戦場跡より愛を込めて

始まり

私は大人になったらしい。

服が小さくなり、背も伸びた。
電気が街に溢れて、夜でも店が開いている。路地裏の壁にはまだ戦火のあとが残っているけれど、観光客も来るようになった。

街にひとつしかない宿屋の売店で働いている。
時々、プレゼントを貰ったり都会に出てこないかと誘われることがあった。

意外なほど胸が育って、街に来た男性が胸と顔ばかり見てニヤニヤしているのが嫌だった。
食べ物をもらったら他の子供たちと分けていた。

都会にいって、お金を稼いでここに送れば今よりもっと楽になることがわかった。

ナッシュは、もう私に触れなくなった。頭も撫でてくれない。子供のふりをして甘えていられた間がよかった。
次の休みに来てくれたら、私から別れを言おうと思っていた。

ナッシュ、いつまでも私たちを心配してくれてありがとう
もう大丈夫だから
来なくていいよ

そう言ってあげよう

何回も練習した。


復興した街は建設ラッシュで、流れ人が集まる。

荒い男たちが集まるところには娼婦が集まる。
夜は華やかな彼女らが昼間は気怠い感じで猫のようだと思っていた。
その姐さんたちがナッシュをいい男だと話すのを聞いて、ザワザワしていた。

「私も夜の街で働かないかって言われてるんだけど、できるかな」

「あんたは無理よ。
そんな好きな男をずっと待ってるようなままじゃ、できないだろうねえ」

ふーっ、と煙草の煙をかけられた。

「初めての男を好きなまま、バリバリ稼いでる女もいるけどね。切り換えられるならいいけどね」

あんたには無理だよ、と再び言われた。
当たって砕けて、それからでも遅くないと言われた。

久しぶりに来たナッシュは次は南の国境に行くと言っていた。
そこも最近まで内乱が起きていて救援物資を運ぶらしい。
ナッシュは井戸を掘る技術者も知っているらしい。

もうここには来なくても大丈夫だと言うと、手首を掴まれた。
「肉がついてきたな」

家畜の品定めではないんだからやめなさい、と酒場の店員が窘めた。

思い出にするから一回だけでも抱いてくれないかと頼んだら、
断られた。

仕方ないとあきらめて、翌朝街を出ようとしているところをナッシュに見つかった。

「いくアテが無いなら一緒に南に行くか？」
と聞かれた。

迷ったけど、行くと答えた。


すると、他の人に私のことを嫁だと紹介するので、どういうことかとナッシュに、聞いた。

「嫁になってくれ」

「昨日断ったじゃない」

「思い出に、って言うから。考えてみたら多分お前を一度抱いたら離せない」

ナッシュは多分、誰でも良かったからだと思った。

旅の途中で

「まあ、そう思っていた部分もあるかもしれない。
ただ、前から嫁にするなら
飢えを知っている奴なら俺の仕事も理解してくれるだろうという甘えがあった。
飢えを知ってる奴は強い」

「強いの？あんなに辛いことはもう、嫌」

「そう思えるから未来を信じられるだろ。」

ナッシュは孤児を哀れんでいるだけではなくて、生き残った強さと強運を誉めてくれた。
だからみんな、ナッシュが好きだった。

「一緒に生きるならそういう奴がいい」


南の国境の村にも痩せた子供たちが、いた。
スープを、配ったり傷を手当てしたり、畑を教えたりした。
ジャックという男の子がよく手伝ってくれた。

「俺が大きくなったら、ねーちゃん結婚してくれないか！？」

急に帰る時にそういうから、ビックリしていたら
ナッシュに後ろから抱き込まれた。

「悪いな小僧、こいつは俺の嫁だ」

そう言ってこめかみのあたりに軽くキスをした。

ジャックも真っ赤になっていたし、私も真っ赤だろう。

ナッシュは平然としていた。

「これくらいで照れてたら嫁は務まらねえな」

「が、頑張ります」

帰りの車で、笑われた。