妖精姫は想われたい~兄たちが過保護すぎて困ります

仙桜可律

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ルーベンスの決意

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ルーベンスからクララへの誘いがあったのは10日ほどたった週末。

夕食を外で一緒にどうかという誘いだった。
ルーベンスは緊張していた。夜会のように正装ではない。いつか温室で見たようなシャツ姿でもない。

ルーベンスは汚れても構わない服装が気楽だということで、労働者の着る服も合理的に取り入れている。
服を買うときなんて、ポケットの数と強度しか見ないらしい。
アメリーが以前そう言っていたのを思い出した。

それなのに、焦げ茶色のジャケットにグリーンのタイ、ベージュのズボン。
気取った装いではないけれど良く似合っていると思った。温かみのある雰囲気だ。

ライラとエドガーに見送られて2人は出掛けた。

クララはルーベンスと二人で出掛けるのが久しぶりだったので、服を選ぶのに迷いすぎた。夜会ならまだドレスコードがあるので選びやすい。
夜に会うからといって、特別な意味はないかもしれないし。

子どもっぽいデザインも大人っぽいデザインも、どれも違う気がする。ルーベンスの好みってどんなのだったかわからない。

「これはどう?」

ライラが選んだ一着を、
「嫌よ、そんな地味なの」
と断ったけれど、色々な服を合わせて疲れたあとに、結局その一着が良いように思えた。
紺色のワンピースの袖口に控えめなパールとリボンが付いている。

エドガーはルーベンスを待つクララを見て落ち着かないし、ライラはそんなエドガーを宥めている。

やっと出掛けたけれど、あの様子では遅く帰るなんてことになれば大変だろう。

「ルー、今日はありがとう。忙しいのに」

「あ、いや。今まで悪かった。本当はもっと早くクララと会いたかったんだけど」
「王女様の講義とか、忙しかったんだもんね、ルーは」

クララは自分で良いながら胸が痛んだ。記事を否定して欲しい。社交界に流れる噂を、気にするなと言って欲しい。

「まあ、もう一つ……王女様にある花を献上するから、また忙しくなる」

「そ、そうなの」

クララは話題にしなければ良かったと思った。花を献上するなんて、あの記事そのままみたい。

王女に花を差し出す若き学者の絵。また噂になるかもしれない。

ルーベンスが予約していたのは家庭料理が人気の素朴なレストランだった。

「ここ?」

「うん、研究仲間に教えてもらったんだけど、クララは好きなんじゃないかと思って。」

「可愛いお店!」

「良かった」

庶民も通うような店で、夜は酒も出している。
案内されたのは奥の個室。

「素朴で賑やかな店なんだけど、夜は酔っぱらいが時々いるらしいんだ。だからうるさいかもしれないけど……クララと来たかったんだ」

少し狭い個室は変わった形をしている。白く塗られた壁が競りだしている。
「このお店自体も不思議な形ねえ」

クララが見上げたり見渡したりしているのをルーベンスは笑って眺めた。

「建て増しを何度もしたらしい。なんだか木の幹の中にいるみたいだろ」

「キノコにも似ているわ。」

変形した天井のカーブを指差してクララも笑う。

運ばれてきた料理も美味しかった。シチュー、パン、炙り肉、干しフルーツの入ったケーキ

「なんだか母様の料理にも似ているわ。ほっとする」

「良かった。それで、今日の目的なんだけど」

ルーが再び緊張しているのがわかったので、クララも背筋を伸ばした。

「僕とクララの想いは違うと思うんだ」

クララは膨らんでいた気持ちが一瞬で固まって、耳がそれ以上聞きたくない!と拒絶している気がした。



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