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手がかりを見つけたと思った

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「シュラク、新しい本を『先生』が書くから来いって」

劇団の奴に言われても、シュラクは舟の人のことが忘れられない。毎日、池の周りで聞き込みをしていた。

「今度は西の大陸に行くから、こっちの東の伝説をテーマにした方がウケるらしい。妖怪とか神仙とかの悲恋でどうかって」

「あー、いいんじゃねえ?」

正直、ここを離れたくなかった。西の大陸に行けば半年は国々を巡るから。
西の女もいいけど、やっぱり黒髪の多い東の大陸が良いと思うのは、今だけだろうか。

池の周りの貸し舟屋で、あの日に使われていたであろう舟と借りた人間がわかった。

貴族の官僚だった。従者は少なく、二人。
舟屋の人間が一人。
「舞姫を乗せていませんでしたか」

「接待で使うと聞きましたが
。派手な宴会ならもっと良い舟もあると勧めたのですが、私的な密談に使うから目立たないものにしてくれと言われまして」

確かに、あの目は面倒事を避けようと周囲を警戒していたのかもしれない。
それでは、護衛なのかもしれない。

正直、男か女かも判らなかった。男娼と言われても女剣士と言われても納得できる。

ただ一瞬で美しいと思った。

思ってしまったからには知りたい。

「そうですね、あなたは役者だからご存知かもしれませんが、龍の紋章持ちでした。龍の一族なのは間違いなく。
西の大陸からのお客様だそうです」

シュラクは、瞳を輝かせた。
龍の一族というのはもう滅びた国の王族だった。世界中に散った末裔は龍の紋章を身に付けている。
これはどこでも行ける通行証だ。どこの国でも一族が力になる。
商人、旅団、旅芸人には何より欲しいアイテムだ。

シュラクのいる劇団にも、紋章持ちがいる。
もしかしたら情報が手に入るかもしれない。

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