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第一章 導かれて☽第二夜 陽の巫女
姿
寮に隣接する石上稲荷大社。
その境内にある祓殿には、烏帽子を被り、浅黄色の袴に白の狩衣を着た後ろ姿があった。
昂だ。瞼を閉じ、精神を集中させて大幣を振っている。
「禍事罪穢有らむをば祓へ給ひ清め給へと……」
昂は途中で祓詞を止めて振り返った。視線を外へと移し、捉えたのは夜空に浮かぶ満月。すると昂は、思い立ったように表へと駆け出した。
そして大鳥居の前まで来たところで昂の血相が変わる。睡蓮が居たからだ。
「なんでこんな時間にっ。危ないじゃないか!」
睡蓮の元へ一目散に駆ける昂だが、近くまで来ると顔全体を赤面させた。
「う。胸騒ぎがすると思って来てみたら……全く」
思わず足を止めて後ずさってしまった昂だが、赤くなった顔を手のひらで覆い隠し、きょとんとする睡蓮に歩み寄る。
「昂くん。まだ起きていらしたのですね。どうしたのですか? そんな格好をして」
「……それはこっちの台詞だって」
昂は消えてしまいそうな声で言った。
それもそのはず、身体のラインを拾う生地の薄いショートパンツと素肌にキャミソール。睡蓮は着の身着のままだった。
睡蓮もここまで走ってきたらしい。艶めかしさに拍車を掛けるように、肩と一緒に胸元が上下して動く。昂は理性で色情を制そうとするのもやっとのようで、睡蓮に対しての業を後ろを向くことによって必死で逃していた。
「いやいや俺はこんな神聖な格好で何を考えている……」
「昂くんどうかしましたか?」
「べ、別に、なんでもないっ。た、たださ廊下でのことがあったろ? なんか睡蓮の様子が気になったから俺、あれから着替えてお前のことを想いながら加持祈祷していたんだ」
「そうだったのですね。ありがとうございます」
「ああいいから屈むなっ。ちょっと待ってろ」
昂はそう言うと着ていた狩衣を脱ぎ、睡蓮に羽織らせた。自分は着物に袴を合わせた作務衣姿になる。
「不格好なのは許せ。さあもう遅いから寮に戻るぞ」
「い、いえ帰りません」
「なっ」
「今はもう消えちゃいましたが、ハープのような音色が聞こえたんですっ。それにその音色を追うように、コロンが部屋から飛び出してしまって……。あとそれから、きらきら~っとした光を放つ、ものすごーく綺麗な方が目の前に現れて、それであの私に『早くおいで』と言って消えてしまったのですっ」
「お、おい睡蓮、落ち着けって」
脈略の無い話をされて昂は困惑したが、睡蓮の小さな両肩をそっと掴むと微笑んだ。
「そうだな、わかった。寮へ戻る前に祓ってやるからさ、うちに来いよ。コロンは見ていないけど心配ないって。今朝だっていつもみたく拝殿に来ていたけど、ちゃんと寮には戻ってきたんだろ? ほらあいつ、もしかしたらうちの狐にでも恋したのかもしれないぞ?」
冗談交じりに言ってみるも、睡蓮の眼差しは変わらない。穢れを知らない瞳を真っ直ぐ向けられ、昂は再び眉をハの字に戻すとため息を漏らした。
「しょうがないな、睡蓮は。意外と頑固なところ昔から変わっていないんだから。話し方だってそうだ。俺を気遣って――」
『なるほど、やはりお前が陽の巫女だったか。……悪くない』
その境内にある祓殿には、烏帽子を被り、浅黄色の袴に白の狩衣を着た後ろ姿があった。
昂だ。瞼を閉じ、精神を集中させて大幣を振っている。
「禍事罪穢有らむをば祓へ給ひ清め給へと……」
昂は途中で祓詞を止めて振り返った。視線を外へと移し、捉えたのは夜空に浮かぶ満月。すると昂は、思い立ったように表へと駆け出した。
そして大鳥居の前まで来たところで昂の血相が変わる。睡蓮が居たからだ。
「なんでこんな時間にっ。危ないじゃないか!」
睡蓮の元へ一目散に駆ける昂だが、近くまで来ると顔全体を赤面させた。
「う。胸騒ぎがすると思って来てみたら……全く」
思わず足を止めて後ずさってしまった昂だが、赤くなった顔を手のひらで覆い隠し、きょとんとする睡蓮に歩み寄る。
「昂くん。まだ起きていらしたのですね。どうしたのですか? そんな格好をして」
「……それはこっちの台詞だって」
昂は消えてしまいそうな声で言った。
それもそのはず、身体のラインを拾う生地の薄いショートパンツと素肌にキャミソール。睡蓮は着の身着のままだった。
睡蓮もここまで走ってきたらしい。艶めかしさに拍車を掛けるように、肩と一緒に胸元が上下して動く。昂は理性で色情を制そうとするのもやっとのようで、睡蓮に対しての業を後ろを向くことによって必死で逃していた。
「いやいや俺はこんな神聖な格好で何を考えている……」
「昂くんどうかしましたか?」
「べ、別に、なんでもないっ。た、たださ廊下でのことがあったろ? なんか睡蓮の様子が気になったから俺、あれから着替えてお前のことを想いながら加持祈祷していたんだ」
「そうだったのですね。ありがとうございます」
「ああいいから屈むなっ。ちょっと待ってろ」
昂はそう言うと着ていた狩衣を脱ぎ、睡蓮に羽織らせた。自分は着物に袴を合わせた作務衣姿になる。
「不格好なのは許せ。さあもう遅いから寮に戻るぞ」
「い、いえ帰りません」
「なっ」
「今はもう消えちゃいましたが、ハープのような音色が聞こえたんですっ。それにその音色を追うように、コロンが部屋から飛び出してしまって……。あとそれから、きらきら~っとした光を放つ、ものすごーく綺麗な方が目の前に現れて、それであの私に『早くおいで』と言って消えてしまったのですっ」
「お、おい睡蓮、落ち着けって」
脈略の無い話をされて昂は困惑したが、睡蓮の小さな両肩をそっと掴むと微笑んだ。
「そうだな、わかった。寮へ戻る前に祓ってやるからさ、うちに来いよ。コロンは見ていないけど心配ないって。今朝だっていつもみたく拝殿に来ていたけど、ちゃんと寮には戻ってきたんだろ? ほらあいつ、もしかしたらうちの狐にでも恋したのかもしれないぞ?」
冗談交じりに言ってみるも、睡蓮の眼差しは変わらない。穢れを知らない瞳を真っ直ぐ向けられ、昂は再び眉をハの字に戻すとため息を漏らした。
「しょうがないな、睡蓮は。意外と頑固なところ昔から変わっていないんだから。話し方だってそうだ。俺を気遣って――」
『なるほど、やはりお前が陽の巫女だったか。……悪くない』
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