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第一章 導かれて☽第三夜 使わしめの伝承
相違
白銀の髪が舞った。それは一瞬の出来事で、昂自身も状況が飲み込めていないようだった。
しかしそれを目の前にした睡蓮は、身体ごと床に押し付けられている昂の姿に慌てた。
「あ、あの狛さん待ってください!」
「睡蓮……っ、狛っていうのはこいつの名前かっ? なんで知って……くそっ、放せっ……!」
「おい美月。こいつはお前の何だ?」
駆け寄る睡蓮に二人が訊いた。
「へ? ええっと、そうです。犬さんの狛さんで、向こうにいらっしゃるのが狐さんの白狐さんと黒狐さんです。それから狛さん、昂くんは私の大切な幼馴染みです」
狛は黙って睡蓮を見つめ、取り押さえていた昂を解放した。
「あ、あの」
睡蓮はその場を離れる狛を不思議そうに見た。
けれど今は昂が心配なのだろう。狛にはお辞儀をして返して、身体を起こす昂を睡蓮は気遣うのだった。
「犬、だって? まぁ、ああして烏も人間みたいになっているわけだし、疑うなんて今更だよな……」
「あの昂くん、お怪我はありませんか?」
「ああ、ないよ平気だ。……だけどごめんな睡蓮、一人にさせた。術もさ……怖かったか?」
睡蓮は首を横へ振った。
「いいえ、怖くないです。もしかしてこのどきどきのことですか? これはただ初めてがいっぱいだったから駆け足なだけです。ですから私は大丈夫です。なので昂くん、どうかご自分のお身体を」
「睡蓮……。ありがとう。そうか、そういうことなら——って、ご、ごめん!」
昂は睡蓮に寄り掛かっていた身体を急いで離した。でもその後は紅潮した顔のまま、きょとんとする睡蓮にどこか安心した様子で微笑むのだった。
「ちょいちょーいッ、巫女さまの独り占めは駄目だよー? ボクたち、み~んなの巫女さまなんだから!」
「そうだぜ! にしても、へぇ~急急如律令に桔梗紋ねぇ。つーことは、そか。お前っち陰陽師だな!? でも呪符だと神に仕える使わしめのオレたちには効かないぜ? 出来てもせいぜい巫女さまに鼻の下を伸ばしっぱなしだったオレたちの隊長、太秦さんをノックバックさせられるくらいだなッ。今したみたいに!」
「黙れ黒狐」
「そうだねー。辛うじて回避してたくらいだもんね!」
「お前も黙れ、白狐」
「「え~だって」」
「黙れと言っているだろ狐!!」
太秦は目を眇めながらジャケットの襟元を正すと、昂へと向き直った。
「術を扱えていないか」
「っうるさい! 従順をいいことにお前らの都合で睡蓮を利用するな! 巻き込むな!」
「……何だと?」
太秦の冷たい声が広い屋敷に響く。
白狐と黒狐がぶーぶーと文句をたれる一方、狛はまるで驚いているかのような表情になった。
「狛さん……?」
視線を感じて睡蓮は狛を見たが、目が合った拍子に逸らされてしまう。
「昂。お前、美月と元の世界へ戻りたいか?」
「当たり前だろ! って言うか馴れ馴れしく名前を呼ぶなっ」
「なら大人しく俺たちに従って、一刻も早く大御神を倭の地へ降臨させろ」
「なっ」
「それから美月、お前はこいつと帰るために協力してくれればいい」
「え? あ、あの狛さん。陽の巫女という役目が私にあるのですよね? 私は皆さんの役に立ちたいと思っています」
睡蓮の言葉に、昂だけでなく狛まで目を見張った。
「それに昂くん、皆さんお優しいので心配なさらないでください。ええっと少しフレンドリーな方たちだとは感じましたけれど、でも、何も怖い思いはしていません。むしろ親切にして頂いています。だって狛さんがご自分の帯を、眠っている昂くんを想って敷いてくださいました。あのこれ、とても嬉しかったです。ありがとうございます」
狛は渡された帯ではなく、睡蓮をじっと眺めた。でも睡蓮が微笑みかけると口を噤んで、すぐにそっぽを向いてしまうのだった。
「さっすがーボクたちの巫女さまッ♡」
「昂ッ、巫女さまは自覚があるようだぞ!?」
「なっ、ちょ、お前たちくっ付いてくんなっ。と言うか、その陽の巫女っていうお前たちにとっての救世主が睡蓮だって証拠はあるのかよ?」
