14 / 21
14
「シリル、帰る前に、もう一度本屋に寄ってもいいかしら?」
そのまま辺境伯邸に帰るつもりでいたが、どうしてもあの本が気になり、本屋に入った。
【古の術書】
《魔眼》に関する記述があるかもしれない。
よくよく考えてみれば、わたしは《魔眼》を知っているとは言えない。《小説》の知識だけで、そもそも記憶も曖昧だ。
どういうものかを知りたい、もしかしたら、何か助けになるかも…
わたしは淡い期待を胸に、呪術、魔術関係の本を抜き出した。
購入の際には紙で包んで貰い、更に袋に入れて貰った。
「お母様、どんな本を買ったの?」
「古い本なの、わたしの父に送ってあげようと思って…」
シリルに嘘を吐くのは良心が痛んだが、シリルの口からカルヴァンに伝わる事を避けたかった。
呪術を嫌悪しているカルヴァンに、幾ら説明した処で、聞いて貰える気はしない。
そういえば…と、わたしはこれまで考えなかった《メレーヌ》の事を思い出した。
メレーヌは呪術に心頭していて、研究もしていた。ならば、館にはメレーヌの研究資料や彼女が使っていた本があるのでは?
わたしはそれに気付き、内心で小躍りした。
辺境伯邸に帰ると直ぐに、事件に遭遇した件、それでカルヴァンの帰りが遅くなる事を家令に伝えた。
「そうでしたか、シリル様の誕生日だというのに残念ですが、ご無事で何よりです」
「ええ、二人だけど、晩餐は予定通りにしてね」
「承知致しました、奥様、お荷物をお持ち致します」
家令がわたしの抱えている袋を見た。わたしは後ろめたさもあり焦ってしまった。
「い、いえ、大丈夫よ、たまには運動しなくちゃ!
さぁ、シリル、着替えましょう!」
シリルを部屋へ送り、わたしは自分の部屋に急いだ。
部屋に入っても安心出来ず、わたしはキョロキョロと目を動かして本の隠し場所を探した。
「ああ、まるで、大金を持ってる気分!」
そわそわして落ち着かないわ!!
ベッドマットの下?クローゼットの奥?引き出しの中は見ないわよね??んんん…
「ここが良いわ!」
画材を纏めている場所で、袋のまま置いておけば画材の一部に見える筈だ。
特に、絵に興味が無い者にはね!
「完璧な擬態!さぁ、急がなきゃ!」
息つく間もなく、わたしは町娘のドレスを脱ぎ捨て、華やかなドレスに着替えた。
髪を整え、化粧を直し、鏡を覗き込んでチェックする。
「うん、美人よ!」
わたしは満足のいく出来映えに頷くと、包みを持って再びシリルの部屋へ向かった。
「シリル!七歳のお誕生日、おめでとう~!誕生日のプレゼントよ!」
プレゼントは薄くやや長方形の包みで、青色のリボンを掛けている。
シリルは頬を赤くし「ありがとうございます!」と両手で受け取った。
そわそわとしながらも、小さな手は慎重にリボンを外し、包みを開いた。
中身を見たシリルは、目と口を大きくした。
「!!これ、僕!?こっちは、お父様だ!」
わたしからのプレゼントは、わたしが油絵具で描いた《父子》の絵だ。
「そうよ、似ているかしら?」
「似てる!凄い!僕とお父様!」
シリルが絵を掲げてくるくると回る。
「喜んで貰えて良かったわ、わたしが描いたのよ!」
「お母様凄い!でも、お母様がいない…お母様も描いて!」
「そう?それじゃ、一度持ち帰るわね」
「ここで描いて!描くのを見たい!」
うう、お誕生日様の我儘は断れない!いや、そもそもシリルの望みは全て叶えてあげたい!
馬鹿親なわたしは速攻、画材を取りに走ったのだった。
シリルの後ろにカルヴァンを描いていたので、《わたし》はカルヴァンの隣に入れる事にした。
カルヴァンが見たら、『契約妻の癖に図々しい』と思うかしら?
