モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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閑話6 トラヴィスねーさんと攻略者達 

トラヴィスねーさんと攻略者達:ディーン

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ディーン・ギャロウェイ


ゲームでの彼の印象・・・、はっきり言って「邪魔な奴」


チュートリアル的な役目も持つゲームの第一部において、ヒロインと最初に出会う攻略者は彼だ。

そのせいなのかは知らないが、とにかくお互い好感度が上がりやすい。何もしなくても、ストーリーを追っていくだけでカップルが成立してしまう。

気付かない内に好感度があがってしまうので油断できない。他の攻略者とくっつけたい時に何度邪魔された事か・・・。

(製作者ってば、ディーンを贔屓してない?。攻略者の中心はトラヴィスよね?)

そしてもう一つ許せない事が有る。

念を押すようだが、この「アンファエルンの光の聖女」において、メイン攻略者はこの私(トラヴィス)だ。公式サイトにもそう書いてあった。それなのにファンサイトではカップルビジュアルのランキングで、ディーンが一位に選ばれていたのだ。

つまり、ゲームイラスト上ではヒロインは誰よりもディーンとお似合いと言う事。これは一体どういう事だ!?

(全くもう!製作者側の意見を聞きたいもんだわ!)


ヒロインはもちろん可愛くて美しい。それに攻略者達はそれぞれイケメンだから、誰と並んでも絵になる。だけど、ディーンと並んだ時はハッとする程見目麗しいのだ。

特にパーティでのダンスシーンは、ゲームでの最高イラストにも選ばれていた。イーサン様推しの私ですら、目を奪われたほどだった。しかし、あいにく私はビジュアル重視ではないのだ。もちろん良いのに越した事は無いが・・・、

(やっぱ、何処か闇を抱えてて欲しいのよ。病んでて欲しいの。一筋縄ではいかない部分が無いとつまんないの!)



まぁ、私の趣味志向は取り合えず置いといて、



とにかくディーンは完全コンプリートを目指していた当時の私にとっては、なるべく出張って欲しくない迷惑な奴だったのだ。

(ゲーム内では贔屓されてたかもしれないけど、リアルではどうかしらね?)


しかし、そんな先入観を持っていたにも拘らず、この世界の彼のビジュアルはゲームのイラストなんぞ軽く陵駕してきた。

彫像や絵画の様に整った容姿、サラサラのシルバーブロンドに宇宙を思わせる様な濃い藍色の瞳。

(・・・あはーん、なるほど。確かに『氷の貴公子』だわ、ふん、この世界でもヴィジュアルの良さは健在って事ね)

トラヴィス程では無いけど?


『氷の貴公子』

笑ってしまいそうなニックネームだが、ファンの間では良くそう呼ばれていたのだ。実際、彼は氷系の魔術が得意であるしね。

ここだけの話、裏の肖像画でもその販売ネームで売らせて貰っている。本名で売るわけにはいかないからね。彼の肖像画はクリフ、トラヴィスと並んで大好評なのだ。

ちなみにクリフのネームは「紫水晶の少年」私は「黄金の獅子」だ。安直なネーミングだけど、これがまた飛ぶように売れるのだ。



話を戻そう。



ディーン達が入学して一年、今年も恒例のダンスパーティが行われた。このパーティの間で、ゲーム一部を締めくくる最大イベント『ディーンの断罪、アリアナとの婚約破棄』が行われるはずだ。

私はパーティの仕切りや、来賓や先生方との挨拶等忙しい身ではあったが、それとなく様子を伺っていた。

(生断罪は、見ておきたいわよねぇ。でも、悪役令嬢とは言え女の子を吊るし上げるのは、気に入らないけど・・・)

ところがである。『断罪』も『婚約破棄』行われる事は無かった。

(ん?)

代わりにアリアナと女生徒達の小競り合いがあったようだ。丁度その時間は、他の来賓との挨拶があって見る事が出来なかったのだが・・・。

(何がどうなってるの?)

疑問に思いながらもパーティは進んでいく。時折、ダンスホールで歓声が聞こえるのは、攻略者の誰かが踊っているのだろう。先ほども一際大きい感嘆の声が聞こえて来ていた。

(ああ、そろそろエメラインと踊らなくちゃいけないかしら・・・ちっ)

先程から凄い目で圧力をかけられている。面倒な事はさっさと済ませた方が良いかもしれない。

私はホールの方へ向かった。すると丁度ディーンとリリーがダンスを始めるのを見かけ、私は足を止めた。


(へぇ!これはこれは・・・)

ゲームでの最高イラストにも選ばれていただけあって、ディーンとリリーのダンスは圧巻だった。二人の動きにホールにいた全員が目を奪われ、踊りを止めて見惚れる程だ。まるでそこだけスポットライトが当たってるかのように、二人の姿は輝いていた。


(ふうん・・・)

だけど、私は気づいてしまった。

(この二人、確かに超お似合い。それなのにお互いに気持ちは無いのね・・・)

あれだけ好感度の上がりやすい二人だと言うのに?。


どうやら私が思っていた以上に、この世界はゲームの筋から変化しているいるようだ。



その原因は何?



(これは、確認する必要があるわよね)


この一年で一番感じた違和感の正体。



(・・・悪役令嬢アリアナ・コールリッジ・・・)



ダンスパーティで断罪は行われなかった。婚約破棄イベントも無い。ディーンがリリーと踊っている言うのに、彼女は今どこにいるのか?

(通常のアリアナなら、怒り狂ってダンスを止めさせるでしょうね)

しかも、ディーンの気持ちはリリーには無い。それはどうして?


自分は仕事で出れなかったが、終業式でアリアナは1年生の最優秀生徒に選ばれたと聞いた。あの時は賄賂でも使ったかと思ったけれど・・・。

(もし、そうでないとしたら・・・)


思考に捕らわれつつも、私はエメラインをダンスに誘った。当然ながら、本日最高の歓声がホールに沸き立った。エメラインをリードしながら、私はホールを観察する。

(見つけた!)

ダンスホールの片隅で、アリアナはどこかの子息と話していた。彼女をしっかり認識するのは初めてだったかもしれない。そして彼女を見た瞬間、ゾクリと背中が泡立った。


(何これ?有り得ない!)


彼女が悪役令嬢?。

あれが1部で消えるモブ?。

そんな事あるわけがない。この私、皇太子トラヴィスが彼女の存在感と強い目の輝きに、一気に心を惹きつけられているのだから。


そして私は一つの可能性の高まりに、心が浮き立った。ならば今日やるべき事は一つだ。

音楽が終わった。エメラインの手を離した私は真っすぐ彼女を目指した。






再び音楽が終わった。私は耳元でささやく。

「悪役令嬢役はどうしたの?」

アリアナが驚きに目を見張る。

(ビンゴ!)

大慌てする彼女が面白くて可愛かった。

そして、私とアリアナが踊っていたのを睨むように見据えるディーン。

(はーん、若いわねぇ。心配と嫉妬が隠せてないわよ?くっく・・・。ああ、楽しい!うふっ、新学年からは今までよりもっと楽しくなりそうだわ)

そんな予感がしていた。
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