目玉焼きにはウインナーでもいい

悠日里

文字の大きさ
6 / 7

しんにゅう2

しおりを挟む

 俺たちがフリーズする中、海は咳払いをして顔を正す。

「ええっと、こちらの方は、僕ら室内楽団の責任者を担ってくださる日之本ひのもと先生だよ」
「えっ。せ、責任者⁉」

 男はドアに凭れ掛かり、俺たちへと微笑みを向けている。

 男の髪はアッシュグレーで、頭の上部に丸みをつけて襟足にレイヤーを入れた、いわゆるマッシュウルフ。背は浦野くらいで、180センチちょとはありそうだ。
 清潔感を感じさせつつも、ハイブランドのスーツを着崩す小慣れ感から見て、社会人三年目くらいかなと俺は勝手に推測した。

 正直、あまりいけ好かない……。

「わ~責任取ってくれるの~? ありがとぉ~」

 ラブ沢はスキップをしながら責任者の前まで行くと、ゆら~っと腰を右に傾け、ゆっくり元の位置に戻した。これはラブ沢なりの感謝のお辞儀だ。
 動く度にいい匂いを漂わせるラブ沢に、いつものエフェクトが纏う。たぶん瞳を輝かせて嬉しそうに笑っているのだろうなと、左右に揺れている後ろ姿から俺は想像した。

「ハハハッ! 責任者決まったかー!」
「まじでかっ⁉ ほな先生っ、責任よろしゅうお願いしますっ!」
「お、おい。何だかやたら責任ばかり強調してくるんだな、君たちは……」

 責任者の男は、やれやれといった感じで長い前髪を掻き上げる。指の間からするすると零れ落ちる毛先と流し目が、鼻に付くとは言え色気を感じた。

「私は日之本景諭ひのもとけいろん。この学校のOBで、今日投入されたばかりの新米教師だ。そして海くんのご紹介通り、これから君たちの活動を視させてもらうよ。ついでに言うと、名字から察しが付いたと思うが、私はこの学園の日之本理事長の孫でもあるんだ」

 日之本は薄い唇から白い歯を少し覗かせて、嬌笑を浮かべる。その余裕たっぷりな大人の魅力が、俺にはとても鬱陶しく感じたのだけれど、ラブ沢の明るい言葉で思い直した。

「ジェーピー先生が来てくれたから、これでコンテストにエントリー出来るねぇ~。それで結果次第では部活に昇格~。なんだかボク、すっごくやる気になってきたぁ~」

 確かにだ。春から顧問探しを始めて、もう少しすれば夏休みを迎える。これまで誰も取り入ってくれなかっただけに、こんな旨い話があるのだろうかと斜に構えてしまいそうだけど、そんなのもったいない。
 待ち望んでいた機会なのだから素直に喜ぼう!

「海。続けてきて良かったな!」
「うんっ、やっとここまで来た!」

 いつにも増して嬉しそうに目を細める海と一緒に、皆で「JPって呼ばれるの嫌だなぁ」と頬を引きつらせる日之本を囲んだ。
「絶対予選通過するぞー」やら「部活の承認貰うぞー」などと盛り上がった。

「しかし皆。私がお爺様……理事長の孫だという立場を利用して、個人的な感情で健気な君たちを応援していくには少し条件があってね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中条景泰に転生した私。場所は魚津。目の前には織田の大軍。当主も越後に去り、後は死を待つばかり。今日は天正10年の6月2日……ん!?

俣彦
ファンタジー
ふとした切っ掛けで戦国武将に転生。 しかし場所は魚津城で目の前には織田の大軍。 当主上杉景勝も去り絶望的な状況。 皆が死を覚悟し準備に取り掛かっている中、 暦を見ると今日は天正10年の6月2日。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...