モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

文字の大きさ
97 / 284
第4章 悪役令嬢は目を付けられたくない

17

しおりを挟む
ホールでは、トラヴィスとエメラインのダンスが続いている。周りも遠慮して近寄らないから、二人の周りには大きな空間が出来ていた。今、見た感じでは、二人の仲は良好そうに見えるが、これからの流れで、どうなるかは分からない。

2年生になってからが、リリーのメインの物語なのだ。彼女を取り巻く環境はどんどん複雑に、そして彼女の選択肢によっては過酷になっていく。

(モブ悪役の私は、お役御免で退場ってとこだけど、陰ながらリリーを助けてあげたいよ。)

トラヴィスとエメラインよ、願わくばリリーにあまり、関わってくれるな。

(ていうかさ、トラヴィスってば暗殺者にばっか狙われんじゃないわよ!。おかげでこっちはイーサンに酷い目にあってんだから。)

理不尽な愚痴を叩きつけ、私は場所を移動した。




「あ、アリアナ嬢!。アリアナ嬢も、ダンス相手を探してるの?」

(ん?)

「ノエル様?」

気が付くと、ダンスの相手を見つける場所に来ていたらしい。さっきミリアとレティが行ってた所だ。

「いえ、たまたま通りかかっただけです。」

「なんだ、そうかぁ。僕はせっかくだから、誰かと踊りたいんだけど・・・でも、さっきから声をかけてるのに、誰も踊ってくれないんだ・・・。」

ノエルはシュンとした表情で力なく笑った。

「何故かなぁ・・・?。やっぱり僕って背が低いからかなぁ・・・?。」

(まぁ、ここに来ている女子は、ほとんどは長身イケメンと踊りたがっているからな。)

根性のある女子は、神セブンに向かって突進していくし、他にも背が高くて、なかなか格好いい男子もいるから、そっちに流れていくのだろう。

なんだか、ノエルが気の毒になって来た。

「あの、ノエル様。もしわたくしで良ければ、ダンスのお相手を致しますが。」

「ええっ!?」

「わたくしでは、ご不満かもしれませんが、いかがでしょう?」

「ふ、不満なんて無いよ!。最高だよ!。ア、アリアナ嬢と踊れるなんて。本当に良いの!?」

「はい。わたくしも先ほどから、少々モヤモヤする事がありまして・・・、ちょっと思いっきり運動したい気分なのです。それに、わたくし達、身長差的にぴったりだと思いませんか?きっと踊りやすいと思うのです。」

「そ、そうだよね!?。で、ではアリアナ嬢、よろしくお願いします。」

と、ノエルが差し出した手を、私が掴んだ時だった。ちょうど、1曲終わったらしく、辺りはまたカップルチェンジにざわついている。そして何故か、そのざわめきが私達に向かって、大きくなって来るのだ。

ノエルと二人で顔を見合わせ、そのざわめきの方へ顔を向けた途端、私達は揃って固まった。あろうことか、皇太子のトラヴィスが、こちらに向かって真っすぐ歩いて来るでは無いか!

彼が歩くたびに、まるでモーゼの海の如く、人混みが割れる。そして、彼は私達の前に手を差し伸べてきたのだ。

「アリアナ・コールリッジ嬢。ぜひ、ダンスの相手をお願いしたい。」


(・・・・・・は?)


ノエルの手を掴んだまま、固まったまま数秒が過ぎた。



軽快なダンスの音楽が、ゆったりと流れていく。私は混乱する頭を奮い立たせ、なんとか足を動かしていた。ここで間違えて、相手の足を踏むわけには絶対にいかないのだ。

「もう少し、楽しそうにしてくれると嬉しいのだが。」

「は、はあ・・・。」

仕方なく、私は引きつった笑顔を浮かべる。

「ははっ、面白い顔だね。」

(・・・くっ。)

完璧な皇太子スマイルを浮かべた皇太子トラヴィスと、私はダンスを踊っていた。

(意味が分からん!。どうして、トラヴィスが私をダンスに誘うのさ?)

今まで、トラヴィスと関わった事なんて、一切無かったのに。ゲームでだって、全く接点が無いはずだ。唯一、繋がりがあると言えば、弟のパーシヴァルと知り合いって事ぐらいで、理由とするには薄すぎる。

なんだかもう、トラヴィスの皇太子スマイルすら、薄気味悪く思えてきた。でも、それ以上に恐ろしいのは・・・、

(滅茶苦茶、睨まれてる・・・。)

刺さるどころじゃ無い、剣で突き刺すような殺気すら感じるのだ。
そう、もちろんその視線の主は、トラヴィスの婚約者、王女エメライン。彼女の赤い髪が、燃える様に逆立って見えるのは気のせいか・・・。

(視線だけで、殺られそう・・・。さすが真正悪役令嬢・・・。)

トラヴィスは、そんなエメラインの様子に気付かない訳が無いのに、上機嫌でダンスを続けている。

(どうして、私がエメラインに目を付けられなきゃいけないのさっ!?。この馬鹿皇太子!)

いまや、ダンスホールは静まり返り、聞こえるのはダンスの曲の音だけ。周りで踊っている人達も、見ている人達も、緊張した様子で私達の方を見ているのだ。

(早く、曲が終わってよ!)

もう、家に帰りたい・・・。私はそんな気分だった。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない

As-me.com
恋愛
完結しました。 自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。 そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。 ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。 そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。 周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。 ※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。 こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。 ゆっくり亀更新です。

処理中です...