191 / 284
第7章 悪役令嬢は目覚めたくない
15
しおりを挟む
「僕は馬車での出来事を両親に話しました。そして『彼女』に対してどう接するか話し合い、まずはアリアナとして対応して様子を見る事にしたのです」
(そ、そうでしたか・・・)
私はクラークの話を冷や汗もので聞いていた。だって、最初から全部バレてたとなると・・・
(あ~恥ずかしい!なんかもう色々恥ずかしいぞ!)
顔を隠してじたばた転げまわりたい気分だった。
(わ、私、結構クラークの事、「お兄様ぁ」とか言って甘えてたし、アリアナの両親にだって娘ぶった態度とってたし・・・あ~もう、なんか自分が痛い・・・)
穴があったら入って埋めたい。
私の煩悶には気づかないクラークは話を続けた。
「『彼女』は最初の頃、とても戸惑っていました。どうしてこうなったのか分らない様子で、もちろんアリアナとしての記憶は無く、貴族の礼儀作法やマナーなども分からない状態でした。幸いというか都合が良く、医者はショックによる記憶喪失と判断してくれたので、僕達はそれに便乗する形でしばらく観察する事にしたんです。すると驚いた事に『彼女』は学園に行くまでの一カ月の間で、貴族として必要な知識を全て習得してしまいました。教養に関しては家庭教師が舌を巻くほどに。・・・そしてその頃には、『彼女』も『アリアナ』として生きる覚悟を決めた様に見えました」
(そりゃまぁ、あの時は必死でしたから・・・)
火事場のなんちゃらですよ。
(覚悟というか、どうしょうもなかっただけだよ?)
「『彼女』は学園に入学するにあたって、何か真剣に悩んでいるようでした。それに不思議な事ですが、このアンファエルン学園に対して強い思い入れがあるように感じましたし、・・・何か知っている様にも見えました」
(・・・す、鋭いなクラーク!)
こんな人を騙し通せると思った私がばかだった。
(そうだったなぁ・・・。あの頃は状況が良く分からなくて、ただただ自分が良くやってた乙女ゲームの悪役令嬢になってる事に焦っていた。ストーリーの先にある断罪や、ロリコンとの結婚が怖くて、そこから逃げる事だけを考えていた)
だから、悪役令嬢アリアナがこれまでどうやって生きて来たのか、考える事も無かった。クラークやアリアナの両親達の本当の思いにも気付かなかった。
(浅はか過ぎ・・・)
己を恥じよ!と昔の自分に言ってやりたい。
「そして僕達は再び話し合った結果、『彼女』をアリアナとして愛する事に決めました。理由は3つあります。一つは彼女がアリアナの精神を身体に戻し、命を助けてくれたから・・・」
(いやあ・・・だから、全然覚えが無いんだって・・・)
命の恩人っぽく言われているけど、私は何もしてない。した記憶も無い。だから繰り返し言われると心苦しくなる。
「そして、二つ目は『彼女』がアリアナの身体に入って以来、魔力の供給を必要としなくなったからです」
(あっ!)