『この婚姻は五年で解消するんだぞ』とかなんとか言いそう!
想像のカルヴァンに内心で笑いつつ、わたしは筆に絵具を付け、板のキャンバスに向かったのだった。
晩餐の時間になり、わたしは内心わくわくとしながらシリルと食堂に向かった。
「!!」
食堂に入ったシリルは、鮮やかな布や色紙、花等で飾り付けられた壁やテーブルに、目を丸くし口をぽかんと開けて驚いていた。
わたしたちが外出している間に、使用人たちに飾り付けをして貰ったのだ。
料理もシリルの好きなものを出して貰った。
デザートは生クリームのケーキで、チョコレートの板に《シリル7歳おめでとう》と書いて貰っていた。
「凄い!」
シリルは素直な驚きを見せ、どれも喜んでくれ、終始笑顔だった。
だけど、この場にカルヴァンがいたら、きっと、もっともっと幸せだっただろう…
カルヴァンの立場であれば、一緒に居られない事は珍しくないだろう、寂しくはあるが、一方で『責任感のある人だ』と誇らしく思う。
だから、祈ろう。
カルヴァンが家族と共に過ごせる様に、平和と平穏を…
「彼がいる時間を、もっと大切にしなくちゃ…」
その夜、わたしは【古の術書】を読みながらカルヴァンの帰りを待っていたが、結局、彼が帰って来たのは翌朝になってからだった。
あの後、セザールは駆付けて合流したのか、二人で帰って来た姿を見て少々妬けてしまった。
「シャルリーヌ!早いな…まさか、シリルに何かあったのか!?」
カルヴァンはわたしを見て驚いた。そういう所も憎たらしいわ!
「いいえ、誕生日は恙なく終わり、シリルも喜びました。
昨日の事が気になって早くに目が覚めてしまったんです、よろしければ、事件の顛末を教えて頂けますか?」
「私の部屋…いや、書斎で話そう」
考えてみれば、カルヴァンは徹夜をしたのだろう、顔に疲労困憊の色が滲んで見えた。
「ごめんなさい、あなたは疲れているわよね、一度寝てからでいいわ。
話はセザールから聞いてもいいし…」
「辺境伯夫人、私も疲れております」
セザールはしっかりと主張をする。彼はわたしが契約妻だと知っているものね!
一方、契約夫のカルヴァンは優しかった。
「話す位大丈夫だ、行こう、シャルリーヌ」とわたしを書斎に促した。
カルヴァンの話によると、魔獣を捕獲し見世物にしている店があり、そこから逃げ出した魔獣が広場に乱入したという事だった。
魔獣を虐待したり酷い扱いをしていて、管理も杜撰だったので、いつ逃げ出しても不思議は無かったそうだ。
魔獣の捕獲、見世物、売買は許可されていない為、店を特定し、検挙したのだった。
「酷い話ね!魔獣が可哀想よ!」
「ああ、事情に関わらず、人間を襲えば処分しなくてはいけない…」
意外だったが、カルヴァンも魔獣の殺傷には反対だった様だ。
「あなたが気に病む事は無いわ、あなたは皆を護ったんだもの。
憎むべきはこんな事を引き起こした強欲人間たちよ!人間とも呼びたくないわ!」
「ふっ、怒ってくれてありがとう、少し救われたよ」
カルヴァンの目が優しい。
少し潤んでいて、あの時の事を思い出し、わたしは緊張した。
だが、疲れていたカルヴァンは、次の瞬間には眠りに落ちていた。
ガクリと体が揺れ、頭を落とす。
「もう!ヘタレなんだから!」
わたしは彼の逞しい体をソファに倒し、ブランケットに包んであげた。
巨体なのでブランケットは二枚必要だった。
ふふ、熊みたいで可愛い!
