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雑味だらけの仕事
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エリオットは王子の側近として数人で執務室を与えられている。
文官たちが今日のエリオットを見てこそこそ噂話をしていた。
「婚約者か……?夜会で謎の美人と消えたらしい」
「エリオット様はアレン様のように女性関係が派手ではないから、いよいよ本命でしょうか」
当のエリオットは淡々と仕事をしている。
今までにも女性との付き合いがなかったわけではない。でも、すぐにいつも別れていたから、結婚の噂までには至らなかった。
「俺、エリオット様を紹介してって親戚の女性に会うたびに言われててさ」
「俺も。同期に言われてたけど。これできっぱり断れます」
エリオット様には決まった人がいるから、と。
その日、エリオットは残業せずに帰った。とても珍しい。
帰るなりリズは居るかと呼んだので、使用人達が笑っていた。
「お帰り、エリオット」
珍しく母上が出迎えてくれたので、リズの名前を先に呼んでいたのを聞かれてしまった。
「ずいぶん早いのね。たまには顔を見せなさいとどれだけ言っても忙しいの一点張りだったのにね」
にっこりと笑われる。
「……たまたまです」
「フィオナとリズは観劇に出掛けているわ。食事もしてくるそうよ」
「そうですか」
「……貴方まさか仕事に戻るつもりじゃないでしょうね」
母の勘は鋭い。
「いえ、別に。持ち帰った仕事をしようかと思っただけです」
「お父様と三人で食事をしましょうか。話したいこともあるし」
久々に三人で食卓を囲む。
といっても成人した息子と会話する内容は、仕事のことやフィオナのことくらい。
デザートを食べているときに母上がまた笑いながら言った。
「単刀直入に言うわ。貴方、リズと婚約する気はないかしら」
「は?」
「お前、そんな急に」
「急ではありません。ずっと昔から言ってたじゃないですか」
「あの、……どういうことですか」
「だから、リズと結婚する気があるのかないのかってことよ」
母上の口調が変わり目が座っている。お酒をたくさん召したようだ。
「その前に、その、リズは……血縁というか、私とはどういう、その。父上の……」
「きちんと話したことはなかったか。
そうだな、リズリーは私の従姉の娘だ。隠し子などという噂まであったが、それは従姉が奔放な性格だったので私とも親しくしていたから、交際の噂と混じったらしい。もちろん、神と愛しい妻に誓ってそんな事実はない」
父上が話すのを聞いているうちに、今まで考えていたことが溶けていった。
「ということは、私とリズは、結婚できる間柄なのですね…」
「そうなのよ。で、どう?」
「わかりません。まだ実感がないので。それに、リズの気持ちも無視できません。今まで妹として考えていたくらいで、そういう目ではなかなか……」
「じゃあ貴方にもリズにも別の婚約者を探さないといけないわ」
「それは困ります。
いや、その、少しリズと交流したいと思います」
「わかったわ!では、婚約する前に二人で話し合ってちょうだい」
話し合う……
フラフラとエリオットが自室に戻ったあとに、夫妻は乾杯していた。
「どうなるかな」
「大丈夫よ。婚約って言ったあとも、帰るときもエリオットの顔が赤かったもの。リズも……フィオナの話ではエリオットのことを好ましく思ってるみたいだけど」
「理想の兄としてかい?」
「そうだったら困るのよね。」
文官たちが今日のエリオットを見てこそこそ噂話をしていた。
「婚約者か……?夜会で謎の美人と消えたらしい」
「エリオット様はアレン様のように女性関係が派手ではないから、いよいよ本命でしょうか」
当のエリオットは淡々と仕事をしている。
今までにも女性との付き合いがなかったわけではない。でも、すぐにいつも別れていたから、結婚の噂までには至らなかった。
「俺、エリオット様を紹介してって親戚の女性に会うたびに言われててさ」
「俺も。同期に言われてたけど。これできっぱり断れます」
エリオット様には決まった人がいるから、と。
その日、エリオットは残業せずに帰った。とても珍しい。
帰るなりリズは居るかと呼んだので、使用人達が笑っていた。
「お帰り、エリオット」
珍しく母上が出迎えてくれたので、リズの名前を先に呼んでいたのを聞かれてしまった。
「ずいぶん早いのね。たまには顔を見せなさいとどれだけ言っても忙しいの一点張りだったのにね」
にっこりと笑われる。
「……たまたまです」
「フィオナとリズは観劇に出掛けているわ。食事もしてくるそうよ」
「そうですか」
「……貴方まさか仕事に戻るつもりじゃないでしょうね」
母の勘は鋭い。
「いえ、別に。持ち帰った仕事をしようかと思っただけです」
「お父様と三人で食事をしましょうか。話したいこともあるし」
久々に三人で食卓を囲む。
といっても成人した息子と会話する内容は、仕事のことやフィオナのことくらい。
デザートを食べているときに母上がまた笑いながら言った。
「単刀直入に言うわ。貴方、リズと婚約する気はないかしら」
「は?」
「お前、そんな急に」
「急ではありません。ずっと昔から言ってたじゃないですか」
「あの、……どういうことですか」
「だから、リズと結婚する気があるのかないのかってことよ」
母上の口調が変わり目が座っている。お酒をたくさん召したようだ。
「その前に、その、リズは……血縁というか、私とはどういう、その。父上の……」
「きちんと話したことはなかったか。
そうだな、リズリーは私の従姉の娘だ。隠し子などという噂まであったが、それは従姉が奔放な性格だったので私とも親しくしていたから、交際の噂と混じったらしい。もちろん、神と愛しい妻に誓ってそんな事実はない」
父上が話すのを聞いているうちに、今まで考えていたことが溶けていった。
「ということは、私とリズは、結婚できる間柄なのですね…」
「そうなのよ。で、どう?」
「わかりません。まだ実感がないので。それに、リズの気持ちも無視できません。今まで妹として考えていたくらいで、そういう目ではなかなか……」
「じゃあ貴方にもリズにも別の婚約者を探さないといけないわ」
「それは困ります。
いや、その、少しリズと交流したいと思います」
「わかったわ!では、婚約する前に二人で話し合ってちょうだい」
話し合う……
フラフラとエリオットが自室に戻ったあとに、夫妻は乾杯していた。
「どうなるかな」
「大丈夫よ。婚約って言ったあとも、帰るときもエリオットの顔が赤かったもの。リズも……フィオナの話ではエリオットのことを好ましく思ってるみたいだけど」
「理想の兄としてかい?」
「そうだったら困るのよね。」
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