そういえば、そうだ!私はクラークに魔力を流して貰った事なんて一度も無かった。
「アリアナは普通に生活できるようになりました。魔力を流さなくても、頭痛や体調の悪さに悩まされる事も無く、健常な生活を維持できるようになったのです。そして何よりも、早すぎる命の期限に僕達は怯えなくて良くなりました」
「成程、アリアナの身体に大きな精神が宿った事で、身体を維持する力を得たと言う事なのか?。だが、それでもアリアナには魔力も『脈』無い。一体どうやって身体に力をまわしている?」
トラヴィスの問いにはアリアナが答えた。
「それについては、誰にも分かりませんわ。わたくしの持って生まれた質としか言いようがありません。でも、あの子の持つ強い力は確実にわたくしの身体と心を変えてくれましたわ。」
「心も?」
「はい」
アリアナは頷き、真っすぐトラヴィスを見た。
「わたくし、この身体の中であの子がこれまで経験した事を、全て見たり聞いたりする事が出来ましたの。・・・まるで、夢を見ている様な感覚でしたけど、これが現実だって分かってましたわ」
「全部・・・見てた?」
心なしかトラヴィスの声がこわばった気がした。
(ぷぷぷっ・・・ねーさん焦ってる。アラサーOLの部分も見られてたって事だもんね)
吹き出しそうになってしまった。
でも、あのトラヴィスねーさんを見た時は、さぞかしアリアナも驚いた事だろう。
(ギャップどころじゃ無いもんね)
アリアナはトラヴィスの微妙な反応に気付いたのか気づいて無いのか、話しを続ける。
「ええ、見てましたわ。それで気づきましたの。あの子は服のセンスが無くて、口が悪くて、食いしん坊で、お人好しで、とんでもなく鈍感だけど、・・・他人に対して酷く優しいのです。自分よりも目の前にいる人を大事にするのです。・・・わたくし、最初はそれに反発していましたわ。他人に優しくする事もされることも嫌いでしたもの。偽善で自己満足だって。優しさなんて、満たされてる者の驕りだって思ってましたわ」
アリアナの口調が強くなった。だけど直ぐに急に力が抜けた様に、
「・・・なのにあの子は息を吸う様に、自然に相手の事を考えるのですわ。自分を攻撃した者に対してでさえ、直ぐに心を寄せるのです。・・・理解できませんでしたわ」
そう言ってため息ついた。
(ちょ、ちょっとやめて!私、そこまでじゃ無いよ!? )
アリアナの言葉に顔が赤くなる思いだった。
(なんか、めちゃ褒められてる?!・・・褒められてるんだよね?。最初の方はかなり、けなされてた気もするけど・・・)
「そんな彼女と一緒にいるうちに、わたくし嫌でも分かってしまったのですわ。彼女の優しさは・・・ずっと、私がそうしたかった事なのだって・・・彼女のように生きる事に本当は憧れてたのですわ。だからわたくし、いつの間にかあの子の気持ちに共感していましたの」
はにかむようにそう言ったアリアナにリリーが突然、
「似てますもの!」
と言った。
「アリアナ様と、あの・・もう一人の『アリアナ様』はとても似てるんです。その・・・優しい部分が!。私には分かるんです!」
「似てる?わたくしとあの子が?」
「ええ!」
「ありがとう・・・」
アリアナの声が柔らかく震えた。
クラークはアリアナの手に片手を添えると、
「それが3つ目の理由なんだ」
そう言ってアリアナを優しく見つめた。
(そ、そうでしたか・・・)
私はクラークの話を冷や汗もので聞いていた。だって、最初から全部バレてたとなると・・・
(あ~恥ずかしい!なんかもう色々恥ずかしいぞ!)
顔を隠してじたばた転げまわりたい気分だった。
(わ、私、結構クラークの事、「お兄様ぁ」とか言って甘えてたし、アリアナの両親にだって娘ぶった態度とってたし・・・あ~もう、なんか自分が痛い・・・)
穴があったら入って埋めたい。
私の煩悶には気づかないクラークは話を続けた。
「『彼女』は最初の頃、とても戸惑っていました。どうしてこうなったのか分らない様子で、もちろんアリアナとしての記憶は無く、貴族の礼儀作法やマナーなども分からない状態でした。幸いというか都合が良く、医者はショックによる記憶喪失と判断してくれたので、僕達はそれに便乗する形でしばらく観察する事にしたんです。すると驚いた事に『彼女』は学園に行くまでの一カ月の間で、貴族として必要な知識を全て習得してしまいました。教養に関しては家庭教師が舌を巻くほどに。・・・そしてその頃には、『彼女』も『アリアナ』として生きる覚悟を決めた様に見えました」
(そりゃまぁ、あの時は必死でしたから・・・)
火事場のなんちゃらですよ。
(覚悟というか、どうしょうもなかっただけだよ?)
「『彼女』は学園に入学するにあたって、何か真剣に悩んでいるようでした。それに不思議な事ですが、このアンファエルン学園に対して強い思い入れがあるように感じましたし、・・・何か知っている様にも見えました」
(・・・す、鋭いなクラーク!)