「お疲れさま、旦那様…」
ブランケットから覗く黒い髪に、そっと唇を落とした。
◇
「遅くなってすまなかった、七歳おめでとう、シリル」
目が覚めたカルヴァンは、シリルの部屋を訪れ、昨日渡せなかったプレゼントを渡した。
それは訓練用の子供用の剣で、シリルは大いに喜んだ。
「剣だ!ありがとう、お父様!!」
やっぱり、男の子は剣とかカッコイイものが好きなのね…
ちょっと負けた気がして悔しい。
「お父様、お母様からのプレゼントです!」
シリルが得意気にわたしの描いた油絵を見せたので、わたしは緊張とドキドキで綯い交ぜになった。
カルヴァンは喜ぶかしら?それとも、嫌かしら?
「これは、私たちか!いつの間に肖像画を頼んだんだ?」
「お父様、これは、お母様が描いたんです!」
「君が!?」
カルヴァンが目を見開いた。初めて見るおかしな顔に、わたしはつい吹き出してしまった。
「なんだ、冗談か…」
「冗談ではありません、こちらの絵の画家は《わたし》です!」
「見事だ、それに良い絵だ、しかし、君が絵を嗜むとは知らなかった…」
「能ある鷹はなんとやらです!」
「まったく、君は多才だな」カルヴァンが『参った』という様に零したので、わたしの口元はゆるゆるになった。
お茶の時間には、わたしとシリルでパンケーキを焼き、重ねてクリームと果物で飾り、ケーキを作った。
そして、カルヴァンと一緒に、誕生日会のやり直しをした。
やはり、カルヴァンがいるとシリルの笑顔はより輝いて見えた。
今のシリルは、誰から見ても《普通の子》で《幸せな子》だった。
《小説》のシリルや、シリルのこれまでの事を思い、わたしの胸は切なくなった。
ずっと、こんな日が続けばいい…
そう願ったが、二日後、カルヴァンがまたもや仕事で家を空ける事になった。
「シリル、これまで通り勉強と訓練に励む様に」
「はい!」
「シャルリーヌ、すまないが、家の事とシリルを頼む」
「はい、お任せ下さい、どうか、ご武運を」
「ありがとう、行って来る…」
カルヴァンがわたしの頬に、触れるか触れないかのキスをした。
「!??」
わたしは驚き固まったが、直ぐに、シリルや使用人たちの手前、《夫婦ごっこ》をしたのだと思い当たった。
わたしだけ翻弄されて、馬鹿みたい!
もう、もう、もう~~~!嫌いじゃないのが、悔しい!!
そのまま辺境伯邸に帰るつもりでいたが、どうしてもあの本が気になり、本屋に入った。
【古の術書】
《魔眼》に関する記述があるかもしれない。
よくよく考えてみれば、わたしは《魔眼》を知っているとは言えない。《小説》の知識だけで、そもそも記憶も曖昧だ。
どういうものかを知りたい、もしかしたら、何か助けになるかも…
わたしは淡い期待を胸に、呪術、魔術関係の本を抜き出した。
購入の際には紙で包んで貰い、更に袋に入れて貰った。
「お母様、どんな本を買ったの?」
「古い本なの、わたしの父に送ってあげようと思って…」
シリルに嘘を吐くのは良心が痛んだが、シリルの口からカルヴァンに伝わる事を避けたかった。
呪術を嫌悪しているカルヴァンに、幾ら説明した処で、聞いて貰える気はしない。
そういえば…と、わたしはこれまで考えなかった《メレーヌ》の事を思い出した。
メレーヌは呪術に心頭していて、研究もしていた。ならば、館にはメレーヌの研究資料や彼女が使っていた本があるのでは?
