【完結】私の可愛い騎士さま(付き合ってます)

仙桜可律

文字の大きさ
3 / 3

しおりを挟む
ガッチガチに緊張している。
盗賊団を壊滅させたときより、騎士団の入団試験のときより、魔獣討伐の時より緊張している。
ヒューゴはマリアから誘われた。次のヒューゴの休みに、会ってもらえませんかと。
首がちぎれるくらい頷くだけだった。かろうじて行きたいところを聞いたけど、街にはヒューゴの方が詳しいので、普段ヒューゴの行っていたところを教えてほしいと言われた。
詰んだ。

とりあえず騎士団員に女性の好きそうな食べ歩きのできるスイーツを聞いた。
フルーツ飴、ドーナツ、棒状に丸めたピザ

二人で並んで歩くことを考えただけで最高だけど、ずっと歩くわけにもいかない。
何が好きなのかとかこれから聞かないと。

マリアを待たせるわけにいかないので、早めに待ち合わせ場所に行った。

「ヒューゴ様、お待たせしてすみません」

ピンク色のワンピースを着たマリアが走ってきた。
いつもお下げにしている髪を下ろしている。
可愛い
息を整えるのに胸元を押さえている。
可愛い。
走らなくてもいいのに。
可愛い

頬が赤い
可愛い

唇からいつもより荒い息が漏れている

おいしそう

ん?

かわいい、

可愛いの間違いだな。

「俺が早すぎただけだから気にすんな。」

「でも、服とか髪型とか迷って遅くなって、ギリギリになってしまって。すみません、せっかくのお休みの日に無理に頼んでおきながら。
以前は、その、人にやってもらっていたものですから。練習していたんですが、髪を編むのもまだ下手で」

そういうものか。
姉達は商売柄、確かに凝った編み方をしているような気がする。今度見ておこう。

慣れないマリアが、髪型を工夫したり服を選んだり、それは。
今日のために、俺と会うために、つまり、俺に見せるために、
だめだ。ニヤニヤしてしまうから口元を隠す。

「なんでもいいから早く……」

「えっ、」
マリアの怯えた様子に、失言に気づく。

「違う。マリアならどんな姿でも可愛いからなんでもいいから、早く人のいないところに行きたい」

「えっ……?」

また失言してしまった。

「違う、そうじゃないんだ、悪い。
マリアが可愛くてさっきから他の男が見ているのに嫉妬してる。もし俺が遅くてマリアが一人なら声をかけられてる。だから、移動したい。」

マリアが赤くなって頬を押さえた。
「恋人がこんな小さいことを気にする男でがっかりしたか?」

そのまま、首を横にふる。

「こいびと、なんですね私」

「違うのか?」

「いえ、信じられなくて」

「貴族はわからないけど、平民は想いを通じ合わせたら恋人になる。」

「そうなんですね、慣れないといけませんね」

マリアが、少し寂しそうにみえた。
「マリアは、もう他の奴となんか恋人にならなくていい。慣れなくていい。その代わり」

ヒューゴはマリアの手を持ち上げて、歩き出した。

「俺に慣れて」

マリアは、頭の中で悲鳴をあげていた。

「ひゃ、ひゃい」

恋人という実感もまだないのに、またふわふわして気持ちが上下する。

「そのうち、恋人らしいことも少しずつする予定です、ので」
マリアの顔を見ないまま、前を向いてヒューゴが言う。
声が固い。
「せっかくきれいに編んだ髪を乱してしまったり、化粧が落ちるような、その、接触も許してもらえると望んでますので、そのうちに、なるべく前向きに頼みます。」

そうっと見上げると、耳が赤い。
緊張、してる?

あのヒューゴ様が
私みたいな女の子一人に

じわじわと嬉しさが込み上げてきた。

憧れのかっこいい騎士様と見学してる令嬢の一人ではなくて。
ヒューゴ様の、特別になれたんだ。

感動を噛み締めていたら、ヒューゴが立ち止まった。
見上げたままのマリアと目を合わせる。
少し窺うように、

「嫌か?」

誰ですかこのかわいい人は。
耳をしょんぼりと垂らした犬のようです。

「ありがとうございます。幸せです!」

かっこいいだけじゃなくて可愛い顔もするなんてずるい、ずるいですヒューゴ様。


片手を繋ぎながら片手を握りしめてマリアは叫び出したいのを耐えた。

その日は公園で語り合いながらのんびりと過ごした。


ーーーーーーーー
「あのさ、またお袋に内緒で買いたいものがあるんだけど」

姉達は、いよいよ彼女へのプレゼントかと張り切った。

「何か贈りたいって言ったんだけど断られて。ものすごく粘って聞いたら、何かお揃いのものが欲しいって言われたんだけど」

合格よ!可愛いわ!まだ見ぬ彼女さん!

姉たちは身を乗り出している。
「あの可愛い存在と同じものを俺が身に付けることを許されていいわけがなくて」

ん?彼女、だよね?

「あと、このウィッグ買いたい。長さはもう少し切って、いや伸びるか。このままでいいや。」

「アンタ、ウィッグ何に使うの?」
「……練習?」


「なにのれんしゅう」
義姉、表情消えてます

「彼女って想像上の存在なの?」

実姉、おろおろする。

「実在していても妄想上の彼女でストーカーの方が危ないわ」
「身内が犯罪者だなんて嫌!」

涙目である。

「ものすごい誤解をされてるけど、ちゃんと実在してて彼女。恋人だ。

その、彼女が髪をあまり上手にまとめられなくて。俺が最低限整えたり編めたら助かるかなと思って」

「ヒュー!!そんな髪の毛引きちぎりそうな見かけでそんなことに気付くなんて!」

「失礼だな実の姉だからって」

「騎士なんてどうせ体力バカなんだから事後の想像なんてしないと思ってました!」

「義姉さんも大概失礼だな」

で?
どうなの?
もう?

きらきら、ギラギラした目で既婚者が問いかけてきます。

「言わないからな!」

「ケチー」
「減るもんじゃなし」

「減るんだよ。彼女の可愛さが減る。
俺は、怖がらせたくないし大事にしたいから長期戦でいいんだよ」

「偉いわー。よしよし」

「犬じゃねえ!」

「黒狼の騎士って言われてるけど、ちゃんと『待て』のできる犬だったのね」

「あ、これはどう?東洋の剣の飾り紐なんだけど。こっちの国の飾り紐よりシンプルでしょ。これを編んでブレスレットとか、髪飾りとか。これならアンタも剣につけられるし」

「あー、考えとく」



しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

おこ
2022.12.05 おこ

このシリーズはまだまだ続きますか❓

というか
続いて欲しいです✨

楽しく読んでいます🙂💓

2022.12.11 仙桜可律

読んでくださってありがとうございます。まだまだ続けるつもりです。
が、書けば書くほどヒューゴがカッコ悪くなりそうなので、不定期でちょこちょこ書きたいと思います。ゆるゆるとお付き合いくださったら嬉しいです。

解除

あなたにおすすめの小説

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。