つかわしめ戦記ゆめ語り

悠日里

文字の大きさ
17 / 28
第一章 導かれて☽第四夜 融合

ずっとボクとオレのターン

 白狐と黒狐の二人は、テーマパークで目当てのマスコットキャラクターを見付けた時のように瞳を輝かせながら、金切り声を響かせる怨霊の群れに向かっていく。

「あっ、私も!」

 睡蓮は二人を追い掛けようとしたが、一歩前に進むことすら叶わない。昂に阻まれてしまったからだ。
 そんな睡蓮たちに気付いた二人は、立ち止まらずに振り返って言った。これまで通り白狐から。

「ああごめんね巫女さま~ッ。一旦そこに居たまま観戦しておいて~? ボクたち、ちょっと試し撃ちしてくるから~!」
「昂~ッ。巫女さまに、あの術で“お兄ちゃんバリア”を出してあげてよ~? まぁどの道、必要はないけどさ~!」
「言われなくても……! 急急如律令、境界!」
 
 睨みを利かせながら呪符を構えた昂が、睡蓮の前に障壁を出現させたのと同時。二人は攻撃を仕掛けた。
 二人が走りながら怨霊に目掛けて手のひらを広げると、狙撃銃そげきじゅうのスコープから見えるような十字線が付いた円形の領域が、つまり照準線レティクルのサイトが前方に一つずつ現れる。
 二人は各自、それを遠くで不気味に蠢いている怨霊へと合わせた。

「ぶっちゃけボクたちだけでいいんだよ、ねえッ!」
「本当それ。いつもは別行動してるってのに、なんだって今日は勢揃いで来てん、だあッ⁉」

 サイトが紅く光った瞬間、二人は怨霊へ拳や蹴りを放っていく。その度にパンッと破裂音が鳴った。

「ギィィーギギギギィィィ……!」

 まるでダンスでもしているかのように繰り出される狐たちの格闘術を喰らい、怨霊は悲鳴を上げた。そして引き裂かれた後、淀んだ重苦しい瘴気に姿を変えていくのだった。

「苦しそうです……。あ、あの怨霊は元々、小さな動物さんだったのではないですか?」

 近くまで戻ってきた二人を交互に見ながら訊いた。今回もまた、白狐が先に答える。

「そうだよ巫女さま。成仏すら出来ない野狐やことかの小動物だね」
「ヤコ、ですか?」
「野良の狐ってこと。まぁオレたち動物にも色んな事情があるからさ……」
「だとしてもッ、こんな風に利用される筋合いはないんじゃない!? ってボクは思うけど!」
「本当それ! 血も涙もないんだから! それに比べて巫女さまは」

 黒狐は笑顔で振り返ると、後から振り返った白狐に目配せをした。白狐も朗らかに笑って頷く。

「うん。やっぱ巫女さまは凄い。ボクたち接近戦が得意だったんだけど、こうしてッ! あんなに遠くの方にいる敵にまで、サイトが現れるようになったんだからッ!」

 睡蓮を見つめながら、まだ遠方で蠢いている怨霊へ白狐は回し蹴りを放つ。破裂音の後、怨霊の身体は簡単に引き割かれた。

「しかも全然、力まないでだぜッ?」と、白狐に続くように黒狐も二段蹴りをした。

「ねぇ巫女さま見て見て~。ボクたちエイム上手でしょ~?」

 まるで遊んでいるかのような二人。弱い弱いと、楽しげに怨霊を沈めていく。

「ど、どうか出来るだけお優しく」
「ずっとボクと?」
「オレのターン!」

 願いを乞う睡蓮の声は、狐たちの耳には届いていないようだ。睡蓮は眉を下げたまま、挙動不審気味に周りを見渡す。
 前にそびえるのは、昂が作り出した大きな障壁。
 そして左右を挟むように、昂と狛が背中を合わせる。昂は鋭い眼差しで、狛は見据えるように、それぞれ怨霊の動向を窺っていた。
 さらに背後を護るのは、太秦。涼しい顔をしているが、神経を研ぎ澄ましているようで恐ろしく隙がない。

「どうしましょう。名ばかりで何もお力になれないなんて。……私に出来ること」

 睡蓮は胸の前で両手を重ね合わせ、そっと瞳を閉じた。

「睡蓮……?」

 睡蓮の足元から優しく風が立ち始めた。
 幾つもの蛍のような小さい光も足元から生まれ、風に乗って舞い上がると一つずつ睡蓮の身体の中へと取り込まれていくのだった。

「安らかな眠りをの者たちに。苦しみは、我に委ねたまえ」

 思わず目を奪われていた昂は、その詠唱を聞いてはっと我に返る。血相を変えて睡蓮の名を呼んだ。
 しかし睡蓮へ伸ばした昂の手を狛が払った。昂は狛を睨みつけ、一触即発になるかという状況。
 だがその時だ。風も吹いていないというのに、何処からともなく葉の擦れ合う音が、辺り一帯を異様なまでに包み込んだ。
 睡蓮は静かに瞼を開き、凛とした表情で唱える。

「——浄化いたします」

 葉の音が止んだ刹那、瘴気の中に無数の小さな光が浮かび上がる。その小さな光と入れ替わるように、パッと瘴気が消失した。
 ほんの数秒の出来事だった。

「これが浄化の力……」

 昂は息を呑んで目の前の光景を眺めた。
 白狐と黒狐の二人も攻撃の手を止めて顔を見合うと、ピョコピョコと跳ねるように睡蓮の元へと帰って来る。

「すげー! すげーや、巫女さまッ♡」
「さすがオレの嫁ッ♡」

 ボクのだ、オレのだと、狐たちが口論をし始めたが、狛の瞳には映っていないようだ。
 狛は珍しく穏やかに微笑む。

「まだ怨霊は残っているが、瘴気に淀んでいた空も見事に晴れている。神気に満ち溢れている……!」

「ああ……」と、太秦も感動した面持ちで狛に同調する。心を奪われるように睡蓮を見た。
 だがその表情が一変する。

「来るぞ‼ 狐も戻れ‼」

 太秦が叫んだ直後、上空に男が現れた。腕を組み、満月を背に妖しげな笑みを浮かべている。

「ほぅ……この娘が」

 男はそう言葉を止め、興味の赴くままに睡蓮を眺めるのだった。
感想 10

あなたにおすすめの小説

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

黒騎士団の娼婦

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

異世界転移って?とりあえず設定を教えて下さい

ゆみ
恋愛
凛花はトラックに轢かれた記憶も階段から落ちた記憶もない。それなのに気が付いたらよくある異世界に転がっていた。 取り敢えずは言葉も通じる様だし周りの人達に助けられながら自分の立ち位置を把握しようと試みるものの、凛花を拾ってくれたイケメン騎士はどう考えてもこの異世界での攻略対象者…。しかもヒロインは凛花よりも先に既にこの世界に転生しているようだった。ヒロインを中心に回っていたこのストーリーに凛花の出番はないはずなのにイケメン騎士と王女、王太子までもが次々に目の前に現れ、記憶とだんだん噛み合わなくなってくる展開に翻弄される凛花。この先の展開は一体どうなるの?

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?