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見合い
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「政略結婚ですのでお構い無く!」
お見合いの席でそう言ってしまい「彼」の表情が消えたのを見て
(しまった!)
と思った。
昨今のお見合いは自然な出会いを演出するのですよ、と侯爵夫人からお茶会に招かれた。
侯爵夫人が数人の令息や婚約者のいる令嬢に声をかけて出会いを演出するのだ。
私は普通の令嬢が参加するお茶会にも行ったことはほとんどない。
ミランダ・シューゼルと名乗ると
「ああ、あのシューゼル家の」
と言われる。
学問に強い家系なので、文官や研究者が多い。変わり者も多いので、令嬢が本を読んでいたり男性と議論をしていても黙認される。
あの一族は変わり者だと思われているのかもしれない。
優秀な妹は男性と議論をよくしていた。そのうちの一人がお忍びでサロンに来ていた王子殿下だったなんて。
王子が妹と婚約してから、シューゼル家への誘いが増えた。
派閥の勢力図が変わるからとミランダが政略結婚をすることになった。
お相手のアラン・リッキー様は武官で、鮮やかな赤毛の方だ。
情熱的な方だそうだ。
学園でも夜会でも令嬢に人気らしいのだが、私より五歳上なのでそういう場面を見たこともなく。
赤毛で強そうな体格の方なんだろうなとしか思っていなかった。
侯爵夫人がそれとなくアラン様を紹介してくれるだろうと思って絵姿もちらっとしか見てなかった。
そのお茶会には、赤毛の男性が二人いた。
どちらかが結婚相手のアラン様だと思う。
どちらの男性も令嬢たちや侯爵夫人と話しているのに紹介してくれる様子がない。二人とも背が高く、一人はがっしりして短髪。もう一人はウェーブした髪を片方の耳にかけている。社交的な方のようだ。すぐに紹介してもらえると思っていた。
これは、もしアラン様が私を気に入らなかった場合は縁談がなくなるんだろうか。
アラン様じゃなくても侯爵夫人の紹介なら派閥のバランスを考えてくださるのかしら
そんなことをぼんやり考えていたから、誰かに話しかけられたことに気づかなかった。
しばらく歓談を楽しんだ後、庭園でのお茶会が始まる。準備ができたと使用人が伝えに来ていたので、もうすぐ移動するのだろう。
赤い髪の男性二人がこちらを見た。
同じテーブルに誘ってくれるのなら、タイミングは合っている。今から見合いということだろう。
姿勢を正したところで、男性たちは軽く会釈をしてにこにこして先に行ってしまった。
ん?
付いてこいってことかな。
「良かったら、一緒に……ご令嬢、手を」
後ろから話しかけられた。
振り返ると、こちらも背の高い男性が。
「皆さん行ってしまったようですし」
「そう……ですわね。
お茶会に慣れていなくて」
「私もです」
そういって気まずそうに笑う彼と歩きだした。
見合いのことばかり考えて緊張していたんだろう。茶色い髪の彼との会話は気楽にできた。
会場について、空いている席が少なかったので彼と同じテーブルに座る。
これは仕方ないと思う。次にもっとちゃんと見合いの席を設けていただこう。
でも、赤い髪の男性も令嬢と同じテーブルに座っているし見合いをする気がないんじゃないかしら。
もし、この場で他の人を紹介してくださるのなら
向かいの彼を見る。
こういう人なら仲良く暮らしていけそうな気がする。
「ミランダ嬢はどんなお花が好きですか?」
同席した令嬢が話題を振ってくれるので、和やかに会話がすすんだ。
「ミランダ嬢、結婚相手に、求める条件とか理想とかありますか?」
「……特にありませんわ」
和やかな会話が止まってしまった。
「それでも、結婚生活で譲れない部分はあるのではないですか?妹様は王子殿下にも譲られなかったとか……」
カップを持つ手に力を込める
先入観とは、拭うのは難しい。時間しか解決しない
「妹が不敬なことを申したのは後から聞いて家族も青ざめました。内容は王家の図書室の閲覧や研究を続けさせて欲しいとか……世間知らずの子供のようでお恥ずかしいのですが。
