【完結】義弟に逆襲されています!

白雨 音

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前日譚

1 アンジェラ

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「私が死んでしまったら、ミゲルはどうなるのかしら…」

アンジェラ・クロフトは元より病弱だったが、
五年前に父のクロフト男爵が亡くなった事で気落ちし、長く床に臥せる様になった。
そして、この冬、酷い流感に掛かった事で、いよいよ自分の命が尽き掛けている事を感じていた。

熱に浮かされる中、アンジェラの頭には、愛する幼い息子、ミゲルの顔が浮かんでは消える。

「あの人は、当てにはならない…」

《あの人》というのは、アンジェラの夫で、現クロフト男爵、ケヴィンの事だ。

アンジェラとケヴィン、二人の結婚を決めたのは、アンジェラの父だった。
アンジェラは一人娘で、結婚相手が爵位を継ぐ事になる為、
父は男爵に相応しい優秀な男を探していた。
ケヴィンは父の仕事を手伝っており、優秀な男で、そこを見込まれたのだった。
残念ながら、父の関心事は《男爵家》の事で、ケヴィンの人となりを分かっていなかった。
ケヴィンが上手く猫を被っていたからとも言える。

アンジェラは当初から、ケヴィンが爵位と財産目当てである事に気付いていた。
極めて健常者であるケヴィンは、病人や虚弱体質の者を見下していた。
父の手伝いで館に居る事が多かったが、アンジェラを汚いものでも見る様な目で見ていたし、
なるべく会わない様に避けていた。
結婚を勧められ、手の平返して愛想が良くなったが、それは父の前でだけだった。

いざ、結婚してしまえば、ケヴィンはアンジェラを無視し、避けた。
何かと理由をつけ、家に居ない事も多く、メイドたちの噂では「外に愛人がいる」という事だった。
父はアンジェラの体が弱い事から、早い内にと跡継ぎを望んでいた。

「子はまだ出来ないのか?」

父から煩く催促されたケヴィンは、二人になると父を罵倒し、
「おまえが余計な事を吹き込んだんだろう!」とアンジェラを罵った。
アンジェラはケヴィンに愛情など持っていなかったが、父の為に耐えていた。

アンジェラにとって、何より大事なのは、父だった。
母は十年前に恋人と出て行き、以降、父は母の分まで、アンジェラに愛情を注いでくれた。
父娘、二人で支え合い生きて来たのだ。

ケヴィンとの行為に愛はなかった。
だが、子を授かると、その子に対し、不思議と愛情が生まれた。

ケヴィンは子を授かった事で、「役目は果たした」と、再びアンジェラを遠避けた。
外泊も増えたが、ケヴィンは館に居てもいつも不機嫌で、
アンジェラや使用人たちを罵倒する為、寧ろ居ない方が良かった。

生まれた子が男子だったので、父は「これで男爵気は安泰だ!」と喜んだ。
ケヴィンは父の手前、愛想良くしていたが、子を抱こうとも、顔を見ようともしなかった。
アンジェラが僅かに持っていた、ケヴィンへの期待は、これで完全に消え去ったといって良い。

以降、アンジェラは、ケヴィンは居ないものとして、
ただただ、息子に愛情を注ぎ、育ててきた。



ミゲルが二歳の年、アンジェラの父が亡くなった。
アンジェラは愛する父を失い、酷く気落ちし、床に臥せる事が多くなった。
そんなアンジェラの救いは、ミゲルの存在だった。
ミゲルがいるからこそ、「生きなければ」と自分を奮い立たせる事が出来るのだ。

物心がつくと、ミゲルは《父》にも関心を持つ様になった。

「お父様は、どうしていないの?」

「お父様は仕事でお忙しいの。
男爵家の為に働いているのだから、困らせない様にしてね」

素直なミゲルはすんなりと信じ、「うん!」と明るく笑った。
そんな息子を、アンジェラは不憫に思っていた。

愛してくれない父親を持つなんて…

アンジェラ自身も母に捨てられた子だ。
アンジェラにはその辛さが、身に染みて分かった。
だから、ケヴィンが自分や息子を嫌っている事を、ミゲルには気付かせたくなかった。

それは、概ね成功していたと言える。

だが、もし、自分がいなくなったら…

ケヴィンは嬉々として、愛人と再婚するだろう。
もし、愛人との間に子が出来たら?
あのケヴィンだ、汚い手を使ってでも、ミゲルから爵位を取り上げるだろう。
きっと、爵位も財産も、ミゲルには渡らない…

この先、ケヴィンは決して、ミゲルを愛する事は無い…

死ぬ前に、何か手を打たなくては___!

アンジェラは引き出しから紙を取り、震える手でペンを握った。


「ミゲル、私の可愛い子、何処にいても、あなたを愛している…」

「ミゲル、私がいなくなったら、あなたを愛してくれる人を探して…」

「ミゲル、愛をみつけるのよ…」

そこに、幸せがあるから…


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