わたしはそれに気付き、内心で小躍りした。
辺境伯邸に帰ると直ぐに、事件に遭遇した件、それでカルヴァンの帰りが遅くなる事を家令に伝えた。
「そうでしたか、シリル様の誕生日だというのに残念ですが、ご無事で何よりです」
「ええ、二人だけど、晩餐は予定通りにしてね」
「承知致しました、奥様、お荷物をお持ち致します」
家令がわたしの抱えている袋を見た。わたしは後ろめたさもあり焦ってしまった。
「い、いえ、大丈夫よ、たまには運動しなくちゃ!
さぁ、シリル、着替えましょう!」
シリルを部屋へ送り、わたしは自分の部屋に急いだ。
部屋に入っても安心出来ず、わたしはキョロキョロと目を動かして本の隠し場所を探した。
「ああ、まるで、大金を持ってる気分!」
そわそわして落ち着かないわ!!
ベッドマットの下?クローゼットの奥?引き出しの中は見ないわよね??んんん…
「ここが良いわ!」
画材を纏めている場所で、袋のまま置いておけば画材の一部に見える筈だ。
特に、絵に興味が無い者にはね!
「完璧な擬態!さぁ、急がなきゃ!」
息つく間もなく、わたしは町娘のドレスを脱ぎ捨て、華やかなドレスに着替えた。
髪を整え、化粧を直し、鏡を覗き込んでチェックする。
「うん、美人よ!」
わたしは満足のいく出来映えに頷くと、包みを持って再びシリルの部屋へ向かった。
「シリル!七歳のお誕生日、おめでとう~!誕生日のプレゼントよ!」
プレゼントは薄くやや長方形の包みで、青色のリボンを掛けている。
シリルは頬を赤くし「ありがとうございます!」と両手で受け取った。
そわそわとしながらも、小さな手は慎重にリボンを外し、包みを開いた。
中身を見たシリルは、目と口を大きくした。
「!!これ、僕!?こっちは、お父様だ!」
わたしからのプレゼントは、わたしが油絵具で描いた《父子》の絵だ。
「そうよ、似ているかしら?」
「似てる!凄い!僕とお父様!」
シリルが絵を掲げてくるくると回る。
「喜んで貰えて良かったわ、わたしが描いたのよ!」
「お母様凄い!でも、お母様がいない…お母様も描いて!」
「そう?それじゃ、一度持ち帰るわね」
「ここで描いて!描くのを見たい!」
うう、お誕生日様の我儘は断れない!いや、そもそもシリルの望みは全て叶えてあげたい!
馬鹿親なわたしは速攻、画材を取りに走ったのだった。
シリルの後ろにカルヴァンを描いていたので、《わたし》はカルヴァンの隣に入れる事にした。
カルヴァンが見たら、『契約妻の癖に図々しい』と思うかしら?
『この婚姻は五年で解消するんだぞ』とかなんとか言いそう!
想像のカルヴァンに内心で笑いつつ、わたしは筆に絵具を付け、板のキャンバスに向かったのだった。
晩餐の時間になり、わたしは内心わくわくとしながらシリルと食堂に向かった。
「!!」
食堂に入ったシリルは、鮮やかな布や色紙、花等で飾り付けられた壁やテーブルに、目を丸くし口をぽかんと開けて驚いていた。
わたしたちが外出している間に、使用人たちに飾り付けをして貰ったのだ。
料理もシリルの好きなものを出して貰った。
デザートは生クリームのケーキで、チョコレートの板に《シリル7歳おめでとう》と書いて貰っていた。
「凄い!」
シリルは素直な驚きを見せ、どれも喜んでくれ、終始笑顔だった。
だけど、この場にカルヴァンがいたら、きっと、もっともっと幸せだっただろう…
カルヴァンの立場であれば、一緒に居られない事は珍しくないだろう、寂しくはあるが、一方で『責任感のある人だ』と誇らしく思う。
だから、祈ろう。
カルヴァンが家族と共に過ごせる様に、平和と平穏を…
「彼がいる時間を、もっと大切にしなくちゃ…」
その夜、わたしは【古の術書】を読みながらカルヴァンの帰りを待っていたが、結局、彼が帰って来たのは翌朝になってからだった。
あの後、セザールは駆付けて合流したのか、二人で帰って来た姿を見て少々妬けてしまった。
「シャルリーヌ!早いな…まさか、シリルに何かあったのか!?」
カルヴァンはわたしを見て驚いた。そういう所も憎たらしいわ!