王子殿下が将来は女性の地位向上にも目を向けたいとのことで、寛容さに感激いたしました」
妹が王子殿下と結婚するだなんて、うちのような政権に興味のない家にとってはありがたいを通り越して面倒が多いのだ。
この上、私までが結婚相手に条件など言えるわけがない。
「私はシューゼル家のなかでも勉強が嫌いで怠け者だと言われています。私で良いとおっしゃってくださる相手なら喜んで」
「そんな言い方はやめてください。もし相手があなたを軽んじるような相手ならやめた方がいい」
それまで会話に加わらなかった男性が口を開いた。
この男性は結婚相手に何かを求めているのかしら。自由恋愛に憧れる人がいるのは知っている。妹と王子殿下のことが物語のように語り継がれていることも。
「私は結婚相手に何かを求めたくないのです。求めれば相手からも条件を突き付けられます」
「そんな相手ばかりではないはずです。あなたと誠実に向き合おうとする相手も……」
身を乗り出して更に言う彼に少し苛立った。あなたはそうかもしれない。あなたみたいな人は、きっとゆっくりと愛を育むんでしょうね
「私は政略結婚ですので、どうぞお構いなく!」
思ったより大きな声が出たらしい。
男性が、表情をなくした。
あ、しまった。
違うテーブルからの視線も集めている。
赤毛の男性たちも、こちらを窺っている。
その二人の顔立ちが、目の前の男性に似ている。良く見れば、茶色だと思った髪色は。
光が当たるところでは赤く見える。
「彼」だったのか。
自然な出会いを演出するだなんて。
無理なことですよ侯爵夫人。
「失礼しました」
「こちらこそ、失礼しました」
お互いにぺこぺこと頭を下げ合う二人に、他の令嬢も苦笑いをしていた。
「少し庭園を散歩しましょうか」
彼、アラン様が誘ってくれたので頷く。お茶会は居心地が悪い。
お見合いの席でそう言ってしまい「彼」の表情が消えたのを見て
(しまった!)
と思った。
昨今のお見合いは自然な出会いを演出するのですよ、と侯爵夫人からお茶会に招かれた。
侯爵夫人が数人の令息や婚約者のいる令嬢に声をかけて出会いを演出するのだ。
私は普通の令嬢が参加するお茶会にも行ったことはほとんどない。
ミランダ・シューゼルと名乗ると
「ああ、あのシューゼル家の」
と言われる。
学問に強い家系なので、文官や研究者が多い。変わり者も多いので、令嬢が本を読んでいたり男性と議論をしていても黙認される。
あの一族は変わり者だと思われているのかもしれない。
優秀な妹は男性と議論をよくしていた。そのうちの一人がお忍びでサロンに来ていた王子殿下だったなんて。
王子が妹と婚約してから、シューゼル家への誘いが増えた。
派閥の勢力図が変わるからとミランダが政略結婚をすることになった。
お相手のアラン・リッキー様は武官で、鮮やかな赤毛の方だ。
情熱的な方だそうだ。
学園でも夜会でも令嬢に人気らしいのだが、私より五歳上なのでそういう場面を見たこともなく。
赤毛で強そうな体格の方なんだろうなとしか思っていなかった。
侯爵夫人がそれとなくアラン様を紹介してくれるだろうと思って絵姿もちらっとしか見てなかった。
そのお茶会には、赤毛の男性が二人いた。
どちらかが結婚相手のアラン様だと思う。
どちらの男性も令嬢たちや侯爵夫人と話しているのに紹介してくれる様子がない。二人とも背が高く、一人はがっしりして短髪。もう一人はウェーブした髪を片方の耳にかけている。社交的な方のようだ。すぐに紹介してもらえると思っていた。
これは、もしアラン様が私を気に入らなかった場合は縁談がなくなるんだろうか。
アラン様じゃなくても侯爵夫人の紹介なら派閥のバランスを考えてくださるのかしら
そんなことをぼんやり考えていたから、誰かに話しかけられたことに気づかなかった。
しばらく歓談を楽しんだ後、庭園でのお茶会が始まる。準備ができたと使用人が伝えに来ていたので、もうすぐ移動するのだろう。
赤い髪の男性二人がこちらを見た。
同じテーブルに誘ってくれるのなら、タイミングは合っている。今から見合いということだろう。
姿勢を正したところで、男性たちは軽く会釈をしてにこにこして先に行ってしまった。
ん?
