虐めていた義妹に今さら好きだったなんて言えません

仙桜可律

文字の大きさ
5 / 15

雑味だらけの仕事

しおりを挟む
エリオットは王子の側近として数人で執務室を与えられている。

文官たちが今日のエリオットを見てこそこそ噂話をしていた。
「婚約者か……?夜会で謎の美人と消えたらしい」
「エリオット様はアレン様のように女性関係が派手ではないから、いよいよ本命でしょうか」

当のエリオットは淡々と仕事をしている。

今までにも女性との付き合いがなかったわけではない。でも、すぐにいつも別れていたから、結婚の噂までには至らなかった。

「俺、エリオット様を紹介してって親戚の女性に会うたびに言われててさ」

「俺も。同期に言われてたけど。これできっぱり断れます」

エリオット様には決まった人がいるから、と。

その日、エリオットは残業せずに帰った。とても珍しい。

帰るなりリズは居るかと呼んだので、使用人達が笑っていた。

「お帰り、エリオット」
珍しく母上が出迎えてくれたので、リズの名前を先に呼んでいたのを聞かれてしまった。

「ずいぶん早いのね。たまには顔を見せなさいとどれだけ言っても忙しいの一点張りだったのにね」

にっこりと笑われる。

「……たまたまです」
「フィオナとリズは観劇に出掛けているわ。食事もしてくるそうよ」

「そうですか」

「……貴方まさか仕事に戻るつもりじゃないでしょうね」

母の勘は鋭い。

「いえ、別に。持ち帰った仕事をしようかと思っただけです」

「お父様と三人で食事をしましょうか。話したいこともあるし」

久々に三人で食卓を囲む。
といっても成人した息子と会話する内容は、仕事のことやフィオナのことくらい。

デザートを食べているときに母上がまた笑いながら言った。
「単刀直入に言うわ。貴方、リズと婚約する気はないかしら」

「は?」

「お前、そんな急に」
「急ではありません。ずっと昔から言ってたじゃないですか」

「あの、……どういうことですか」

「だから、リズと結婚する気があるのかないのかってことよ」

母上の口調が変わり目が座っている。お酒をたくさん召したようだ。

「その前に、その、リズは……血縁というか、私とはどういう、その。父上の……」

「きちんと話したことはなかったか。
そうだな、リズリーは私の従姉の娘だ。隠し子などという噂まであったが、それは従姉が奔放な性格だったので私とも親しくしていたから、交際の噂と混じったらしい。もちろん、神と愛しい妻に誓ってそんな事実はない」

父上が話すのを聞いているうちに、今まで考えていたことが溶けていった。

「ということは、私とリズは、結婚できる間柄なのですね…」

「そうなのよ。で、どう?」

「わかりません。まだ実感がないので。それに、リズの気持ちも無視できません。今まで妹として考えていたくらいで、そういう目ではなかなか……」

「じゃあ貴方にもリズにも別の婚約者を探さないといけないわ」

「それは困ります。

いや、その、少しリズと交流したいと思います」

「わかったわ!では、婚約する前に二人で話し合ってちょうだい」

話し合う……

フラフラとエリオットが自室に戻ったあとに、夫妻は乾杯していた。

「どうなるかな」

「大丈夫よ。婚約って言ったあとも、帰るときもエリオットの顔が赤かったもの。リズも……フィオナの話ではエリオットのことを好ましく思ってるみたいだけど」

「理想の兄としてかい?」

「そうだったら困るのよね。」












しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

みんながまるくおさまった

しゃーりん
恋愛
カレンは侯爵家の次女でもうすぐ婚約が結ばれるはずだった。 婚約者となるネイドを姉ナタリーに会わせなければ。 姉は侯爵家の跡継ぎで婚約者のアーサーもいる。 それなのに、姉はネイドに一目惚れをしてしまった。そしてネイドも。 もう好きにして。投げやりな気持ちで父が正しい判断をしてくれるのを期待した。 カレン、ナタリー、アーサー、ネイドがみんな満足する結果となったお話です。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

失踪していた姉が財産目当てで戻ってきました。それなら私は家を出ます

天宮有
恋愛
 水を聖水に変える魔法道具を、お父様は人々の為に作ろうとしていた。  それには水魔法に長けた私達姉妹の協力が必要なのに、無理だと考えた姉エイダは失踪してしまう。  私サフィラはお父様の夢が叶って欲しいと力になって、魔法道具は完成した。  それから数年後――お父様は亡くなり、私がウォルク家の領主に決まる。   家の繁栄を知ったエイダが婚約者を連れて戻り、家を乗っ取ろうとしていた。  お父様はこうなることを予想し、生前に手続きを済ませている。  私は全てを持ち出すことができて、家を出ることにしていた。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜

私は『選んだ』

ルーシャオ
恋愛
フィオレ侯爵家次女セラフィーヌは、いつも姉マルグレーテに『選ばさせられていた』。好きなお菓子も、ペットの犬も、ドレスもアクセサリも先に選ぶよう仕向けられ、そして当然のように姉に取られる。姉はそれを「先にいいものを選んで私に持ってきてくれている」と理解し、フィオレ侯爵も咎めることはない。 『選ばされて』姉に譲るセラフィーヌは、結婚相手までも同じように取られてしまう。姉はバルフォリア公爵家へ嫁ぐのに、セラフィーヌは貴族ですらない資産家のクレイトン卿の元へ嫁がされることに。 セラフィーヌはすっかり諦め、クレイトン卿が継承するという子爵領へ先に向かうよう家を追い出されるが、辿り着いた子爵領はすっかり自由で豊かな土地で——?

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

処理中です...