すると二人は、纏わり付いていた昂に引っ剥がされながらも「あるねー!」と愉快げに声を揃えたのだった。
しかしそれを目の前にした睡蓮は、身体ごと床に押し付けられている昂の姿に慌てた。
「あ、あの狛さん待ってください!」
「睡蓮……っ、狛っていうのはこいつの名前かっ? なんで知って……くそっ、放せっ……!」
「おい美月。こいつはお前の何だ?」
駆け寄る睡蓮に二人が訊いた。
「へ? ええっと、そうです。犬さんの狛さんで、向こうにいらっしゃるのが狐さんの白狐さんと黒狐さんです。それから狛さん、昂くんは私の大切な幼馴染みです」
狛は黙って睡蓮を見つめ、取り押さえていた昂を解放した。
「あ、あの」
睡蓮はその場を離れる狛を不思議そうに見た。
けれど今は昂が心配なのだろう。狛にはお辞儀をして返して、身体を起こす昂を睡蓮は気遣うのだった。
「犬、だって? まぁ、ああして烏も人間みたいになっているわけだし、疑うなんて今更だよな……」
「あの昂くん、お怪我はありませんか?」
「ああ、ないよ平気だ。……だけどごめんな睡蓮、一人にさせた。術もさ……怖かったか?」
睡蓮は首を横へ振った。
「いいえ、怖くないです。もしかしてこのどきどきのことですか? これはただ初めてがいっぱいだったから駆け足なだけです。ですから私は大丈夫です。なので昂くん、どうかご自分のお身体を」
「睡蓮……。ありがとう。そうか、そういうことなら——って、ご、ごめん!」
昂は睡蓮に寄り掛かっていた身体を急いで離した。でもその後は紅潮した顔のまま、きょとんとする睡蓮にどこか安心した様子で微笑むのだった。
「ちょいちょーいッ、巫女さまの独り占めは駄目だよー? ボクたち、み~んなの巫女さまなんだから!」
「そうだぜ! にしても、へぇ~急急如律令に桔梗紋ねぇ。つーことは、そか。お前っち陰陽師だな!? でも呪符だと神に仕える使わしめのオレたちには効かないぜ? 出来てもせいぜい巫女さまに鼻の下を伸ばしっぱなしだったオレたちの隊長、太秦さんをノックバックさせられるくらいだなッ。今したみたいに!」
「黙れ黒狐」
「そうだねー。辛うじて回避してたくらいだもんね!」
「お前も黙れ、白狐」
「「え~だって」」
「黙れと言っているだろ狐!!」
太秦は目を眇めながらジャケットの襟元を正すと、昂へと向き直った。
「術を扱えていないか」
「っうるさい! 従順をいいことにお前らの都合で睡蓮を利用するな! 巻き込むな!」
「……何だと?」
太秦の冷たい声が広い屋敷に響く。
白狐と黒狐がぶーぶーと文句をたれる一方、狛はまるで驚いているかのような表情になった。
「狛さん……?」
視線を感じて睡蓮は狛を見たが、目が合った拍子に逸らされてしまう。
「昂。お前、美月と元の世界へ戻りたいか?」
「当たり前だろ! って言うか馴れ馴れしく名前を呼ぶなっ」
「なら大人しく俺たちに従って、一刻も早く大御神を倭の地へ降臨させろ」
「なっ」
「それから美月、お前はこいつと帰るために協力してくれればいい」
「え? あ、あの狛さん。陽の巫女という役目が私にあるのですよね? 私は皆さんの役に立ちたいと思っています」
睡蓮の言葉に、昂だけでなく狛まで目を見張った。
「それに昂くん、皆さんお優しいので心配なさらないでください。ええっと少しフレンドリーな方たちだとは感じましたけれど、でも、何も怖い思いはしていません。むしろ親切にして頂いています。だって狛さんがご自分の帯を、眠っている昂くんを想って敷いてくださいました。あのこれ、とても嬉しかったです。ありがとうございます」
狛は渡された帯ではなく、睡蓮をじっと眺めた。でも睡蓮が微笑みかけると口を噤んで、すぐにそっぽを向いてしまうのだった。
「さっすがーボクたちの巫女さまッ♡」
「昂ッ、巫女さまは自覚があるようだぞ!?」
「なっ、ちょ、お前たちくっ付いてくんなっ。と言うか、その陽の巫女っていうお前たちにとっての救世主が睡蓮だって証拠はあるのかよ?」
すると二人は、纏わり付いていた昂に引っ剥がされながらも「あるねー!」と愉快げに声を揃えたのだった。
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