付いてこいってことかな。
「良かったら、一緒に……ご令嬢、手を」
後ろから話しかけられた。
振り返ると、こちらも背の高い男性が。
「皆さん行ってしまったようですし」
「そう……ですわね。
お茶会に慣れていなくて」
「私もです」
そういって気まずそうに笑う彼と歩きだした。
見合いのことばかり考えて緊張していたんだろう。茶色い髪の彼との会話は気楽にできた。
会場について、空いている席が少なかったので彼と同じテーブルに座る。
これは仕方ないと思う。次にもっとちゃんと見合いの席を設けていただこう。
でも、赤い髪の男性も令嬢と同じテーブルに座っているし見合いをする気がないんじゃないかしら。
もし、この場で他の人を紹介してくださるのなら
向かいの彼を見る。
こういう人なら仲良く暮らしていけそうな気がする。
「ミランダ嬢はどんなお花が好きですか?」
同席した令嬢が話題を振ってくれるので、和やかに会話がすすんだ。
「ミランダ嬢、結婚相手に、求める条件とか理想とかありますか?」
「……特にありませんわ」
和やかな会話が止まってしまった。
「それでも、結婚生活で譲れない部分はあるのではないですか?妹様は王子殿下にも譲られなかったとか……」
カップを持つ手に力を込める
先入観とは、拭うのは難しい。時間しか解決しない
「妹が不敬なことを申したのは後から聞いて家族も青ざめました。内容は王家の図書室の閲覧や研究を続けさせて欲しいとか……世間知らずの子供のようでお恥ずかしいのですが。
王子殿下が将来は女性の地位向上にも目を向けたいとのことで、寛容さに感激いたしました」
妹が王子殿下と結婚するだなんて、うちのような政権に興味のない家にとってはありがたいを通り越して面倒が多いのだ。
この上、私までが結婚相手に条件など言えるわけがない。
「私はシューゼル家のなかでも勉強が嫌いで怠け者だと言われています。私で良いとおっしゃってくださる相手なら喜んで」
「そんな言い方はやめてください。もし相手があなたを軽んじるような相手ならやめた方がいい」
それまで会話に加わらなかった男性が口を開いた。
この男性は結婚相手に何かを求めているのかしら。自由恋愛に憧れる人がいるのは知っている。妹と王子殿下のことが物語のように語り継がれていることも。
「私は結婚相手に何かを求めたくないのです。求めれば相手からも条件を突き付けられます」
「そんな相手ばかりではないはずです。あなたと誠実に向き合おうとする相手も……」
身を乗り出して更に言う彼に少し苛立った。あなたはそうかもしれない。あなたみたいな人は、きっとゆっくりと愛を育むんでしょうね
「私は政略結婚ですので、どうぞお構いなく!」
思ったより大きな声が出たらしい。
男性が、表情をなくした。
あ、しまった。
違うテーブルからの視線も集めている。
赤毛の男性たちも、こちらを窺っている。
その二人の顔立ちが、目の前の男性に似ている。良く見れば、茶色だと思った髪色は。
光が当たるところでは赤く見える。
「彼」だったのか。
自然な出会いを演出するだなんて。
無理なことですよ侯爵夫人。
「失礼しました」
「こちらこそ、失礼しました」
お互いにぺこぺこと頭を下げ合う二人に、他の令嬢も苦笑いをしていた。
「少し庭園を散歩しましょうか」
彼、アラン様が誘ってくれたので頷く。お茶会は居心地が悪い。
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