つかわしめ戦記ゆめ語り

悠日里

文字の大きさ
4 / 28
第一章 導かれて☽第一夜 月下の便り

二人きり、まんまる

「ふぅ。お風呂気持ち良かったです」

 白のパジャマ姿で、間借りしている三階の自室へ向かう途中。入浴を済ませた睡蓮は、うっとりとした表情になる。
 老朽化のため一部は建て替えられてはいるが、当時の趣きを感じさせるレトロな廊下を、睡蓮は首に提げたタオルで濡れた毛先を挟むように拭きながらのんびりと歩いていた。

「わぁ。綺麗なまんまるお月さまです」

 左手にある窓の外に広がる夜空を見て、睡蓮は思わず立ち止まった。
 満月を映す瞳が揺れている。美しい輝きに当てられ、睡蓮は少し感傷的になっているようだ。

「きっとお父さんとお母さんも、仲良く並んでお月さまを眺めているのでしょうね……あっ」

 ガラガラと玄関が開く音に、睡蓮ははっと我に返る。振り向くと、少し離れたところにある玄関から上がってきた昂が見えた。昂は見る見るうちに頬を染めていく。

「す、睡蓮。風呂に入っていたんだな。こんなところフラフラしてないで早く髪乾かせよ、風邪ひくぞ?」
「はい。今お部屋に戻るところです。昂くんは、こんな時間までお祭りの準備ですか? お疲れさまです」

 両手を身体の前に重ね合わせて、ぺこり。睡蓮が丁寧にお辞儀をすると、昂は色を重ねたようにもっと顔を赤くした。
 パジャマが少し大きいようだ。サイズ感がちぐはぐな睡蓮のパジャマ姿は、思春期男子には刺激が強いらしい。
 ちなみにこのシンプルなパジャマは椿に用意してもらったものである。入浴後キャミソール一枚で歩いていた睡蓮に、寮生たちの視線が集中してしまったためだ。暑いので自室に着くと着替えてしまうが、それまでは着ているようにと椿に言われているのである。

「あああ、ありがとう。でもまぁまだ祭りまで一週間はあるからな。時間がかかる甘酒の準備は出来てるし、蔵から出した竿とかの掃除してたんだ」

 祭りと言えば、稲荷祭が有名だろう。
 穀物の神様・稲荷大神が稲荷山いなりやまに鎮座したという二月初めの午の日に盛大に行われ、五穀豊穣を祈るのが恒例だ。だが夏祭りも地元で古くから親しまれている、とても重要な年中行事である。
 氏子である椿の孫の睡蓮は、今回からの参加。前日の食事や、売り子の手伝いを任されているのだ。

「そうです、見ましたか? まんまるですよぉ」

 睡蓮はトコトコと昂のすぐ傍までやって来た。
 身長差もあって、上目遣いになる睡蓮。かえって今は、この幼げな仕草が色っぽさを助長させているだろう。

「まんまる……?」

 昂はそう呟きながら、テーラード襟のV字から覗くに、ついつい目が向いてしまう。
 お留守になる睡蓮の胸元に、夏の夜の蒸し暑さとは違う熱が昂に襲い来たであろう。だが睡蓮は無邪気に瞳を輝かせて「はいっ」と頷くばかりで、昂の視線には全く気付く様子がない。

「ほら昂くん、空を見てくださ――ひゃっ」
「どうした睡蓮!?」

 嬉しそうに見上げた窓から突然顔を背け、睡蓮は床にへたり込む。昂は慌てて睡蓮の前で膝を着くと、触れはしないものの、介抱するように腕を回して睡蓮の身体を気遣った。
 しかし昂の声に応えるように顔を上げた睡蓮の表情には、持ち前のあっけらかんとした明るさが感じられない。

「大丈夫か?」
「は、はい、すみません。驚かせてしまいました……」
「いいよ俺のことは。ん? 何かあったか?」

 昂自身も動揺をしていたのだろうが、悟られないようにしていた。優しい眼差しを向けて、睡蓮の返事をそっと待った。

「は、はい。きっと気のせいだと思うかもしれませんが、こちらに向かって来る、黒い何かが見えたんです……」
「黒い、何か?」

 昂は反射的に眉をひそませて訊き返した。

「はい……まるで、お月様から飛び出してきたようでした。そうですね……カラスさんみたいでした……」
感想 10

あなたにおすすめの小説

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

黒騎士団の娼婦

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

異世界転移って?とりあえず設定を教えて下さい

ゆみ
恋愛
凛花はトラックに轢かれた記憶も階段から落ちた記憶もない。それなのに気が付いたらよくある異世界に転がっていた。 取り敢えずは言葉も通じる様だし周りの人達に助けられながら自分の立ち位置を把握しようと試みるものの、凛花を拾ってくれたイケメン騎士はどう考えてもこの異世界での攻略対象者…。しかもヒロインは凛花よりも先に既にこの世界に転生しているようだった。ヒロインを中心に回っていたこのストーリーに凛花の出番はないはずなのにイケメン騎士と王女、王太子までもが次々に目の前に現れ、記憶とだんだん噛み合わなくなってくる展開に翻弄される凛花。この先の展開は一体どうなるの?

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?