「いいえ、誕生日は恙なく終わり、シリルも喜びました。
昨日の事が気になって早くに目が覚めてしまったんです、よろしければ、事件の顛末を教えて頂けますか?」
「私の部屋…いや、書斎で話そう」
考えてみれば、カルヴァンは徹夜をしたのだろう、顔に疲労困憊の色が滲んで見えた。
「ごめんなさい、あなたは疲れているわよね、一度寝てからでいいわ。
話はセザールから聞いてもいいし…」
「辺境伯夫人、私も疲れております」
セザールはしっかりと主張をする。彼はわたしが契約妻だと知っているものね!
一方、契約夫のカルヴァンは優しかった。
「話す位大丈夫だ、行こう、シャルリーヌ」とわたしを書斎に促した。
カルヴァンの話によると、魔獣を捕獲し見世物にしている店があり、そこから逃げ出した魔獣が広場に乱入したという事だった。
魔獣を虐待したり酷い扱いをしていて、管理も杜撰だったので、いつ逃げ出しても不思議は無かったそうだ。
魔獣の捕獲、見世物、売買は許可されていない為、店を特定し、検挙したのだった。
「酷い話ね!魔獣が可哀想よ!」
「ああ、事情に関わらず、人間を襲えば処分しなくてはいけない…」
意外だったが、カルヴァンも魔獣の殺傷には反対だった様だ。
「あなたが気に病む事は無いわ、あなたは皆を護ったんだもの。
憎むべきはこんな事を引き起こした強欲人間たちよ!人間とも呼びたくないわ!」
「ふっ、怒ってくれてありがとう、少し救われたよ」
カルヴァンの目が優しい。
少し潤んでいて、あの時の事を思い出し、わたしは緊張した。
だが、疲れていたカルヴァンは、次の瞬間には眠りに落ちていた。
ガクリと体が揺れ、頭を落とす。
「もう!ヘタレなんだから!」
わたしは彼の逞しい体をソファに倒し、ブランケットに包んであげた。
巨体なのでブランケットは二枚必要だった。
ふふ、熊みたいで可愛い!
「お疲れさま、旦那様…」
ブランケットから覗く黒い髪に、そっと唇を落とした。
◇
「遅くなってすまなかった、七歳おめでとう、シリル」
目が覚めたカルヴァンは、シリルの部屋を訪れ、昨日渡せなかったプレゼントを渡した。
それは訓練用の子供用の剣で、シリルは大いに喜んだ。
「剣だ!ありがとう、お父様!!」
やっぱり、男の子は剣とかカッコイイものが好きなのね…
ちょっと負けた気がして悔しい。
「お父様、お母様からのプレゼントです!」
シリルが得意気にわたしの描いた油絵を見せたので、わたしは緊張とドキドキで綯い交ぜになった。
カルヴァンは喜ぶかしら?それとも、嫌かしら?
