とシリルを頼む」
「はい、お任せ下さい、どうか、ご武運を」
「ありがとう、行って来る…」
カルヴァンがわたしの頬に、触れるか触れないかのキスをした。
「!??」
わたしは驚き固まったが、直ぐに、シリルや使用人たちの手前、《夫婦ごっこ》をしたのだと思い当たった。
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もう、もう、もう~~~!嫌いじゃないのが、悔しい!!
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