【完結】うっかり者の看板役者は冷たい龍に惚れる

仙桜可律

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龍の一族は自由を愛する俺にぴったりだと思った

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一座の常宿に戻ると脚本を書く先生に呼び止められる。
それを無視して、ミクの部屋に向かう。

「ノックくらいしろ、馬鹿者」

ミクは男装しているが女性だ。
艶やかな黒髪、ゆったりとしたスタンドカラーの服。

「おおう、お前今日はそういう格好か。似合うな」

ルーツを示す服は東の大陸でファッションとしても好まれるが、やはりこいつらが着るのが似合う。

「少し交渉をするので一族らしい方が良いんだ」

切れ長の目、中性的で怜悧な刃物のような。
あの人に似ている、と少しドキッとした。
見慣れたミクにすら、面影を探してしまう。

「なあ、一月ほど前にここに来ていた長い髪の龍の一族を知らないか」

「無茶言うな。
一族といっても私たちは実際にはかなりの数いるんだ。ほとんど定住しないから珍しいように言われるだけで。すれ違ったら会釈くらいはするが、本物にはそう出会わないよ」

「そっかー。お前に聞けばわかるかと思ったんだが」

「関所で偶然話したり、もし相部屋になるならお互い一族の方が安心だから初対面で交渉することもあるけど。一人でいると目立つから、食事なども共にすることもある。なんとなく連れに見える距離で自然と行動したり、そういうのに慣れている。

その人がどの程度他人と関わるかにもよるが。

一族は隠密や殺し屋も多いから、もともと常から素性を隠す者も多い。
容姿を極端に変えるものはいない。髪や目の色などを変えると一族の恩恵も受けられないから」

「昔、そういう活劇を見たぞ。殺し屋の龍の一族」

「皆がそうではないけどね。目立たないように生きて、定住しない。そういう生き方をすることができる。これがあれば。」

ミクは銀の指輪を触った。
それが龍の紋章。
指輪や耳飾りに加工するらしい。
「私は荒事を好まないので、この一座に居場所があり助かっている」

ミクは公演のスケジュールを決めたり、場所の下見や金額の交渉に出向いている。座長は元役者で見栄を張るところがあった。ミクを交渉に入れることで役者への報酬が遅れることはなくなった。
やはり、龍の一族を抱えると国の移動が容易い。
足止めでの宿泊など、出費や体力面での無駄が減っている。

「その頃なら、カイならしってるかもしれない」

「一族なのか?」

「ああ、カイが来たばかりのころ街で会った。四十くらいかな。多分。一族は年長者にはわりと丁寧に挨拶をする。私の知らない者ともどこかで会っているかもしれない。」

「そのカイはどこにいる?」

「しばらく任務で来ていると言っていた。もう西の大陸に戻っているはずだ。ヒゲを生やして憔悴していたが、多分体術が得意だろう。悪くない動きをしていた。」

「俺の探している龍の女も西から来たらしい。」

自由に大陸を移動するなんて、役者にぴったりだ。次に会えたら口説いてみたい。まずは会わないことには。

「次の西の公演の前に休暇を取ってくれ。オレ先に西大陸で人を探すから」

ミクは眉をあげた。
「いいのか?西に行く前には大抵皆、娼館に行くだろう」

「西にも黒髪の女はいるし、俺の『龍の女』を見つけないと」

走り去ったシュラクに、ミクはため息をつく。

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