「これは、私たちか!いつの間に肖像画を頼んだんだ?」
「お父様、これは、お母様が描いたんです!」
「君が!?」
カルヴァンが目を見開いた。初めて見るおかしな顔に、わたしはつい吹き出してしまった。
「なんだ、冗談か…」
「冗談ではありません、こちらの絵の画家は《わたし》です!」
「見事だ、それに良い絵だ、しかし、君が絵を嗜むとは知らなかった…」
「能ある鷹はなんとやらです!」
「まったく、君は多才だな」カルヴァンが『参った』という様に零したので、わたしの口元はゆるゆるになった。
お茶の時間には、わたしとシリルでパンケーキを焼き、重ねてクリームと果物で飾り、ケーキを作った。
そして、カルヴァンと一緒に、誕生日会のやり直しをした。
やはり、カルヴァンがいるとシリルの笑顔はより輝いて見えた。
今のシリルは、誰から見ても《普通の子》で《幸せな子》だった。
《小説》のシリルや、シリルのこれまでの事を思い、わたしの胸は切なくなった。
ずっと、こんな日が続けばいい…
そう願ったが、二日後、カルヴァンがまたもや仕事で家を空ける事になった。
「シリル、これまで通り勉強と訓練に励む様に」
「はい!」
「シャルリーヌ、すまないが、家の事とシリルを頼む」
「はい、お任せ下さい、どうか、ご武運を」
「ありがとう、行って来る…」
カルヴァンがわたしの頬に、触れるか触れないかのキスをした。
「!??」
わたしは驚き固まったが、直ぐに、シリルや使用人たちの手前、《夫婦ごっこ》をしたのだと思い当たった。
わたしだけ翻弄されて、馬鹿みたい!
もう、もう、もう~~~!嫌いじゃないのが、悔しい!!
あなたにおすすめの小説
婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~
白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」
枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。
土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。
「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」
あなた誰!?
やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!
虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
前世社畜の令嬢、『複式簿記』で没落領地を即黒字化!〜冷徹補佐官と最強の仕事中毒パートナーになり極上ハーブ茶で王都席巻〜
黒崎隼人
恋愛
前世、ブラック企業で過労死したアリア・ローズは、没落寸前の男爵令嬢として転生した。
目を覚ますと、そこは借金まみれで破綻寸前の領地。このままでは修道院送りのバッドエンド……!
「冗談じゃないわ。私の平穏な老後は、私がこの手で掴み取る!」
前世の知識と異常なまでの仕事への情熱を武器に、アリアは立ち上がる。
どんぶり勘定の帳簿に『複式簿記』を導入し、悪徳代官の不正を暴き、領地の特産品であるハーブ茶の包を改良して王都へ売り込む!
そんな彼女を最初は冷ややかに見ていた有能な若き補佐官ルーク・ウォレン。
しかし、彼女の底知れぬ知識と熱意に当てられた彼は、やがて彼女の「最強の仕事中毒パートナー」となっていく。
夜の執務室、二人きりで飲む琥珀色のハーブ茶。数字の羅列から始まった冷徹な関係は、いつしかかけがえのない絆へと変わっていき——。
「私があなたの隣で数字を弾き出す。そのための、終身契約です」
前世社畜の令嬢と冷徹補佐官が織りなす、痛快な領地再建&じれ甘ラブストーリー、ここに開幕!
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
【電子書籍化決定】悪役令嬢に転生しましたがモブが好き放題やっていたので私の仕事はありませんでした
蔵崎とら
恋愛
まさかの電子書籍化決定しました!発売日は4月25日です。
かなり大幅な加筆をしております。
詳細は活動報告をご覧ください!
権力と知識を持ったモブは、たちが悪い。そんなお話。
このお話は他サイトにも掲載しております。
異世界に来て10年、伝えられない片想いをしている――伴侶と認識されているとは知らずに
豆腐と蜜柑と炬燵
恋愛
異世界に来て、10年。
田中緑(26歳)は、町の食事亭で働きながら、穏やかな日常を過ごしている。
この世界で生きていけるようになったのは、あの日――
途方に暮れていた自分を助けてくれた、一人の狼の半獣人のおかげだった。
ぶっきらぼうで、不器用で、それでも優しい人。
そんな彼に、気づけば10年、片想いをしている。
伝えるつもりはない。
この気持ちは、ずっと胸の中にしまっておくつもりだった。
――けれど。
彼との距離が少しずつ変わっていくたび、
隠していたはずの想いは、静かに溢れはじめる。
これは、
10年伝えられなかった片想いが、
ゆっくりと形を変えていく物語。
※番外編含めて完結済みです。