こんな人を騙し通せると思った私がばかだった。
(そうだったなぁ・・・。あの頃は状況が良く分からなくて、ただただ自分が良くやってた乙女ゲームの悪役令嬢になってる事に焦っていた。ストーリーの先にある断罪や、ロリコンとの結婚が怖くて、そこから逃げる事だけを考えていた)
だから、悪役令嬢アリアナがこれまでどうやって生きて来たのか、考える事も無かった。クラークやアリアナの両親達の本当の思いにも気付かなかった。
(浅はか過ぎ・・・)
己を恥じよ!と昔の自分に言ってやりたい。
「そして僕達は再び話し合った結果、『彼女』をアリアナとして愛する事に決めました。理由は3つあります。一つは彼女がアリアナの精神を身体に戻し、命を助けてくれたから・・・」
(いやあ・・・だから、全然覚えが無いんだって・・・)
命の恩人っぽく言われているけど、私は何もしてない。した記憶も無い。だから繰り返し言われると心苦しくなる。
「そして、二つ目は『彼女』がアリアナの身体に入って以来、魔力の供給を必要としなくなったからです」
(あっ!)
そういえば、そうだ!私はクラークに魔力を流して貰った事なんて一度も無かった。
「アリアナは普通に生活できるようになりました。魔力を流さなくても、頭痛や体調の悪さに悩まされる事も無く、健常な生活を維持できるようになったのです。そして何よりも、早すぎる命の期限に僕達は怯えなくて良くなりました」
「成程、アリアナの身体に大きな精神が宿った事で、身体を維持する力を得たと言う事なのか?。だが、それでもアリアナには魔力も『脈』無い。一体どうやって身体に力をまわしている?」
トラヴィスの問いにはアリアナが答えた。
「それについては、誰にも分かりませんわ。わたくしの持って生まれた質としか言いようがありません。でも、あの子の持つ強い力は確実にわたくしの身体と心を変えてくれましたわ。」
「心も?」
「はい」
アリアナは頷き、真っすぐトラヴィスを見た。
「わたくし、この身体の中であの子がこれまで経験した事を、全て見たり聞いたりする事が出来ましたの。・・・まるで、夢を見ている様な感覚でしたけど、これが現実だって分かってましたわ」
「全部・・・見てた?」
心なしかトラヴィスの声がこわばった気がした。
(ぷぷぷっ・・・ねーさん焦ってる。アラサーOLの部分も見られてたって事だもんね)
吹き出しそうになってしまった。
でも、あのトラヴィスねーさんを見た時は、さぞかしアリアナも驚いた事だろう。
(ギャップどころじゃ無いもんね)
アリアナはトラヴィスの微妙な反応に気付いたのか気づいて無いのか、話しを続ける。
「ええ、見てましたわ。それで気づきましたの。あの子は服のセンスが無くて、口が悪くて、食いしん坊で、お人好しで、とんでもなく鈍感だけど、・・・他人に対して酷く優しいのです。自分よりも目の前にいる人を大事にするのです。・・・わたくし、最初はそれに反発していましたわ。他人に優しくする事もされることも嫌いでしたもの。偽善で自己満足だって。優しさなんて、満たされてる者の驕りだって思ってましたわ」
アリアナの口調が強くなった。だけど直ぐに急に力が抜けた様に、
「・・・なのにあの子は息を吸う様に、自然に相手の事を考えるのですわ。自分を攻撃した者に対してでさえ、直ぐに心を寄せるのです。・・・理解できませんでしたわ」
そう言ってため息ついた。
(ちょ、ちょっとやめて!私、そこまでじゃ無いよ!? )
アリアナの言葉に顔が赤くなる思いだった。
(なんか、めちゃ褒められてる?!・・・褒められてるんだよね?。最初の方はかなり、けなされてた気もするけど・・・)
「そんな彼女と一緒にいるうちに、わたくし嫌でも分かってしまったのですわ。彼女の優しさは・・・ずっと、私がそうしたかった事なのだって・・・彼女のように生きる事に本当は憧れてたのですわ。だからわたくし、いつの間にかあの子の気持ちに共感していましたの」
はにかむようにそう言ったアリアナにリリーが突然、
「似てますもの!」
と言った。
「アリアナ様と、あの・・もう一人の『アリアナ様』はとても似てるんです。その・・・優しい部分が!。私には分かるんです!」
「似てる?わたくしとあの子が?」
「ええ!」
「ありがとう・・・」
アリアナの声が柔らかく震えた。
クラークはアリアナの手に片手を添えると、
「それが3つ目の理由なんだ」
そう言ってアリアナを優しく見つめた。
25
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる