モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第4章 悪役令嬢は目を付けられたくない

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ホールでは、トラヴィスとエメラインのダンスが続いている。周りも遠慮して近寄らないから、二人の周りには大きな空間が出来ていた。今、見た感じでは、二人の仲は良好そうに見えるが、これからの流れで、どうなるかは分からない。

2年生になってからが、リリーのメインの物語なのだ。彼女を取り巻く環境はどんどん複雑に、そして彼女の選択肢によっては過酷になっていく。

(モブ悪役の私は、お役御免で退場ってとこだけど、陰ながらリリーを助けてあげたいよ。)

トラヴィスとエメラインよ、願わくばリリーにあまり、関わってくれるな。

(ていうかさ、トラヴィスってば暗殺者にばっか狙われんじゃないわよ!。おかげでこっちはイーサンに酷い目にあってんだから。)

理不尽な愚痴を叩きつけ、私は場所を移動した。




「あ、アリアナ嬢!。アリアナ嬢も、ダンス相手を探してるの?」

(ん?)

「ノエル様?」

気が付くと、ダンスの相手を見つける場所に来ていたらしい。さっきミリアとレティが行ってた所だ。

「いえ、たまたま通りかかっただけです。」

「なんだ、そうかぁ。僕はせっかくだから、誰かと踊りたいんだけど・・・でも、さっきから声をかけてるのに、誰も踊ってくれないんだ・・・。」

ノエルはシュンとした表情で力なく笑った。

「何故かなぁ・・・?。やっぱり僕って背が低いからかなぁ・・・?。」

(まぁ、ここに来ている女子は、ほとんどは長身イケメンと踊りたがっているからな。)

根性のある女子は、神セブンに向かって突進していくし、他にも背が高くて、なかなか格好いい男子もいるから、そっちに流れていくのだろう。

なんだか、ノエルが気の毒になって来た。

「あの、ノエル様。もしわたくしで良ければ、ダンスのお相手を致しますが。」

「ええっ!?」

「わたくしでは、ご不満かもしれませんが、いかがでしょう?」

「ふ、不満なんて無いよ!。最高だよ!。ア、アリアナ嬢と踊れるなんて。本当に良いの!?」

「はい。わたくしも先ほどから、少々モヤモヤする事がありまして・・・、ちょっと思いっきり運動したい気分なのです。それに、わたくし達、身長差的にぴったりだと思いませんか?きっと踊りやすいと思うのです。」

「そ、そうだよね!?。で、ではアリアナ嬢、よろしくお願いします。」

と、ノエルが差し出した手を、私が掴んだ時だった。ちょうど、1曲終わったらしく、辺りはまたカップルチェンジにざわついている。そして何故か、そのざわめきが私達に向かって、大きくなって来るのだ。

ノエルと二人で顔を見合わせ、そのざわめきの方へ顔を向けた途端、私達は揃って固まった。あろうことか、皇太子のトラヴィスが、こちらに向かって真っすぐ歩いて来るでは無いか!

彼が歩くたびに、まるでモーゼの海の如く、人混みが割れる。そして、彼は私達の前に手を差し伸べてきたのだ。

「アリアナ・コールリッジ嬢。ぜひ、ダンスの相手をお願いしたい。」


(・・・・・・は?)


ノエルの手を掴んだまま、固まったまま数秒が過ぎた。



軽快なダンスの音楽が、ゆったりと流れていく。私は混乱する頭を奮い立たせ、なんとか足を動かしていた。ここで間違えて、相手の足を踏むわけには絶対にいかないのだ。

「もう少し、楽しそうにしてくれると嬉しいのだが。」

「は、はあ・・・。」

仕方なく、私は引きつった笑顔を浮かべる。

「ははっ、面白い顔だね。」

(・・・くっ。)

完璧な皇太子スマイルを浮かべた皇太子トラヴィスと、私はダンスを踊っていた。

(意味が分からん!。どうして、トラヴィスが私をダンスに誘うのさ?)

今まで、トラヴィスと関わった事なんて、一切無かったのに。ゲームでだって、全く接点が無いはずだ。唯一、繋がりがあると言えば、弟のパーシヴァルと知り合いって事ぐらいで、理由とするには薄すぎる。

なんだかもう、トラヴィスの皇太子スマイルすら、薄気味悪く思えてきた。でも、それ以上に恐ろしいのは・・・、

(滅茶苦茶、睨まれてる・・・。)

刺さるどころじゃ無い、剣で突き刺すような殺気すら感じるのだ。
そう、もちろんその視線の主は、トラヴィスの婚約者、王女エメライン。彼女の赤い髪が、燃える様に逆立って見えるのは気のせいか・・・。

(視線だけで、殺られそう・・・。さすが真正悪役令嬢・・・。)

トラヴィスは、そんなエメラインの様子に気付かない訳が無いのに、上機嫌でダンスを続けている。

(どうして、私がエメラインに目を付けられなきゃいけないのさっ!?。この馬鹿皇太子!)

いまや、ダンスホールは静まり返り、聞こえるのはダンスの曲の音だけ。周りで踊っている人達も、見ている人達も、緊張した様子で私達の方を見ているのだ。

(早く、曲が終わってよ!)

もう、家に帰りたい・・・。私はそんな気分だった。
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